幼馴染の変人ベーシストの料理番になった件について。 作:かんかんさば
今日は待ちに待った結束バンドの初ライブ。
そんな彼女たちに対し、ある意味門出を祝うかのように、天気は――
「土砂降りだぁ...」
「土砂降りですね...」
「あ、PAさん。お疲れ様です」
「あ、お疲れ様です」
――台風がやってきているため、生憎の大雨だ。
それでもライブをやるのかと思いながら、ドアを開け、PAさんと店の中に入る。
「お疲れ様で~す、って怖!」
ドアを開けると薄暗く、ジメっとしたフロントの中にはてるてる坊主が並んでいた。顔のインクがにじんでいて、まるでお化け屋敷のような不気味なオーラを放っていた。
「店長、いつからうちはお化け屋敷に...?」
「あ?」
「まぁ、二毛作営業もアリだと思いますよ」
「うるせぇ...」
「ところで店長、このてるてる坊主は一体...」
「昨日、ぼっちちゃんたちが作っていったんだよ」
若干しおれ気味の雰囲気で星歌さんが答える。
これほど大量に作っても効果がないとは。まったく、現実は非情だ。
「でも結局台風来ちゃいましたね...」
「なんかの奇跡で逸れてくれればよかったんですけどね。あいつら練習頑張ってたし、せっかくバンTまでつくったのに...」
バンTのデザインをしたのは虹夏。シンプルなデザインで結構好評だった。俺もお手伝いさんとしてバンTをもらったのだが、正直かなり気に入っている。
「みんな客の入りみで心折れなきゃいいですのですが......」
「バンド続けてくんならこんな仕打ちなんてたくさんあるんだから、どんな理不尽な状況だって乗り越えられるようになんないと......」
まったく星歌さんのいう通りだ。この先、幾度となく困難が結束バンドを待ち受けているかもしれない。俺がいうのもアレだが、これしきの事で嘆いてもしょうがないと思う。
まぁ、少し可哀想な気もするが。
「......」グスン
あれ?もしかして星歌さん、泣いてる?
「......店長、ハンカチ使いますか?」
「うるせぇ、二人ともあっちいけ」
泣いてる星歌さん、初めて見たな...
~⏰~
「あ~、私の友達も来れなくなっちゃったみたいです...」
「そっか~。そりゃそうだもんね~。」
しばらくして、結束バンドの四人がやってきた。どうやらライブに呼んでいたそれぞれの友達も、来ることができなくなってしまったみたいだ。こんな状況故か、ひとりはいつもより一層暗い顔をしてる。
「ひとり、大丈夫か?」
「うん。なんか嫌な予感が当たっちゃったな~って...」
「しょうがないよ。でも、まぁ、もし将来バンドがめちゃくちゃ売れて有名になったらこんなのもある種の逸話的なのになるかもしれないぞ?」
「台風の中でやる伝説の初ライブ...!ふへっ、ふへへへ...」
ひとりの顔に若干笑顔が戻ったのを見て安心しているとスマホからロインの通知音が鳴った。ポケットから取り出して確認してみると相手は姉貴だった。
この前、今日のライブの事に来るか聞いてみたら、『行くしかないでしょ』と即答していた。今日はどうやらきくりさんと来るらしい。
『もうそろそろスターリーつくよ~』
こんな雨の中でも来んのかよ...
「四人ともいいニュースだ。俺の姉貴が来る。」
「おお~、伊織さんくるんだ~!!」
「楓先輩ってお姉さんいるんですね」
「いるよ、なかなか変な人だけどね。自分に恋人がいないくせに俺にははやk「楓、後ろ」え?」
「だれが変な人だって?」
「イ、イヤー、ダ、ダレモアネキノコトダナンテヒトコt...」
「ふんぬっ!!」
「アベシッ!」
喜多ちゃんに姉貴の説明をしていると、本人に後ろから肩をつかまれ、思いっきりぶん殴られた。
マジで痛ぇ......この暴力女。
「おっと、失礼失礼。まぁいいや、あのバカはほっといて。虹夏ちゃん、リョウちゃんにひとり、久しぶり!」
「伊織さん、久しぶりです!!」
「あ、伊織ちゃん。久しぶり...」
「ごめんね~、あいついっつも迷惑かけてるでしょ~」
視界が横になった俺を背に、姉貴とリョウ、虹夏、ひとりは談笑を始める。ちなみに姉貴はボクシングの経験者で、子どものころから、よくケンカをした時には決まってグーパンをくらっていた。
「へぇ~、きょう初ライブなんだ。なんかいやね~。せっかくの初ライブがこんな雨なの......あら、この赤毛の子は?」
「あ、喜多さんっていって、私たちのバンドのボーカルの子で...」
「ほうほう、君が喜多さんであってる?」
「はい!あ、喜多ちゃんって呼んでください!」
「OK、喜多ちゃんね......はじめまして、あたしは下村伊織。そこで横になってるバカの姉だよ。よろしくね~」
「"横になってる"んじゃなくて"横にした"の間違いだろ......。ところで姉貴、きくりさんは?」
「なんか限界来たから先行っててっていわれたから置いてきたけど、そろそろ来るんじゃない?」
こんな天気の中酔っ払って道にリバースするきくりさんもやばいけど酔っ払いを平気で置いていく姉貴もやばいな......
