幼馴染の変人ベーシストの料理番になった件について。 作:かんかんさば
「おかえりなさいませ、ご主人様〜!」
「おぉ……」
武道場を後にしてやってきたのは一年二組、ひとりのクラスの出し物であるメイド喫茶。
実はひとりがいるからとかそういう事情抜きでここには行くつもりだった。
え、なんでかって?そりゃあメイド喫茶があれば行かねば無作法というものですよ。
「ご注文決まりましたらお声がけ下さいね〜」
「は〜い!」
席に座ってメイドさんにお冷を貰った。
ちなみに席順は喜多ちゃんと俺、向かい側にリョウと虹夏という順番だ。
「にしてもぼっち、ちゃんと人前で立って誘導できてる」
「バイトのおかげですね!」
「でもその割には立ったままピクリとも動かないよね」
恐らくあれは立ったまま気絶してるだけだと思います。はい。
「いや、多分だけどあれ……気絶してるだけだと思う。限界突破しちゃったんだよ」
「「「ああ……」」」
こいつらひとりの奇行にもだいぶ慣れてきたな。
にしても可愛い娘ばっかりだな……
メイド喫茶は蘆名たちと何度か行ったことがある。そのときはプロのメイドさんたちの接客を堪能してきた。しかし、このメイド喫茶は違う。プロではない花の女子高生が少し恥じらいながら接客しているのを見るとなんとうかこう、可愛らしさと背徳感のダブルパンチでテンションが上がってしまうじゃないか……!
「うわ、なんか楓少しニヤけてる」
「下村くんの性癖はメイド服の年下女子なんですって、伊地知さん」
「え、そうなの!?山田さん、そんなのどこで知ったの〜?」
「夏休みに一回郁代が楓の家でカレー作りにきたことがあって──」
「そういやそんなこと言ってたね、それで?」
「その時楓が郁代にメイド服着せてたんだよね。たぶん私がいない間に色々シてたんだと思う」
「うわぁ、中々な趣味してるね、下村くん……」
「いやあれ勝手に喜多ちゃんが着てただけだからね!?」
こんな所で暴露してて楽しいのか?
しかも喜多ちゃん困惑──
「いえ、メイド服着るの楽しかったです……///」
してないじゃん。やっぱやばいよこの娘。
「……そ、そうだ!メニュー見ましょうよ!」
「そうだね〜」
メニューを開くと中々可愛らしい感じの料理が何種類か載っていた。
しばらく眺めていると廊下の方が騒がしくなってきた。
「……ん?なんか廊下の方騒がしくない?」
「何かあったんでしょうか……?」
席から少し離れて様子を見てみると筋骨隆々なガタイに袖をビリビリに引きちぎった学ランにサングラス、一本歯の下駄を履いたモヒカンと辮髪の世紀末チックなヤンキーが二人いた。
Youはshock!(北○の拳)
「なにがあったの?」
「なんかヤバそうな不良が二人……ほらアレ」
「おでこに『死』と『鬼』って書いてる。『肉』にしたほうがかっこいいと思う……」
「ツッこむところそっちじゃないでしょ!?というかなんであれで中に入れたの!?」
「そんなことより後藤さんが大変ですよ!先輩、どうにかしてください!!」
「えぇ……」
ステゴロで俺があの世紀末ヤンキーに勝てるわけないだろ。棒系のものがあれば行けるかもだけどそこにある箒でやったら箒壊しちゃいそうだしな……。
「お嬢ちゃぁん?こんな所で看板持ちなんかしてないで俺らと遊ばなぁい?」
どうしようか考えてると、世紀末ヤンキー二人組はひとりのことをナンパしていた。
まぁ何とかなるか。
ってかなんでそんな出で立ちでナンパしてんだよ。
「なっ、こっ、コイツ俺たちのガン飛ばしにビクともしてねぇ!?……って、っていうか?」
うちのひとりがお前らごときにビクともする訳ないじゃないですか。だって──
「……こっ、コイツ息してねぇ!?し、死体だ!! 死体を飾ってやがる! 死体かざってるぞこの店ェ!」
──ひとりはもう、死んでいる。(ケ○シロウ)
「な、なんとか追い払えたみたいですけど……」
「どうする?」
「とりあえず回収するか」
後藤ひとり魔避け説あるなこれ。リターンに対するリスクが見合ってないけど。
「よぉ〜し、気を取り直して、なんか注文しよっか!」
「そういえば決めてる最中でしたね」
「よし、じゃああたしはこれで〜。あ、せっかくだからぼっちちゃんに接客してもらおうよ!」
「んじゃ俺呼ぶわ。メイドさ〜ん、注文お願いしま〜す!」
