幼馴染の変人ベーシストの料理番になった件について。   作:かんかんさば

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深酒日記ベース回なので初投稿です。


#30 迎え酒

「盛り上がってますねぇ」

「そうだな。昨日もこんな感じだったのか?」

 

第三十一回秀華高校文化祭、秀華祭二日目。

今日は結束バンドが文化祭個人ステージに出演する日。ライブが始まるのは午後からだが、せっかくの機会ということで早めに行き、出し物を見て回るということになったのだ。

 

「そうですね。ただ見た感じ今日の方が盛り上がってる気がします」

「そういや伊織が『二日目の方が盛り上がる』とか言ってたね〜」

「あいつ、『今日すごく行きたかった〜!』って言ってたもんな」

 

今日はここのOGである姉貴も来る予定だったのだが、急遽仕事が入ってしまい、来れなくなってしまった。

 

 

「お前らの学校よりもだいぶ盛り上がってんな……」

 

そりゃあ天下の秀華高校ですよ。うちの高校と比べられてもねぇ、困るんですよ。

 

「あぁ〜、キャピキャピしてる高校生を肴にする酒は美味いですねぇ!」

「おいお前なに酒持ち込んでんだよ」

「しかもいつもと違うし」

「えへへ〜、今日は特別にカップ酒のおにころにしたんだ〜」

「カップでもパックでも変わらないと思いますけど?」

 

俺はそう言うと、ニヤつきながらカップ酒を飲むきくりさんは少しムカつくぐらいのドヤ顔で語り始めた。

 

「瓶ってなんだか美味しく感じない?」

「「はぁ」」

「携帯性考えるとパック一択だけどこういうめでたい日はこれなんですよ〜」

「知るかそんなクズのこだわり」

 

めでたい日を厄日にしてどうするんだ、というツッコミが頭に浮かんだが、学校で思いっきり酔っ払うきくりさんを見てると呆れて言葉になる気がしない。

 

「えぇ〜、先輩わかってないなぁ〜。あ、楓くんは瓶の酒の美味しさがわかる大人になりなね〜」

「あっ、はい……」

「なにその反応〜!ほ〜らぁ、ビールもコーラも瓶の方が美味しいじゃん?」

「ビールはどうか知らないですけどコーラはまぁ、そうっすね……」

 

確かに瓶のコーラの美味しさは格別だし、あながち間違いじゃないかもな。でもこの人の論理に納得するのはなんか嫌だな。

 

「ほら、楓くんも言ってますし、違いがわかった方がいい人見つかるかもですよ〜」

「よ、余計なお世話だ! 行くぞ楓」

「そうっすね」

「ちょっと、待ってよ〜!」

 

 

 

 

 

わりとどうでもいい持論を展開するきくりさんと後輩にサラッと独身ディスを食らう星歌さんと出し物しばらく見て回り、やってきたのは一年二組の執事喫茶。

ドアの前には多くの人だかりがあり、昨日よりたくさんの人が列になって並んでいた。

 

「先輩、メイド喫茶に行こうなんて……そういうの好きなんですかぁ?」

「は?ちげーよ」

「喜多ちゃんにメイド服を着せてたのに?」

「あれはノリだろ」

「えぇ……」

「じゃあなんで行くことにしたんですか?」

「ぼっちちゃんってほら、ああいう子だからクラスでうまくやれてるか心配なんだよ」

「あー……」

 

なんだろう、従妹を心配してくれてると考えてると従兄としてすごく嬉しく感じる。さすが店長だな。

 

「うちでのバイトも最初はめちゃくちゃ酷かったんだぞ?なぁ楓」

「そっすね。ギリギリいないよりはマシってぐらいには酷かったですね」

「そんなに?」

「あぁ。それでもちょっとずつ成長してってるんだ。店長としてしっかり見てやりたいんだよ」

「先輩……」

 

さすがっす店長、一生バイトさせていただきます!