姉貴の行動に引いているとドアの開く音がした。
「ぼっちちゃぁ~ん、来たよぉ~」
「お~、廣井!大丈夫だった?」
「う~ん、少しはマシになったかな~」
「廣井に伊織、お前ら来てたんだ」
「あっ、あの、三人って知り合いなんですか?」
「ああ、この二人は私の大学の後輩」
「ちょっと待って。なんでひとりがきくりさんのこと知ってんの?」
「あっ、これは、その、かくかくしかじか...」
なぜひとりがきくりさんと知り合いなのか、ひとり本人に聞いてみた。
ライブのチケットノルマが達成できそうになく、途方に暮れていたところ、偶然倒れていたきくりさんを介抱したらしい。それで二人でゲリラ路上ライブを決行して、なんとかノルマを達成することができたらしい。
ってかなんで金沢八景に流れ着くまで飲んでたんだよ...。
~⏰~
時間がたっていくうちに、お客さんの数が徐々に増えていった。増えたといってもまぁ、こんな天気だからスカスカであることは変わらない。
この客の入りみにもかかわらず、リーダーである虹夏はいつも通り明るくふるまっている。リョウと喜多ちゃんもいつも通りの感じだ。
「楓くん、これどうかな...?」
「頼むからそれだけは絶対やめて。恥ずかしい」
ひとりもある意味ではいつも通りみたいだ。
ひとりから5月に作ったマンゴーボックスを脱がそうとすると、地雷系ファッションのお客さん二人組がなにかしゃべっているのが聞こえた。
「ねぇ、結束バンドってしってる?」
「知らんしきょーみないわ」
「見とくのだるいわ」
見とくのだるい?何様だお前。
お客さんの何気なくも、彼女たちを否定するようなぼやきに俺は怒りを覚え、拳を握りしめていた。
「楓、気持ちはわかるけど落ち着け」
「店長...でもなんか、あいつらの事がまるで自分事のように感じて...」
これが星歌さんのいう理不尽な状況なのだろう。そう考えると悔しいが割り切るしかないのかもしれない。
ぼやきは間違いなく四人に突き刺さった。結束バンドは結成してまだ日が浅いため、知名度なんてものはないに等しい。そんな四人は大丈夫なはずがない。虹夏はメンバーを励ましてはいるが、かなりぼやきが堪えている様子だ。さっきまでいつも通りの様子だったリョウと喜多ちゃんも、平静を保てなくなってしまっている。
これはかなりまずいのでは、と思っているうちにライブは開演時間を迎えた。
演奏を始める前に喜多ちゃんと虹夏がトークを始める。
「はじめまして、結束バンドです!今日はお足元悪い中お越しいただき誠にありがとうございます~!(台本のセリフ)」
「あはは~、喜多ちゃんろっくばんどなのに礼儀正しすぎだよ~(台本のセリフ)」
うわぁ、オープニングトーク、くっっっっそスベってる...。ここってライブ会場だよね?なんか雰囲気がお通夜みたいになってるぞこれ。
スベったトークに対し、「はは...」とほぼ相づちのような感じの愛想笑いのみが四人に帰ってきて、そのまま一曲目の演奏が始まった。
「突然降る夕立 あぁ傘もないや嫌、空のご機嫌なんか知らない」
あのぼやきがかなり痛恨の一撃だったのだろうか、四人の演奏は少しもたついている。
喜多ちゃんはリハーサルではすごく上手にできていたのに、ミスが目立っている。虹夏とリョウはもたついていて、息が合っていない。ひとりも不調を隠しきれてない。この流れは明らかによくない。いや、よくないどころの話じゃないくらいの流れが、ステージから少し離れた場所で見ている俺でもはっきりとわかる。結局、この流れは断ち切れないまま一曲目の演奏は終わってしまった。
一曲目を終えたあと、沈黙がライブハウス全体を走る。本来なら、演目の合間のトークも兼ねた曲紹介が一呼吸あいてから始まるのだが、まだ始まらない。
「あの子たち、さっきのアレにかなり動揺してるわね......」
「たしかに。そういえば姉貴ってさ、大学のころとかにこういうのってあったの?」
「そりゃもちろん。経験積んでけばなんてことないけど、初めのうちはけっこうきつかったなぁ...」
「じゃあ、あいつらはこの先何度も...」
「そうね、仕方のないことだけど。でも、実力と経験積んでいけばそんなもんへっちゃらになるよ」
「......」
こんなとき、自分にできることって何だろう。あの様子は放っておけない。でも、無責任に励ましの言葉をなげかけたところでかえって事態を悪化させたらどうする?どうしよう、何をしたらいいのか全く分からないよ...