コールするとひとりは死んだような顔で教室に入ってきた。
「ご、ごごごごごご注文は……!?」
めっちゃ緊張してるの面白いなこれ。
「ん〜とねぇ……ふふっ」
うわなんか虹夏がニヤついてるんだけど。すごい嫌な予感する。
「ぼっちちゃんメイド服似合いすぎじゃなぁ〜い?」
おい、お前さっきあんだけ俺に冷たい視線向けてたくせになに言ってんだよ。
「あっ、うっ……」
ほら、ひとりめちゃくちゃ困惑してるじゃん……
「後藤さんはこういう甘い系の服似合いますもんね!」
「……」
「わっかるぅ〜!ジャージ以外の服も着ればいいのに〜!」
「ぼっちはビジュアルがいい……むむっ!ミュージックビデオで水着でも着せれば再生数取れるし収入ウハウハ!ぼっちはダイヤの原石だったのか……!」
すごい、お金稼ぎのプロセスはすぐに見つけ出してる。さすがリョウ。
「まぁとにかく、とっとと注文しようぜ」
でもここで止めとかないとどんどん危ない方向に行っちゃう気がするな。
各々食べるものを決めて、注文し、しばらくして頼んだものがやってきた。
「あっこちら『ふわ☆ぴゅあとろける魔法のオムライス』で……あっ違っ、こっこれは『もうまぢむりやみ✝︎かわオムライス』……です」
「なんか違いあるの?」
「あっ、なっ、ないです……」
「えぇ……さすがにそんなわけないでしょ。例えばこの『きみのハートにズッキュン♡オムライス』ってのはどんなもんなの?」
「ただのオムライスです……」
「じゃあこの……『きゅん♡きゅん♡しすぎて尊死☆しちゃうオムライス』は?」
「ただのオムライスです……」
「ならこの『ズッキュンドッキュン胸がなっちゃうオムライス』も?」
「ただの「ただのオムライスなんですね分かります」うぅ……」
「ということは全部同じなんだね……」
「めっ、メイド服で予算無くなったから全部冷凍食品で……」
メイド服にお金かけすぎだろ。
でも安っぽいメイド服じゃなくて本格的な方がモチベーションも上がるだろうし仕方ないか。
「……あ、そうだメイドさ〜ん!この『おいしくなる呪文』ってやつ、ひとつくださ〜い!」
「えっ、あっ、うっ……」
おいしくなる呪文?
もしかしてよくメイド喫茶でやるあの「萌え萌えきゅん♡」……ってコト!?
ひとりがやる「萌え萌えきゅん♡」はきっと素晴らしいに違いない!
「ほらぼっち、お客様は神様なんだから早くして」
「ほら、リョウもそう言ってるんだし、早く呪文かけなきゃねぇメイドさぁん?」
ひとりは観念したのか、震えながら胸元で小さくハートマークを作る。そして俺はその様子を動画に収める。
なんかひとりらしくてかわいいな。
「あっ、ふわふわぴゅあぴゅあみらくるきゅん、オムライスおいしくなれ……へっ」
唱えると、ドロドロベチョベチョな呪文がオムライスに飛んできた。
なんかめちゃくちゃ負のオーラがする呪文だけど大丈夫なのか?
とりあえず『おいしくなる呪文』であることには変わりない。食べて見なきゃ分からない。
スプーンで一口すくって食べてみる。
「パサついてる……」
「う〜ん、冷凍って感じ」
「そっ、そりゃあくまで冷凍食品なので……」
美味くもなければ不味くもない。ザ・冷凍という感じの味だ。とはいえ、せっかくかけてくれた呪文なのだから食べ切るしかない。
「──ちょっと後藤さん!そんなのじゃだめダメよ! もっと愛情込めて唱えないと!」
「うっ……」
喜多ちゃんが急に立ち上がった。何をするつもりなのだろうか。
「見ててね後藤さん、こんな風にやるのよ!」
「えっ、あっ……」
「ふわふわ〜♡ ぴゅあぴゅあ〜♡ みらくるきゅんっ! オムライスさんっ、おいしくなぁ〜れっ☆」
キッタ〜ン!!
まるで某ニチアサ女児向けアニメの変身シーンを彷彿とさせるような雰囲気を出しながらキレッキレの動きとともに喜多ちゃんは呪文を唱えた。すると──
「っ!? ケチャップの程よい酸味とソースの甘さが溶け合って暖かな家庭を感じる味に変わった……!?」
「なんだろう、美味しすぎて心が昇天しそう……!」
とても冷凍食品とは思えないくらい絶品なオムライスに様変わりした。
美味い、美味すぎるよ……!
「はむっ、はむっ……スプーンが止まらない!」
リョウもパックマンみたいにオムライスをむしゃむしゃと食べている。素晴らしすぎる呪文に美味しそうに食べる幼馴染。ここは天国かなにか?