 

しばらくすると列の先頭まで進み、順番がやってきた。

「メイド喫茶ってここであってますか?」と店長が執事喫茶の子に確認すると、その子は恐る恐る口を開いて言った。

 

「あの……メイド喫茶は昨日までで、今日は執事喫茶なんです……」

「……」

 

その一言に店長は絶句し、「……帰るぞ」と拗ねて帰ろうとしたが、俺ときくりさんでなんとか引き止め、中に入ることになった。

 

「ご、ご注文決まりましたら声掛けてくださいね……」

 

ただ、店長の不機嫌は治らなかった。いや、治るどころかオーラが滲み始めた。そんな店長に加え、堂々とお酒を飲むきくりさんのせいか、「あのテーブル治安悪くね?」だの「あそこの三人後藤さんの知り合いらしいぞ?何者だよ後藤さん」と、そこかしこからひそひそ話が聞こえてしまっている。

 

とりあえず店長の機嫌治さないとやばいな。あ、昨日撮ったひとりの「おいしくなる呪文」を唱えてる動画見せれば治るかもな。

 

ロインを起動し、店長にひとりの動画を転送した。

 

「店長、今送った動画みてください」

「あ?」

 

うへぇ、怖い怖い。

 

『あっ、ふわふわぴゅあぴゅあみらくるきゅん、オムライスおいしくなれ……へっ』

 

動画を見ると、店長はしばらくリピート再生した後に笑顔になった。

いや笑顔も笑顔でだいぶ怖いな。

 

「……楓」

「はい……」

「来週のシフト分から給料アップしておくからな」

 

なんで動画送っただけで給料上がるんだよ。でもまあありか。

 

「なんか先輩キモい妄想してません?」

「あ?なんでだよ」

「だって楓くんが送った動画見てからずっとニヤついてますもん」

「ちゃ、ちゃんと頑張ってるところが写ってて嬉しいだけだ。別にそんな妄想なんてしてねぇ」

 

ほんとかなぁ?でも時給上がったしいいか。

 

 

 

「しっかし今どきの文化祭って手が込んでますね〜。先輩の時は何したんですか?」

「覚えてねぇ」

「遥か昔ですもんねぇ。あれ、30年前とかだっけ?」

「よし殺す。ってか楓、お前去年とか何してたんだ?」

「確かに気になるなぁ〜」

 

うわ、ここの文化祭の盛り上がり様を見て忘れてたわ。というかどうって言われてもなぁ、普通だし。

 

「うーん、そうっすねぇ。去年俺のクラスは喫茶店やってましたね」

「へぇ、盛り上がってたのか?」

「まぁそこそこって感じですかね。ここをカ○ピスの原液に例えるとすると去年の俺のクラスのやつ、というか下高全体ギリギリカル○スってわかるぐらい薄めたやつって感じです」

「なんだよその例え」

 

いや別に悪くないでしょこの例え。最近秀華のようなキラキラした文化祭に似せてきてるけどお堅い雰囲気が拭いきれてないんだし。

 

「というかきくりさんのとこの文化祭はどうだったんですか?」

「そうだよ。お前岩下と同じ高校だろ?」

「あー、同じですけど別に仲良くなかったですよ。つるみ出したの大学からだし」

「へぇ」

「志麻は家の手伝いとか運動部の助っ人とかで忙しかったらしいし」

「確かに、頼られそうだもんな」

「てかさっきから志麻さんのことしか言ってませんけど肝心なきくりさんはどうだったんですか?」

 

さっきから志麻さんのことしか言ってないってことはもしかして──

 

「私はまぁ、ロックしてたし……」

「「嘘つけ」」

 

地味な感じだったんだろうな……

 

「……そう考えると私達って青春謳歌してないですね〜」

「まぁな」

「あ、楓くんはしっかり青春謳歌するんだよ」

「あぁ、やりたいことはやっとかないと大人になってから後悔するぞ」

「そうっすね」

 

