幼馴染の変人ベーシストの料理番になった件について。 作:かんかんさば
「それでは聞いてください。結束バンドで『忘れてやらない』!」
カチカチとドラムスティックがリズムを刻み、ひとりのギターと虹夏のドラムが演奏に助走をつける。
そこに喜多ちゃんが手拍子をつけてそれを観客に促して一体感を一気に作りだす。そして喜多ちゃんのギターとリョウのベースでイントロの盛り上がりを加速させていく。
「ぜんぶ天気のせいでいいよ この気まずさも倦怠感も」
一曲目、『忘れてやらない』。
他の曲と比べると少し控えめだがひとりらしいリリックとリョウが作った明るく爽やかなメロディ。その二つが合わさりキャッチーな雰囲気を出している。
喜多ちゃんの手拍子のおかげもあったか、会場のボルテージはあっという間に上がって行った。
「青い春なんてもんは僕には似合わないんだ」
サビに入るとチラホラと歓声が響き始めた。
「一曲目は掴みが大事」と言っていたが、バッチリ掴めたようで俺はなんだかホットした気分になった。
喜多ちゃんは持ち前の歌声はもちろんのこと、アドリブやアレンジなど、一生懸命練習したギターの成果が出ている。
ひとりは少しギターの音色に違和感があったり、顔が少し不安げではあるものの、安定感がましていて、演奏はギターヒーローそのものになっている。
虹夏はリラックスしながら正確にドラムを叩き、時折ギター隊の様子も確認しつつリョウと息を合わせている。
リョウはいつもと変わらずクールにベースを弾きながら喜多ちゃんにコーラスを合わせる。
そして時折虹夏と息を合わせつつ、こちらに微笑んでくる。
その笑みはコーラスと合わさり、普段の様からは想像がつかないくらい妖艶なもので、俺は思わずそれにドキッとしてしまう。
「絶対忘れてやらないよ いつか死ぬまで何回だって こんなこともあったって笑ってやんのさ」
一曲目の演奏が終わった。
演奏が止まると拍手とともにとてつもない量の歓声が飛び交った。
中にはペンライトを振っている人もいて、秀華高校ならではの盛り上がりを見せている。
まぁ秀華高校の文化祭は初めてなんですが()
「ありがとうございました〜!一曲目、『忘れてやらない』でした!」
初ライブのときにはほとんどなかった歓声が何十倍、何百倍にもなって彼女たちへと降り注ぐ。
なんか感動してきたな……
「一曲目なのに何感極まってんだよ」
「だって……あいつらがこんな大舞台にたってるって考えると……」
「今ここで感動してるとお前そのうち死ぬぞ?」
俺は滅びぬ、何度でも甦るさ!
そういえば、さっきからきくりさん一言も喋ってないな……
と思っていたら、
「ぼっちちゃんのギター、あれ結構年季入ってるよね」
ただ一点、ひとりのギターだけを黙って見つめていた。
「そうですね、ひとりの父親が若い頃から使ってたものなんで……」
話しているうちにMCが虹夏に変わっていた。
きくりさんが全く騒がない。
普段通りだったらそろそろ俺や店長にダル絡みしてきたりカップ酒を飲んで「かぁ〜、うんめぇ〜」とか言い出すはずなのに、それがない。
このきくりさんの様子になぜだか不穏な空気のようなものを感じてしまう。
「ぼっちちゃん、一曲目の終了間際に違和感感じてたっぽいんだよね、ギターにさ。わかるでしょ、楓くんにも」
「……はい」
きくりさんと俺が気づいていたのはチューニングの異変。
ギターはペグを回してチューニングをするため、恐らくペグに異変があるのだろう。
俺もうっすら感じてたとはいえ、異変に気づくのはさすがだな。
「なるほど、最後音に少し違和感があったのはそのせいだったか。多分だけどチューニングが安定してないんだろ」
ひとりは一生懸命ペグを回してチューニングをしている。
音程が合ったと思えばまたズレる、その繰り返し。
そんな状況であってもひとりはひたすらチューニングを続ける。
何度目だろうか、チューニングのやり直しをしようとしたそのとき──
ピキっ。
ひとりのギターから音が鳴った。
この音はギターの弦が切れる直前になる音だ。弦は消耗品でいずれ切れるものだし、しょうがないとはいえ、今このタイミングでのそれは勘弁して欲しい。
MCが虹夏から喜多ちゃんに戻された。
そろそろ次の曲が始まってしまう。
次の『星座になれたら』はひとりの一番の見せ場であるギターソロが待っている。せめてそこは持ちこたえて欲しいのだが。
心の中で元から高かった期待感に不安がいっそう強くなっていく。
「それでは聞いてください!結束バンドで……『星座になれたら』!」
期待感と不安という火に油を注ぐように二曲目が始まった。
二曲目、『星座になれたら』。
思わずリズムを刻みたくなるようなイントロから、心地よいベースとギターの音がオーディエンスの期待感を上げていく。
「もうすぐ時計は6時 もうそこに一番星 影を踏んで 夜に紛れたくなる帰り道」
ギターの音色が不安定ではあるものの、他の客が気になってしまうほどのものでは無いくらいで、しっかり演奏出来ている。
「いいな 君はみんなから愛されて 『いいや 僕は ずっと一人きりさ』」
このまま行けば無事持ちこたえることが出来るだろうと思いながら──
「君と集まって星座になれたら」
サビに入ったその瞬間、
パキンっ!
