幼馴染の変人ベーシストの料理番になった件について。 作:かんかんさば
「二年二組『幽霊病棟』!最後尾はこちらになりまぁ〜す!!」
ひとりと合流し、最初にやってきたのはお化け屋敷。
お化け屋敷は文化祭の定番だ。ちなみに山梨県の某ハイランドに同じようなものがあったなと思ったのは内緒だ。
「ここ結構評判いいみたいなんですよね〜」
「へ〜」
「なんか文化祭とは思えないくらいスリル満点らしくて!」
「じゃあ楓にはちょっとキツイんじゃない?」
「んな、んなもん余裕だわ!」
虹夏のおちょくりに勢いよく反応……してみたのはいいものの、はっきり言ってお化け屋敷は苦手だ。真夏によくやってるホラー番組や映画は全然平気なのだが、お化け屋敷は怖い感覚が直接来るあのリアルさが苦手なのだ。
とはいえ、俺も今月で17歳になる。それに今日は従妹と後輩もいるんだ。こんな文化祭の出し物ごときにビビってたらかっこ悪いじゃないか。もう子供じゃないんだし。
しばらく並び続けると、順番が回ってきた。
係員の人の指示に従い俺たちは二人グループと三人グループに分かれた。二人グループは虹夏と喜多ちゃんで、三人グループは俺とリョウとひとりだ。
虹夏たちは先に案内されていった。できれば俺たちが先に入って後から震える二人を待ち構えてみたかったのだが、しょうがない。
「楓、本当に大丈夫なの?」
「何言ってんだよ。こんなのでビビるほど子供じゃ「きゃぁぁぁぁぁ!!!」おわっ!?」
「あっ、むっ、無理して入る必要ないと思うよ……」
「だ、だから大丈夫だって」
正直めちゃくちゃ怖いです。いや、さっきの虹夏と喜多ちゃんの悲鳴からして相当ヤバいやつじゃん。
「お待たせしました〜!それでは、行ってらっしゃ〜い!!」
だからここでビビってどうすんのっての。案内されたし行くしかないだろ。
下村楓、行きまーす!!
血まみれのナースに案内され、中に入る。
中は黒いカーテンや布で覆われ、目をよく凝らさないと前が見えないほど暗い。とても文化祭の出し物とは思えないくらい素晴らしい内装だ。
うん、全然。暗闇の中に注射器や血のついたメスが転がってるけど全然怖くない。
「うううっっ……」
「わっ」
「おー」
「……」
仕掛けもそこまで怖くないな。いくらクオリティが高くて評判のいいお化け屋敷でも所詮は高校の文化祭の出し物よ。俺が脅かされるのではなく、脅かしてやろうじゃないかという余裕すら生まれてしまうぞ。
まさかこのまま最後まで脅かされずに行けてしま──
「アアアアアアアアアアぁぁアアアアアぁぁぁぁアアアアアぁッッッッ!!!!!」
「イイイイヤァァァァァァァァあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ぁぁぁぁぁあぁぁぁあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙っ!!!」
「ぷぷっ、やっぱりダメだった……ぷはっ……!」
「楓くん、無理なら言ってくれればいいのに……」
「おおおお前に言われたかねぇわ!そそそそそれにいいい今のはアレだ、え、演技だ!せっかく頑張って脅かしてくれてんだからこちらも全力で答えてやらなきゃダメだろ!」
「う、うん……いいと思う……ぶふっ!」
いきなり来るなんて聞いてないんですが!?
心臓に悪すぎるだろこんなの。○人が出てもおかしくないぞ?
「だ、大丈夫なの?」
「あああ当たり前だろ……ほら、行くぞ!」
二人をリードする形で少しずつ出口の方へと進んでいく。道中、何度か仕掛けに少し驚くことはあったが、さっきのやつよりは全然マシだった。
やはり文化祭のお化け屋敷だ。無難なやつよりはちょっと刺激が強かっただけだ。もう出口が見えてきたし、ささっとここを出て次に行こうじゃないか。
「楓、見て、面白いのがある」
「え?」
リョウが指を指した方向へと視線を向けてみる。
どうせ大したことないオブジェクトかなんかだ──
「ォォォォォォヴ……ヴァァァァア!!!」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙くぁw背drftgyふじこlp@*¥$*@'&¥@¥$*"」
「ぶふっ!楓、面白……え、ちょっと、何、楓、急に何!?」
「え、あっ、か、楓くん!?」
もう無理!マジで無理!○ぬ!怖すぎる!!
