幼馴染の変人ベーシストの料理番になった件について。 作:かんかんさば
本当は前回の話の中に入れるつもりだったのですが、想像よりも長くなったので分離しました
かんぱ〜い!!!
乾杯の音頭とともにジョッキとジョッキがぶつかる音が店内に軽やかに響く。
片付けと閉め作業を終えた俺たちは近くの「かおみせ」という居酒屋で打ち上げをしている。
「みんなよく頑張った。私の奢りだからどんどん飲めよ」
「お姉ちゃんありがと〜!まぁ、あたし達飲めないけど」
「星歌パイセンいいんですか?あたし自分の分はちゃんと払いますけど」
「いやいやいいって、こんな天気の中来てくれたんだし」
「うぇぇぇい!先輩好き〜」
「廣井!お前は自腹だよ!そしてくっつくな!○ね!」
隣で大人のお姉さん方の茶番を眺めながら、俺はご飯を選ぶ。ここは海鮮系居酒屋なので、海の幸が美味しく食べられるメニューが多いらしい。せっかくの機会だし、色々頼んで料理のレパートリーを増やしてみたい。
「じゃあ俺はなめろうにしよっと。リョウ、頼むもの決まったらどんどん他の人に回してって」
「うん、わかった」
今俺たちが座ってる席は座敷タイプになっている。席順は通路側の列から俺、きくりさん、姉貴、星歌さん、PAさん。壁側にリョウ、喜多ちゃん、虹夏、ひとりという席順だ。
このかおみせという店自体、前々から存在自体は知っていたのだが、ご飯を食べに行くのは始めてだ。
「そういえば店長、この人誰ですか?」
「あ〜、私?私は誰よりもベースを愛する天才ベーシスト、廣井きくりで〜す!ベースは昨日どっかの居酒屋に忘れました〜」
「一瞬で矛盾してるんですけど……」
どっかの居酒屋に忘れるってやばいだろ……
そこに愛はあるんか?(女将)
「廣井、あんた相変わらずね……」
「ところで店長、隣に座ってる方は一体……」
「あ、あたし?あたしは自由とカメラと特ダネをこよなく愛するスゴ腕(自称)ライター、下村伊織で〜す!!」
姉貴は最近、バンド系の雑誌の記事を持つようになったらしい。姉貴が書いた記事や撮った写真は何度か見たことがあるが、どれも素晴らしいものばかりだった。
「お待たせしました〜、こちらなめろうと、カツオのたたきになります〜」
姉貴ときくりさんの自己紹介が終わると、頼んでいた料理がどんどんやってきた。俺は頼んだなめろうを口の中に運ぶ。まぁ、美味い。帰ったらレシピ調べようかな……。
「きくりさん、私ライブよく見に行ってました」
「え、ほんと?君見る目あるね〜!」
リョウがススっときくりさんに近づくと、いつもにしては珍しいハイテンション気味に話を続ける。
「観客に酒吹きかけたり中指立てたり暴言とか泥酔状態でやるライブ最高です。あとパフォーマンスで顔面踏んでもらったのもいい思い出です……あんなに実力があるのに売れないのが残念。バカテクバンドなのに」
「こんなの大衆に受けたら世も末だわ」
「すごい……私ってロックのこと、まだまだ全然理解できてなかったみたいです……」
「喜多ちゃん、たぶんこんな極端なやつは理解しない方がいいよ……」
喜多ちゃんよ、頼むから変な方向に突っ走らないでと思ったが、時々みせる暴走っぷりを考えると、ある意味手遅れなのかもしれない。
「そうだせんぱぁ〜い。私のバンドも出してくださいよ〜」
「あ?お前は絶対にウチでライブさせねぇからな?酒撒き散らかされると掃除大変なことになんだよ」
「えぇ〜?いいじゃないですか〜、ファンサぐらいしたってぇ〜」
「ウチにくるファンはお前のファンサで喜ぶようなヤバい奴らじゃねぇんだよ。とにかく、いくらいくら金積んでも出してやんねぇからな」
「うぇ〜ひっど〜い!ねぇねぇ楓くん、お姉さんを慰めてよぉ〜」
ライブ出演を突っぱねられたきくりさんは俺に抱きついてきた。
毎回思うけどマジでこの人酒臭い。
「ねぇ、可哀想だと思わな〜い?」
「きくりさん……」
「楓、こんなヤツは慰めなくてもいいぞ」
よしきた。これはGOサインとみなしていいやつだ。
「きくりさん、めちゃくちゃ酒臭いんでとっとと離れてください」
「うわ〜ん、楓くんのいじわる〜!」
