幼馴染の変人ベーシストの料理番になった件について。   作:かんかんさば

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2年生編前編最終回です。


#34 幼馴染の変人ベーシストの料理番になった件について。

いつもの道を歩いているのに今日は足が重い。

俺の家からリョウの家までは歩いて4、5分ほどかかる。いつもならあっという間に感じるはずなのに、緊張感からなのかどこまでも果てしなく続く道のように感じる。

 

とはいえ、いつもの道であることには変わりなく、そう感じているうちにリョウの家へとたどり着いた。

見るからにわかりやすい豪邸。俺はその豪邸の門にある小さなインターホンを押す。

 

「よく来た、料理番」

「お、お邪魔します……」

 

出迎えてくれたのはリョウだ。見慣れた顔を見るとなんだか安心する。

 

「ふふ……楓、緊張したときのぼっちみたいな顔してる」

「そう見えるのか……」

「うん」

 

どうやら顔に出てるほど俺は緊張しているらしい。

そんな緊張をするのも当然だ。なぜなら俺が今日、リョウの家に来ている理由は──

 

「あら〜楓くん、いらっしゃ〜い!」

「お久しぶりです」

 

──リョウの親に料理番のことを説明するためなのだ。

説明するために訪問すること自体は8月の終わりあたりから話があった。だがなかなか予定が合わず、今日やっと話ができるようになったのだ。

 

「今お茶用意するからそこ座っててね〜」

「はい……」

 

いつかこの日が来るとわかっていたが、いざそうなると身がすくんでしまう。

って、なにを恐れてるんだ。正直に話したほうが楽だろう。まぁ、怒られるような悪いことはしてないし。

 

「はい、どうぞ〜」

「ありがとうございます……」

 

満面の笑みでリョウの母、もとい京香さんは紅茶を差し出してきた。

 

「美味しい……」

「うふふ、その紅茶結構美味しいのよね〜」

「確かに……すごい美味しいです!」

「それに紅茶には緊張をほぐす効果あるのよ〜」

「そうなんですね……!」

 

言われてみればなんか気持ちが楽になったような気がする……!

 

「緊張もほぐれたようだし、早速お話を聞かせてもらおうかしら」

「はい……」

 

まぁそうなりますよね。話すだけ話すか、別に悪いことをしてる訳でもないし。

 

「リョウちゃんが楓くんのことを『料理番』って言ってたのだけど、どういうものなのか具体的に教えてくれる?」

「『料理番』っていうのは……リョウさんにご飯を作るというものでして……」

「ええ、知ってるわ」

 

知ってるんかい。あ、そういえばリョウが話したとか言ってたな。

 

「週何日、一日何食作ってるか教えてくれる?」

「し、週4日から6日で一日に一食のみの日もあれば三食全部作る日もあります……」

「そうなのね。あら、三食ということはリョウちゃんがお家に泊まることもあるということかしら?」

 

なんかすごいズケズケ聞いてくるな。まぁ大切な一人娘が付き合ってもない異性の家に頻繁に行ってるのだからそりゃそうか。

 

「はい、泊まっていくこともありますね」

「それはどのくらいの頻度で?」

「大体2日から3日に一回ぐらいの頻度で泊まっていきますね」

「リョウちゃん、楓くんの言っていることに間違いは無いわね?」

「うん……」

「そうなのね。大体わかったわ」

 

あらかた説明すると、京香さんは黙り込んだ。なにかを考えてるのだろうか。

しばらく経ってから、彼女は口を開けた。

 

「よかった〜!リョウちゃんの面倒を見てくれるのが楓くんで〜!」

「へ?」

「あのね、私薄々このことに勘づいてたの」

「はあ……」

「リョウちゃんが楓くんの名を語るどこの馬の骨かもわからないやつに誑かされてるかと思ってたけど本当に楓くんでよかったわ〜!」

「あ、ありがとうございます……」

 