二人の手を握って俺は足早にお化け屋敷を抜け出した。
「アッハッハッハッハッ!楓の悲鳴相変わらずおもしれぇ〜!」
「楓先輩、お化け屋敷……ぷぷっ……無理……なんですね……!」
「おめーらもだいぶ怖がってただろ……」
抜け出した先には虹夏と喜多ちゃんが笑いながら待っていた。
結局無理なものは無理でした。どうやら俺はまだまだ子供みたいです。
「あんなに強がっといてあの悲鳴、ウケる」
「あっ、リョウさんの言う通り、楓くんのリアクション面白かった……」
「ううっ……」
幼馴染にならまだしも従妹と後輩に笑われるとか、面子丸つぶれじゃないか。なんだろう、今が人生で一番惨めな感じがしてきた。アイデンティティが消失しちゃいそうだよ。
「大丈夫だってぇ〜、もうとっくに楓のメンツは潰れてるから!」
「うん、潰れてるどころか凹んでる」
心読んでオーバーキルしてこないで頂けませんかね。
その後、メイド喫茶に行くまでの寄り道と称し、射的やくじ、チョコバナナにクレープ、フォトスポットなど様々な場所を俺たちは巡った。
そして次にやってきたのは美術部の展覧会。
生徒が描いた絵は綺麗な風景画や個性的な似顔絵など、どれも素晴らしいものばかりだ。
「ねぇねぇ、これぼっちちゃんじゃない?」
「うわなにこれ」
虹夏が指を指した作品はひとりっぽい人物が壊れた顔をしながら突っ立ってる様子が描かれているものだ。タイトルは『七不思議』と掲示されている。まあ、普段あんな感じだしこんな扱いでもしょうがないか。
美術部の展覧会の次は喜多ちゃんのクラスの出し物へ。
「映えてる写真だらけだな」
「やっぱり秀華ってみんなオシャレだね〜」
喜多ちゃんのクラスの出し物は写真展。喜多ちゃん曰く各自でいろんな場所に行き、映える写真を撮って展示しているらしい。
展示されている写真は様々だ。オシャレなカフェの外観に工場の夜景、アニメの聖地や綺麗な海や美味しそうな料理の写真など。
写真の下には撮影者とコメントが書かれていて、場所の詳細などが書かれていてしっかり作られているのだなと感じる。
しばらく見渡すと見覚えのある写真を見つけた。江ノ島で撮った俺と結束バンドのみんながたこせんを持っている写真。撮影者の札にはもちろん、「喜多郁代」と書かれていた。
「あ、これあたし達の写真じゃん!江ノ島行った時の!」
「はい!お友達と遊びに行った時に撮った写真とか色々いいのはあったんですけど、これが一番いいかなって!」
札に書かれたコメントを黙読してみる。
『大切なバンド仲間との夏休みの思い出!これからもっともっと練習頑張ってたくさんライブしていきたいです!』
大切なバンド仲間ねぇ、まぁ喜多ちゃんらしいコメントだしいいんじゃない?
ってかサラッと俺も結束バンドの扱いになってるのはどういうことなのだろうか。
「あと他に回りたいところありますか?」
「う〜ん、特にないかな〜。リョウは?」
「特になにも。楓は?」
「俺も特には……いや、あるわ。どうしても行きたいところがあるからそこだけ行かせて」
写真展の次はひとりのメイド喫茶に行くという流れだったが、どうしても行きたいところがあったということを思い出し、俺たちは武道場へと向かった。
「先輩が行きたかったのって剣道部だったんですね」
「そうだよ。ここだけはどうしても行っておきたかったんだ」
剣道部の出し物は道場破り。剣道部の部員とチャンバラで対決し、目標を達成すると景品が貰えるというものだ。
「あっ、下村先輩来てくれたんですね!」
「おぉ南部じゃん、久しぶり」
武道場に入ると剣道着を着た男子が話しかけてきた。話しかけてきたのは中学の剣道部の後輩の南部。
秀華高校の剣道部には南部のように、中学の剣道部で同じだった人がそこそこいる。
「あれ?先輩、喜多さんと知り合いなんですか?」
「ああ、喜多ちゃんはバイト先の後輩なんだよ」
「あ、南部くんも楓先輩と知り合いなのね!」
「そうなんだよ、下村先輩は僕の中学の先輩なんだよね」
「すごい偶然ね!」
「世界は広いのやら狭いのやら……そんで、道場破りって今やってる?」
「はい、やってますよ!そうだ先輩、うち鬼ムズモードってのをやってるんですけどやってみます?」
「鬼ムズモード?」
