幼馴染の変人ベーシストの料理番になった件について。 作:かんかんさば
ちなみに2年生編前篇は今回を入れて残り3話です。
使い終わった氷嚢を返しに保健室へと歩く。
タンコブの痛みもだいぶ収まり、後は腫れが引くのを待つのみとなった。
「あ、先輩……!」
保健室のドアを開けるとベットで寝ているひとりとその看病をしている喜多ちゃんがいた。
ひとりの様子を尋ねるとどうやら気を失っているみたいで、しばらくすればまた起きるらしい。
「喜多ちゃん」
「はい……」
「さっきのバッキング、すごかったじゃん。しっかりひとりを支えれてたし」
「先輩達のおかげですよ……それに、合わせるのは得意ですから……」
喜多ちゃんは照れくさそうに謙遜しながらそう言う。
先程のバッキングがアドリブでできるのであればもう喜多ちゃんに教えることはないだろう。
「あの……先輩……!」
そう思っていると彼女は急に俺の手を握って来た。
「わ、私に……」
え、ちょっと待ってこの雰囲気でこれって何?告白イベント!?もしかして喜多ちゃんルート開拓してたの!?いやいやそんなことあるわけないだろ。喜多ちゃんはバイトの後輩なんだぞ。それ以上でもそれ以下でもないでしょうが……!
「ごめん喜多ちゃんは後輩としてしか「私にこれからもギター教えてください!」へ!?」
「え?」
盛大に空回りしたわ、気まずい。てか若干ムードがそう言う雰囲気だったよね!?
「先輩、顔赤いですけど大丈夫ですか?」
「あ、ああ、いや、大丈夫、全然大丈夫だから!」
「それならいいんですけど……」
「それで……あれか、ギターね、まぁ、いいよ」
「え、いいんですか?」
「うん、基本はひとりとリョウに見てもらう形にはなるけど2人がいつも面倒見れるかはわからないからそんときは俺が見るよ」
「ありがとうございます!その、これからもよろしくお願いします!!」
「ああ、こちらこそよろしく」
これからも、か。より一層頑張らなくちゃ行けないな。目を輝かせる喜多ちゃんを見て俺はそう思った。
「はっ……!」
「後藤さん、大丈夫?」
しばらくすると、ひとりが目を覚ました。
大事に至っていないと知らされてたとはいえ、無事に目覚める所を見るとなんだか安心する。
「あっ、そういえばライブは……その、私、多分台無しにしちゃいましたよね……」
「ううん、意外と盛り上がってたかも」
「確かになんかね」
人が運ばれる状況で盛り上がるのってなんかすげぇよな、ホント。
「だから気にしないで大丈夫よ!」
「うん、まぁ俺もそう言いたいところだけど」
「「え?」」
「君たちに一つお説教だ」
このままいい感じに流す訳には行かないんですよ、あの一件は。
「あのなぁ、ひとり……」
「……はい」
「なんであそこでダイブしたんだよ。ライブハウスと学校の文化祭が同じなわけないでしょ」
「うぅ……」
「今日は大した怪我もなくてよかったけど下手したらあれ大事になるんだよ?もう少し考えないと」
「はい……」
「喜多ちゃんも、唐突な無茶振りは控えないと、こいつそのうちライブで爆発としかねないぞ?」
「ごめんなさい……」
「まぁ、次からは気をつけてね」
「「はい……」」
お説教しないとヤバい感じだったからしてみたけど、なんか言い過ぎたかも……
「まぁそれはそれとして、二人ともよく頑張ったよ。とくにひとり、夢の舞台であんな応用テクニックが出来るなんてすごいじゃん」
「そっ、それほどでもないよ……」
「いやいや、それほどだよ」
「でも、こんなんじゃ『陰キャがイキってギターソロしたで賞』で退学に「いいか、ひとり」へ?」
「ギターが切れた時、咄嗟の判断でボトルネック奏法を使うのはお前だからこそできる芸当なんだ」
「うん……」
「そういうのは『それほどでも』で片付けることじゃないんだ。もっと誇りに思わないと……」
「だけど……」
「まだ自分で自分を下げるつもりだな。じゃあいい俺が従兄として無理やり肯定する」
「あっ、えっ……」
ひとりの両肩をがっしり掴んで──
「ひとり、お前は俺の誇りだよ」
そう言うとひとりは少し照れくさそうに
「……ありがとう!」
と満面の笑みで返してきた。
小さい頃はいつも怯えていたひとりが、いつしか自分よりも遥かにすごいヒーローになっていた。そんなギターヒーローは間違いなく俺の誇りだ。
ピロリン!
