幼馴染の変人ベーシストの料理番になった件について。   作:かんかんさば

57 / 83
アニメ範囲のお話は今回で最後です。

新年あけましておめでとうございます。


#33 転がる岩、君に朝が降る

文化祭ライブから数日が経過した。

 

あれからというもの、ひとりは学校でちょっとした有名人になってしまったらしく、自分の世界にこもりがちになっているらしい。ちやほやされたいと言っていた割にはと思うが、まぁなれない状況に立たされたらそうなるのも仕方ないと思う。

 

「うへへ……」

 

でもちゃんとバイトに来れているあたり大丈夫だろう。

 

「ねぇ楓」

「ん?」

「今日のぼっちちゃん、ずっとキラキラしてるんだけどなにあったか知ってる?」

「あー、あれか、確か……」

 

ひとりの妙なキラキラしたオーラには理由がある。

先日の文化祭ライブでひとりのギターは壊れてしまった。彼女はその事をギターの元の持ち主である直樹さんに謝ったのだが、特に怒られるということも無くすんなり許して貰えたらしい。そしてこっそり収益化されていたギターヒーローの動画で儲けた大量の札束を受け取ったのだ。

 

というか何気に配信の収益は知ってたのに動画の収益は知らなかったのなんでだ?

 

「かくかくしかじかそういうことだ。それで得たお金で十万するギターを買い、ついでにバイトを辞めようとしてて今あんな感じなんだよ」

「へぇ〜、それであんなにウッキウキなんだ……って!なんかサラッととんでもないこと言ってない!?」

「なんだ?収益で儲かってたってことか?」

「違うよ!?まぁそれもそれて重要だけどさ、あれだよ、バイト辞めるって話」

「あーそれか」

「あーそれかって、ちょっとは止めようとか思わないの?」

 

止める気はありますよ、止める気はね。

でも俺がシンプルに止めるわけないんだよね。

 

「辞めるのは阻止するよ、俺だって」

「じゃあなんでそんな呑気なのさ」

「泳がせてるんだよ」

「泳がせるって、何するつもり?」

「今あいつは収益が入ってウッキウキじゃん」

「うん」

「それで『バイト辞める』って言い出したら適当に褒めて適当にバイト続けるメリット吹き込んで適当に良心につけこめば踏みとどまると思う」

「最後の方なんかリョウみたいな考え方だね」

「は?」

 

あいつと一緒にしないでくれませんかね。

そう思いながら虹夏とひとりを観察していると彼女は急にスーパーサイヤ人みたいに光出した。

 

多分そろそろカウンターにいる店長にバイトを辞める旨を話し始めるだろう、そこで計画通りにことを進めれば──

 

「あ?バイトがなんだって?」

「あっこれからも誠心誠意心血注いで頑張らせていただきましゅ……」

「突然の決意表明!?」

 

そうだ、ひとりだった。計画通りにことを進める以前に店長にノックアウトされるだけだったわ。

 

「負けてしまうとはなさけない、スーパーサイヤぼっち」

「ダイブする度胸あんならできるだろと思ったんだけどな……」

「そうだ楓、今週のジャンプ買ってきて。帰ったらすぐに読みたい」

「御茶ノ水から戻ったらな」

 

ひとりが撃沈しているこの状況からは想像しにくいだろうが、俺は今日御茶ノ水に用事がある。父親から送られてくる()()()()の受け取り場所が御茶ノ水の楽器店なのだ。

 

「そうだ!今日ぼっちちゃんギター買いに行くって言ってたからみんなで一緒に楽器屋行こうよ!」

「お〜いいですね!」

 

いつの間にかひとりの蘇生を終えていた虹夏と彼女の案に賛同する喜多ちゃん。

 

「だったら御茶ノ水に行こう。そこならぼっちの求めているギターもあるはずだし私の求めるベースもあるはず!それに楓も御茶ノ水に用事があるからパシリにも使いやすい!」

「おーい本音出てるぞ〜」

「まぁお手伝いさんがいた方がいいし、それじゃあ出発!」

 

こいつら、俺の立場を利用してやがるぞ……!

