幼馴染の変人ベーシストの料理番になった件について。   作:かんかんさば

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一日で8000文字なんて書けるんですね()


#9 バンドと決意と群青の覚悟

セミの鳴き声が空高く響き、照りつける夏の陽射しが街に降り注ぐ7月の下旬。

学校は夏休みに入り、俺は連日の猛暑にヘトヘトになりながらもバイトに勤しむ日々を送っている。

 

「お前ら全員集合。お待ちかねの給料だ」

 

星歌さんが号令をかけてバイトを集め、順番に名前を呼んでそれぞれに茶封筒を渡す。今のご時世、給料は基本口座に振り込まれるので、直接手渡しは珍しい。

 

「はい、これぼっちちゃんの分」

 

「あっ、ありがとうございます……」

 

ひとりはこれがバイトの初任給になる。中身の見て笑顔になっている様子からして、相当喜んでいるのだろう。

 

「は〜い、喜んでるところ悪いけど1人1万円ライブ代徴収しま~す!」

 

しかし、虹夏の一声によってひとりの笑顔は一瞬で青ざめ、ゴミ箱に入り込んでしまった。

そもそもひとりはバンドのノルマを稼ぐためにここでバイトをしているため、ノルマを徴収されるのは仕方がない。

心苦しそうにメンバーからライブ代を徴収する虹夏を見ながら俺は封筒の中身をリョウに見られないように確認する。なぜなら中身を見られると必ずたかってくるからだ。

 

「楓、お願いが……」

 

「お金は貸さないぞ」

 

「チッ、バレたか」

 

ついに中身を見ずにたかってくるようになったとは……。

 

ちなみに俺の給料の使い道は基本食費に回すか貯蓄している。食費は親が少し援助してくれてるのだが、リョウの分までとなるとさすがに親に申し訳ないので自分で払っている。

 

「ごめんねぼっちちゃん。もうちょっと売れるようになったら手元に残る分も増えるから……」

 

「あっ、はい……」

 

「となると夏休みはバイト増やさなきゃですね!例えば……みんなで海の家でバイトするとか」

 

「おお~!喜多ちゃんいいね~!!」

 

喜多ちゃんの提案を聞いた瞬間ゴミ箱から顔を少し出して一心不乱にスマホをいじりはじめた。いつも青ざめた顔をしてるのに目に血が走ってていっそう怖く、狂気を感じる。さすがに止めようと声をかけようとするとリョウが俺をスルッと抜かしてひとりに話しかけた。

 

「ぼっち」

 

「アッハイ許してください少し待っててくださいギターを担保にすればそこそこの額は借りられると思うのでどうか……どうか海の家だけは……海の家だけは……!!」

 

「いや、曲完成したから聞いてほしい……」

 

「あっはい」

 

さすがはリョウ、ひとりの挙動不審を冷静にスルーしたぞ……。

 

曲は既に先月の下旬にはデモ段階で完成はしていたが、あれから少しずつ手直しなどの編曲作業をして完全に完成したのは昨日のお昼頃だった。

 

「えっ、リョウ先輩曲完成したんですか?」

 

「おっ、ナーイスリョウ!じゃあ早速みんなで聞いてみよ~う!」

 

テーブルにリョウのスマホをおいて、虹夏たち4人は新曲の聴講会をはじめた。

俺は既に一度聞いているが、改めて聞いてみるとやっぱりいい曲だと感じる。

他の結束バンドメンバーの3人もそう感じているのか、目をキラキラと輝かせている。

 

「──リョウ先輩さすがです!!すごくかっこいいです!!!」

 

「あっ……私もそう思います……」

 

「うん!すっごくいいよ!!」

 

「ぼっちの歌詞を元に作ったから。ぼっち、いい歌詞書いてくれてありがとう」

 

「あっ、えっ……うへっ、うへへへ……」

 

リョウがまるで手懐けるかのようにひとりを撫でる。

 

それにしてもリョウ、いつになく嬉しそうだな……。

 

「よぉ〜し!じゃあ1曲完成したところだし、ライブ出してもらうようお姉ちゃんに頼んでくるね!!」

 

「え、そんな急にお願いして大丈夫なんですか?」

 

「この前のライブもこんな感じだったしへーきへーき!!──ね~、お姉ちゃん!!」

 

「は?出す気ないけど」

 

「えっ」

わーお、無慈悲。

 