『ねぇ、楓く〜ん!どこいるのぉ〜!?』
うわ、酒カスからだ。このなんか感動的な雰囲気をぶち壊すように来たな。
「保健室にいます、っと」
「誰からですか?」
「あ〜、酒カs……違った、廣井さん」
返信をすると、今度は電話がかかってきた。
『もしもしぃ〜?』
「なんですか、さっき保健室にいるってロインしたじゃないですか」
『聞きたいことがあってさ〜、今すぐ校門まで来てくれないかな〜?』
「別に今ここでいいじゃないですか」
『直接聞きたいことだからさ、はやく来てよ〜』
「えぇ……」
なんかこのままだとダルいし、行くしかないか……
「二人ともごめん、俺先にみんなのとこ行ってるわ」
「あっ、うん……」
「はい、また後で!」
二人の元をあとにしてきくりさんの所へと向かう。
一体なんなんだよ、直接聞きたいことって。
「お、来た来た!お〜い楓く〜ん!」
「きくりさん……で、なんですか直接聞きたいことって」
「あ〜、そうだそうだ。SICK HACKのサポートやるかやらないか一応聞いとこうかなって」
「はあ……」
「で、答え出た?」
「え、ああ……」
考えといてね〜って言っといてその日のうちに答え聞くか普通。
でもまぁ、俺も俺でその日のうちに答えは決まったしな。
「やります、やらせて頂きます!」
「お、その言葉が欲しかったんだ〜!」
「はい!イライザさんの分までしっかり頑張ります!」
「よし、じゃあこんどノルマ渡すから。お友達になり家族なり、あ、結束バンドのみんなに売るでもいいからライブまでに達成しといてね〜」
去年俺が実際に感じた、そして今日みんなが感じたであろうこの感覚。その感覚をもう一度感じたい。そのために頑張ろうと今日のライブを見て思ったんだ。
それに……
「お、楓〜!いつの間に戻ってきてたんだ!」
「よく戻ってきた、クソダサボーイ」
「あ?」
「なにこいつと話してたんだ?」
「SICK HACKのサポートをやるって話ですよ」
「え、楓サポートやるの!?」
「ああ、恐縮ながらイライザさんの代理にね」
「楓もぼっちみたいに観客に向かってダイブするロックスターになりたいのか、関心関心」
ほんと人の神経を逆撫でするような煽りうまいよな、リョウって。
「しないよそんなこと、でもまぁ、みんなみたいにロックやりたいっては思ってたかな」
「それで『もう一回結束バンドに加入するか考えさせてくれ』って言ってたんだ」
「そうだよ」
「そうだ、入るの?入らないの?」
「ごめん、もう少しだけ待ってて」
「え〜、またそれ」
「虹夏、楓にも楓なりに考えることはあると思う」
「ああ、だからあともうちょっと」
「わかった!いい答え期待しとくからね〜!」
みんなみたいになれるかは今の段階ではまだ分からない。でも、みんなが歩く道を同じように歩いていけばいつかきっと……
「これにて、第31回秀華祭を閉幕いたします」
あの星座をなぞっていけばいつかきっと、やりたいことをやりたいようにやれるかっこいい自分になれる。そう感じた。
あれ、何か忘れてるような……
「あ、動画撮るの忘れた」
「どしたの楓くん」
「いや、大槻に送る動画撮るの忘れてたな〜って」
「あはは〜、楓くん完全に見入ってたもんね〜」
うっかりしてたわ。
『ごめん、結束バンドの動画撮るの忘れちゃった!』
とりあえず大槻にお詫びのロインを送ってみる。
すると送った途端に既読がつき、返事が返ってきた。
『は?何忘れてんのよ!?』
『見入ってたらつい…』
『まぁいいわ。それほどすごいバンドってことなんでしょうし、次は気をつけなさい』
案の定怒られたけどなんとかなったか……
「へ〜、もしかしてこのヨヨコって子がこの前フォルトで一緒にいた彼女さん?」
「こいつがフォルトにいた楓の……へぇ」
「え、楓くん大槻ちゃんと付き合ってるの?いいね〜」
「だからこいつは彼女じゃねぇって!」
いや、なんとかなってないかもしれない。
この後ひとり達が戻ってくるまでに必死に弁明して俺はことなきことを得た。
次回、「転がる岩、君に朝が降る」
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それでは皆様、良いお年を。
高評価くれー!!(承認欲求モンスター)
山田リョウは
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恋愛つよつよであるべき
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恋愛クソ雑魚であるべき