その後、しばらく雑談しているとひとりのクラスの子二人が恐る恐るテーブルに近づいてきて「喜多ちゃん、ちょっといい?」と話しかけてきた。
「どうしたの?」
「喜多ちゃん、さっきやってた『おいしくなる呪文』すっごい可愛いと思って。よかったらうちのクラス手伝ってくれないかな〜って」
「もちろん! 実はメイド服また着てみたかったの!!」
「また……?」
語弊のある言い方はやめなさい喜多ちゃん。なんか俺たちがイケナイことしてる集団みたいじゃん。
「楓は実際に郁代とイケナイことしたじゃん」
「してねぇわ」
「ふっ、チェリーボーイってほんと面白い」
マジうぜぇ……。
「……あっ、あなた方は喜多ちゃんのバンドの先輩さん達ですよね?御三方ももしよければ手伝って貰えませんか?」
「えっ、山田と伊地知はいいとして俺男ですよ?」
「あっ、実はここ明日は執事喫茶をやるんです。それで実際にやるとどんな感じなのか参考にしたくて……どうでしょうか?」
「……じゃ、じゃあ、やってみます」
まさか俺も執事服を着て手伝うことになるとは……。まぁ手伝って欲しいって言われてんだし、やってやろうじゃないか。
五分後。
「おぉ、すげぇ……」
バックルームで着替えを済ませ、鏡の前で執事服を着た自分の姿を眺めてみる。自分で言うのもなんだが、バッチリ決まっている。
「お待たせ〜!」
「すっ、すげぇ……」
メイド服スタイルの虹夏と喜多ちゃん、そしてなぜか執事服スタイルのリョウが女子更衣室から教室に戻ってきた。
「どう?似合ってる?」
「めちゃくちゃ似合ってる……」
「照れんなって〜。にしても楓も執事服似合うねぇ〜」
「そ、そうか?」
「嬉しさがにじみでてるね」
いつもと違う幼馴染の姿に不覚にもドキドキしてしまう。これが尊いってやつなのだろうか。
「楓、写真撮ろう」
「え、あ、うん、いいけど……」
リョウはポケットからスマホを取り出して、自撮りをパシャリと撮った。
最近、リョウは事ある毎に俺とツーショットを撮ろうとする。夏休みに江ノ島に行った時も、この前リョウの誕生日の時に一緒に出かけた時もツーショットを撮った。
別に構わないのだが俺と撮って何になるのだろうか。
「ありがと。あ、チェキ代として1万円頂戴します」
「は?」
嘘だろ、俺とツーショット撮る理由って金をたかる為だったのかよ。
なんかショックだな。
「ちょっと待て。お前ここのところ俺とツーショットめっちゃ撮りたがるけどまさか金が欲しいからとかじゃないよな」
「別に、そんな理由でいつも撮ってるわけじゃない。今のは私の素晴らしい執事服スタイルに見合うお金を楓からいただこうとしただけ」
リョウは不機嫌そうな表情を浮かべ、そういった。ただお金をたかろうとしたこと自体は間違いないみたいだ。
「じゃあいつものはなんでなんだ?」
「……それは教えない……早く手伝わないと、客が待ってる」
余計気になるんだよなぁ。まぁお客さん待ってるし、無理に詮索するのは辞めよう。
「すいません」
「は〜い、ご注文はお決まりでしょうか」
「この『ふわ☆ぴゅあとろける魔法のオムライス』2つください!」
「はい、かしこまりました!」
お客さんから次々と注文が入り、それらに笑顔で対応していく。バイトで接客慣れしてるというのもあってか、全然きつくないしむしろ執事服を来てるのもあってか新鮮で楽しく感じている。
「はい、こちら『ふわ☆ぴゅあとろける魔法のオムライス』でございます。熱くなっておりますので、気をつけてお召し上がりくださませ(イケボ風超絶営業ボイス)」
「は、はい……///」
え、なんかこのお客さん顔真っ赤になってるんだけど。そんなかっこよく振る舞ったつもりはないんだけど!?怖い怖い!!