「この前は思い出作りのために出してやったんだよ。この前みたいな出来で出れると思ってるんなら一生仲間内でワチャワチャ仲良しクラブでもやってろ」

 

星歌さんの冷たい一言で場は一気に静まりかえる。

普段ここのライブに出るにはデモ審査などを行っている。デモ審査抜きで出るのは不可能なのだ。しかしこの前、虹夏とリョウ、ひとりがライブに出れたのは星歌さんの計らい。その計らいは虹夏の思い出作りのためだったのだ。

 

にしても言い方酷すぎませんかね、この人。

 

「……ッ!三十路のくせに未だにぬいぐるみ抱かないと寝れない癖に~!!」

 

「まだ29だ!!」

 

謎の捨て台詞を残し、虹夏はどこかへ行ってしまった。

 

「店長……」

 

「なんだ、言い過ぎとでも言いたいのか?」

 

「いやそれもそうなんですけど、ぬいぐるみ抱かないと寝れないって本当なんですか?」

 

「楓、これが証拠」

 

「おぉ……」

 

リョウがスマホで見せてきたのは可愛いクマのぬいぐるみを抱いて寝ている星歌さんの写真。

 

「なんかギャップ凄いな」

 

「これが世にいうギャップ萌え」

 

「おい、リョウ!なんで持ってるんだそれ!今すぐ消せ!!あと楓もまじまじと見るな!!」

 

消したとしてもインパクト強すぎて記憶に残るんですよね……。

 

「まぁ、それはそれとして。店長、さすがにあそこまで言わなくても良かったんじゃないんですか?」

 

「ぐっ……」

 

あの様子からして虹夏はしばらく戻ってこないだろう。

 

「3人とも、虹夏を任せた」

 

「わかりました!!さぁ、リョウ先輩!行きますよ!!」

 

「え、というか楓も行くべき」

 

「俺はここでなんとか店長を説得する。だから行ってこい」

 

 

リョウならバンドメンバーでもあるし虹夏がどこでいじけているか分かるだろうし、喜多ちゃんならフォローもしてくれるだろう。

それにバンドメンバーじゃない俺が首を突っ込むわけにはいかない。

 

喜多ちゃんがリョウを連れて出ていくのを見て店長に話しかける。

 

「で、店長。本当にアイツらはライブに出れないんですか?」

 

「そんなことは言ってない」

 

「でもさっき出さないって言ってましt「言ってない」あっはいすみません……」

 

「出さないとは言ってない」

 

「じゃあ、出れないわけではないと……」

 

「出すかどうかは来週の土曜にやるオーディションで決める。そこの出来次第ってところだ」

 

「初めからそういえばいいじゃないですか」

 

「うるせぇ」

 

本当初めからオーディションのことを言わないとかツンデレかよこの店長。

 

「おい、今失礼なこと考えてなかったか?」

 

「いえ何も」

 

今の目つき、完全にスケバンのそれなんだよなぁ……。

これでぬいぐるみ抱かないと寝れないって凄いキャップだと思う。

 

「というか、ぼっちちゃんはさっきからそこで何してんの」

 

「あっ……ふ、服従のポーズを……」

 

「お前まだいたのか……。一緒に虹夏のところ行くか?」

 

「うん……」

 

「お前よくその奇行みてもなんとも思わないな」

 

「従兄なんでこんなのとっくの昔に慣れてますよ」

 

店長は軽くドン引きしながらも、スマホでフラッシュを焚きながらひとりの奇行を撮影する。

 

「それじゃ、虹夏にはオーディションをやるって伝えとくんで。ほら行くそ、ひとり」

 

「うん……」

 

「厳しく審査するから覚悟しとけって言っといて」

 

「了解です」

 

ひとりとスターリーを出て、虹夏探しを始め……るのは面倒臭いし、恐らくもう見つかっていると思い、リョウに居場所をロインで聞いてみた。

 

『今から伝言伝えに行くけど、今どこにいる?』

 

『下北線路街』

 

どうやらそこまで遠くには行ってないようだ。

下北線路街というのは2年くらい前に小田急線が東北沢駅から世田谷代田駅までを地下化した際にできた施設で、空き地が多く、そこにキッチンカーなどがよく来ているらしい。

虹夏ら3人はその空き地の一角にいるらしい。

 

暑さでドロドロに溶けかけているひとりを連れてスターリーから歩くこと数分、いとも簡単に3人を見つけることが出来た。

 