ひとりのギターの、一弦が切れてしまった。
そしてリードギターのメロディーが途切れてしまった。
一旦しゃがんで二弦のチューニングを合わせようとしたところで、またもひとりに災難が訪れた。
ペグが故障してしまったのだ。
「あれじゃ二弦も使い物にならない。このままだとソロは無理だ……」
きくりさんの言葉で俺の心の中に焦燥が走る。
周囲もさすがに異変に気が付き始めた。店長は黙っているが、その視線はひとりに向けられていて、心配しているようなものだ。
なにか自分がしてあげられるものは無いだろうか。策をねろうとしても焦って頭が上手く回らない。
冷静にならなれば、そう思っていると喜多ちゃんと目が合った。
彼女は「任せてください!」と目線で語るような、そんな視線を向けてきた。
そして、バッキング奏法を駆使してひとりのフォローに入った。
そういえば喜多ちゃんの練習を見てた時も結構バッキングやってたな……
「OK、いい感じ。それにしてもバッキングでアレンジ入れてて幅広い演奏になったけど、家とかで結構練習してるの?」
「はい。ギターボーカルとして、できることは最大限にやりたいんです!」
「ほうほう。そういえばなんで俺とリョウに『ギター教えてください!』って頼んだの?」
喜多ちゃんにギターを教え始めてから一週間程だったある日、俺は喜多ちゃんに教えを乞うた理由を聞いてみた。
「実は後藤さん、個人ステージの申込用紙捨ててたんです」
「え……」
「私、それを知ってた上で黙って紙を出したんです」
「だからこの前暗い顔してたんだ…… それで、ひとりにはその事言ったの……?」
「はい、そしたら『ありがとうございます』って言ってくれたんです。だから後藤さんのためにも、結束バンドのためにもギターの練習、頑張りたいから先輩たちにお願いしたんです……!」
理由を話す喜多ちゃんの姿は覚悟と熱気に満ち溢れていた。
そうだ、喜多ちゃんはひとりのために出来ることを精一杯に、最大限にやっているんだ。
それに俺は結束バンドのお手伝いだ。俺にだってできることはあるはずだ。
ひとりの夢が悲しい思い出としてではなく、忘れられない特別な思い出になって叶うように!
考えろ、周りを見渡して冷静に、今ひとりに、ギターヒーローにしてやれることを!
今、目の前にはきくりさんの飲みかけのカップ酒がある。
そうだ、これだ。これを使うあの奏法、きっとあいつならできるはず、これならなんとかなるはずだ!
「きくりさん」
「ん、どうした?」
「悪く思わないでください」
「え、ちょ、なに、ふがっ!?」
ステージの上に置いてあった飲みかけのカップ酒を取って、中身を全部きくりさんの口に流し込む。
そして空になったカップを
「これを使え、ひとり!」
ひとりの足元へと転がした。
カップを受け取った彼女はそれを弦に接触させ──
(やってみせろ、ギターヒーロー!)