 

「あ、ぼっち。私9月に誕生日だったんだけどまだぼっちに「集ってないていくぞ!」むぅ……」

 

 

 

「御茶ノ水、御茶ノ水。ご乗車、ありがとうございました」

 

 

下北沢から小田急線と中央線を乗り継ぐこと30分、俺たちは御茶ノ水にやってきた。

 

「ねえひとりちゃん、どうしてこんなに楽器屋さんがあるのかしら?」

「……」

「そ!れ!は!」

 

あぁ〜、山田の音楽オタク発動の音ぉ〜!

 

「明治時代に日本最古のプロオーケストラが結成されてから都内で音楽活動が盛んになってその頃御茶ノ水界隈で老舗と言われてる下倉楽器とイシバシ楽器が出来て──」

「始まったね、リョウの音楽オタク」

「なんかどうぶつの森みたいだな」

 

音楽オタクの言う通り、御茶ノ水は楽器屋さんがいっぱいある街だ。

元々戦前は道具屋がいっぱいある街だったのだが、戦後のジャズブームに合わせてアメリカ軍が道具屋に楽器を売り払うことが増えたことがきっかけに楽器屋へと転身するお店が増えていった。さらにかつては学生街だったということもあってか需要は高く、そこに60年代のギターブーム、グルーヴサウンドブームや70年代のフォークブームなどが合わさり、いまや日本屈指の楽器店街となったのだ。

 

「あの知識を少しでも勉強に向けてくれればと思うけどね〜」

「そうだな。あ、俺ここで荷物受け取らなきゃ行けないんだったわ」

「お、ここ昔お姉ちゃんがバイトしてたところだ!みんな〜ここに行こ〜!!」

 

歩いている内に目的地である楽器店、イシバシ楽器にたどり着いた。

にしても店長昔ここでバイトしてたのか……

 

「ううっ……怖い……」

 

何故か怯えるひとりをよそに俺は中に入ろうとするとひとりに腕を掴まれた。

 

「一緒に行ってやるから、ほら行くぞ」

 

入口に入ると音楽関連の小物がずらりと並んでいる。

興味が湧いたので眺めているとひとりは急にイヤホンを付けてヘドバンし始めた。

 

「なにしてんの」

「こ、これなら行けるかもって……!」

 

逆にダメだろそれ。完全に不審者のそれじゃねぇか。

 

「て、店長!凄いヘドバンしてる人がやって来ました!!あんな激しいヘドバン初めて見ました!!どう対応しましょう??」

「きっとコアなメタルファンに違いない!ここはお客様のニーズに答えられるように全力で接客しよう!!」

 

店員さんたちもノリノリだよ怖い怖い!!

 

「お客様!メタル向けのギターをお探しなら二階の方にございますよ!」

「えっあっえっ!?」

 

弱すぎなんだけどマジで。

てかキョドってるのにヘドバン辞めないのかよ!?

 

「ちょっと喜多ちゃん、あれ止めて来て」

「任せてください!」

 

喜多ちゃんがなんとかひとりを制止し、俺たちは二階へと向かった。

 

「すごい……!」

「楽器店ってこんな感じなんですね!」

 

二階に上がるとそこに拡がっているのは大量に並んだギターとベース。

楽器店に始めてくる二人が目を輝かせるのも無理はない。

にしてもこんだけ楽器が並んでるのを見るとなんだかテンションあがるなぁ。

 

「すいません、このベース試奏できますか?」

「はい、大丈夫ですよ〜」

「お前また買うのか?」

「違う。少し気になったから軽く弾いてみたいだけ」

 

どうせこの後即決で買うんだろうな。

 

「あ、スラップしてもいいですか?」

「はい、いいですよ!」

 

リョウがソファに座りベースを構えた。そしてニヤリと笑った。

 

