幼馴染の変人ベーシストの料理番になった件について。 作:かんかんさば
リョウと展望台から降りて他のメンバーと合流し、そこで一休みすることになった。
さっきハイテンションで写真を撮ったところの売店でソフトクリームを買って、パラソル付きのベンチに腰をかけた。
リョウと喜多ちゃんがミルクとりんごのミックス味、ひとりと虹夏がミルク味、俺はラムネ味のものを買った。このラムネ味のソフトクリーム、ラムネの粒が入っていてそれがいいアクセントになっていてとても美味しい。
「そういえばリョウさっき塩ソフト食べてなかった?」
「アイスは無限に食べられる」
リョウが食べているミルクとりんごのミックスは売店のソフトクリームの中でもいちばん高いものだ。
こいつ、俺のお金で何かしら頼む時毎回躊躇わずに高いものを頼むんだよな……。
「あとは何します?」
「もう結構遊んだんだけどねぇ〜」
「そうですか? まだもうひとイベントぐらいあってもいいと思うんですけど?」
もうお腹いっぱいです。
東浜行ってたこせん食べてエスカー乗って展望台乗ってアイス食べる。
もう十分だと思うんですがそれは……。
「うーん……じゃあしらす丼! しらす丼食べたい! 有名だし食べてみたかったんだよね!」
しらす丼。食べるだけだし体力もそこまで使わなさそうだからリョウもひとりも行けるな。
「無理。もうお腹いっぱい」
「ほんとに自由だなおい」
前言撤回。しらす丼は無理っぽいかもなこれ。
「こ、この音……なんですか?」
ひとりの言葉で気づきげ耳をすませると、ピーヒョロローと鳴き声が聞こえた。
「あれか、トンビだよ」
空を見上げると、トンビは辺りを旋回するように飛んでいた。
トンビ。別名トビともいうこの鳥はユーラシア大陸からアフリカ大陸、オーストラリアにかけて広く分布している猛禽類の一種だ。山地から海辺、農地、都市部など至る所に生息していて、漁港の周辺には特に生息数が多いらしい。
ここ江ノ島では観光客が人馴れしたトンビに食べ物を盗られる被害が多発していて、ここに来るまで何度も注意喚起の看板を目にしてきた。
「一応、盗られないように気をつけて食べn……」
「うわっ!?」
ひとりに注意を促した瞬間、その隙をついてトンビはひとりのアイスを奪い去っていった。
「言ったそばから!? ぼっちちゃん大丈夫?」
「私の食べる? まだ一口しか食べてないから……」
虹夏と喜多ちゃんの声かけも耳に入ってなさそうなくらい放心状態のひとり。
幸い怪我はなさそうだけど、なんだか可哀想だな。
「俺がもう一個買ってくるから少し待ってろ」
ひとりの分のアイスを買いに立ち上がろうとすると、さっきの鳴き声が今度は複数、頭上から聞こえた。
見上げてみると七、八羽ぐらいのトンビが俺たちの頭上を旋回していた。
まさか、今度は俺たち全員のソフトクリームを狙うつもりか?
「たぶん俺たち狙われてるかもだから一旦散った方がいいかm……」
危険を回避すべく指示を出そうとしたその瞬間。
トンビの群れはひとりに飛びかかってきた。
「ぼっちちゃんが獲物にされてるー!?」
トンビから見てそんなにひとりって弱く見えるのか?
「鳥にまで舐められてる」
「そんな事言ってる場合じゃないですよ! な、なんとかしないと……」
「虹夏、このアイス持ってて」
「え、あ、うん、って楓!?」
ひとりをトンビの群れから救い出さなければ……!
近くに落ちてたいい感じの木の棒を手に持って俺はトンビの群れへと立ち向かった。
「はああああっっっ!!!」
トンビの群れに一太刀ずつお見舞いしていき、トンビの群れを撃退することに成功した……
「ヤムチャしやがって」
しかし、俺が駆けつけるまでのダメージが相当だったのかひとりはヤムチャの如く倒れてしまっていた。
「ちくしょう、もう少し早く動けてれば」
「楓、上見て!!」
「え?」
おい、嘘だろ。また戻ってきたんだけど、トンビの群れ。
撃退したと思っていたトンビの群れは再びひとりを襲撃しようとしていた。
「二度もさせるかぁぁ!!!」
トンビの群れをひとりの元へと行かせないように木の棒をじっくり構えた。
「ぐっ……」
さすがは自然界の猛者である猛禽類、スピードも桁違いだ。
攻撃を全て捌き切れる気がしない…… でも!
「うおおおおおおおお!!!」
こうして数十秒間、俺はひとりを庇うようにトンビたちと激闘をくりひろげた。
「なんだよ、結構当たんじゃねぇか……」
「なんか団長さんみたいになってない?」
「せ、先輩! 大丈夫ですか?」
「こん位なんてこたぁねぇ……」
「全然大丈夫じゃなさそうだけど!?」
「いいから行くぞ……! しらす丼が……待ってんだ……」
なんかそれっぽい頭の中で音楽流れてきたな……。
これまでみんなと歩いてきた道は無駄じゃなかった。そしてその道は止まらない限り、これからもずっと続いていく……!
