幼馴染の変人ベーシストの料理番になった件について。 作:かんかんさば
『外に出なさい!』
大槻からのロインを受け俺はフロアを出て地下二階から地上に上がる階段を登る。
晩夏の少し涼しい風が吹き下ろしてくる中階段を登っていく。地下一階と地上の間の踊り場まで登るとそこには先程よりもいっそう強く睨んでくる大槻がいた。
「ねぇ、下村」
「あっはい……」
やばい、いつにも増して威圧感というかオーラがすごい……!
「あんた、まさかとは思うけど──」
なんだこれ、まるで俺が今から大槻に説教されるみたいな雰囲気じゃん……
「──姉さんだけじゃなくてあの4人組まで誑かしてるんじゃないでしょうね!?」
……は?誑かしてる?いやいや、どういうことだよ。
てかきくりさんを誑かした覚えなんてないんだが!?
大槻の質問の内容に俺は困惑する。頑張って答えを練っても威圧感に負けて口があかない。
「なんとか言ったらどうなのよこの女誑し!」
うわ怖!なんか拳握りしめてるんですけど!?
まずい、早く回答しないと下北沢製サンドバッグになってしまう……
って、俺はあの店長の圧迫面接を乗り切った男なんだ。大槻ごときにビビってられるかよ。
息を整えて答えをまとめて口にしてみる。
「あいつらは俺が手伝ってるバンドの人たち──」
「え?た、確かこの前バンドの手伝いをし始めたって言ってたわね……」
「──ってのは嘘であいつらは俺が侍らせてる取り巻きだ」
「やっぱ誑かしてるじゃない!」
「なに冗談真に受けてんだよ。普通に俺が手伝ってるバンドの人たちだよ」
「どっちなのよ!?」
大槻は簡単に冗談に引っかかる。
俺は毎回会う度にわかりやすい嘘をついて、こうやってリアクションを確かめてる。これが楽しくてやめられないんだ。
もちろん、常識の範囲内で楽しんでいるからそこは誤解しないで欲しい。
「本当にその、手伝ってるバンドの人たちなんでしょうね?」
「そうだよ」
「あっそ。じゃあなんであんたは今日ここに来たの?」
「きくりさんがバンドのみんなを今日のワンマンに招待したんだよ。俺はそれの付き添いで来た」
「ふーん……」
そう言うと大槻は納得しつつも気に召さないようなふくれっ面を見せた。
そんなに自分以外がきくりさんに気に入られるのが気に食わないのか?
「あれ?もしかして今日姐さんが連れてきたバンドって結束バンドって名前?」
「そうだけど……え、何、知ってんの?」
「ええ、姐さんが最近のお気に入りって言ってたからね。イソスタ見たけどバンドに関係ないチャラチャラした投稿ばっかりで気に食わなかったわ」
結束バンドバカにすんなこの野郎、と思いながらもスマホを開き結束バンドのイソスタを見てみる。
そういえばイソスタアカウントの管理って喜多ちゃんだったような……
投稿一覧を見ると──
『今日も練習!新曲難しいけど頑張ってます!』
『オーディション合格!スタバの新作で乾杯っ♪』
『初ライブの打ち上げ超楽しかった!』
確かにバンドのインスタっぽくはあるのだが、所々バンドに関係なさそうなタグを付けている。
まぁでも結束バンドらしいし、そうバカにしないでくださいな、大槻さん。
『今回私がおすすめする化粧水はこちら!』
前言撤回。
おい喜多。何バンドのインスタ乱用してんだよ。
そして大槻さん、ごもっともなご指摘ありがとうございます。
「確かになんか……アレだな……」
「そうよね!?でもこんなチャラついてるのに曲はひねくれてるとか……訳わかんないわ!」
「まぁそのギャップが結束バンドの魅力なんだよな」
「へぇ……ずいぶんと好きなのね」
「そりゃな。そうだ、今度ライブ見に来たら?」
「へ?」
とりあえず大槻を結束バンドのライブに誘ってみる。
百聞は一見にしかずとよく言うし、多分大槻にとってもあいつらにとってもいい経験になりそうだし。
「ま、まぁ……姐さんが気に入ってるバンドだし?敵情視察ってことで見に行ってあげてもいいわよ?」
「おっけ。見に来るってことで日にち分かったら連絡するわ」
「ええ、わかったわ」
大槻としばらく話すうちに人が増えてきたのでフォルトの中の空きスペースに場所を移した。
ここで話すのであればあいつらの元に戻るのもスムーズだろう。
「そういえば今日本城さん達は?」
「楓子は今日スイパラ行ってて、あくびはゲーム買いに行ってて、幽々は家の手伝いで来てないわ。せっかく誘ったのに……」
「ありゃま」
まさかのSIDEROSメンバー誘って全員断られたのかよ。まぁ、どんまいってとこだな。
ちなみに、今俺が言った本城さんという人と大槻が言ったあくびと幽々という人はSIDEROSのメンバーのこと。
ギターの本城楓子にドラムの長谷川あくび、ベースの内田幽々。そしてギターボーカルの大槻でSIDEROSは構成されている。
結成自体は3年前だが今のメンバーになったのは春頃になってから。大槻と反りがあわずにメンバーが入ったり抜けたりを繰り返し、今に至るというわけだ。俺も3月の終わりにオーディションを受けたのだが──
「不合格」
「え」
「不合格って言ってるでしょ!?」
不合格となってしまった。まぁ、結束バンドの勧誘も有耶無耶にするくらいバンドでやっていく自信がなかったからしょうがないのだが。
あとから聞いた話なのだが、本城さんと俺とでかなり迷ったらしく、考えに考え抜いた結果本城さんがメンバーとして入った。
じゃあなんでオーディション落としてきたやつと仲良くしてるんだよってなるのだが──