俺の名を語るどこの馬の骨かもわからないやつがご飯作ってるのかと思ってたのかよ。でも安心してもらえてるし、いいか。

 

「そうだ、せっかくだから楓くんにお昼作ってもらおうかしら」

「はい?」

「料理番のお手並み拝見ってことでね。具材は用意してあるから、お願いね!」

「あっ、はい……」

 

マジか、でも腕の見せ所だしやってやろうじゃないか。

 

京香さんから渡されたのは俺の分も入れて三人分の具材。どうやら作る料理はカルボナーラのようだ

 

まず初めにベーコンを1cmほどの幅にカットして、スパゲッティの袋を開ける。沸騰してるお湯にスパゲッティを入れて4分ほど茹でる。その間にボウルに卵黄、粉チーズを入れて混ぜ、生クリームを加えてさらによく混ぜてソースを作っておく。次にフライパンを中火で熱し、オリーブオイルとベーコンを入れてカリッとするまで炒めて、火を止めたあとに先程のソースを加えてよく馴染ませる。こうすることでベーコンの旨みとソースの旨みがよく混ざるのだ。さらにそこに茹で上がったパスタを加え、再び火をつけて弱めの中火で全体を混ぜながら、とろみがつくまで加熱して火を止めて、塩で味を整える。最後にさらに盛り付けて、粗挽き黒胡椒をふりかけたら完成だ。

 

「お、お待ちどうさまです……」

「ありがとうね〜!」

「うむ、かたじけない」

 

「いただきます」と言って三人でカルボナーラに手をつける。

 

「美味しい……」

 

我ながらとても美味しくてつい声が出てしまう。まぁ渡された具材が全部高級品だからそりゃ美味しく感じるのも当然だが。

 

「とっても美味しいわ〜!」

「楓はこういう美味しいご飯をいつも作ってくれるからありがたい」

「さすがリョウちゃんの料理番なだけあるわね〜!」

 

どうやらリョウはもちろんのこと、京香さんもお気に召したようだ。

 

 

 

その後、食べ終わった後に談笑していると京香さんは急に改まって俺に声を掛けた。

 

「ところで楓くん、一つ質問いいかしら?」

「はい、なんでしょう……?」

「もしかしてなのだけど、君リョウちゃんとお付き合いしてるの?」

「へ?」

「だってご飯作ってお泊まりしてって、完全に恋人同士のそれじゃないの」

「あのですね……その……僕とリョウは付き合ってるとかじゃなく……ただn「ごめん母さん、ちょっと楓と外の空気吸ってくる」おわっ!?」

「あら?」

 

事実を話そうとするもリョウに急に庭へと連れ出された。

 

「ちょっ、何すんだよ!」

「ごめん楓、お母さんには私と付き合ってるって嘘をついてほしい」

「はい?」

 

ちょっと待て、こいつ今とんでもないこと言ったよな!?

いくらなんでもそんな嘘はつけないよ……!

 

「ダメ?」

「そ、そんなのダメに決まってるだろ……」

「どうして」

「どうしてって、これからずっと嘘をつかなきゃいけなくなるんだぞ?そんな事し続けて苦しくないのか?」

「……」

「俺はお前のことを苦しめたくないんだ。それに、俺はお前の彼氏を演じれるほどちゃんとした人間じゃないし……」

 

この嘘はきっと、リョウなりの親の対処法なのだろう。気持ちは十二分にわかる。でも、この方法は今の段階では絶対に違う。

 

「わかった、嘘はつかなくていい」

「ごめんな、気持ちは十分わかってるけど……」

「ううん、楓の言うことが正しい。お母さんのところに戻ろう」

 

庭からリビングへと戻り、京香さんにちゃんと事実を話すことにした。

 

「僕とリョウは付き合ってはいません」

「あら、そうなの?」

「はい、おばさんから見ればそう感じてしまうのもしょうがないですけどね」

「ごめんなさいね、勘違いしちゃって」

 