「お、いたいた」

 

「あ、楓にぼっちちゃんまで……ってなんてぼっちちゃん溶けてるの……」

 

「暑さにやられたんでしょ。さっき水買って飲んでたしそのうち戻る」

 

「そうなんだ……」

 

「まぁあれは置いといて、店長から伝言」

 

「え、お姉ちゃんから?」

 

「今度の土曜にオーディションやるんだって、そこの出来次第で出すか出さないか決めるらしい」

 

「も~!だったらあんな言い方しなくてもいいじゃんか~!!」

 

虹夏が地団駄を踏み始めた。正直虹夏の気持ちもわかるが、店長が言いたいこともよくわかる。

 

「……でも、オーディション通れば出れるってことですよね!」

 

「そう、つまりそういうこと」

 

「見てろよお姉ちゃん……!!絶対にギャフンと言わせてやる!!」

 

「まぁ、厳しめにやるから覚悟しとけって言ってたけどな」

 

すっかりいつもの虹夏に戻ったようでなによりだ。ただ、戻ったのはいいが、なんだか不安そうな顔をしている。

 

「後藤さん頑張りましょう!」

 

「あっはい……がんばりましゅ……」

 

「どうした、不安そうな顔して」

 

「いや……オーディションに出るのはいいんだけどさ、あの2人が心配でさ……」

 

あの2人というのはひとりと喜多ちゃん。おそらく虹夏の懸念材料なのだろう。

現在のメンバー個人の実力は上から順にリョウ、虹夏、ひとり、喜多ちゃんである。

まずはリョウ。「私は上手い」などと常日頃から豪語しているが、実際その通りである。去年の文化祭のときや4月の路上ライブのときも全くミスがなかった。

次は虹夏。「あたしはふつーの実力だし……」といっているが、そこら辺の軽音部のドラマーよりかは全然上手い。彼女もミスはほとんどないが、良い演奏にするためにいちいち止めているくらいしかない。

次にひとり。ソロで弾くと俺よりも遥かに上手いのだが、バンドとなると本当にダメになる。

ギターヒーローのときの実力が出れば問題は無いんだけどなぁ。

最後に喜多ちゃん。彼女は初心者ゆえ、上手くないのはしょうがない。といっても一生懸命練習しているし、最近はカポを使わなくてもコードを抑えられるようになっているのでポテンシャルは十分である。ただやっぱりほかのメンバーとは経験の差があるので、埋めていくのは困難だ。

リョウと虹夏はまだしも、あの2人が改善しないとお話にならない。

先日、スターリーのスタジオで合わせ練習をしていたときに演奏を聞かせてもらったのだが、それは散々なものだった。

喜多ちゃんが上手く弾けずにミスをしてどんどん遅れていき、ひとりはとてつもないスピードで突っ走り、それに虹夏がついてこれずにリズムが狂い、なんとかリョウが抑えようとするもリズムが狂っているのでどうにも出来ない。まさにドミノが倒れるように崩れてしまうのだ。

 

「2人のパートは楓が演奏してるのを流すからアテ振りの練習しといて」

 

「「はい!」」

 

「ちょ、おい、急にそんなこといわれても」

 

「ちょっとリョウ……!まぁともかく、熱量とか、バンドとしての成長とかさ、あたし達がお遊びじゃないってことをお姉ちゃんに教えてあげようよ!!そのためにも、今日から猛特訓しよう!!」

 

そう虹夏が宣言して、オーディションまでの方針が決まった。

一週間でどこまで成長するのだろうか、俺は結束バンドに期待感を抱くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから、結束バンドは一生懸命練習を重ねた。といってもガッチガチに練習するのではなく、例えば昨日は──

 

「おはようございま……って3人ともどうしたその格好!?」

 

「明日に備えて衣装準備してきた」

 

「コッテコテの男装だな」

 

「バンドマンといえば飲酒、喫煙、女遊び。楓はバンドマンじゃないけどそれを体現してるロックな男だよ」

 

「なにサラッととんでもない嘘を吹き込んでるんだよ」

 

「そうなんですね!参考になります!!」

 

「真に受けないで!?」

 

リョウ、ひとり、喜多ちゃんがスーツを着てカツラを付けて男装していたりと、少しふざけながらもバイトのスキマ時間を使って練習を重ねてきた。

 

 

そして迎えた土曜日、オーディション当日。

オーディションは客のいない午前中に行われることになった。

 