「何したらいいのかわかんない、なんてこと考えてるんだろうけどさ、お手伝いさんのあんただからこそできることってあるんじゃない?それが無責任だったとしても、何もしないよりはマシなんじゃない?」
「姉貴......ってかなんで俺があいつらのお手伝いさんだってこと知ってんの?」
「さっき虹夏ちゃんから聞いた」
自分だからこそできること――
『ここのコード、なんか違う』
『ぼっちの書いた歌詞に合わせて曲を作っているから』
リョウはひとりが書いた歌詞にあわせて一生懸命曲を作っていた。
『プレッシャーを跳ねのける位練習すればいいんだし』
虹夏はひとりに感じているプレッシャーを跳ねのけるぐらい彼女自身が練習すればいいといっていた。
『あ~!!Fが抑えられない!!難しすぎるわ!!』
喜多ちゃんはバンドに入るためについた嘘を本当にするために、一度抜け出した身なのにもかかわらず受け入れてくれた結束バンドのためにも努力していた。
彼女たちが積み重ねてきた努力は決して無駄じゃない。そして俺はその努力を信じている。ならば、できることはこれしかない。
――それは、彼女たちの努力を信じているということを今、伝えるということだ。
「姉貴、なんか書くもの持ってる?」
「スケッチブックと油性ペンならあるけど......え、ちょっと、何するつもりなの?」
「うん」
「楓、お前何する気だ?」
「今ここでやるしかないことです」
なにかが俺を突き動かす。
姉貴から書くものを受け取り、伝えたいことを書き記していく。無責任だって思われてもいい。伝えないで後悔するくらいなら伝えて後悔するほうが何億倍だっていい。だって彼女らが積み重ねた努力の先に広がる景色はここではない。もっともっとどこまでも先にある。ここはまだ、その景色を見るための道のスタートラインに過ぎない。だからスタートラインで終わるはずがない。いや―――
絶対に終わってほしくない!!!
「喜多ちゃん、次の曲を紹介しないと......」
「えっ、あっ、そうですね。次の曲も私たちのオリジナルソングで、つい先日出来たばかりなんですけど......」
書き終わると、喜多ちゃんが二曲目の曲紹介を始めていた。すこしたどたどしい様子だ。リョウも虹夏も同じような感じだ。ひとりは何か考えているのか、けわしい表情を浮かべている。
曲紹介が終わり、四人は楽器を構え、体制を整える。
今だ。今ここでやるしかない!そう思い俺はステージから見えやすい場所に移動し、伝えたいことを書いたスケッチブックを掲げ、書いた内容に指をさす。
『みんなが積み重ねてきた努力が絶対に無駄じゃないってことを俺は信じてる!!!』
四人は一斉にスケッチブックに目を向ける。
頼む、伝わってくれ。無責任だって思われてもいいから。
すると、ひとりが足元にあるエフェクターを踏み、ギターをかき鳴らす。即興のギターソロが始まった。リョウと虹夏、喜多ちゃんもこっちに向かって頷き、楽器を構えなおす。そして、それを機に今日の二曲目、「あのバンド」の演奏が始まった。
「あのバンドの歌がわたしには甲高く響く笑い声に聞こえる」
「あのバンド」。つい先日出来上がった結束バンドの新曲。
心の底から高揚感を上げてくるイントロからの喜多ちゃんの歌声で曲は始まる。
さっきまでのもたついた雰囲気がまるで嘘のように演奏、歌唱にキレがでて、流れはいい方向にかわった。
曲が進むにつれて会場のボルテージはどんどん高まっていく。
「かっこいい......」
ステージに立つ四人の姿に思わず声が出てしまう。会場を熱狂の渦へと巻きこんでいくその様はまさにロックそのもの。
アウトロを経て、「あのバンド」の演奏が終わった。興奮冷めやらぬ会場に拍手と歓声が鳴り響く。
「ちょっといいじゃん」
「ね」
ほれ、それみたことか。
ぼやいていたお客さんの言葉に俺はスカッとした気分になった。そんな気持ちに浸っていると店長が話しかけてきた。
「楓、まさかお前あんなことをやるとはな」
「ああ、はい。一曲目のあの様子を見てるとほっとけなかったんですよ。だからこれまであいつらが積み重ねた努力が無駄じゃないことを伝えたくって......」
「ふっ、少し思うところはあるが、お前らしいな。」
お前らしい、と言ってきた店長もどこか満足そうな顔をしていた。
にしても、思うところってなんだ?