青春か。ちょうど今この時期が自分の人生の中の青春に当たるわけだけど、ほんとに青春を謳歌してるって言えるのかな。結束バンドのみんなは言わずもがな青春してるし大槻だって一生懸命バンドやっててそれも青春って言える。蘆名は彼女いるし西荻くんは部活ですごく頑張ってるしなぁ……。

でもせっかくやりたいことがあるんだし、自分のペースでロックをやるのもまた青春なのかもな。

 

「あ、そういえば楓くんロックやりたいって言ってたけどバンドとか入んないの〜?」

「ん?どういうことだ?」

「あ〜、この前俺虹夏たちとフォルトでSICK HACKのライブ見た時にこう、なんか心の底のロックが目覚めたっていうか、みんなみたいに音楽やってみたいな〜って思ったんですよ」

「それでこの前ギターもってきてたのか。ってかこいつの音楽でそんなんになるのかよ」

「なんか風評被害受けてんですけど!?」

「まぁいいんじゃねぇの?お前がそうしたいんだったらやってみればいいと思うし」

「で、バンドとか入ったの?」

「あ、いや、それが……」

 

ロックをやりたいと言った9月の頭以降、俺は学校の軽音部に何回か見学に行ったのだが──

 

『これほんとに練習してるの?なんかポテチ食いながらダラダラしてるようにしか見えないんだけど……』

『まぁ、一応……』

『えぇ……』

 

あまりにもダレている光景を見てしまい、とても入ろうとは思えなかった。

それでバイトがてらスターリーでライブするバンドでギターを募集しているバンドも探してみたのだが見つからず、何の成果も得られませんでした。

 

「って言うわけで未だに見つかってないんです……」

「ありゃりゃ」

「まぁ、そのうち見つかるだろ……ってかお前結束バンド入ればいいんじゃねぇかよ」

「五人組バンドのうち三人がギターって相当珍しいじゃないですか。それにもう一回考え直すって虹夏に言ったはいいものの自分の中ではもう結束バンドってガールズバンドのイメージがついてて……」

「ほうほう」

 

きくりさんはうなづいてしばらく考え込んだ。そして何かを思い出したのか、おにころを一口飲んでから口を開いた。

 

「バンドが見つかってないならさ、一つお姐さんに頼まれてくれないかな」

「はい?」

 

「今ね、私のバンドギター探しててさ、もしよかったらなんだけど楓くんにギターやって貰えないかなって思ってるんだよね」

「いやいやちょっと待ってくださいよ!?」

「ん?」

「ギターならイライザさんがいるじゃないですか」

 

なんか急にとんでもない頼み事されたんですけど!?

しかもSICK HACKのサポートとか普通プロのギタリストとかインディーズにしても名が知られてる凄腕の人がやるやつだよね。怖い怖い怖い!

 

「あ〜、イライザね、そろそろコミケで同人誌?ってのを書くからお休みに入るんだよね」

「はぁ……でもなんで俺なんですか?」

「ん〜、パッと思いついたのが楓くんだったからかな〜」

「理由になってない……」

「ま〜楓くんがよければでいいよ。無理強いはしないからさ」

 

なんかとんでもないオファーが来てしまったな……

 

「ま、いいんじゃねぇの?」

「……はい」

 

とりあえず少し考えてみるか……

 

 

 

 

 

執事喫茶を後にした俺たちはその後、お化け屋敷やフォトスポットを巡り、個人ステージが行われる体育館へと移動した。

 

「……すげぇ人気だな、下手なのに」

「文化祭マジックですよぉ」

「こういう思い出が青春の1ページに刻まれていくのってなんかエモいですよね」

「現役高校生がなにクサイこと言ってんだよ」

 

別にいいじゃん、三十路のヤンキーみたいな見た目の人が言うよりは遥かにマシだし。

 

