幼馴染の変人ベーシストの料理番になった件について。   作:かんかんさば

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#11 いざ金沢八景(後編)

目が覚めると、そこに見えたのは見知らぬ天井……ではなく、ひとりの家のリビングの天井だった。

美智代さんによると、10分ほど気を失っていたらしい。

 

「あ、かえでおにーちゃんおきたよ!!」

 

「あら〜、大丈夫?」

 

「はい……もう大丈夫です……」

 

美智代さんに麦茶をもらってひとりの部屋に戻ることにした。

戻るとテーブルにはノートパソコンやスケッチブックが広げられていて、ちょうどバンTのデザイン決め会議が始まったところだった。

 

「悪い、気を失ってた」

 

「ほんとに大丈夫なの?」

 

「あぁ、もう大丈夫」

 

「それならよかった〜。じゃあ、バンTのデザイン決めるの手伝ってくれる?」

 

「わかった」

 

バンドメンバー以外からの意見も必要なのだろう。そう思った俺は了承し、デザイン案を見せてもらうことにした。

まず最初に見せてもらったのは喜多ちゃんが考えたデザイン。

「皆でつかめ!勝利の華を 結束バンド」と大きく書かれていて、流れ星やニコちゃんマークが書かれている。

 

「それ体育祭で見るやつじゃん!」

 

「それに優勝って、何に優勝するのさ」

 

「ノリですよ〜!こういうの着たら皆の心がひとつになる気がしません?」

 

「あ〜、クラT的な?」

 

「そうです!クラTって一致団結しようって感じがしていいですよね!」

 

「クラス一致団結……」

 

そう言ってひとりは顔面が崩れ始めた。恐らく青春コンプレックスが発動したのだろう。

体育祭。それはひとりにとってはかなり苦手なイベントである。

一昨年、俺が体育祭を見に行ったときもひとりは始まる前から青ざめた顔をしていたし、終わったあとも「煮るなり焼くなり好きにしてください……」と消えてしまいそうな声で呟いていた。

 

「私なんかしちゃいました?」

 

「な○う系主人公みたいなこと言わなくていいから……」

 

「喜多ちゃんは罪な女だねぇ……」

 

俺はすかさずデスメタの曲を流してひとりの顔面崩壊を止めた。夏休みが明けると秀華高は体育祭が行われる。今年も一昨年のようにならないことを祈りたいものだ。

 

「お、リョウからも沢山届いたよ!」

 

「どんな感じですか?」

 

「どれどれ」

 

次に見せてもらったのは今日の会議をサボっているベーシスト(山田リョウ)のデザイン案。

リョウが考えた案は3つ。カレーがデザインされたものとお寿司がデザインされたもの。それと──

 

「意味わかんないんだけど……」

 

「あ、まだあるみたいですよ」

 

「ん?『晩飯どっちがいいかな?』なんだこれ」

 

「自分で考えろ!」

 

──バンドと1mmも関係ないご飯に迷っているようなデザインだった。

 

下北沢に戻ったらゴーヤチャンプルーの材料買わなきゃな……。

 

「あっ、私のも見てください……」

 

「お、見せて見せて〜」

 

自分の家なのだろうか、ひとりはいつもより積極的になっている。自信ありげにスケッチブックにデザインしたものを皆に見せてきた。

 

それは赤いTシャツに多数のファスナーと鎖がついていて、男子中学生がよく着てそうな英語の謎フォントが着いていて、そして何故か裾が破けているものだった。

 

「ど、どうでしょう……おしゃれすぎますかね……」

 

 

だ、だっっっっっっせぇぇぇぇぇ!!!!!

 

しかも鎖ついてたらライブ中肩凝るでしょ絶対に。まあ、インパクトは強いのは確かだけど……。

 

「ライブ中、服のほうに目がいっちゃいますよね……」

 

「うん、いろんな意味で……」

 

「あっ、あとこのファスナーはピック入れで鎖はギターストラップにもなります……」

 

「割と実用的!!」

 

「も、もしかして後藤さんって私服もこんな感じなの?」

 

「あっ、服はお母さんが買ってきてくれるから違います……好みじゃないから一度も着たことないけど……」

 

「え〜見てみたい!」

 

「ジャージ以外の後藤さん見たことないわ!ちょっと着てみてくれる?」

 

「あっはい……」

 

そういってひとりは押し入れの中に入っていった。

 

ひとりの私服は俺が中学一年のころ、1度だけ見た事がある。確かかなりオシャレな服装だったような……。

 

「あっ、着てみました……」

 

押し入れから出てきたのは、いつものジャージを着ているひとりではなく──

 

「「かわいい〜!!」」

 

──虹夏と喜多ちゃんをかわいいと言わせ、セーラ風のリボンが付いたトップスに紺のロングスカートを履いているまるで清楚なお嬢様のような出で立ちをしているひとりだった。

 

「きゃ〜!素敵〜!後藤さんこっち向いて〜!一枚でいいから写真撮らせて〜!!」

 

「そうだよ、ぼっちちゃんは可愛いんだよ」

 

「あっ、うっ」

 

私服のひとりにテンションが爆上がりする2人。

もしかして喜多ちゃんって面食いなのだろうか。見た目に反して中身が終わっているリョウやひとりに対してこの反応をするということはそうに違いない。

虹夏は後方彼氏面みたいな腕組みをしている。

まぁ、ひとりは見てくれはいいから虹夏が腕組みしたくなるのもわかる。

 

「前髪あげなよ、絶対そっちのほうがいいって!」

 

「確かに、俺もそう思う」

 

「もしかして伸ばしてるの?」

 

「あっ、美容室行けないから伸びてるだけで……」

 