~⏰~
三曲目も演奏し、今日の結束バンドの初ライブは大盛況で幕を閉じた。
そして今日演奏するバンドの演目がすべて終わり、俺は差し入れのお茶を近くの自販機で買って結束バンドの四人がいる楽屋へと向かった。
「みんなお疲れさん。はい、お茶」
「ありがと~!!」
「あっ、ありがとう......」
「ありがとうございます!!」
「かたじけない」
お茶を渡し、楽屋においてある椅子に腰かける。渡したお茶を飲む彼女らからは達成感を感じる。
「そうだ、今日のライブの感想を下村マネージャー、お願いします!」
「え、俺?」
「うん。なんか感想聞いたほうがバンドっぽいかなぁ~って」
虹夏に感想を求められた俺は言葉をしっかり選んで口にする。
「まぁ、最初はどうなるかと思ったけど、二曲目からは会場を沸かせててすごいなって思ったよ」
「いやいや~、二曲目からのあれは楓とぼっちちゃんのおかげだよ〜!まぁ、楓のはちょっとロックだな〜って思ったけど」
「なんかごめん」
「別に大丈夫だって〜。あれ、ちょっと嬉しかったし」
「あっ、うん、楓くんのあれ、すごく心強かったから……」
「たしかにそうね......楓先輩、どうしてあれを?」
「う~ん、まぁ、あれだね。これまでお前らが積み重ねてきた努力は決して無駄じゃないってことを伝えたかっただけだよ、ってとこかな。なんかあの小言を聞いたらなんかじっとしてられなくてね。あ、あと、それにもう1つ」
「「「「それに?(そっ、それに)」」」」
「これからも、マネージャーとして、一ファンとして、応援してるから、頑張ってほしいと思ったからかな」
そういうと、四人は感謝に包まれた笑顔で笑ってみせた。
どうやら俺は魅せられているみたいだ。結束バンドのロック、"けっそく・ざ・ろっく!"に。
「な~んだ楓、結構かっこいいこというじゃん」
「たしかに、今日の楓はいつもの楓にしてはロックでかっこよかった」
「か、かっこいい?」
幼馴染二人の発言に自分でもわかるくらい顔が赤くなっていく。
自分でいうのもなんだが、俺は人にかっこいいといわれると顔が赤くなってしまうのだ。
「お、リンゴぐらい赤くなってる」
「お~、照れてるねぇ~」
「顔が赤い楓先輩、なんだか新鮮です!!」
「ちょ、茶化すな!写真撮るな!あ~、もう次は絶対あんなことしないからな!!」
こうして、結束バンドの初ライブは幕を閉じた。
次回、「打ち上げだからこそ、話が弾む」
評価、感想、お気に入り登録をすると作者のモチベと筆のスピードが上がるので是非お願いします。
追記:お気に入り500件突破しました!ありがとうございます!!
高評価くれー!!(承認欲求モンスター)
第二回 誰にご飯を作りたい?
-
喜多ちゃん
-
PAさん
-
大槻ヨヨコ
-
虹夏ちゃん
-
志麻さん
-
イライザさん
-
園田智代子
-
好きな総菜発表ドラゴン
-
重音テト
-
あり