幼馴染の変人ベーシストの料理番になった件について。   作:かんかんさば

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そろそろ梅雨入りしそうなので初投稿です


星座をなぞって
#15 超奔放狂暴ガール


夏休みももう終盤にさしかかろうとしている8月の下旬。

ここ数日多忙を極めていたバイトも今日は休み。リョウは彼女の母親に呼び出しを食らったため昨日の夜からいない。つまり、何が言いたいか。そう、久しぶりに朝から俺以外誰も家にいないのだ。久方ぶりの真の一人暮らしとなった俺を阻むものは誰もいない。

 

「うっひょ〜、まぜそばうめぇぇ!!」

 

誰にも料理を作らない日だからこそできるズボラな料理を作って腹を満たしたり──

 

「ならない言葉をもう一度描いて 赤色に染まる時間を置き忘れ去れば」

 

スマホでカラオケ音源を流して1人で大熱唱したりと、それはもうタガが外れたかのようにおひとり様を満喫していた。しかし、そんな時間にも必ず終わりが来るもので──

 

『もうそろそろ駅に着きます!』

 

「あれ?喜多ちゃんからって……あ、そういえば今日来るんだったわ」

 

喜多ちゃんからのロインで、俺のおひとり様タイムはあっさり終わりを迎えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おまたせ〜」

 

「あ、楓先輩、お疲れ様です!」

 

「ごめんごめん、こんな暑いのに待たせちゃって」

 

「今来たところなので全然大丈夫です!!」

 

「まぁそれならいいや。じゃあ行こうか」

 

「はい!」

 

駅で喜多ちゃんと合流し、これから向かう先はオシャレなイソスタ映えデートスポット……ではなく、駅前のスーパー。というのも今日は喜多ちゃんに料理を教えることになっていたのだ。

 

「にしても喜多ちゃんさ、俺でよかったの?虹夏の方が料理できると思うんだけど。あと親御さんでもいいんじゃ」

 

「あ〜、本当は伊地知先輩にも頼んだんですけど予定が合わなくって、で、母はすごい過保護なので……」

 

「あ〜ね。まぁ、とりあえずギターのときみたいにしっかり教えるから」

 

「はい!よろしくお願いします!!」

 

 

 

 

 

 

スーパーで材料を買い揃え、家に帰った。夕方の4時とはいえ、降り注ぐ日差しと暑さはさすがに堪える。だからこそ、自宅の涼しさには毎度癒される。

 

「おじゃまします!」

 

「どうぞ、洗面所はそこだからしっかり手洗ってね」

 

喜多ちゃんは玄関に靴を揃えると、すぐに手を洗いに行った。よくよく考えたら、これで結束バンドのメンバー全員家に上げたってことになるじゃん。まぁ、別に女の子を家にあげることなんて慣れてるから平気なんだが。

俺は袋から買った材料を取り出してキッチンに並べ、そのついでに手を洗う。そして冷蔵庫からお茶が入ったピッチャーを取り出し、2人分のグラスに注ぐ。

 

「はい、お茶」

 

「あ、ありがとうございます!にしても楓先輩の家ってなんかいろんなものがあるんですね」

 

「あ〜、うち父親と姉貴が旅めっちゃ好きでさ、いろんなところのお土産を買ってきてはこうして飾っていくんだよね」

 

「へ〜、すごいわ……!」

 

「そうかな?」

 

父親と姉貴は旅行から帰ると必ず置物のお土産を買ってくる。日本のお土産だけでも47都道府県は全部制覇できるぐらい豊富だ。

 

「ところで喜多ちゃん」

 

「はい」

 

「なぜ急に料理を教えてくれなんて頼んだの?」

 

喜多ちゃんのことだからどうせあいつが絡んで

いるのだろうが、気になるものは気になるので聞いてみる。

 

「それは─」

 

「それは?」

 

「リョウ先輩の胃袋を掴んで今度こそ娘にしてもらいたいからです!!」キターン!!

