幼馴染の変人ベーシストの料理番になった件について。 作:かんかんさば
今回は場面転換に時計を使い、アスタリスクは視点転換に使ってみました。
外はしとしとと雨が降っている6月の朝。
俺は眠い目をこすりながら朝食の食パンを食べている。
『連日の雨が続くなか、気象庁は昨日、関東地方の梅雨明けは7月中旬ごろになる見通しと発表しました。』
ニュースキャスターの発言に対し、「そんなのどうでもいいからとっとと明けてくれっつーの」俺はあくびをしながらボヤく。
俺はジメジメしてる梅雨があまり好きじゃないんだ。
今日は金曜日。本来なら明日から週末なのでとてもハッピーな気分になるものだが、雨のジメジメとした感じがそれを邪魔して憂鬱な気分にさせる。
こんな日に限って晩飯のアイデアが浮かばないのは困ったものだ。なんか梅雨どきに食べると美味しいものがパーッと浮かばないだろうか。
「パーッと...パー...あ、パエリアがあんじゃん」
わりとしょうもない理由で浮かんできたのはなんだか悔しいが、今日の晩飯のアイデアが朝のうち浮かんだのは吉としよう。
そう自分に言い聞かせ、俺は家を出て学校へと向かった。
〜〜⏰〜〜
6限が終わり、リュックに荷物をまとめているとリョウが教室にやって来た。
「今日の夜ご飯何?」
「あー、今日はパエリアにするつもり」
「へぇ……待ってるから早くして」
聞いてくる度に興味無さそうな返事をするのはなんなんだろうか。
「虹夏、俺は準備できたけどそっちは?」
「こっちもOK!いつでもいけるよ」
荷物をまとめ終わり、教室を出る前に虹夏に確認する。
4月から俺はほぼ毎日リョウに晩飯を作っているが、今日はいつもと違う。
今日はいつものリョウに加え、虹夏もご飯を食べにくるのだ。どうしてそれに至ったかは昼休みまで遡る。
「楓、卵焼きちょうだい」
「いや、さっき買ってやった焼きそばパンとかサンドイッチはどうした?」
「美味しくいただきました」
「ほんと食うの早いな。って勝手に卵焼きとんなよ!」
「こらリョウ! もう……ほら、ハムカツあげるから」
「かたじけない」
人の弁当まで勝手に食うとはどういう思考をしてんだよ。
「そういえば普段楓ってどんな料理作ってるの?」
「普通の料理だよ。カレーとか麻婆豆腐とか」
「へぇ〜。そうだ!今日ご飯食べに行っていい?」
「ふぇ?」
「いや〜、なんか気になっちゃってさ〜。お願いっ!」
手を合わせる虹夏。
虹夏も来ると家がさらに賑やかになると思い、俺は快く受け入れた。
「帰りに買い出ししにスーパー寄るけどそれでもいいならいいよ」
「やった〜!じゃあ決まりね!」
「ちょっと待って」
「ん?」
「虹夏、楓に騙されてはいけないよ。楓はどれくらいなら毒を盛ったことがバレずに相手を麻痺させるか私を実験台にして確かめてる」
「え?楓...まさかリョウにそんなこと...」
「真に受けないで?毒とか盛ってないからな!?」
急にとんでもない嘘を吐くよなこいつ。
こうして今日はリョウと虹夏に料理を作ることになった。
〜〜⏰〜〜
学校を出て十数分、俺と虹夏、リョウの3人は近くのスーパーへと向かった。
今日はパエリアを作るため、その材料と土日で使うお米やジュースを買う。
といってもそう簡単にことは上手く進まないものだ。
「楓、これ買って」
「それね○ね○ねるねじゃん。買わないぞ?」
「買って。虹夏も楓になんか言ってよ」
「ダメだよ?ご飯の材料買いに来てるんだし我慢しなよ」
「虹夏でもダメなら...」
そう言ってリョウはこの前の半泣き膨れっ面で俺を見る。
「俺はその作戦に2度も引っかかるような馬鹿じゃないんだ。我慢しろ」
「楓のケチ、バカ、クソダサ天パ」
「言ってろ、金欠青ナスクソベーシスト」
「私を照れさせて油断させる作戦は通じないよ?」