きくりさんを剥がして元いた席に転がす。酒の臭いが服に移るのは溜まったもんじゃない。
「でもまあ、最後は大盛り上がりでよかったね〜」
「お客さん10人ぐらいでしたけどね〜」
「でもそいつら満足そうな顔して帰ってったじゃ〜ん!!」
「ですかねっ」
小言を言ってたあの2人組といい、今日来ていたお客さんは帰るときには結束バンドの感想を話してる人が多かった。改めて、彼女らが積み重ねた努力が無駄じゃないと実感する。
「にしてもライブの時の楓くんのアレ、すごかったね〜」
「そうよ、急にスケッチブック貸してなんて言って、そしたらあんなことするなんて。あんたいつからそんなにロックな奴になったのよ」
「別にいいだろ、ほっとけなかっただけだし」
「やっぱあたし達のバンドのマネージャーやってるんだからそりゃロックじゃなきゃね〜」
言うほど俺ってロックなやつなんだろうか。
「まぁ、続けてけばどんどんファンは増えてくから、次のライブでも頑張れよ」
「お姉ちゃん……!」
「ちゃんとノルマ代は払ってもらうからな」
「最後の一言がなければ感動したのに」
「相変わらずツンデレっすね。星歌さん」
「あ?楓、なんか言いたいことあんのか?」
「い、いえ、なにも……すんません」
睨んだ時の怖さは昔から変わらないな……
「そういえば、ぼっちちゃんも今日はよく頑張っt……って真っ白に燃え尽きてる!?」
さっきから一言も喋らないと思っていたらひとりはまるで某ボクサーのように、真っ白に燃え尽きて寝ていた。
「ひとり〜、せっかくの打ち上げなんだし食べないともったいないぞ??」
「あっ、うん……」
席から移動してひとりを起こし、メニューを渡す。食への欲が強いのかすぐに復活した。メニューを渡すと虹夏と喜多ちゃんもひとりに近寄って一緒に見始めた。
「うーん、あたしはポテトサラダにしよっかな〜。楓は何頼むの?」
「あ〜、俺はマグロのユッケ。前々から興味あったんだよな。ひとりは?」
「あっ、私は唐揚げで……。あっ、あといくらとエビと……」
海鮮料理が中心といえど、さすがは居酒屋。料理のバリエーションが豊富だ。
それにしてもひとり、今日はめちゃくちゃ頼むな。まぁ、1番頑張ってたし、お腹が空いてるのもしょうがないよな。
「私はアボカドのクリームチーズと……あと、タコのアヒージョ風で!リョウ先輩は?」
「私は酒盗とシーフードカレー」
「君いったいいくつなんだよ……」
さすが喜多ちゃん、洒落た料理ばっかり頼むな……。
「うふふ!せっかくだしイソスタに写真あげちゃお!!」
「それ何が楽しいの?」
「ウッ……わ、私だって……ヴェルサイユ宮殿のライン川203高地グレートバリアリーフヴェストファーレンの合盛りで……」
「なっ、ど、どこだ、どこにある?」
どこに対抗心向けてんだよこの2人は。
「そういえば楓、あんた普段どんな料理作ってんの?」
「確かに!楓先輩って一人暮らしなんですよね?気になります!!」
喜多ちゃん、すごい目を輝かせてる……。
そりゃ高校生で一人暮らしだし、気になるのも無理はないな。でも、去年坂戸さんと蘆名にこういう会話したときにリョウがいらんこといったからな……。もしかしたら今回もやりかねないな。まぁ、ここは気をつけて普段のことを言おう。
「ふ、普通の料理だよ。カレーとか、ハンバーグとか、鍋とか」
「すごい!料理出来る男の人、私憧れちゃいます!!」
ふう、何とかリョウの横槍が入らずに済んだ……。てかなんで普段のことを言うのにこんなにヒヤヒヤしなきゃ行けないんだよ。
「は〜い、お待たせしました。酒盗と、シーフードカレーと、唐揚げと、アボカドのクリームチーズと、タコのアヒージョ風です!」
リョウのいらない発言にヒヤヒヤしていたら、注文していた料理が沢山やってきた。
にしても、リョウって本当カレー好きだよな。カレー作ったときの笑顔は半端じゃないくらいキラキラしてるし。
「そうだ、楓。今度料理対決しない?前々からやってみたかったんだよね〜」
「上等だ。泣きべそかいても知らないからな?」
料理対決ね……。自分の腕を試すにはいい機会かもな。