 

でしょうね。どうせそんなことだと思ったよ。てかまだ娘にしてもらいたいとか考えてたんだ。

 

「はぁ……まぁ、いいや。そろそろ作り始めようか」

 

「はい!改めてよろしくお願いします!!」

 

理由はちょっとアレだが、今後の生活スキル向上に繋がることは確かだ。そのためにも、ここはしっかり喜多ちゃんに料理を教えてあげよう

 

 

 

 

 

 

 

「さてと、手を洗ったところで……まずは野菜の下処理から行こうか。そこに置いてあるじゃがいもとにんじんの泥を落としてって。終わったら今度は玉ねぎの皮を剥いて」

 

「はい!」

 

喜多ちゃんに指示を出し、野菜の下処理をしてもらう。手際がよく、スイスイと進めていく。

 

「お、終わったみたいだね。じゃあ、次は包丁で切っていこう。玉ねぎは平らな面を下にして芯を取ってくし切りにしてって。で、じゃがいもはこういう感じで─」

 

お手本を野菜の切り方の指示を出していく。それを見様見真似で喜多ちゃんは野菜を切っていく。

 

「わかりました!……って、あれ?にんじんの皮は剥かないんですか?」

 

「うちの家にんじんの皮剥かないんだよね。あれって結構栄養あるからさ」

 

「へぇ〜、勉強になります!」

 

目を輝かせながらメモを取り、どんどんと野菜を切っていく。こんなに飲み込み早くて手際もいいとは……。実はどこかでやってたことがあるんだろうな。

 

「痛ッ!」

 

「大丈夫?ちょっと手見せて」

 

「はい……」

 

手際のよさに感心していると、喜多ちゃんが包丁で指を切ってしまった。傷が浅いとはいえ血が出ている。ここは応急処置をしなければと思い、俺は救急箱から絆創膏を取り出し、喜多ちゃんの指に貼る。

 

「ありがとうございます……」

 

「とりあえずこれで何とか大丈夫だけど、家帰ったらちゃんと薬塗ってね」

 

「……」

 

「まぁ、そうしょげないで。初めからパパっとできる人なんてそういないんだから」

 

「そうですよね……よし、燃えてきたわ〜!」

 

「おう、その意気だ。まぁ、怪我には気をつけて」

 

燃え上がった喜多ちゃんは怪我には気をつけつつも、すごいペースで残りの野菜と肉を切りすすめ、フライパンに油をしいて炒め始めた。もう教えることないんだけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところで楓先輩、これおかわりの分を考えても結構多いと思うんですけど、なんでこんなに作るんですか?」

 

具材を炒め終わり、鍋に炒めたものと水、ルーを加え煮込み、アクを取り除くという、カレーを作る工程が一段落ついたタイミングで喜多ちゃんが尋ねて来た。

 

「あ〜、それは……」

 

こんなに多く作る理由にリョウが絡んでることなんで言えるわけないよな……。喜多ちゃんのことだから俺がリョウに飯作ってるなんていったらどうなることやら……。

ちなみに俺がリョウの料理番であることを知ってるのは虹夏と星歌さんと俺の家族、蘆名と坂戸さんだけだ。でも、どうせいつかバレるかもしれないし、この際言ってしまった方がこの先楽かもしれない。

 

「喜多ちゃん、落ち着いて聞いてくれ」

 

「はい……」

 

「俺はね、去年の春先からずっとリョウにご飯を作ってるんだ。それで、今カレーを多く作ってるのも、全部リョウが食い尽くすからなんだよ」

 

「……」

 

正直に理由を言うと、喜多ちゃんはフリーズした。そりゃそうだもんな。自分の推しに1年間も飯を作ってたやつがまさか目の前にいるバ先の先輩だったなんて思わないよな普通。

 

「……たいです」

 

「え?」

 

「めちゃくちゃありがたいです!」

 

「ゑ?」

 

「リョウ先輩にいつもご飯を作ってる人からご教授頂けるなんてありがたいですよ!これならリョウ先輩の娘に間違いなく近づけるわ!!」

 

そっちの方に捉えるんかい。てっきり発狂かなんかでもするのかと思ったよ。まぁ、変な事態になるよりかはマシだからいいんだけど。

 

「とりあえず娘になれるかどうかは置いといて、そろそろ火を弱めよう。焦げたらいけないし」

 

「そうですね」

 

火を止めて、戸棚から3人分のスプーンとコップを出してテーブルに並べる。そして、カレーを作るついでにセットしておいたご飯もちょうど炊けたようだ。炊飯器を開けて炊きたてのご飯を解していると、電話がなった。

 

「はい、もしもし。リョウか。どうした」

 

『楓、もうそろそろそっち着くからご飯用意しといて』

 

「もう用意できてるから。じゃ、また後で」

 

『さすが料理番。また後で』

 

電話の主はリョウだった。もうそろそろ家に来るみたいだ。

 

「喜多ちゃ〜ん、そろそろリョウ来るよ〜」

 

「わかりました。じゃあ着替えてきますね!!」

 

え、なんで着替えるの?