「あの……」

 

「どうした?」

 

「これ俺も見ていいのかなって……だって部外者じゃないですか……」

 

「あ?別にいいだろ。スターリーの従業員なんだし」

 

今日のオーディションは結束バンドのみの参加になっている。他のバンドは全てCD審査になったらしい。

 

「今日のオーディション、なんか自分が出るわけじゃないのに緊張してくるんですよね……」

 

「ふふっ、下村くん、結構緊張してるみたいですね」

 

「PAさん……」

 

それ言われると余計緊張してくるんだよなぁ……。

 

時間が刻一刻と過ぎていく度、俺の額に冷や汗が伝っていき、緊張が強まっていく。気を紛らわせようとスマホで動画を見るが、内容が全く入ってこない。

そして既にセッティングを終えてから大分時間が経っていることがさらに緊張を強める。

 

「それにしても遅いですね〜」

 

「まぁ、ギリギリまで練習していいって言ったしな……」

 

「でもそろそろ呼びません?今日もライブあるんですよね……」

 

このまま待っていると日が暮れてしまいそうだ。仮に日が暮れるまで待ってたら俺は緊張で塵になってしまいそうだ。

 

「それじゃあ、あと30分したら始めるって伝えてこい」

 

「わ、わかりました……」

 

「お願いしますね〜」

 

星歌さんに頼まれ、結束バンドのいるスタジオのドアの前に立つ。スタジオからは楽器の音が聞こえている。小窓から覗いてみると、かなり集中している様子が伺えた。

しばらくして演奏が止まったのでそのタイミングでドアをノックして中に入り、あと30分でオーディションを始めることを伝えた。

 

「あと30分で始まるので、準備のほど、よろしくお願いしま~す」

 

「えっ?もうそんな時間」

 

「うん、そんな時間。まぁ、あと少しだけど頑張って。応援してるから」

 

「ありがとね楓!本番も応援よろしくね!」

 

「あいよ」

 

4人と目を合わせ、頷いてドアを閉めて店長の元へと戻る。

 

 

 

決戦のオーディションが今、始まろうとしている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「け、結束バンドです!よろしくお願いします!!」

 

虹夏が緊張まじりにも元気に挨拶する。

俺と星歌さん、PAさんは無言でただ頷く。

幼馴染2人に従妹、バイトの後輩と、彼女ら4人は身内だが、いつもの賑やかな雰囲気など一切ない。静寂で、真剣な雰囲気が会場を漂う。

 

「じゃあ、『ギターと孤独と蒼い惑星』って曲、やります!」

 

リーダーの虹夏が宣言して、リョウ、ひとり、喜多ちゃんが向かい合い、頷く。

みんなの表情は緊張が前面に出ていた。普段あまり緊張しないリョウでさえ、硬い表情をしている。

 

でも、そんな緊張をも抑えてこちらに伝わってくるものがある。それは──

 

 

 

 

──それぞれの思いが重なり結束している、彼女たちの覚悟だ。

 

 

それぞれが楽器を構え、虹夏のハイハットの合図で演奏が始まる。

イントロからギターの軽快な音色とベースの重低音のハーモニーが鳴り響く。

 

「突然降る夕立 あぁ傘もないや嫌」

 

イントロが終わり、ボーカルの喜多ちゃんが歌い出す。

 

虹夏は少し力んでしまっているが、いつものように狂わず、大きな音で存在を主張し、ギターとベースを支えている。

リョウはいつも通りの表情をして、低めの音でギターの存在を引き立ている。

喜多ちゃんはやはり初心者故か、まだ手元がおぼつかない様子だ。それでもこのスピードに必死に食らいついている。

ひとりは少し突っ走ってるとはいえ、本来の─

ギターヒーローとしての演奏でギターを掻き鳴らしている。

 

息がピッタリ合っているかというと、それは違う。でも普段よりは何十倍も、何百倍も素晴らしい演奏になっている。

 

「……やってみせろ、結束バンド」

 

俺はそう呟き、彼女らの演奏を聞き入るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラスサビ、そしてアウトロを経て演奏は終わった。そして余韻に包まれた会場を拍手が飛び交う。あとは結果を待つのみだ。

 

「……ま、いいんじゃない?とりあえずお前たちがどんなバンドかはわかった」

 

星歌さんが演奏を終えた彼女たちに話す。言葉の感じからしておそらく好印象だろう。

 