「すいまっせぇ〜ん、お水のおかわりお願いしまぁ〜す」
うわ、さっきの世紀末ヤンキーまだ居たのかよ。ってか死体を飾ってるとか騒いだ割にはよく来たな。
「リョウ、そっちのお客さんおねがい」
「……ドリンク?自分で取りに来て……」
「っすすすすっ、すいません……!」
はぇ〜、これが噂の"接客態度が悪い店"ですか。ってここはドS執事喫茶じゃねぇんだよ。ちゃんと接客しろよ。怖がってんじゃん、世紀末ヤンキー達。
「はい」
「うっす、ありがとうございます!」
「あざます!」
「ここはライブハウスじゃないですよ!?でも、素敵です!」
なんかリョウは世紀末ヤンキー達を手懐けちゃってるし、喜多ちゃんはいつも通りリョウに対してツッコミ機能してないし、あーもうめちゃくちゃだよ。
その後、一時間くらい手伝いをしてメイド喫茶を後にした。
終わったあとリョウが「ギャランティを貰うまでは帰れない」とゴネていたが、俺と虹夏でなんとか沈めることが出来た。
そして、秀華高校を後にしてスターリーに戻り、文化祭ライブ前最後の合わせ練習の為だ。
「よぉ〜し、明日本番だから今日はざっと全体通しを二、三回やって終わりにしよう!」
虹夏がドラムスティックを鳴らして合図を取り、最後の合わせ練習が始まった。
リズム隊の息ぴったりな演奏にひとりのリードギター、そして喜多ちゃんのボーカル。夏の台風ライブよりもさらに上手くなっている演奏に俺は希望というか期待というか、そんな明るい感じの気分になった。
二セット目が終わったところで一旦小休憩を挟むことになった。
そのタイミングで俺はスタジオを出て、ある人物に電話をかけることにした。
『もしもし……あっ、下村先輩っすか?あくびっす』
「あれ、長谷川さん?大槻はどうしたの?」
大槻に明日のライブのことを教えるのを今の今まで忘れていたため、電話をかけた。
だが、電話に出たのは大槻本人ではなく、SIDEROSメンバーの長谷川さんだった。
『今ヨヨコ先輩癇癪起こしてるんですよ。そんで代わりに自分が出たんスけど、なんか伝えといて欲しいことかありますか?』
「あぁ……出来れば本人に直接言いたいことなんだよね……ちょっと大槻に代わってくれない?あ、無理そうだったら全然いいけど」
『……とりあえず変わってみるッス。ヨヨコせんぱぁ〜い、下村先輩から電話来てるッスよ』
なんというタイミングで電話をかけてしまったんだろう。ってか癇癪起こす理由ってなんだ?トゥイッターのフォロワーにブロックされたとかレスバに負けたとかか?
『も、もしもし下村?な、なんの用よ!?』
「わーおめちゃくちゃおかんむりじゃないすか。何かあったのか?」
『トゥイッターでフォロワーにブロックされたのよ……って、そうじゃなくて早く要件を言いなさいよ!』
予想的中やったぜ。
「明日結束バンドが秀華の文化祭でライブやるからよかったら見に来ないかって思ったんだけど、どうだ?」
『……明日ね、明日はブッキングライブがあるから行けないわ』
「マジか、そりゃ残念、また今度誘うわ。忙しいのにごめん」
『別にいいわよ。アンタの声聞いて少し落ち着いたから、その、ありがと……あっ、べっ、別にアンタと電話できて嬉しいとかそういうんじゃないから!そこ勘違いしないでよ!?』
「ほう、嬉しいんだったら一時間でも二時間でも電話してやろうか?」
『うるさいわね!……ま、まぁアンタがしたいんだったらいつでもしてあげてもいいけど?たしか一人暮らしなんでしょ?』
「そうだけど……ってかそんなに電話したいのか?」
『はあっ!?あっ、アタシがて……でっ、電話したいとは一言も言ってないじゃない!!』
ほんと大槻ってわかりやすいんだよな。これが俗に言うおもしれー女ってやつか。いや、違うな。
『……とにかく明日はライブがあるから文化祭には行けないわ。そうだ、代わりに動画撮っときなさい。あ、別にめちゃくちゃ行きたかったとかじゃない「あーはいはいわかったわかった。動画撮っとくから。そんじゃ」ちょ、しも』
電話を切ってスマホをポケットにしまい、スタジオに戻る。
にしても今日も大槻は面白かったな。みんなに会わせたらなんかすごいことが起きる予感がする。
その後、三セット目も終わり、最後の合わせ練習が終わった。
8月の台風ライブの時よりも格段に完成度が高くなっていた。とくに喜多ちゃんは自分との練習が十二分に活きていて、教えた側としてとてもそれが嬉しく感じた。
「もうすっかり秋ですね〜」
「本当は今頃ミニアルバム作ってるはずなのにな〜」
「まぁいいだろ。少しずつやっていけば」
「それもそうだね〜。よし、じゃあ解散っ!早く帰って早く寝て、明日に備えるよ〜にっ!」
虹夏の一言で今日のところは解散となった。
10月の晴れ渡る秋の夕空に涼しい風が吹く。俺はその風にある種の希望のような、あるいは波乱を巻き起こす嵐の前の静けさのような雰囲気を感じた。
次回、「迎え酒」
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曲名引用元:新谷良子「ふわふわロンド」
山田リョウは
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