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま」

 

「ここはお前の家じゃねぇけど。ま、おかえり」

 

用事を済ませたリョウが家にやってきた。にしてもこの時間まで親御さんと何を話してたんだろう。

 

「この匂い、もしやカレーでは……?」

 

「ご名答。まぁ俺はほとんど作ってないけどね」

 

「え、誰が作ったの?」

 

「わたしです!!!」

 

「へぇ、郁代が作ったんだ」

 

自信満々にカレーを作ったのは自分だと宣言した喜多ちゃん。しかしその格好はというとー

 

「ちょっと待て。なんでメイド服着てんの?」

 

「やっぱり推しに尽くすには形から入らないといけないので!」

 

その姿勢、一周まわって尊敬するよ。

そんなメイド服姿の喜多ちゃんを見るリョウのリアクションは──

 

「楓、後輩を家に連れ込んでそういうことしてたんだね。ドン引き」

 

「んなことしてねぇよ」

 

特になく、見事にスルーして俺をいじってきた。

 

コンロの火を完全に止めて、俺は3人分の皿を戸棚から取り出す。

 

「はい、これにルーついで」

 

「はい」

 

それらにご飯をついで喜多ちゃんに渡す。盛り付けも立派な料理の作業だ。

盛り付けたカレーをテーブルに並べる。美味しそうなルーの匂いが食欲を掻き立てる。

 

「「「いただきます」」」

 

手を合わせ、早速喜多ちゃんが作ったカレーをスプーンで一口すくい、口にする。

 

「お、うまい。美味よ喜多ちゃん」

 

「ありがとうございます。確かに自分で作っといて言うのもなんですけど、美味しいですね!」

 

喜多ちゃんの作ったカレーはとても美味しい。初心者が作ったとは思えないぐらい上手に出来ている。

 

「でしょ。これがあるから料理作るの楽しいんだよね」

 

「郁代、カレー作ってくれてありがとう。褒めて遣わす」

 

「……!!」キターーーーン!!

 

リョウの言葉に喜多ちゃんは効果音がつきそうなぐらいの笑顔を見せている。自分の推しに褒めてもらえるということほど、彼女にとって光栄なことはないだろう。

 

「じゃあ、リョウ先輩」

 

「ん?」

 

「今度こそ……私を先輩の娘にしてください……!!!」

 

なんだろう、結果が目に見えてる気がする。

 

「え、無理」

 

ほら、思った通り。

 

「ヴッ……」

 

あまりのショックに喜多ちゃんは椅子にもたれ掛かってしまった。まぁ、4月の路上ライブの時もそうだけど、急に娘にしてくれなんて言われてもこういう反応するのが普通なんだよな……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先輩、今日はありがとうございました!」

 

「どういたしまして。じゃあ、また明日〜」

 

カレーを食べ終わり、少しすると喜多ちゃんは帰っていった。見送る時に吹いていた涼しい風が少し肌寒く感じた。夏の終わりが近いづいていることが改めて感じられる。

今年の夏はバイト中心で全然出かけられず、思い出が作れていない。そんな夏休みもあっていいとは思うが、なんだか寂しく感じてしまう。そう思いつつも俺は、今日リョウが彼女の両親と何を話したのだろうか。気になるし、聞いてみることにしよう。

 

「ところでリョウ」

 

「なに?」

 

「聞いていいのかわからないけど、今日おばさんと何話してたの?」

 

「ここ最近ちょくちょく家にいない理由を聞かれた」

 

リョウのことを溺愛するあのお母さんのことだ。愛娘が頻繁に家を留守にする理由を知ろうとするのは当然だ。

 

「ほう、で、なんて答えたの」

 

「最初は嘘つくか迷ったけどさすがに誤魔化しきれそうにないから正直に楓のことを話した」

 

「まぁ、そうだよな」

 

いずれ、リョウの親に俺が彼女の親にご飯を作っていることが知れる日が来るということはわかっていた。そして──

 

「それで、お母さんから楓に伝言」

 

「俺に?なんていってた?」

 

「『今度機会があったら話を聞かせてください』、だって」

 

リョウの母親からの伝言でやっと気づいた。この料理番としての日々の総決算が、少しづつ近づいているということに。

 

 




次回、「線香花火」

ぼざろの劇場総集編めっちゃ楽しみだな……

評価、感想、お気に入り登録などあると作者のモチベと筆のスピードが上がるので是非お願いします

高評価くれー!!(承認欲求モンスター)

第二回 誰にご飯を作りたい?

  • 喜多ちゃん
  • PAさん
  • 大槻ヨヨコ
  • 虹夏ちゃん
  • 志麻さん
  • イライザさん
  • 園田智代子
  • 好きな総菜発表ドラゴン
  • 重音テト
  • あり
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