「なんか失礼なこと考えてないか」

「いえ何も」

「にしてもぼっちちゃんすごいね〜、こんなステージに立つなんて。結束バンド人気出ちゃうよこりゃ」

「背中押しといてよく言うよ」

「聞いたぞ、SICK HACKのライブ見て決心ついたって」

「あー…… ま、先輩バンドマンとして当然ですよ。かぁ〜、何本飲んでもカップのおにころはうまいなぁ〜」

「「クズが、酒しまえ」」

 

学校で酒飲みながらカッコつけないでください。それ何本目だよ。しかもまだまだあるっぽいし。

 

「だってさ、文化祭のステージなんてある意味一番憧れるステージじゃん」

「そうだな」

「きっとぼっちちゃんたちにとって特別な思い出になるかなって。出たことある君ならこの感じわかるでしょ、楓くん」

 

 

一年前、リョウ達と出た文化祭個人ステージのことは今でも鮮明に覚えている。熱気に包まれた会場に響く黄色い歓声。あれは俺にとって間違いなく特別な思い出だ。

今日これから始まる結束バンドのこのライブはきっと、ひとりにとっても、喜多ちゃんやリョウ、虹夏にとっても特別な思い出になるに違いない。

 

「そうっすね。ってかなんでそれ知ってるんですか?」

「え、あ〜、伊織から前に動画見せてもらったんだ〜」

 

だから俺をスカウトしたのか……って、もっと他にいいギタリストいるだろ。

 

 

 

「続いてのバンドは結束バンドのみなさんです!」

 

 

司会のアナウンスが会場全体に響き渡る。

そしてステージの幕が上がり、結束バンドの面々が現れると大きな歓声が響いた。

 

「「喜多ちゃ〜ん!」」

 

喜多ちゃんは声援に手を振ったり笑顔を見せたりして緊張をしている感じは見受けられない。

ひとりはいつも通りガクブルと緊張している。きっと自分には誰からも声援がこないと思っているだろう。

しかし、それは錯覚だ。なぜなら──

 

「ひとり〜!」

「おねえちゃんがんばれ〜!!」

 

直樹さんとふたりがひとりに声援を送っている。そう、今日は金沢八景からひとりの家族が応援に来ているのだ。

 

さらに──

 

「「ひとりちゃ〜ん、頑張って〜!!」」

 

ファン一号さんと二号さんも来ていた。

イソスタにアップされていた告知の投稿にも「絶対行きます!」とコメントをしていたのを見た時はさすがファンだなと感心した。

 

そして──

 

「おぉ〜いぼっちちゃ〜ん頑張れぇ〜!あ、見て見て、今日はおめでたい日だから特別にカップ酒ぇ!かっこいい演奏頼むよぉ〜!!」

 

酒カスだ。普通、かっこよく歓声送る場所なのになんで酒飲んでんだよ。

 

とにかく、ひとりに声援を送る人は沢山いる。

 

もちろん──

 

「頑張れよ、ひとり!」

 

そう言うとひとりは少し嬉しそうな表情を浮かべた。

その表情を確認し、今度は視線をリョウと虹夏に向けた。二人は少し緊張したような面持ちだった。

 

「リョウ、虹夏!二人とも……その……頑張れよ!!」

 

これから結束バンドとして始めて大舞台に立つ二人に俺は拳を向け、最大級のエールを送った。

すると二人は笑顔でこちらに拳を向け、エアグータッチをした。

 

 

 

「えー、私達結束バンドは、普段は学外で活動してるバンドです。今日は私達にとっても、みなさんにとっても良い思い出になるようなライブにします!」

 

喜多ちゃんの挨拶MCに続いてまたしても黄色い声援が上がる。

しばらく響いたのち、会場は静まり返った。

緊張感と高揚感がこの広い体育館を光のごとく駆け抜け──

 

「それでは聞いてください!」

 

ボーカルは口を開き、ギターを構えた。

「結束バンドで─────」

 

 

 

 

彼女たちの特別な思い出は今、確かに紡がれ始めていった。

 

 




次回、「星座になれたら」

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山田リョウは

  • 恋愛つよつよであるべき
  • 恋愛クソ雑魚であるべき
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