──ギターヒーローとしての力を解き放つ。
「あのギター何やってんだ?」
「なんかよくわかんねぇけどすげぇ!」
今魅せている独特な奏法に、オーディエンスは驚く。
喜多ちゃんたちのサポートもあったとはいえ、なんとか乗り切っているひとりはすごいと思う。
「こんな土壇場で普通ボトルネック奏法とかやるかぁ?」
「ゲッフ、あれならチューニングとか関係ないですもんね〜」
大人二人も感心している様子だ。
「……つか楓、お前ぼっちちゃんがアレできるのわかっててカップ渡しただろ」
「そうですね、でも一か八か賭けで渡したって感じですね」
「やっぱお前かなりロックな性格になったな」
「え、そうですかね」
「そうだよぉ〜、カップ空にしたいからって私に一気に中身流し込んできたし」
「あっ、それはごめんなさい……」
よくよく考えたらやばいことしてたな……
でも、それがあるからこそこのピンチを乗り切れたんだ。
「でもこうでもしなきゃ、失敗しちゃうじゃないですか」
「まぁ、そうだな」
「だから俺はあいつらの、結束バンドのお手伝いだから、自分なりにできる最大限のことをしたまてですよ」
ヒーローはいつだってピンチをチャンスに変えていく。
でも、一人きりじゃそれは出来ない。仲間の支えがあってこそできることだ。その仲間の内の一人としてできることがひとりにカップ酒を渡すということなのだ。
「……ふっ、お前らしいな」
「ちょっ、何すか急に……」
頭をポンと叩かれ、少し照れながらもステージを見上げる。
ギターソロを終え、カップを床に置いたひとりは残っている弦を使ってフレーズを演奏している。
「つないだ線解かないよ 君がどんなに眩しくても」
無事、二曲目が終わった。
爆発的な歓声が体育館中に響き、そして結束バンドに降り注ぐ。
ひとりはやり切ったような表情をして上を見上げていた。
一通り歓声がやんだ後、虹夏がマイクを通して話し始める。
「えっと……本当ならこのまま最後の曲に行くところなんですど……これだけ言わせてください!みんな、今日は本当にありがとう〜!!」
二曲目をなんとか乗り切れたとはいえ、故障したまま三曲目に行く訳には行かないから、ここで出番は終わりだろう。
もっと聞きたい気持ちはあるが、故障は仕方ないししっかり観客の心は掴めたからもう十分だ。
「今日のライブを、みんなが将来自慢できるくらいのバンドになりまぁーす!!」
さすが虹夏、リーダーとしての高らかないい宣言じゃないか。
「いいぞー!」
「武道館行っちゃえ!」
「弦切れたのに頑張ってて凄かったよ〜!!」
「ごなんとかさんもよかったぞー!!!」
ごなんとかってなんだよ。ってかあいつそんな学校で存在感なかったのかよ!
「……ほら後藤さん! ひと言くらい何か言わなきゃ」
おい喜多何言い出してんだよ。
コミュ障は事前に台本とかないと喋れないんだよ!あとライブ中に一言も喋らないギタリストとか普通にいるから!!
かっこいいひとりを見れて嬉しいは分かるけどそれはまずいよ!顔青ざめてるし!
「何か面白い事……おもしろいこと……オモシロイコトオモシロイコトオモシロイコトオモシロイコトオモシロイコトオモシロイコト……」
まずい、何かしでかそうとしてる目だあれ。
ひとりの視線がこちらに向けられる。
(おい、俺見ても何もないぞ……!)
目線でひとりに訴えると視線は聞くりさんに移った。
まさかきくりさんのライブから何か考えようとしてるのか?
ギター真っ二つ?アンプ破壊?飲酒?いやいやありえないありえない。
いや、まてよ。まさか……
嫌な予感が脳裏を駆け巡る。そして、その嫌な予感は的中してしまった。
ひとりは一歩ずつ観客の方へと歩いていき──
───ステージから観客目掛けて飛び立った。。
いやいやいや何してんの!?
ライブハウス以外であんなのやって受け止めてもらえるとでも思ってんのか!?
そういう風習知らない人がほとんどなんだぞ!?
まずい、このままだと床に激突してしまう。受け止めなくては……!
案の定観客はひとりを避けようとする。その流れに俺は揉まれる。
なんとか流れを掻き分け、開けたところに出て、ひとりを受け止める構えを取る。
しかし、咄嗟にとった構えで上手く受け止められるわけもなく──
「ごへぇっ!?」
「ぐはあっ!?」
勢いと落下地点を見誤りゴツン、という鈍い音と共に俺とひとりは激突した。
「後藤さん!? 楓先輩?」
「ちょっと大丈夫!?大分ヤバい音したけど!?」
「ぼっち、お、お前は最高のロックスターだwww 楓もナイスキャッチぶふぉっwww」
「いいねいいねぇ、ボッチちゃんも楓くんも最高にロックしてるねぇ!」
「おめぇら少しは心配しろ!」
少しクラクラする……。
にしてもヤバいな、これライブがお通夜状態になるの確定じゃん……。
「だ、誰か担架持ってこい!」
「ご、後藤さんしっかりして!」
ひとりはぶつかった衝撃で泡を吹き始め、担架に乗せられた。
俺も救護係の人に大丈夫か聞かれたが運ばれる程重症ではなかったので断りを入れておいた。
てかあの青ナスと酒カス、あとで覚えてろよ。
次回、「星座をなぞって」
高評価、お気に入り登録、感想、ここすきなどいただけると作者のモチベと筆のスピードが上がるのでぜひお願いします。
高評価くれー!!あとお気に入り700件ありがとー!!
曲名引用元:結束バンド「星座になれたら」
山田リョウは
-
恋愛つよつよであるべき
-
恋愛クソ雑魚であるべき