「じゃああたしがセットしてあげよう!」

 

「あっ、いや、大丈夫です……っ……」

 

ひとりが精一杯虹夏に抵抗しようとするが、それも虚しく虹夏はひとりの前髪を退けてしまった。

すると──

 

「ヴッ……!」

 

「ぼ、ぼっちちゃんがどんどんしおれていく!!」

 

「顔を晒されたことへの急激なストレスに体がついていけなかったんだわ!」

 

──断末魔ともとれるうめき声をあげてしおれはじめた。ひとりはストレスが飽和状態になるとこうなってしまうのだ。

そして完全にしおれたあと、静かにこときれたのだった。

 

「ぼっちちゃん死んじゃった……」

 

「新しいギタリスト探さないとですね」

 

「いや、楓がいるじゃん」

 

「この前入らないって言ったよね?」

 

「そういえばそうだっt……うっ……なんか目眩が……」

 

しおれたひとりの前で話していると虹夏がふらつき始めた。ひとりから出ている陰のオーラに耐えられなくなったのだろう。

 

「先輩どうしました!?」

 

「ずっと思ってたけどこの部屋暗いしジメジメしてて酸素薄くない……?」

 

「そういえば……」

 

昔からひとりの部屋によく入っていて慣れていたから気づかなかったが、ここは酸素が薄いのだ。指摘されてようやく気づいた話だが。

 

「力が抜けていく……」

 

「後藤さんの呪いだわ……」

 

「虹夏……!喜多ちゃん……!」

 

バタリと倒れる虹夏と喜多ちゃん。この陰のオーラに俺は耐性があるのか、力が抜けていく気はしn……

 

「ぐっ……しばらく行ってないと耐性も無くなるか……2人とも、俺もそっちいくから……」

 

耐性が無くなっていたのか俺も倒れ込む。

消えゆく意識の中でリョウにロインを送る。

 

『本番は一人で頑張ってくれ』

『あとゴーヤチャンプルーは自分で作ってくれ』

 

『なんでだよ』

 

リョウから返信が返ってきたのを見て、またしても俺は意識を失ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、美智代さんと直樹さんが念仏を唱えると俺含めひとり以外は全員蘇生し、車で駅まで送ってもらった。

さすがに横浜に寄り道する気力は残っていなかったので、下北沢に直帰することにした。

 

そして今、下北沢駅で喜多ちゃんと別れて虹夏と2人で歩いている。

 

「横浜行かなくてよかったの?」

 

「さすがに疲れたしリョウに飯作んなきゃ……」

 

「あ〜、確かに。あっ、そうだ」

 

「ん、どうした?」

 

「楓に言いたいことが2つあるんだけど……」

 

この状況でなんだ?もしかして告はk……なわけないか。

 

「1つ目はお願いごとで……」

 

「うん」

 

「あたし達のマネージャー的なのをやって欲しいんだよね」

 

「え?」

 

「ほら、楓って面倒見がいいしマネージャーがいてくれた方が助かるかな〜って」

 

マネージャー。確かにバンドメンバーではないし今日バンTのデザイン決めを手伝わされたのもきっとそういうことなのだろう。

 

「いいよ、俺でよければ」

 

「じゃあ、よろしくね」

 

「うん。で、2つ目は?」

 

「それはね──

 

 

 

 

 

 

──ぼっちちゃんってさ、ギターヒーローさんなんでしょ?」

 

え、なんで虹夏がそれを知ってるんだ?

 

その一言に俺は言葉が出なくなる。

 

「あのキレのあるストロークを聴いてもしかしたらそうかな〜って」

 

「でも、それが確証になるかはわからないだろ?」

 

「わかってるんでしょ?楓も」

 

必死に誤魔化そうとするも効き目はないだろう。ここは正直に言うしかないようだ。

 

「あぁ、お前の言う通りだ。で、いつからそれを気づいてたんだ?」

 

「この前のオーディションさ、いつもよりも演奏にキレがあって、それで帰ってからギターヒーローさんの動画を見て気づいたんだ」

 

「そうか」

 

「でも動画と普段のぼっちちゃんじゃ別人レベルでさ、初めは疑っちゃったんだよね」

 

「それで俺に答え合わせをしようと」

 

「うん……」

 

ひとりがギターヒーローであるということに虹夏はプレッシャーを感じているのだろう。

今の結束バンドにはあの腕前が重くのしかかってしまうような気がしてしまう。

 

「黙っていて済まなかった」

 

「ううん、あたしは大丈夫だから!」

 

「え?」

 

「プレッシャーを跳ね除けるくらい練習すればいいんだし」

 

そうか……そうだよな。こんなことで立ち止まっちゃいけないもんな。

 

「でも、逆にひとりにプレッシャーがかかっちゃうんじゃ」

 

「大丈夫だよ。あたしと楓の間の秘密ってことにしておいて」

 

「そうだな。しばらくの間はリョウや喜多ちゃんには黙っておこう」

 

「うん、あたしもしばらくぼっちちゃんに問い詰めたりはしないよ」

 

「じゃあ、改めてマネージャーとしてよろしくお願いします」

 

「うん、改めてよろしくね!」

 

「また明日」

 

「うん、また明日!」

 

マネージャーとして、結束バンドに何をしてあげられるのだろうか。俺はそれを考えながら家に向かって歩くのだった。




次回、「冷やし中華」


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高評価くれー!!(承認欲求モンスター)

第二回 誰にご飯を作りたい?

  • 喜多ちゃん
  • PAさん
  • 大槻ヨヨコ
  • 虹夏ちゃん
  • 志麻さん
  • イライザさん
  • 園田智代子
  • 好きな総菜発表ドラゴン
  • 重音テト
  • あり
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