「なっ、虹夏、こいつまさか……?」

「うん、そのまさかだよ楓……こいつ……」

 

見事な手さばきでスラップ奏法を披露するリョウ。控えめに言って好きなリョウのベースはいつ聞いても心地がいい。でもなぁ、マジで黙ってればクールでベースを弾く姿が似合うかっこいいイケメン美少女なのに、日頃の態度や行いのせいでギャップ萌えのように感じるのが悔しいな。

 

「ま、まあざっとこんなものかな……適当に弾いただけだけど……凄くいいベース……ハァ……ハァ……」

「「試奏でイキリスラップしてドヤるやつだ」」

 

かっこいいのはいいけどドヤるのは止めようね、山田。

 

「よし、このベース、買った……!」

「即決で購入するなんて流石です先輩!」

「お金は?」

「ぼっち、三回払いで返すからお金貸して」

 

うわ、言うと思ったよ。てか三回払いだとしてもそのベースだと相当な額だぞ?

 

「あっ、今日はギター買う位のお金しか持ってきてないです……」

「なぬ、じゃあ郁代」

「私も今日そんなお金もってきてないので……」

「じゃあ虹k「貸すわけねーだろ」ぐぬぬ……」

 

すっごいペースで断られてるの面白いな。

 

「じゃあ楓」

「貸すわけないだろ。お金そんな持ってきてないし」

「なっ、楓まで……こうなったら説得してお金を貰うか……」

「話聞いてんのか?」

 

おい本心出てんぞ。あと説得するのはどちらかいうと俺じゃない?

 

「今私はこのいいベースで大変素晴らしいスラップを披露した」

「うん」

「それで今の演奏を聞いて私のベースが大好きな下村くんはきっと『あ〜、今のスラップいつでも聞きてぇ〜!』と思っているはず」

「ちょっ……!べ、別にスラップはそれじゃなくても聞けるだろ……!」

「ベース一つ一つに違いがあるのは楓だってわかるはずでしょ?」

「そうだけど……」

 

なんか上手いこと俺を説得しようとしてるなこいつ。

 

「そ・れ・に」

「それに?」

 

「お金出してくれたら今日帰ってからメイド服着てこのベースで好きな曲なんでも弾いてあげるよ?」

 

やけに色気づいた笑みを浮かべてリョウは耳もとでそう囁いた。

 

「そ、それで折れるわけないだろ……!」

 

文面がなんかこう、良くないというか、どっかの補習授業部の生徒がタヒ刑宣告してきそうな気がする……

 

「きゃーっ!!リョウ先輩の耳打ち素敵すぎる〜!!」

「あっ、だっ、だ、大胆だ……」

「……」

 

うわ、ほかの三人の様子もなんかヤバくなってる……

 

「どう、お金出す気になった?」

「な、なわけないだろ、そういうのは自分のお金で払ってこそだろ……」

「いけず……」

 

いつも自分の金で買ってんだし貯めてから買えよなほんと。

 

その後、三階のハイエンドモデルのコーナーから探すことにしたのだが値段を見て恐れおののいて、二階に戻りそこでギターを探すことになった。

 

「郁代、そのギター気になるの?」

「あっ、いやそういう訳じゃなくて……私にはリョウ先輩からお借りしてるギターがありますので!」

「ギターは何本あってもいいと思う」

「そうね、姉貴も三本は持ってたかも。だけど今無理して買わなくてもいいとは思うよ。そのうち買えばいいよ」

 

先日のようなトラブルがこの先ないとは言いきれない。だからそんな時に備えてサブギターを持っておいて損は無い。けれどギターはちゃんとした物だとかなりの出費になるし高校生が簡単に手出しできるものじゃない。

まぁ、ポンポン手を出してるリョウや高校生と思えないくらい大金を使ってギターを買おうとしてるひとりがかなり異常なだけだし。

 

「ねぇ楓」

「どした?」

 

ギターを眺める三人を羨むような目で見る虹夏に話しかけられる。

 

