幼馴染の変人ベーシストの料理番になった件について。 作:かんかんさば
一人暮らし、高校生活、そしてリョウに食事を作る料理番生活にも慣れてきた5月の中頃。
いつの間にか桜の木に咲いていた花は青葉へと変わっていて少しづつ季節の移ろいを感じるが、今はそれどころではない。
5月といえば全国の学生諸君が望む試練のイベント、中間テストの時期だ。
今俺は2週間後に控えた中間テストに向けて自宅で試験勉強をしている。
「楓、ここわかんないから教えて」
「あぁ、そこは(1)で出した答えの式を代入するんだけどその前に上手く式変形しなきゃ...」
リョウも一緒に勉強していて、今はテスト課題を教えている。
俺やリョウ、虹夏の通っている下北沢高校はこの辺一帯でも有数の進学校で授業のスピードはかなり早い。
今俺がリョウに教えている数学Iもここのところ授業でやっているのは二重根号の計算で、近所の秀華高に行った友達から聞いたところ、まだ秀華高は三次式の展開をやっているらしい。
このとてつもない授業スピードに俺や虹夏は辛うじてついていけてるが、リョウは全くついていけてない。
どうやらこの前の小テストでは20点満点中5点を取ってしまい、担任の先生にこっぴどく怒られたらしい。
「楓、次ここ教えて」
「そこは公式に当てはめて解いてくんだよ。-4√3を分解して-2√12に一旦戻してから計算するとスムーズにいくと思うよ」
「おおおお!と、解けた」
「そんなに感動することか?」
「ガ○ガ○君のあたりが出た時くらい」
感動するラインが低すぎるだろ。しかもこれ基礎問題だぞ。
そう思いながら俺は着々とリョウと課題を進めていった。
途中「糖分補給したいからハーゲ○ダッツ買ってきて」だの「喉乾いたからジュース買ってきて」だの言ってきたが、「終わったら買ってやるから我慢しろ」と宥め、何とか終わった頃には夕方の5時になっていた。
かなり長時間勉強していたからか、リョウはぐったりしていた。
さすがにこっちもおやつを食べたくなったので自分のおやつを買いに行くついでにリョウにハーゲンダ○ツを買ってあげることにした。
「ハー○ンダッツ買いに行くからコンビニ行くぞ」
「疲れたから無理。行ってきて」
「じゃあ買わn...」
「しょうがない。行こう」
本当欲望には忠実だな、こいつ。
保冷バッグに保冷剤を詰め、家の鍵を閉めて「早くしろ」と急かしているかのような視線を送ってくるリョウとともにコンビニへと向かう。
外に出ると空は綺麗な茜色になっていて、思わずぼーっと眺めてしまった。
「ハーゲン○ッツが待ってる。早くして」
「ああ、ごめんごめん」
急かしているリョウの声でふと我に返り、コンビニへと足を踏み出す。
コンビニに着くとリョウは真っ直ぐアイスのコーナーへと向かった。それを見て俺はまるで子供みたいだなと思い、カゴを取って彼女の後を追いアイスのコーナーへと向かう。
「これ私の分」
そう言ってリョウはカゴに堂々と○ーゲンダッツを3つも入れてきた。こいつハ○ゲンダッツが1ついくらするかわかってて入れてるのか?
「さすがに3つも買えないし、2つで我慢してくれ」
「楓のケチ。自己新記録の頑張りを見せたから3つでもいいと思う」
「いやいや、3つ買ったら1000円だぞ?俺の分も合わせたら俺の財布が砂漠になる」
「楓の分はどうでもいい」
「こんどから晩飯作らないぞ?」
さすがに晩飯をダシにすれば向こうも引き下がるだろう。そう思いカゴからハーゲンダッ○を1つ、アイス用の商品ケースに戻そうとすると、リョウに手を掴まれた。
半泣きに膨れ顔。これはまずい。
他の客の冷ややかな視線を浴びてしまう前に仕方なくハー○ンダッツをカゴに戻した。
するとリョウはニンマリとした顔でこちらを見てくる。
ぶん殴りたい、この笑顔。
結局ハーゲ○ダッツを3つ買って、コンビニを後にした。
家に帰ったあと、「努力の成果と勝利の味がする」と言ってハ○ゲンダッツを食べるリョウに俺は敗北感を感じたのは言うまでもない。
それから2週間後、あっという間に中間テストが終わった。
俺の出来はというと、まあまあだ。勉強における高校生活のスタートダッシュを上手く切れたと言っても過言では無いだろう。
でも上には上がいるもので、虹夏は学年15位を取っており、高々トップ50の少し上くらいの俺とは天と地の差だった。
ちなみにリョウはというと、コミュ英や国語総合などはかなり高い点数だったが、歴史総合や物理基礎、俺が教えていた数学ⅠAは赤点を取っていた。
「楓、今度は歴史や物理も教えて」
「わかったけど……俺一人じゃ無理だし虹夏も頼むわ」
「了解!リョウ、言っとくけど厳しくいくからね?」
「やはり持つべきものは友」
高校は中学までとは違って成績次第では留年なんて有り得る。次の期末テストで赤点を取ってしまうと進級が危うくなる。
期末テストでは赤点を取らせないくらい教えられるように、こちらもすこしがんばろうと思った。
「そういえば楓、バイトどうするの?」
「まだいいバイト先見つかってないんだよな...」
虹夏が突然思い出したかのように俺に聞いてくる。