「あ?」
「2人とも喧嘩しないの!」
虹夏の仲裁が入り、なんとか苛立ちは沈まった。
この前の半泣き膨れっ面作戦を教訓にした甲斐があったようだ。
「結構材料多いし材料ごとに分担していこう。とりあえず虹夏は海老と砂抜きアサリとパプリカを、リョウはトマト缶と料理用のワインとターメリックを持ってきて」
「OK!」
「分かった」
普段1人で買い物に行っているため、こうして2人に手伝ってもらうと何かと助かる。
俺はカートの下の方に米を乗せ、鶏肉、コンソメの素を入れ2人をレジの近くで待つ。
「これで大丈夫?」
「砂抜きアサリと海老にパプリカ。OK、ありがとね」
「楓、持ってきたよ」
「お、ありがと」
虹夏とリョウが残りの材料を持ってきてくれた。
リョウが余計なものを入れずにちゃんと持ってきたことに驚いたが、持ってきてくれたことに感謝してレジへと向かい、お会計を済ませた。
「楓、レシート見せて」
「はい。にしてもなんでレシートを見る必要なんかが」
「ほら、これ。ね○ね○ねるね」
「ね○ね○ねるね……おい、リョウ」
「バレたか。せっかくトマト缶で隠して入れたのに」
さっきの関心を返してくれよ。
〜〜⏰〜〜
「おじゃましま〜す」
「おじゃまします」
スーパーで買い物を終えて、家に二人をあげる。
ダイニングテーブルに荷物をおろして海老やアサリを冷蔵庫へとしまった。
2人はアマ○ラを起動してアニメを漁っていて、虹夏がなにかおすすめのアニメはないかと聞いてきた。
「う〜ん、おすすめねぇ〜」
「全然、何でも大丈夫だよ」
「じゃあ、魔○の旅々とかは?結構面白いと思うよ」
おすすめしたアニメを見つけると2人は早速アニメを見始めた。
俺はそれを見ながらパエリアを作り始める。
ニンニクと玉ねぎをみじん切りに、パプリカを短冊切りにし、鶏肉は食べやすい大きさにカットして塩胡椒で下味をつけて鍋に入れる。
スープの材料を混ぜていると虹夏がキッチンにやってきた。
「なんか手伝わせてよ。作ってもらうのも申し訳ないしさ」
「いいよいいよ。まだアニメ見てる途中だろ?」
「手伝いたくってうずうずしてきちゃったんだよ。だからお願い!」
「じゃあフライパンにオリーブオイルを引いてニンニクを入れてくれ」
「よし、任された!」
虹夏の手伝いもあり、パエリア作りはスムーズに進んでいく。慣れた手つきで鶏肉とパプリカを入れていく虹夏の姿はまさに主婦そのもの。
さすがは毎日星歌さんにご飯を作ってるだけあって手際がいい。
「にしても楓、だいぶ手際よくなったよね〜」
「虹夏にはまだまだ敵わないよ」
「だって春休みの頃とか野菜炒め作るのに1時間半かかってたじゃん」
「いやあれまだ自分で料理始めて2日か3日だった頃だぞ?さすがに成長してるよ」
確かに春休みの頃は手際は最悪、作った料理の味はほぼしない。というキングオブ料理下手クソボーイだった。しかし今は自慢では無いがリョウがほぼ毎日食べにきて「おいしい」と言わせるくらいには上達した自信がある。
そこからお米を透き通るまで炒め、スープとトマト缶を全体に馴染ませた後、虹夏が炒めてくれた鶏肉とアサリ、海老を入れて強火で沸騰するまで煮て、沸騰したら弱火で14、5分加熱したあと、パプリカを入れておこげができるまで熱したらパエリアの完成。
パエリアを3人分、それぞれの皿によそってダイニングテーブルに並べる。
「「「いただきます」」」
梅雨どきでバテかけてる体にトマトが染みる。そして魚介類がいい感じに味を引き立てていて我ながらいい晩御飯を思いついたものだと思う。
「美味しい!楓大分料理上手くなったね〜」
「それほどでもないけど美味しいと言って貰えるのは嬉しいよ」
「おいしい。さすが私の料理番、褒めて遣わす」