『お前まだ恋人できてないじゃん』
うるせぇ。
「楓!?」
「楓先輩!?」
力が抜けていく……もう立てないや。
「だからよ……止まるんじゃねぇぞ………」
「楓……」
あとは頼んだぞ、結束バンドのみんな……!
「見てて情けないから早くたちなよ。立てるでしょ?」
「はい、すみません」
身体中めちゃくちゃ痛いんだけど。
「ひとイベントあった。次行こう」
「こんなイベント望んでないですけど!?」
ひとりに本日二回目の蘇生を施し、次はどこへ行こうかと考えるうちに日が傾いてきてしまった。
「さすがにもうしらす丼やってなさそうだしどうする?」
「じゃあ最後に神社にお参りして帰りませんか?」
「お、いいね〜! じゃあ最後にお参りして帰ろっか!」
サムエル・コッキング苑から坂道を下っていく。エスカーは上り専用のため、必然的に徒歩になるがずっと下りのためそこまで負担はかからない。
15分ほど歩いてたどり着いたのは江島神社辺津宮。ここには妙音弁財天という音楽、芸能の神様が祀られている。
「みんなで行くなら絶対ここ行っておきたかったんです!」
「へ〜、音楽と芸能の神様か…… じゃあ、あたし達のバンドの活躍をお願いしなきゃね!」
各々財布から五円玉を取り出して参拝する。
リョウもさすがに自前の五円玉はあったみたいで、賽銭箱にそれを投げ入れていた。
どうか結束バンドが困難や試練に負けることなく、前へ前へと進んで行けますように。そしてリョウと虹夏の夢が叶いますように。
願い終わって目を開き、ひとりの方へと目線をやる。
なんか一生懸命願ってるな……。それほど結束バンドにかける思いが強いのか。感心感心。
「ぼっちちゃん、なんか凄く真剣にお願いしてたね」
「長かった」
「えっ……そ、そうですか……?わ、わからなかったな〜、ははは」
ちゃんと結束バンドのことについて願ってたんでしょ。
いや、以外と別の事を祈ってたりして……
お参りを終え、階段を降りようとするとお守りの看板が目に付いた。
ここは音楽と芸能の神様が祀られている神社なんだ。そういったご利益があるお守りも売ってるかもしれない。だったらここはお守り買ってそれをプレゼントしようかな。
「ごめん、ちょっとまってて」
「え、どうしたの?」
「忘れ物したから取ってくる」
「も〜、しっかりしなよ」
「ごめんごめん、とりあえず下の鳥居で待ってて」
とりあえずそれっぽい嘘をついて江島神社の社務所へと戻る。
お守りを4つ取って巫女さんに渡す。
「すみません、この芸能上達守を4つください」
「はい、かしこまりました〜。3200円になります」
わーお、巫女さんめちゃくちゃ可愛いんだけど。見とれちゃいそうだな。
って、人待たせてるんだからシャキッとしなきなゃ。
3200円ちょうど支払うと、巫女さんはお守りを紙袋に丁寧に包んだ。
「お納めください」
「ありがとうございます!」
4人分のお守りが入った紙袋を持って階段をおり、みんなの元へと向かう。
「お待たせしました」
「忘れ物みつかったの?」
「まぁな。はい、これお守り」
紙袋からお守りを取り出し、4人それぞれに渡す。
「おお〜、いいんですかこれ?」
「ああ、今後の活躍に期待して、俺からのプレゼントだ」
お守りを渡すとみんなとても嬉しそうな顔をしていた。
改めて結束バンドが困難や試練を乗り越え、前へと進んでいけますように。そう願った。
◇
最後に片瀬江ノ島駅で写真をとり、帰り電車に乗り込んだ。
端からリョウ、俺、虹夏、ひとり、喜多ちゃんの順に席に座り込んだ。
リョウは相当疲れていたからか、座るやいなや直ぐにウトウトし始めていた。
「ここから下北まで1時間ぐらいだっけ?」
「乗り換え込みでそんくらいだな。この電車藤沢までしか行かないからそこで新宿行きに乗り換えよう」
「あ、後藤さんは藤沢で東海道線に乗り換えね」
「あっはい」
最後まで念入りにケアしてくれる喜多ちゃん優しいな。ポケット喜多ちゃんナビとか作ったら売れそうだな。目的地が勝手に渋谷とか原宿にされそうな気がするけど。
「なんか先輩少し疲れ気味ですね」
「まぁな。体力には少し自信あるけどさすがにね……」
剣道以外でこんなに疲れたの久しぶりだな……
「下北着いたら起こして……」
「あたしも……」
「藤沢で乗り換えるんだからそこまで我慢しろ」
藤沢まであと二駅だというのにリョウと虹夏は寝てしまった。
この調子じゃ起きそうにないから藤沢着いたら乗り継ぎの電車まで運ぶか。
「あ〜あ、本当は鎌倉も観光したかったし、みんなで晩御飯したかったんだけどな……」