「あぎゃぁぁああああああああっ!?やややややっぱりぃぃぃぃニートォォォッッ!?」
虹夏との料理対決に向けて燃えていたら突然、ひとりが発狂し、崩壊した。恐らく、俺の発言が彼女の発作を引き起こしてしまったのだろう。
「とりあえずまずはデスメタ療法で行ってみるか」
「デスメタ療法ってなんだ?」
「あ〜、こういうなんかしらの発作が起こった時にデスメタを流すとだいたい蘇生するんてすよ。ひとりって」
ポケットからスマホとイヤホンを取り出し、崩壊したひとりの耳と思われるところにイヤホンをさして、デスメタを流す。さて、効果は──
「ニートニート……」
ダメみたいですね。こういうときは荒業だけど修復作業をするしかないみたいだ。
「よし、これより後藤ひとり修復作業を開始します。リョウは紙やすりとトンカチを。虹夏はトンカチと瞬間接着剤。姉貴はスケッチブックとシャーペンをそれぞれ持ってきてくれ」
「「「イエッサー」」」
姉貴からスケッチブックを受け取り、ひとりの修復デザインを描く。自慢では無いが、俺はそこそこ絵が描けるほうなので、余程変な形にはならない自信がある。
まずは崩れたひとりを大方人間の形っぽくまとめ、そこから紙やすりで形を整える。
「楓、ぼっちの目はこんな感じでいい?」
「ああ、それでいい。次は鼻を頼んだ」
「わかった。紙やすりこっちにもわけて」
「はいよ」
3人でしばらく修復作業をしていると、だいぶ元のひとりに近づいてきた。
「よしっ、あとは顎を整え……あ、やべ、ミスったわ」
「また修復し直さなきゃだね……」
最後の最後でミスを犯してしまい、ひとりの顎が次回予告で○亡がネタバレされてしまったデュエリストみたいになってしまった。
まぁ、誰にだってミスはあるから仕方ないね!
「私はカレー食べてるから。楓、虹夏。あとは2人で頑張って」
「「ここまで来たらお前も手伝え!」」
店員さんに白い目で見られながらも、無事、ひとりの修復作業は完了したのだった。
◇
しばらく飲み物と美味しい料理をつまみにしつつ、俺たちはまたしても今日のライブの話に花を咲かせる。
「あのひとりのギターソロ、すっごいかっこよかったぞ」
「うへっ、そ、それほどでもないよ……」
「楓先輩の言う通りだわ!私も後藤さんのギターソロすっごくかっこいいって思ったし……」
「郁代」
「あっ」
リョウが喜多ちゃんを名前で呼んだ瞬間、彼女はフリーズした。
「今日のライブ、ギターを初めて4ヶ月でよく頑張った」
「え、郁代ってだれ?」
「へへへ……だ、誰でしょうね〜、そんなしわしわネーム……ど、どこにいるのかな?出ておいで〜郁代ちゃ〜ん」
喜多ちゃんはさっきのひとりみたいな顔でゴニョゴニョと喋り始めた。ってか伝染するんだ、あの崩壊顔。
「あ〜あ!ずっと隠してたのに!!この名前本っ当に嫌なんですよ!ダジャレみたいじゃないですか!?きた〜!いくよ〜!ってあっははは、アホか〜い!!!」
別にいいと思うんだけどなぁ……立派な名前だと思うし……。でも、名前のコンプレックスねぇ、気持ちはわかるかもな……。
「喜多ちゃん、なんとなくだけどその気持ち分かるよ」
「楓先輩……あ、でも先輩、全然しわしわネームじゃないじゃないですか。楓って素敵な名前ですし」
「喜多ちゃんがそう思ってんならそうなんだけどさ……ほら、俺の名前って楓じゃん?この名前が付く人ってだいたいどっちの性別に付くものだと思う?」
「女の子、ですかね……?」
「そう、それだよ。楓って名前の人は女の人が多いんだよ!そのおかげでちっちゃい頃とかよく間違えられたしさ……」
「ちっちゃい頃の楓って髪長かったから余計分かりにくかったもんね……ほら、これ小一のころの写真なんだけど」
そういって姉貴はスマホをみんなに見せる。
小さい頃の俺は病気がちで散髪する余裕がなかったので、長く伸びた髪を後ろに結っていた。
「ほんとだ……一瞬女の子かと思いました……!」
「髪だけだったら名前いえば誤解も簡単に解けたんだろうなぁ……あ〜あ!俺も父さんみたいな名前だったらよかったなぁ〜!!」
ちなみに俺の父親の名前は下村柊一郎。俺にこの名前をつけたのも父親だ。