「これがマンガとかによくあるドラマー孤独問題なのかな……」

「あっ……」

 

まぁ楽器店でよく売ってるのってギターやベース、ピアノとかだもんな。疎外感や孤独感を感じるのもしょうがないか。

 

でもごめんな虹夏、俺ギタリストだから気持ちは100%分かってあげられないよ。

 

「あー、あたしもギターとか買ってみようかな〜なんて」

「えぇ……」

「ふ、普通に弾く用に買うんだよ!」

 

なんだろう、両手にギター持ってドラムを叩くってことはあれだ。筋肉モリモリゲーミングドラマー伊地知虹夏になるつもりだ。でも人体って虹色に光るのだろうか。まぁ某モルモットくん見たいに薬品飲めば行けるか。

 

「虹夏、寂しかったんだね……」

「別に無理してエレキ買わなくてもお前ならまずはウクレレか子供用ギt「ふんっ!!」ごべぇぁっ!?」

「あたしより誕生日半年近く遅いくせにすぐ子供扱いするんだから……あ、ぼっちちゃんも喜多ちゃんもこんなノンデリ野郎とは付き合っちゃダメだよ?」

「「はい!」」

 

勢いある返事悪くないな。ってか少しは「まぁまぁ」とかあってもいいんじゃない?

 

 

虹夏の腹パンの痛みに腹を抱えていると、ひとりはある一つのギターを見つめていた。

 

「あ、あのギターが気になるのか……?」

「うん、あのギターかっこいいなって」

 

値段も六万ぐらいでリーズナブルだ。色はほとんど黒で統一されていてシンプルなデザインをしている。

 

「YAMAHAのギター良いですよね〜」

「ひぃ……」

 

突然の店長さん乱入で即タヒするひとり。文化祭であれだけの人の前で演奏したのにこの始末とは、まだまだだな。

 

「それ特注仕様なんですよねー。手頃な価格ですけど凄くいいギターなんです!良かったら試奏されますか?」

「あぁぁあぁぁ……えっとぉ……」

 

これギター買うの待ってたら日が暮れるそうだな。

 

「初めてのギターならシールドとミニアンプも合わせて購入した方がいいですよ?」

「買います」

「持ってるのに即決かよ!?」

 

もうちょい考えようよ、タダじゃないんだしさ。

 

「あの……」

「いえいえ、大丈夫ですよ〜!この子最近ギター壊れちゃって、今日は代替機を買いに来たんです。ね〜ひとりちゃん?」

「ウンッウンッ」

 

ブラックスマイルで腹話術するとか怖すぎんだろ!ってかいつの間に下の名前呼びになってるし!

 

「まぁ今どき何本もギターもってる学生さんは普通にいらっしゃいますからね〜」

「そうなんですか〜。ひとりちゃんこのギター気に入った?」

「ウンッ!」

「うんうん……このギターにするそうです〜!そうよね、ひとりちゃん?」

「ハイッ!」

 

これ世にも奇妙な物語とかに投稿したら採用されるだろ。店長さんも何も疑問に思って無さそうだし。

 

「最近成長したな〜って思ったけどまだまだだね」

「そうだな」

 

何はともあれギター購入が決まったため一階へ。

俺は荷物を受け取るためひとりと共にレジへと向かった。

 

「お買い上げありがとうございました〜!あ、お次のお客様どうぞ〜!」

「すみません、こちらに取り寄せのギターが届いていると思うんですけど届いてますか?」

「はい、お名前お伺いしてもよろしいでしょうか?」

「あ、下村です」

「下村様ですね、少々お待ちください!」

 

店長さんがメモを取って店のバックルームへと走っていった。

 

「ここでなんか頼んでたの……?」

「ああ、父さんからの誕生日プレゼントだよ。ここで受け取るってことになってたから」

 

そう、ある荷物というのは俺の誕生日プレゼントだ。誕生日プレゼントのギターをここで受け取ることになったのは文化祭ライブ当日の夜のことだ。

 