「ま、まぁでも?その……友達になら……なってあげてもいいわよ……?」
「お、おう……よ、よろしく……」
と、典型的なツンデレの言い回しで友達認定され、今では友人として交流している。
実は俺にはほとんど接点のない状態からできた友達はそうそういないから意外と嬉しかったりもする。
「にしても相変わらずすごい客の数だな」
中に戻って程なくして会場にたくさんの観客が入ってきて、すぐに満杯になった。
ここのキャパは確か500人。それを一瞬で埋めるとは、やっぱすごいなきくりさんは。
「当たり前じゃない!」
いつも通り誇らしげにドヤる大槻を見てると虹夏から「どこにいるの?もう始まるよ?」とロインが来ていた。
時間を見ると18時27分を回っていた。あと3分で始まってしまう。
俺は急いで辺りを見渡す。人混みの中を見つけ出すのは困難──
「あ、居た!楓〜!」
──と、思っていたら向こうが気づいてくれたみたいだ。
手を振る虹夏を目印にしている結束バンドはステージから見て右側の壁のベンチに居た。
「じゃあな大槻。また今度」
「え、あ、ま、また今度……」
そう言って俺は大槻の元を後にし、結束バンドの所へと向かった。
人混みを掻き分けて進むのは大変だが、なんとか合流することが出来た。
「わりぃわりぃ。遅くなった」
「あ〜いいよいいよ〜。はいこれドリンク。そういえば一緒にいた娘って誰?」
「へ?」
「あのツインテールの娘だよ。何、もしかして彼女〜?楓も隅に置けないなぁ〜」
そう言って虹夏はニヤつきながらドリンクを渡し、俺に尋ねてきた。喜多ちゃんも目を輝かせ、いつもの陽のオーラを放出ながらを見つめてくる。リョウはなにか不安そうになにか考え込んでそうな顔をして見つめてくる。
大槻、見た目はあれだけど中身はちゃんとしてるんだよなぁ……。
ともかく大槻はただの友人だってことを伝えなくては……!
「あ〜、あいつか。あいつは友達だよ。ここに遊びに行く時とかによく話してるやつだよ」
「なんだ友達か〜」
質問に答えると虹夏は納得(?)しつつもニヤついた顔を止めなかった。喜多ちゃんもより一層目を輝かせた。
リョウは黒いオーラを放出しながらなにか不機嫌そうな顔をしてこちらを見つめてきた。
俺の交友関係ってそんな面白かったり反感を買うようなものなのだろうか。そう考えていると照明が消え、暗転した。
そしてステージの幕がゆっくりと上がり始め、色とりどりの光と音が一斉に溢れ出し、それと共に大きな歓声が上がる。
独特なイントロが流れ出すとより一層熱気が溢れてくる。
「な、なんですかこれって……」
「あ〜これ、サイケってジャンルの曲だよ」
「1960年代に流行したジャンルでドラッグによる幻覚作用を音楽として体現したもの……とにかく音を聞け音を。そして楽しめ……!」
喜多ちゃんの質問に対して軽く答えた虹夏に続き、上機嫌にサイケの解説をするリョウ。
よかった、機嫌直って。
サイケデリックロックはリョウの言う通り、ドラッグによる幻覚作用を音楽として体現している。SICK HACKの曲は基本的にサイケに割り振られる曲が多い。
「間違い探しの夜更かし あら楽しい 迷い子が手招く 夢の国へ」
きくりさんが歌い出すと熱気と完成は一瞬にして静まり返った。いや、静まり返ったと言うよりはサイケデリックロックが生み出す狂気に包まれた、とでも言っておこうか。
変拍子を完璧に叩くドラムに感情的なソレでいてかつロジカルなギター。そして会場をあっという間に飲み込んでしまう狂気的でカリスマななベースボーカル。
なんだろう、この感覚は。2月に初めて聞いた時はこんな感じはしなかったのに。
自分の中の
次回、「アフターダーク」
ちなみにアニメ一期範囲は残り10話(予定)です。
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☆9、☆10くれ~!!応援メッセージはもっとくれ~!!
第二回 誰にご飯を作りたい?
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喜多ちゃん
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PAさん
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大槻ヨヨコ
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虹夏ちゃん
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志麻さん
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イライザさん
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園田智代子
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好きな総菜発表ドラゴン
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重音テト
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あり