「まぁ、いいじゃん。父さんだってちゃんと考えてつけてくれたんだから。まぁ、名前の案聞いたときは妹が生まれるのかなって思ったけど」
名前は割と気に入ってるけど、やっぱり間違えられるのはショックだな……。
「あはは……俺の名前は下村楓太郎です」
「楓が枯れてる。ぷぷっ、傑作……」
山田、後で覚えてろよ。
◆
お会計を済ませ、店を出る。外に出ると晴れた夜空の下、涼しい夜風が吹いていた。半袖でいると少々肌寒く感じるが、さっきまでの盛り上がりで暑く火照った体にはちょうどいいものだ。
「楓、ちょっといい?」
俺はスマホを眺めていると、姉貴に呼び出された。
「どうした、姉貴」
「1つ、気になってることがあってさ」
「うん」
「……ッ!」
姉貴の一言に、俺は言葉がでなくなる。
「別に怒ってるわけじゃないのよ。さっきのあれ、あんたがあの子たちの努力を信じてるってこと伝えるのは別にいいし、悪いことじゃないんだけどさ、楓さ、さすがにちょっと感情的になりすぎじゃない?全然落ち着いてなかったし、星歌パイセンも同じようなこと言ってたよ?」
「それは、あいつらが心配でじっとしてられなくて……」
星歌さんが言ってた思うところ、ってのはこういうことだったのか。
「そう。あのね楓、ライブの時もいったけど、この先あの子たちが小言を言われることは何度もあるかもしれないの」
「うん……」
「楓がそういうことを見過ごせない心配性だってのはわかってる。それは楓のすごくいいところでもあり、すごくダメなところでもあるの」
「じゃあ、俺はどうすれば……」
「どうすればって、そりゃあ、こう、男らしく胸を張ってればいいのよ。小言なんて言わせておけばいい。楓は信じてるんでしょ?あの子たちの努力をさ」
「うん……」
「あの小言はさすがに私もふざけんなって思ったし、楓があれをしたくなる気持ちも分かる。けどね、感情とか衝動に身を任せてたら周りが見えなくなるし、いつか自分の身を滅ぼすことになるよ?」
ライブでの自分の行動を振り返る。あの時、俺を突き動かしたのは衝動だった。姉貴の言う通り、俺は衝動に身を任せてしまっていた。これはしっかり反省すべきことだ。
「まぁともかく、今後こういうことがあったらまずは落ち着いて、冷静に物事を考えてから行動しな?」
「わかった。ありがとう……」
「いいのよ。まぁ、なんとなく楓があの2人に入れ込む理由、わかった気がしたわ。
「……うん。俺があの2人に出来ることはたぶん、これしかないから……」
俺にリョウと虹夏に対して出来ること。それは、あの2人の
それが、この俺、下村楓が出来る
「よし、じゃあ話はこれで終わり!あたしは八丁堀に帰るから。あ、そうだ楓、あの子たちに伝えといてほしいんだけどさ」
「え?」
「いつか君たち結束バンドの記事を書けるのを楽しみにしてるって伝えといて」
「了解、伝えとく」
姉貴に言われて気づいた自分の欠点。衝動に駆られて周りが見えなくなってしまうという欠点。それをどう対処していくかを考えなければならない。その上でこれからも結束バンドのことを支えていこう。俺はそう決心するのだった。
◆
こうして、自らの欠点に楓は気づくことが出来た。そして、改めて結束バンドのことを支えていこうと、彼は決心した。
しかし、彼はまだ知らない。この日の出来事が、この先彼が歩む、向かい風が吹き荒ぶ青春の道の一歩目に過ぎないということを。
次回、「超奔放狂暴ガール」
温度差で風邪をひいてしまったらすみません()
あと前回の話(#11 けっそく・ざ・ろっく)は今回の話と整合性を取るために加筆修正しました(大筋の内容に変更はありません)
下に掲載しているアンケートの上位3名に主人公が料理を作ります(予告)
評価、感想、お気に入り登録などしていいただけると作者のモチベと筆のスピードが上がるのでぜひお願いします
高評価くれー!!(承認欲求モンスター)
第二回 誰にご飯を作りたい?
-
喜多ちゃん
-
PAさん
-
大槻ヨヨコ
-
虹夏ちゃん
-
志麻さん
-
イライザさん
-
園田智代子
-
好きな総菜発表ドラゴン
-
重音テト
-
あり