その日、打ち上げが終わり家でくつろいでいると父親から電話がかかってきた。

 

『もしもし楓、元気にしてるかい?』

『父さん……!まぁそりゃ元気にしてるけどどうした?』

『楓、そろそろ誕生日でしょ?思って何か欲しいものがないか聞いておこうと思って電話したんだ』

『そうなんだ。そうだ、欲しいものか……ギターは……』

『よし、ギターだな。いいもの探しておくから楽しみに待っておいて』

『えっ、ちょっ、まだ具体的になんも言ってな……』

 

まさかの一言二言で父親は即決して次の日にメールで受け取り場所と商品の詳細を送ってきた。

ほんとせっかく弁護士でそれなりの収入があるのにどうしてすぐ人のために使い込んじゃうのだろうか。

 

 

 

ひとりに「先に行っといて」と伝え、しばらくすると大きめの荷物を持って店長さんがやってきた。

 

「こちら下村柊一郎様名義の取り寄せ商品となっておりまして、受け取る方が下村楓様となっていますが、お客様で間違いないですか?」

「はい、そうです!」

「ここで包を開けましょうか?」

「あ、お願いします!」

 

店長さんが丁寧な手つきで包みを剥がすと出てきたのはギターケース。しっかりした作りなのが一目見ただけでわかる。

 

「ケースの中身、見てみますか?」

「え、いいんですか?」

「もちろん、お客様の取り寄せ商品ですので!」

 

すっごいワクワクするな。

 

ファスナーを引いてケースを開けるとそこには──

 

「おお……すっげぇ……!」

 

炭のような淡い灰色のボディに温かみを感じるカラーのネックとヘッド。見るからにかなりなお値段がしそうなかっこいいギターだ。

 

「こちらのギター、限定モデルとなっているそうでかなり貴重な代物みたいですよ」

「父さん……とんでもないものを……」

 

ほんと父さんってこういう所が怖いんだよな……

 

「お、すごいギターじゃんどうしたのこれ?」

 

父親の金遣いに戦慄していると虹夏がやってきた。

 

「ごめん待たせちゃってたわ。あ、これ父さんからの誕生日プレゼント」

「そうなんですね!おめでとうございます!」

 

店長さんにも祝われるとは、なんかいいな……

 

「代金は依頼主様が支払っていますのでこのまま持ち帰ってもらって大丈夫ですよ!」

「はい、ありがとうございました!」

 

受け取り証にサインしていると店員さんが以外にも虹夏に話しかけた。

 

「そういえばさっきから気になっていたけど、あなた星歌さんの妹さん?」

「あ、はい!うちのお姉ちゃんがお世話になりました!」

 

そういえばそんなこと言ってたな。にしても店員さん、よくわかったな。つってもよく似てるしそりゃわかるか。

 

「星歌さん、仕事できていい人だったんだけど自分の弾きたいギター入荷したりお気に入りのギターがあれば買わせたくないからって売約済みの札貼ったりして、結構好き勝手してたの……」

「お姉ちゃんがすみませんでした……」

「お客さんからは"御茶ノ水の魔王(サタン)"なんて呼ばれたりしてたのよね……」

 

下北沢の天使と御茶ノ水の魔王っていい感じに対になってていいな。

 

「でも突然バンドやめてライブハウスやるって聞いた時はびっくりしちゃったけど……そっか、今は妹ちゃんがバンドやってるんだね!」

 

その言い方ってことは、この人も伊地知家の過去を知っているのだろう。

 

「私も応援してるから、お姉さんの分まで頑張ってね!あと彼氏さんも、そのギター使って頑張ってね!」

「……はい!」

「あの……こいつに彼氏はいないですよ……?」

「あれ、君の事じゃなくて?」

「え、俺?あ〜、俺はただの友達ですよ。よく間違われるんですよ〜」

 

