幼馴染の変人ベーシストの料理番になった件について。 作:かんかんさば
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8月31日。それは、我々学生にとってひと夏の終わりを告げる日。あるいは、明日から始まる新学期への絶望を容赦なく叩きつけてくる日。
そんな日であってもバイトはある。悲しいね。休みにしてくれよ、ツンデレ店長。
「さようなら......さようなら......」
夏休みが終わることに絶望しているのか、ひとりは花壇にセミのお墓を作っている。今日の澄み渡るような青空とは真逆の、どんよりとしたオーラを纏っている。そんな彼女を眺めながら俺は店長から渡されたバケツに水を汲み、柄杓で道路に撒いている。この酷な残暑に本当に効くのだろうか。
「げ、なにこれ?」
「なんかさっきからずっとこんな感じなんですよ」
「えぇ...」スマホパシャリ
困惑しながらもカメラのシャッターを切る店長。なんでいつもひとりの写真を撮るのだろうか。
「まぁそれはそれとして店長、なんでこれやるんですか?」
「地域貢献もロックだろ」
「すげぇ、店長の口から地域貢献なんて言葉が出るとは...」
「あ?まぁいい、バケツの水空になったら今度はサーバーの整備やって」
「は〜い」
店長が下に降りたのを見計らって、俺はポケットからスマホを取り出し、打ち水の効果を調べてみた。どうやら気化熱によって体感温度を下げる効果があるらしい。調べた結果に納得し、打ち水を続ける。すると、ひとりはより一層オーラを強めながらセミを埋めるペースを上げた。
「アスタキサンチン...カンタキサンチン」
さすがに放っておけないので様子を伺ってみよう。
「どうしたひとり?さっきからセミ埋めて」
「あ、いや、今年の夏休みもいつも通り誰にも遊びに誘われないまま終わったな〜って...」
「え?」
「や、やっぱりここはブラックホールの中なんだ...現実とは時間の進みが違うんだ現実の私は今頃虹夏ちゃんたちと沢山遊んだ思い出で満たされてるんだ...!」
「ひとり、残念だけどここは現実なんだ...」
あ〜、否定したくねぇ〜!!
「ま、まぁ今年の夏休みはバンドでライブとか出来たんだし、これはこれで楽しかっただろ?な?」
「...」
とりあえず負のオーラを出し続けられても困るので慰めてみた。が、効果は今ひとつ。とうとう黙り込んでしまった。
「とりあえず俺は中に戻るから、ある程度したら戻ってこいよ?」
空になったバケツと柄杓を持って階段を降りる。ドアを開けるとそこには店長と他の3人が何か話していた。
「ここにバケツと柄杓置いときますね」
「お、ありがとな。水分とったらサーバーの整備とついでに詰め替えも頼むわ」
「うっす。で、さっきから何の話してるんですか?」
「あ〜、あれだよ。ぼっちちゃんのあれ。なんでああなってるんだろうな、って」
「後藤さんここ数日ずっとこんな感じなんですよ。楓先輩、なんか知りませんか?」
「そうだよ!ぼっちちゃんマイスターの楓ならぼっちちゃんがなんであんな感じなのかわかるでしょ?」
「ぼっちちゃんマイスターってなんだよ」
勝手にマイスターにするなよ。しかもマイスターを名乗れるほどひとりのこと詳しいかっていわれるとそうでもないし。にしても、あんなことになる理由って言ったら...
「まぁ、あれじゃね?シンプルに夏休みが終わって明日から学校ってのが嫌なんじゃないの?たぶん」
「だったらそうはならんやろ」
「なっとるやろがい」
階段の上を見上げると、ひとりの負のオーラは夏の青空に天高く昇っていた。
「てかさ、お前ら夏休み誰か遊びに誘ってやったの?」
「え?」
「この前ぼっちちゃんと夏休みはどういう風にしてんのって話をしたんだけど、予定は空けてますってずっと言ってたぞ」
凄い、ひとりが店長と話せるようになってる。素晴らしいじゃないか!!
「誘おうとはしたんですけど...ここに来る日以外は全部予定埋まってて、知らない子がいたら後藤さん縮こまっちゃうかなって思って...」
縮こまるどころか家から1歩も出れなくなると思うんですがそれは...