疑問に思いながらそう言うと「剣道部の道場破りには三つのモードがあって……」、と南部は説明し始めた。
道場破りにはノーマルモード、ハードモード、鬼ムズモードの3種類があるらしい。ノーマルモードとハードモードはすでにたくさんのクリア者が出ているのだが、鬼ムズモードは未だにクリアした人がいないらしい。どうやら鬼ムズモードは剣道部員が本気を出してくるらしい。
剣道部の部長は鬼ムズモードのクリア者が出てないことに対し、越に浸っているらしいが、南部としてはクリア者が出てほしいらしい。せっかくの機会なので俺は鬼ムズモードに挑戦することにした。
「楓、お腹すいたから40秒で終わらせて。私は早くメイド喫茶でもてなされたい」
「そんなドーラみたいなこと言われても」
リョウの無茶振りに少し困惑ながらも、竹刀に見立てた専用の棒を受け取り、試合場に入る。
ルールは1分一本勝負。それを四回行うというものだ。
「最初は僕が行きます。先輩、覚悟してくださいね」
どうやら最初の相手は南部のようだ。
審判の「始めっ!」という合図でお互い一斉に立ち上がり、勝負が始まった。
南部は中学から剣道を始めたが、俺が中三のときの夏の大会には三年主体のチームのなか、二年生で唯一補欠としてメンバー入りし、最終的には中堅という重要なポジションを任された実力者だ。
彼のその実力さながらの剣筋が俺に襲いかかってくる。俺には剣道自体には1年と3ヶ月ほどのブランクがある。とはいえ、ある程度経つと少しは感覚が戻ってくるもので──
「勝負あり!」
南部の技を打つ時に手元が上がる癖。そこから生まれる隙を見逃さず、右手に痛烈な小手打ちを浴びせた。
その後、二人目、三人目と順調に倒していき、ついに最後、四人目の相手と対戦することになった。
あれ、これさっきの醜態を挽回できるのでは!?
最後の相手は───
「よくここまで来たな、下村」
「まぁな。ってか最後の相手の剣道部部長ってお前かよ、津軽」
最後の相手は津軽。俺の中学の剣道部の同期であり、現在は秀華高校剣道部の部長を務めている。
津軽は中学の部内では俺に次ぐ実力者で団体戦では副将というこれもまた重要なポジションを任されていた。ちなみに俺はというと大将をやっていた。
深呼吸をして、試合場に入り、互いに棒を構える。
審判の合図とともに最後の試合が始まった。
試合はやや津軽優勢の状態で進んでいった。中学生の頃からこいつは一太刀一太刀が重かった。それが高校生になってよりその重みが増すしている。そこに更に勢いがついてきているので俺はそれらを捌くので精一杯だった。
「楓、ファイトー!!」
「先輩、頑張って!」
まずい、このままだと負ける。さっきのアレを挽回できない……!
俺は一か八か、半歩だけ前に出てみることにした。
剣道をやっていた頃はこうやってわざと相手を誘い出し、出鼻技や返し技で試合に勝ってきていた。あの頃みたいな技を出せる自身はないが、やるしかない。
俺はそう思い、半歩間合いを詰めた。すると津軽はその瞬間を待っていたかのように面打ちを打ってきた。
そこだ。
俺はすぐさま棒をあげ、刀身の前の方で面打ちを受け流し、そのまま手首を返して腰を入れて力を乗せ、右腹に袈裟斬りを浴びせた。
「し、勝負ありっ!」
「うわーっ、やられたぁーっ!」
なんとか勝負に勝つことが出来た。
悔しがる津軽をよそに部員達がクラッカーを鳴らした。
「鬼ムズモードクリアおめでとうございます!」
そう言って景品の大きなお菓子の詰め合わせを5袋貰った。本来は1袋だけなのだが、サービスということで人数分貰うことが出来た。
「さっすが楓!やるじゃ〜ん!」
「いやいやそれほどでも。まぁ、これで少しは挽回出来ただろ」
「いや全然」
ウッソだろおい。あんだけ頑張ったのに。
その後少しだけ津軽たちと雑談してからメイド喫茶に行こうと思ったのだが、リョウに「早くして。メイドたちが私を待ってる」と急かされてしまった。
もう少しおしゃべりしたかったな、という気持ちを抑えて俺はメイド喫茶へと向かうのだった。
次回、「ふわふわロンド」
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曲名引用元:サカナクション「アイデンティティ」