テストが終わったらバイトをしようと決めたのは先月の終わりごろで、スキマ時間を見つけては求人広告を漁っていたが、なかなかいいバイトが見つかっていなかったのだ。
「じゃあ、うちのライブハウスでバイトしてみたら?」
「え?」
「?」
まさかの提案に俺は言葉が出なくなる。
虹夏の家はライブハウスをやっている。そこの店長は虹夏の姉であり、俺の姉の大学の先輩でもある星歌さん。
虹夏とは真反対のおっかない性格で、小学生の頃は何回か泣かされたこともある。その性格の姉のバイト面接を受けるとしたら、超絶圧迫面接で俺は灰になってしまうだろう。
でもせっかくの提案だし、面接を受けてみることにした。
「わかった。面接、受けてみるよ」
「よ〜し、じゃあ土曜日に面接に来るってお姉ちゃんに伝えとくね〜」
土曜日までに履歴書とか書いとかなきゃな。
バイトの面接日である土曜日。
俺は面接を受けにライブハウス「STARRY」に来ていた。
面接は午後からということで、朝はゆっくり寝れて、しっかり朝食を食べることが出来た。
家を出る時間までネットで調べた緊張を解す方法を色々試したが、それらは全て無駄となってしまった。
「大丈夫、高校の面接も頑張って乗り越えたんだからきっといけるはず」
自分を鼓舞し、階段を降りてドアを開ける。
「誰が面接受けに来るかと思ったらお前か、楓」
ドアを開けると椅子が二脚、向かい合う形で置いてあり、そのうちの一脚に星歌さんが座っていた。
虹夏とは違う、キリッとした目つきでこちらを見つめてくる。
その目つきで更に緊張が高まった俺はカバンから予め書いておいた履歴書を渡し、席に着く。
「それじゃあ、面接を始めていこうと思います。まず名前を」
「し、下村楓です……」
「高校一年生ってことは…… バイトの面接を受けるのは初めてってことでいいですか?」
「は、はい……」
「緊張してるようですが、リラックスして受けてください」
「はい……」
面接が始まり、星歌さんが敬語で話してくる。
普段あまり丁寧な口調ではない星歌さんの敬語は圧迫面接のそれのようなものだ。
「まず最初に志望動機を教えていただけますか?」
「虹……いや、友人からの紹介です……」
「そうですか。資格の欄に剣道二段と書いてありますが、剣道はどれくらいやってますか?」
「小学一年生からやってるので9年ほどやってましたね……」
「ではある程度の腕はあると」
「はい...」
暫くの間、沈黙に包まれる。
鋭く突き刺すような視線で履歴書とこちらを交互に見てくる星歌さんとその視線で冷や汗をかく俺。
この沈黙はいつまで続くのだろうかと考えていたその時、星歌さんが口をあける。
「……はぁ、お前さっきからガッチガチに緊張し過ぎなんだよ。私もフランクにいくからお前もそうしろ」
「は、はい」
怖い、怖すぎるでしょこれ。
でもここでひよってたらこの先どんなバイト面接だって落ちる。だからここはリラックスして場を乗り越えよう。
ペットボトルに入っていた水を一気に飲み干し、ハンカチで汗を拭いて深呼吸をする。
するとなんだか緊張が一気に解れた気がした。
「お、少しは緊張が解れたみたいだな」
「はい!よろしくお願いします!」
そこから普段の学校生活のことなど、色んなことを聞かれた。
緊張が解れたおかげで与えられた質問には全て答えることができ、いつの間にか最後の質問を迎えていた。
「最後にひとつ、ウチはチケットやドリンクの販売の接客業務の他に機材運搬とかの力仕事があるしかなりキツイと思うがついていけるか?」
「はい!」
「いい返事してんじゃねぇかよ。ちょうど男手が欲しかったところだし、採用だ。きっちり働いてもらうからな」
「……!よろしくお願いします!」
どうやら採用が決まったようだ。
後で虹夏とリョウに報告しよう。
「そういやお前一人暮らししてんだってな」
「よく知ってますね」
「虹夏から聞いた。なかなか大変だろ」
「まあ、最初は大変でしたけど慣れたら全然ですよ」
その後、少し星歌さんと世間話をした。
学校のこと、ライブハウスのこと、最近聞いているアーティストのこと。
中学生の頃までは怖くて話せなかった星歌さんと話せるようになったことに俺は俺自身の成長を感じた。
「そういえば伊織は元気にしてるか?」
「元気にしてますよ。最近は取材で地方にいってるみたいですけど」
「へえ」
伊織とは俺の姉のことである。
大学を出たあとは出版社に就職し、今はカメラマンとして日本各地を自由に駆け回っている。
基本的に自由でいることを好むため、常に誰かに心配されることが多い。
どうやら星歌さんもそのうちの一人のようだ。
それから勤務開始日と時間帯を教えてもらい、スターリーを後にして家に帰る頃にはもう日が暮れていた。
今日はリョウが来ないというのもあり、さっとチャーハンを作った。
「あれ?こんな味付けしたっけ?」
そのチャーハンはまるでこれから起るハチャメチャな生活の予兆のような不思議で美味しい味だった。
初バイト当日。
元気よく挨拶してスターリーに入ったはいいものの...