「──ただし、」

 

好印象なのに店長は鋭い目つきで口を開く。

 

「ドラム、肩に力入れすぎ。ギター2人は手元見すぎ。ベースは自分の世界に入り過ぎ」

 

店長も元とはいえバンドマン。一人一人に対し的確に指摘する。太刀で一刀両断するかのようにバッサリと。

その指摘は彼女たちを暗い表情にさせた。

 

「……アドバイス、ありがとうございました」

 

「あ?何いってんの?」

 

「え、だって……」

 

「いや、お前らがどんなバンドかわかったって言ってんだよ。ここ喜ぶところだから」

 

「たぶん合格だと思いますよ〜」

 

「だからそう言ってんだろ。合格だよ、合格」

 

「もう!このツンデレお姉ちゃんめ!!分かりにくいんだよぉ〜!!」

 

全く虹夏の言うとうりだよ。もう少し分かりやすく言えばいいのに、このツンデレ店長め。

 

結束バンドは無事、オーディションに合格した。

喜多ちゃんはひとりのそばに駆け寄り、喜びをあらわに、リョウと虹夏は俺を見て笑っている。俺は感動したのかうまく口があかない。きっとこういうとき─心の底から感動したときは言葉が出なくなるのだろう。

 

「まぁ、感想を言いたいところだが、お小言を言われたヤツにいわれても気分が良くないだろうし、そこで涙を流してる楓に感想を言ってもらおうか」

 

ゑ?泣いてる?いやいやそんな……。でもさっきから視界がボヤけているような……。

 

星歌さんに指摘され、目を擦ると指が濡れていた。おそらく感動のあまり、気づかないうちに涙を流してしまったのだろう。

 

俺はハンカチで涙を吹いて、思ったことを言葉にして伝える。

 

「なんだろう……ギターにベース、ドラムに歌声。全部にその……みんなの想いがこもっていて聞いていて凄く……心地よかったと思います」

 

語彙力が死んでいる……。でも伝えたいことは伝わったはずだ。

そう思っていた次の瞬間、事件は起こった。

 

「喜多さん、すみま……」

 

「ご、後藤さん?ご、後藤さぁ〜ん!?」

 

「「「うわぁ……」」」

 

ひとりが盛大に吐いてしまったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、星歌さんがチケットノルマについての説明があり、今日のオーディションは無事合格という形で幕を閉じた。

チケットノルマは20枚。単純計算で1人5枚売り上げなければならない。もちろん、売り上げられなければノルマは結束バンドの負担になる。

4人はそれぞれ分担を決めて、今日はお開きになった。

 

そして俺は今、スターリーの近くの公園でリョウと虹夏と3人で雑談を楽しんでいる。

 

「いや〜まさかお姉ちゃん、ぼっちちゃんに目をつけるなんて思わなかったよ」

 

「だな」

 

「今日のぼっち、いつもよりギター上手かった」

 

今日のオーディションで星歌さんはひとりに注目していた。まぁ、ひとりが吐いた原因かもしれないのだが。

 

「そうだ、虹夏」

 

「ん〜、どうした?」

 

「保留してたアレ、やっと答えが出たよ」

 

「お、聞かせて聞かせて〜」

 

春休みにバンドに誘われてからずっと保留にしていた加入するかしないかの答え。今になってやっと答えが出てきた。

その答えは──

 

 

「俺、結束バンドには入らないよ」

 

─バンドには加入しないという答えだ。

5月のあのライブから入らないという答えはうっすら自分の中にはあった。

 

「そっか」

 

「その代わり、一番近くで応援させてほしい」

 

しかし、今日のオーディションで分かった。自分はあの4人に混ざるのではなく、応援する方がいいということに。そして、気づかされた。結束バンドに相応しいギタリストはひとり、ボーカルは喜多ちゃんなのであって、自分ではないということに。

こんなこと、二人には決して言えないけどそう確信してしまった。

 

「わかった、あたし達のこと、これからも応援してね」

 

「わかった」

 

「じゃあファンクラブ代として1万円徴収させていただきます」

 

「まだ出来てないしそんな大金払えるかァ!!」

 

俺は幼馴染の、結束バンドのことを精一杯応援しよう。そう決意した夏の夜だった。

 

 




次回、「いざ金沢八景」

作者がアニメの中でも一番すきなのはオーディション回です。
少しでも魅力が伝われば幸いです。

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