「あ、ごめんね〜」と少し微笑みながら謝る店長さんと少し頬を赤くしながらもジト目で見つめてくる虹夏。

別に事実を言っただけなのにどうしてですかね、伊地知さん。

 

「じゃあ、みんな待ってるし行こっか!」

「そうだな。じゃあ、ありがとうございました!」

「また遊びに来てくださいね〜!」

 

店長さんに見送られながら店を出ると、先に外に出てたリョウ達がいた。

 

「ぼっちちゃん、お店の人がまた来てくださいねって言ってたよ」

「つ、次は堂々と胸を張って行けるようになっておきます……」

「なんの宣言だよ」

「ひとりちゃん、ギター買えてよかったわね!」

「あっ、はい」

「そういえば楓、そのギターどうしたの?」

「あーこれか、父さんからの誕生日プレゼント」

「へぇ、いいじゃん」

 

This is my new gear……

なんか新しいギターを手に入れるとテンションあがるな。

 

「この後どうする?なんか食べて帰る?」

「あっ、えっと……」

「今日は解散で」

 

なにかを言おうとしたひとりを遮るようにリョウが口を開いた。

 

「なんか用事でもあるの?」

「ぼっちも楓も、早くギター弾きたいでしょ?」

「まぁ、そうだな」

「あっ、はい……」

 

ほんと音楽関連のことになるとしっかりしだすんだよな……いつもそうであって欲しいのだがね。

 

「そうだ、今からスタジオ借りてひとりちゃんのギターお披露目会します?」

「う〜ん、それもいいけど明日みんなで練習するしその時のお楽しみでいいんじゃない?」

「そうですね!」

 

 

どこからか夕方のチャイムがなった。空を見上げればもう夕方の色になっていて、もう陽が短い季節になったのだなと感じさせる。

 

「文化祭も終わったし、次のこととかいろいろ考えないとな〜」

「ですね」

「リョウも新曲よろしくっ!」

「こればかりはインスピレーション待ち」

 

だが、季節が移ったからといって俺が本格的にロックを始めること以外は変わらない。これまで通り次のステージへと進むべく結束バンドの活動は続いていく。

 

夢を追いかけ、荒れた青春の道を駆けていくだけだ。

 

「私に出来ることがあればなんでも言ってくださいね!」

「何でもって言ったね、今」

「はい!」

「じゃあ牛丼奢って」

「すぐ後輩にたかるな。今度作ってやるから」

「だったら材料は全部成○石井で買って」

「普通のスーパーで我慢しろ!あ、喜多ちゃんもこいつの無茶ぶりは無視していいからね?」

 

俺もSICK HACKからサポートのスカウトを受け、今日こうして新しいギターを手に入れた。せっかく次のステージへと進む機会を与えられたのだから、精一杯進まなくちゃいけない。

 

「郁代、こんなやつの言うことなんて聞かなくていい。郁代は私のインスピの為にいっぱい貢いでくれればいいから」

「はい!」

「ちょっ、このクソベーシスト!」

 

 

たった今、俺たちは硬い地面を転がるように夢へ向かって走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────帰宅後。

 

 

 

 

「楓、お母さんから伝言」

「どうした?」

「来週の休校日、家に来てくれだって」

「たぶんあれか」

「うん、あれ」

「料理番のことについてだ」

 

まぁ、千里の道も一歩からというし、目の前のことに一つずつ向き合いながら歩けってことなんだろうな。




次回、2年生編(前編)最終回。

主人公のギターのモデルはこちらです。

モデル:TACTICS JINDAI 30th Anniversary【神代タモ・ジリコテ・サーモメイプル】

高評価、お気に入り登録、感想、ここすきなどしていただけると作者のモチベと筆のスピードが上がるのでぜひお願いします。

高評価くれー!!(承認欲求モンスター)

曲名引用元:ASIAN KANG-FU GENERATION「転がる岩、君に朝が降る」

山田リョウは

  • 恋愛つよつよであるべき
  • 恋愛クソ雑魚であるべき
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。