「まぁ、明日学校だしまた今度ってことで」
「しらすどぉん……」
虹夏から寝言が聞こえた。
そういえばトンビのあれでしらす丼を食べる計画はおじゃんになっちゃったな……。
「よっぽど食べたかったみたいですねぇ……」
今度作ってあげようかな。
日頃世話になってるお礼とか近頃流行りの友達税ってやつの納付も兼ねて。
考えてるうちに両肩にストンと青い頭と黄色い頭が収まった。
ちょっと恥ずかしいな……。
ってこれやばいな、これこそ学校の人に見られたら殺○予告の嵐だろ。
ま、その時はそのときでなんとかなるか。
「そうだ、冬休みは全部結束バンドのみんなだけで遊びましょう! 後藤さんどこ行きたいっ? 毎日たくさん思い出作りましょうね!!」
「えっあっえっえっ……!?」
結束バンドだけってことは俺は対象外。
まぁいいでしょう。俺はこのバンドのお手伝いであってメンバーでは無いんだから。
「もちろん先輩も一緒ですよ!」
うん、知ってた。言うと思ったよ。
てかよくメンバーでもない俺を結束バンドの輪に入れようと思うよな。
「そう、まぁ、考えとくわ」
「考えておきます……」
「やったぁ!」
すごい嬉しそうだけどさ、さすがに毎日は無理があるよ。
でもひとりのためを思ってるのであればいいことなんだよなぁ……
「あ、あの……喜多さん」
「ん?」
ひとりが珍しく自分から話しかけに行った。
「今日は、みんなと遊べて……その……楽しかった、です。明日からまた……頑張れそうです……多分」
多分って、ひとりらしいな。
「……本当!? よかった〜。新学期も一緒に楽しみましょうね!」
「はい……!」
なんか今更かもしれないけど、ひとりがこうして同い年の子と面と向かって話せてるの見ると成長を感じるな……。
「あ、そういえば先輩」
「ん、どうした?」
「なんで先輩は結束バンドに入らなかったんですか?」
「あっ、確かにそれは思ったかも……」
入らなかった理由か、そりゃ気になるか。
「入らなかった理由ね〜」
自分が結束バンドに相応しいギタリスト、ボーカルじゃないってのが一番の理由だけどそんなこと言ったら今この瞬間の楽しいが台無しになってしまうな。
「たぶん俺はサポート向きなんじゃないかなって、そう思ったんだよ」
「そうですか? 4月の路上ライブのときなんかすごい楽しそうに弾いてましたけど……」
「あれも今考えればリョウと虹夏のお手伝いみたいなもんだったしねぇ。まぁ、これ以上話すとシラケるからこの話はここでおしまい」
「そ、そうですね…… とりあえずこれからもお手伝いよろしくお願いしますね! 先輩!」
「ああ、こちらこそよろしく頼むよ。あ、そうだ二人とも」
「あっ、はい」
「どうしました?」
「バンド活動は楽しい?」
「はい! もちろんとっても楽しいです!!」
「うん……私も……」
「そうか、うん、それが一番いいよ。何事も楽しくやれた方が一番いいんだから」
ひとりと喜多ちゃんはバンド活動を楽しんでいるのか……。いいことだ。楽しさは物事に熱中する上で1番大切な物だからな。
やっぱり俺は結束バンドとはなんか違うな。
俺は楽しいって思ってやってた剣道を自分から辞めちゃったからかな。
自分から楽しいを手放した人間が、楽しく活動をしているバンドのメンバーにいちゃいけないんだ。
だから俺はメンバーではなくお手伝いとして結束バンドを支えていってるんだ。
って湿気たこと考えてちゃしょうがないか。
「あ、次が藤沢みたいですね」
「そうだな……。 さてと、2人を起こさないよう慎重に運ばないと。 喜多ちゃん、ひとり、運ぶの手伝ってくれ」
「あっ、うん……」
「わかりました!」
藤沢に着くと、喜多ちゃんとひとりと一緒にリョウと虹夏を乗り継ぎの急行電車に乗せた。
「じゃあ後藤さん、また明日ね」
「うん、ひとり、また明日」
「……っ! はい! また明日……!」
嬉しそうに歩いていくひとりを見送り、俺と喜多ちゃんは乗り継ぎの急行電車に乗り込んだ。
夏休み最終日に出来た素晴らしい思い出を写真と共に振り返っていると、まるで夏休みにさよならを告げるようにゆっくりと急行電車は走り出した。
次回、「新学期」
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第二回 誰にご飯を作りたい?
-
喜多ちゃん
-
PAさん
-
大槻ヨヨコ
-
虹夏ちゃん
-
志麻さん
-
イライザさん
-
園田智代子
-
好きな総菜発表ドラゴン
-
重音テト
-
あり