「おはようございます!今日からよろしくお願いします!」
「...あ、おはようございます」
のそっと出てきたPAさんにビビり
「ウ"ェ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"!!!」
とどこかのカフェ店員のような奇声を発し、高校につぎ、バイト先でも黒歴史を作り、教育係の虹夏にめちゃくちゃいじられてしまったのだった。
おまけ
楓の楽しみ
突然だが、皆さんには毎週楽しみにしていることはあるだろうか。
例えば連ドラやバラエティーに大河ドラマやニチアサなどのテレビ番組を見ることや趣味の習い事や週末のお出かけなどのレジャーなどなど。
もちろんこの俺にも楽しみはある。
それは...
従妹、後藤ひとりの配信を見ることである。
俺がひとりの配信を見始めたのは中学二年の夏のことで、ギターの練習の参考になる配信者を探していたとき、偶然見つけたのがひとりのアカウント、もとい、「ギターヒーロー」である。
5月のある土曜日のこと。
リョウが帰り、家で一人になると、俺はすぐに風呂を済ませて自室に駆け込み、パソコンを起動し、オーチューブを立ち上げる。
「えーと、ギターヒーロー……ギターヒーロー……あ、あった」
登録チャンネルの一覧からギターヒーローを探し、配信のページへと飛ぶ。
『あ、え、えっと...聞こえてるのかな...』
配信のページへ飛ぶとちょうど始まった頃で、ひとりがマイクの確認をしていた。
ひとりは小遣い稼ぎと己の承認欲求を満たすために配信をしている。極度の人見知りのくせによく配信できるなと思うが、どうやらネットの世界に入り込むとそうはならないみたいだ。
『えっと...じゃあまず最初に...こ、この曲を弾こうと思います...』
早速曲を弾き始める。
さすが毎日6時間練習してるだけあって、実力はピカイチだ。
『○○の△△□□でした...あ、スパチャありがとうございます』
既に数曲弾き終えて、他の視聴者からのスパチャが送られてくる。
『えーと、《最近、バスケ部のキャプテンくんとは上手くいってますか?》そそそ、そりゃあもちろん上手くいってますよぉ〜』
「ぷぷっ..あっはっはは!!」
人見知りのひとりに彼氏などいるはずもない。あまりにも流暢な嘘のつきっぷりに声を出して笑う。
ひとりのこの嘘はこれだけでない。
友達100人や生徒会長など、従兄の俺からしたら一瞬で見破れる嘘をたくさんついているのだ。
〜2時間後〜
『最後の曲...聞いてくれてありがとうございました...あ、スパチャありがとうございます...《演奏素敵だったよ〜♪少ないけど機材費用の足しにしてね〜》うへへ...視聴者さんのためにも早くマイニューギアーしなきゃ』
マイニューギアーするってなんだよ。
さんざん笑い倒した後のとどめを刺すような発言に俺は声が出ないくらい笑う。
配信が終わったあと、ひとりのロインに今日の感想を送る。
『今日の配信、面白かったぞ。バスケ部のキャプテンの彼氏、できるといいな』
茶化しも兼ねて送ると、すぐに既読がついた。
『すぐにできるもん!絶対楓くんより先に恋人つくるから!』
ムキになってることがわかりやすいひとりの返信に俺は思わず笑みがこぼれる。
『まあ、まずは友達1人でも作ることだな』
『あぅ……』
まったくかわいい従妹だ。
ひとりの人見知りが治るかどうかは分からないが、せめて中学最後の1年でも楽しく過ごしてほしいと願い、俺は眠りについた。
スパチャの表現とかって意外と難しいものですね...
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☆9や☆10くだs...((殴
タイトル変更は
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してもいい
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しなくてもいい