なぜだか少々心苦しく感じる。だけど事実だからしょうがない。

 

 

またしばらく談笑してから、家に帰ることにした。

 

「今日はありがとうね〜!いろいろお話聞かせてもらって楽しかったわ!」

「いえいえこちらこそ、心配させちゃって……」

「いいのよ〜。あ、リョウちゃん、今日の晩御飯はどうするの?」

「楓の家で食べてくる」

「わかったわ。楓くん、これからもリョウちゃんのこと、料理番としてよろしく頼むわね」

 

親公認か、だったらより一層頑張らなくちゃな。

 

「……はい!」

「そうだ、楓くんに渡しておきたいものがあるんだった。ちょっと待っててね〜」

 

そう言って京香さんは家の中へと入っていき、少しして戻ってきた。そして薄っぺらいなにかを一つ、リョウに見えないように俺に手渡ししてきた。

 

「楓くん、もしもの時は絶対に使ってね?」

「へ?」

 

()()()()()ってなんだよ、と思ったのも束の間。渡されたものからして()()()()()がなんなのかすぐに察した。

 

なぜなら、渡されたものは()()()()()に使うゴムだったからだ。

 

「うふふ……」

 

うふふじゃねぇんだよ、なにサラッとやばいもの娘の友達に渡してんだよ!

 

「……と、とにかく、お、お邪魔しました!」

「ええ、また遊びに来てね」

 

帰り際にとんでもないものを渡されたとはいえ、無事リョウの家を後にすることが出来た。

 

「楓、さっきお母さんから何貰ったの?」

「……あ、あ〜、美味しいパスタのレシピだよ」

「……へぇ、そうだ楓」

「どうした?」

「いつもご飯作ってくれてありがとう」

「どうした急に?」

「別に、たまには感謝を伝えとかないと君もやってらんないでしょ」

「そーですね」

 

上から目線が少し腹立つけど、その分嬉しくも感じる。

 

「まぁこの際だから俺も言っとくか」

「ん?」

「いつもご飯、美味しく食べてくれてありがとう!」

「ふっ、苦しゅうない」

「ほんといつも上からだよな」

「実際私は主人なのだから当然でしょ?」

 

今までこっち側から感謝を伝えることはあんまり無かった。だけど伝えてみると気分いいな。

にしても親にも認めてもらえるとは、ありがたいな。

 

「まぁそうだけど。そうだ、今日の晩御飯は何がいい?」

「カレーで」

「言うと思った。じゃあ今からスーパー行くけど一緒に行くぞ」

「え……」

「せっかくお菓子とかスイーツ買おうと思ったんだけどな……」

「乗った」

「チョロいな」

 

リョウとのこの日々が少しでも長く続いて欲しい。俺はスーパーへと向かう道をリョウと歩く中でそう思った。

 

 

 

 

 

『幼馴染の変人ベーシストの料理番になった件について。』2年生編前編、完。




2年生編(前編)全34話、お読みいただきありがとうございました。

2年生編がスタートしたのが一昨年の3月で、そこから失踪期間、休止期間を経て約1年9ヶ月で前編完結に至りました。

後編以降は結束バンド以外のキャラクターもどんどん出していったり、主人公の過去を描いたりするつもりですので楽しみにしていてください。
さて、次回の更新ですが、早速後編第1話……ではなく、エピグラフ2(劇場総集編Re:Re:の入場特典)ベースのお話を書こうかと思っています。本編はそのお話の後に書くつもりですので、気長に待っていてください。


あと前編完結記念でアンケートを載せたのでよければ回答してってください。


高評価、お気にいり登録、感想、ここすきなどいただけると作者のモチベと筆のスピードがあがるのでぜひお願いします

高評価くれー!!(承認欲求モンスター)

山田リョウは

  • 恋愛つよつよであるべき
  • 恋愛クソ雑魚であるべき
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