というか陽キャって凄いよな。毎日遊べる友達が沢山いてしかも飽きないって。俺だったら疲れちゃうよ。
「伊地知先輩は?」
「あたしは...練習ない日は家事してたりバイトしたりしてたから...」
さすがっす虹夏姉貴。てか、星歌さんも少しは手伝ってやれよ。
「で、リョウは?」
「三人が誘ってると思ってた」
うん、いつも通りの他力本願。てかお前補講いっぱいあったもんな。
「あれ、じゃ、じゃあ楓は?」
「え、俺?大学のオープンキャンパス色々行ってたから全然余裕なかったわ」
もう受験にも目を向けとかないとまずいからね。仕方ないね。
「それってつまり...誰もぼっちちゃんと遊んでないってことじゃん!!!」
「もうお前らバンド名変えろよ」
結束バンドとは(哲学)
結束力が大事なバンドとコードとかを束ねる結束バンドのダブルミーニングで付けられた名前なのに何だこの有様は。これじゃ名称詐欺じゃねぇか。タイトル詐欺してるこの小説みたいじゃねぇか。
「もうこうなったらどこか遊びに連れていくしかないよ!喜多ちゃん!なんかいい案ない?今から最高の夏の思い出を作れるような何か!」
「ええ!?えーっと...えーっと...あ、そうだわ!!今からみんなで海行きましょうよ!!九十九里浜じゃ少し遠いから...江ノ島とか!ここから電車一本で行けますし!!」
「それだぁ!!よしじゃあぼっちちゃんに声掛けよう!!」
喜多ちゃんが提案すると3人は急いで階段を登って行った。
「ほら、楓も行くよ!!」
「え、俺も?」
「そうですよ!こういうのはみんなで行った方が楽しいじゃないですか!」
「楓は帰ってもどうせゲームしかしない」
「ぐぬぬ...」
今日早上がりだからゲーム三昧したいのに...
いや、待てよ。海といえば──
『えい!!』
『きゃ〜、つめた〜い!!やったわね!それ〜っ!!』
キャッキャウフフと波打ち際を走る水着のお姉さん!!そんな景色を拝むことが出来るのであれば行く価値は十分にある!!
「楓絶対変な事考えてるよ」
「ビキニを着たナイスバディなお姉さんとか想像してそう」
「と、とにかく行きましょうよ!!」
ゴミを見るようなジト目でリョウと虹夏に見つめられる。俺だって男子だ。そういう美しい光景に期待したっていいじゃないか。
階段を昇るとひとりはセミの墓に卒婆塔を立てていた。
「後藤さん、今から海行きましょ!!」
「ウッ...」
「でももう時期的に泳げなさそう」
「ウッ、オヨゲナイノニウミイクヒツヨウナイデスヨネ...」
「でも、海の家はまだやってるはずよ」
「し、しらす丼食べよ!!それで砂浜で海見たり...」
「ウミ...スナハマ...」
「ね、想像するだけで楽しいでしょ〜?」
「ウッ」
「後藤さん!?」
「なんでそうなるの...」
「今のでトドメを刺されたみたいだな...」
きっと夕日を眺めるラブラブなカップルでも想像したんだろうな。
「とりあえず、ひとりは俺がおぶってくから行くなら行こう。善は急げだ!!」
「よーし、じゃあいざ江ノ島にしゅっぱーつ!!」
こうして、急遽俺と結束バンドは急遽江ノ島へ思い出作りに出発したのだった。
◇
小田急線に揺られ、目的地へと移動する。下北沢から江ノ島まではだいたい1時間ぐらいかかるみたいだ。俺は席に座りながら江ノ島のおすすめ観光スポットを調べている。こういう下調べの時間も結構楽しかったりする。
ちなみに席順は江ノ島よりから喜多ちゃん、リョウ、虹夏、俺、ひとりだ。
「本島を食べ歩きしつつ江島神社をお参りするってコースとかいいんじゃない?」
「おお〜、いいねぇ」
「う、うう...」
コース案を出しているとひとりがうなされ始めた。昼間の電車でうなされる人はこの世界のどこを探してもひとりしかいないだろう。
「こんなになるってことはよっぽど学校が嫌いなんだね...」
「秀華って校則厳しいの?」
「いえ、比較的自由な校風だと思います!文化祭とかも結構盛り上がりますし!!」
「いいなぁ〜、あたし達のとこ結構厳しいし文化祭はお堅い感じの部分あるし...」
「二年からクラスごとの出し物の他に研究ポスターやらなきゃいけなくなったからな」
ポスターは各クラス班ごとに分けてやるのだが、これが本当に面倒臭い。テーマを一から考えてLHRや放課後を使って完成させなければならない。こんなことしないと受験に受からないとか言われても意味わからないんだよ。
「そういえば、下北沢高校って進学校ですよね?っていうことは三人とも結構頭いいんですね!」
「あたしと楓は普通だよ〜。まぁ、リョウはこの前の前期中間、全部赤点だったんだよね...」
「うん」
「リョウが下高にした理由は家から近いからなんだよ」
「うむ」
「じゃ、じゃあ受験とかどうしてたんですか?」
「中三の冬休み明けから俺と虹夏で基礎を叩き込んであとは一夜漬け」
「まぁ、ほとんど忘れちゃったんだけどね」
「勉強頑張るとベースの弾き方忘れる」
「っていうことはまさか、リョウ先輩はミステリアスで思慮深いわけじゃなく...」
「リョウ、1+1は?」
「カレーライス」
うむ、いつも通りでよろしい。
「喜多ちゃん、そういうことだ」
虹夏がリョウの頭を揺らすと、カラカラと音が鳴った。
「嫌ぁぁぁっ!!脳みそが小さすぎて頭の中で転がる音がする〜!!!」
「この音新曲に使えそうだな」
「お、確かにそんな感じの音してるねぇ〜」
「やめて!私のイメージを壊さないで!!」
「電車の中ではお静かに」
「今の会話も記憶から消去します!」
推しのイメージが崩壊するとこうなるんだな。彩乃とかリョウの醜態をよく見てるけどなんでああならないんだろう?