食が進んでいくにつれ話にも花が咲いていく、バイトの話や普段のクラスの話、幼馴染だからというのもあるかもしれないが、やはり3人で話すのは楽しい。
「そういえば最近バンド...はむきたす?のほうはどうなんだ?」
「確かに。はむきたすどういう曲とかやってるの?」
虹夏が問うと、しばらくの間ダイニングテーブルに沈黙が走る。
「……最近は売れ線のアーティストの曲をオマージュしたような歌詞が入ってる曲とかそんなの」
回答に少し間があったし、それになんか暗い顔をしてる……。
「……これチケット。今度対バンやるから見に来て」
リョウから対バンライブのチケットを渡された。
俺は渡す時の暗い表情に違和感と疑問を抱き、それらは2人が帰ったあとも消えることは無かった。
普段からリョウは何を考えているか分かりにくい奴だ。今日のね○ね○ねるねのときやこの前のハー○ンダッツの時のように、顔の表情と考えてることが全く違うなんてことはよくある話だ。
だからこそ気づかなかった。いや、気づけなかったのかもしれない。
この時、彼女が好きなロックを投げ出したくなるほど心が壊れかかっていたことに。
* * * * *
今日は楓の家に虹夏とパエリアを食べに行った。
学校帰りにスーパーに寄り道して、最初は買わないと言っていたね○ね○ねるねをカゴに忍ばせて、会計の後に買わされていたことに気づいた楓の顔はとても面白かった。
スーパーから帰り、楓の家に入って私と虹夏はテレビでアニメを観る。アニメを見ている時、時折キッチンから漂うパエリアを作るいい匂いは私の食欲をそそった。
4月に楓が私の料理番になってからいろんな料理を作ってくれた。楓の作る料理は虹夏の作る料理といい勝負をするくらいにどれも美味しいし、もちろん今日作ってくれたパエリアも本当に美味しかった。
「美味しい!楓大分料理上手くなったね〜!」
「それほどでもないけど美味しいと言って貰えるのは嬉しいよ」
「おいしい。さすが私の料理番、褒めて遣わす」
3人で話をするこの時間が私は好きだ。
普段の嫌なことも虹夏や楓と話していると忘れられる。きっと2人もそう思っているだろう。
「そういえば最近バンド...はむきたす?のほうはどうなんだ?」
「確かに。はむきたすどういう曲とかやってるの?」
2人が言っているはむきたすというのは私が今所属しているバンド『ざ・はむきたす』のこと。
虹夏と楓はバンド活動をしていないから普段私がバンドでどんな曲をやっているかを知らないし気になるのも無理は無い。
「……最近は売れ線のアーティストの曲をオマージュしたような歌詞が入ってる曲とかそんなの」
どう返していいか分からず、しばらく考えてから虹夏の質問に答えを返す。
「……これライブのチケット。今度対バンやるから見に来て」
今度やる対バンライブに二人を誘ってみた。
でも、正直バンドのことは聞かないで欲しかった。
最近バンドメンバーは売れ線の曲ばかりを意識していて、私はそれが嫌になってきた。
でもバンド活動をすることは私の生きがいだし両親の過干渉を止めるのにも十分役立っている。
それに虹夏と楓に心配をかけさせたくない。だから私はどうしていいか分からなかった。親に相談するのは論外として、虹夏と楓には相談してもいいかもしれない。だけど私の良心がそれを許さない。だから私はこの葛藤に一人で立ち向かおうと楓の家から私の家へと向かう帰り道でそう決めた。
でも、その時にはもう─
私の心は私が思っている以上に悲鳴をあげて、壊れかかっていた。
もしかしたら次回は前編後編の2回に分かれるかもしれません。
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タイトル変更は
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