「ヴェ、じ、時空が歪む...」
「で、今ぼっちちゃんには何が見えているのか...」
「そういえば喜多ちゃん、ひとりって学校ではどんな感じなの?」
「マイスターなのに知らないの?」
「元々夏休みとか年末年始にしか会わない親戚なんだから学校でどうしてるとか知ってるわけないだろ。あとマイスター呼びやめろ」
「虐められてるとかではないんですけど、後藤さんが引っ込み思案なのもあってみんな接しづらそうというか...」
「どう扱っていいか分からないみたいな感じ?」
「そうですね、私違うクラスだからあまり干渉できないし...」
あの性格からして大方予想はついてたけど結構深刻な問題だな......。
「ぼっちちゃんが本当は面白くて凄い子だってことをみんなに分かってもらえるといいね!」
「はい、明日からはできるだけ会いに行ってみます!!」
「そうしてあげて、だってぼっちちゃんの今の夢高校中退だし」
「それ夢じゃないよな!?」
そんないつでも叶えられそうな悲しい夢を持たないでくれよ...。
『片瀬江ノ島、片瀬江ノ島、終点です。お忘れ物なさいませんよう、ご注意ください』
下北沢から1時間と少し。今日の旅の目的地である江ノ島に着いた。
「後藤さん起きて!もう着いたわよ!!」
「ううっ...はっ!!」
喜多ちゃんに体を揺すられ、ようやくひとりは目を覚ました。寝起き(?)のひとりはぼんやりと海を見つめている。
俺もひとりと同じく海を眺め、キャッキャウフフしてる水着のお姉さんを探してみ──
ちょっと待て。水着のお姉さんが全然いないやん!どうしてくれんのこれ。いるとしたらなんかウェイウェイやってる日焼けしたマッチョかサーファーしかいないんだけど。
「言ったじゃん、もう時期的に泳げなさそうって」
「こういう時の男子ってホントバカになるよね」
見たかったな、水着のお姉さん。
「そうだ、みんなで写真撮りません? せっかくここまで来た記念に!!」
「お、いいね〜」
「じゃあ俺が撮るわ」
「え、先輩も映りましょうよ」
「いや俺結束バンドのメンバーじゃないし...」
「そういうの関係ないですよ! ほら、自撮り棒あるんで早くこっち来てください!!」
ここまで言われたらしょうがないか。にしても、いくら付き合いの長い女の子三人がいても、女子4人と写真撮るのはなんか恥ずかしいな...。
「はい、チーズ!!」
喜多ちゃんが合図を出すと、シャッターが切れる音がした。撮った後でいうのもなんだけどやっぱり恥ずかしい。
「いいの撮れたね〜」
「それじゃ、今日はどんどん思い出作っていきましょ!!」
こうして、結束バンドとそのお手伝いによる江ノ島デイトリップの火蓋がいよいよ切って落とされたのだった。
「Hey!ボーイズエンドガールズ!暇ならうちの海の家で食べてきなyo〜!!」
「今ならお安くするぜェ!」
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陽キャニキ1「お、そこの七分袖のお兄ちゃんかっこいいね〜」
陽キャニキ2「女の子たちにイイトコ見せたいんだったらもっと安くしちゃうゾ〜?」
陽キャニキ3「ひと夏の思い出にどうyo!」
海の家のパリピ陽キャトリオがあらわれた!
どうする?
こうげき←
もちもの
にげる
だれがこうげきする?
かえで
りょう
にじか
ひとり←
いくよ
どのわざをつかう?
しょうにんよっきゅうビーム
つちのこへんげ
でんしおん
だいばくはつ←
ひとりのだいばくはつ!!
ひとり「アギュッッ!!」
ひとりは自爆した!!
ダメージははいっていないようだ。
どうする?
こうげき
もちもの
にげる←
楓「すいませんがまた今度で〜!!」
虹夏「あれを相手にするには分が悪すぎる〜!!」
郁代「とりあえず海から離れましょ!!」
とうそうにせいこうした!
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自爆して紙のようにペラペラになったひとりを抱えながらも、何とか海の家パリピ陽キャトリオから逃げ切ることが出来た。
「あの人たち悪い人じゃないんだろうけど、さすがに怖い...」
「にしても江ノ島本島の方は落ち着いてるね」
「そうだな。で、虹夏。次はどこへ?」
「う〜んそうだなぁ...とりあえずまずは仲見世通り行こっか!」
「その前に後藤さん元に戻しましょうよ!?」
せっかく海に来たのに眺める暇も遊ぶ暇もないまま逃げるように江ノ島本島へとやってきた俺たちは、仲見世通りへと足を踏み入れるのであった。
中編へ続く。
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第二回 誰にご飯を作りたい?
-
喜多ちゃん
-
PAさん
-
大槻ヨヨコ
-
虹夏ちゃん
-
志麻さん
-
イライザさん
-
園田智代子
-
好きな総菜発表ドラゴン
-
重音テト
-
あり