幼馴染の変人ベーシストの料理番になった件について。 作:かんかんさば
時系列はだいたい2年生編2話〜3話の間です。
先日の活動報告以降、読者さんから意見をいただいたり、なぜかランキングに載ったりいろいろあって、冷静に考えた結果、もっとちゃんとこの小説に向き合おうと思います。
ですので、先日の活動報告での発言は撤回させていただきます。ほんと自分勝手で申し訳ないですが、今後ともこの作品、そして作者をよろしくお願いします。
#劇場総集編公開記念番外編 映画を見に行こう
───ピロリン!
『見たい映画あるから一緒に行こう。10時に駅に来て』
ロインの通知音で目が覚める。眠い目を擦りながらメッセージの主を確認する。リョウだ。
『寝起きに誘ってくんな』
『私のモーニングロインの価値は高いよ』
『そんなの知るか』
ロインを閉じて時間を確認する。今は午前9時。朝飯を食べた後に急いで支度すれば間に合うだろう。
今日はバイトが休みだから家でゆっくり羽を伸ばそうかと思ったが、こういう休日もいいだろう。
俺は『まぁいいや、映画行こうぜ』と返事を打って朝飯を作り始めた。
遅い。あいつ10時に駅に来いって言ったくせにもうとっくに10時過ぎてるんだけど。
急いで支度をして駅に向かったはいいものの、待ちぼうけ。今は10時40分をちょうど回ったあたり。駅には9時50分頃に着いたからかれこれ50分ほど待たされている。まぁ、女の子の身支度には時間が掛かるってよく言うし、しょうがないか。
「おまたせ。結構待ったでしょ」
スマホを見ていると何食わぬ顔をしたリョウがやってきた。
「いや全然。ってかこれ間に合うの?」
「11時45分の回を見に行くつもりだったから多分大丈夫」
もう急がないとじゃないですかやだー。
「まぁとりあえず行こうか。このままだと間に合わなくなる」
「うん」
スマホで電車の時間を確認し、改札を通る。次の快速急行に乗れば間に合うだろう。そう確信し、地下二階のホームへと降りる。
「そういえば今日は何を見に行くの?」
「不殺の刃。この前完結編が公開されたからそれを見る」
「お、ちょうど見たいって思ってたヤツだ」
「それならよかった......」
なんだか今日のリョウ、服はいつもより少し可愛げだし顔が赤い。それになんだかソワソワしてる。別に変人ぶりを指摘したわけでもないし。なんでだろう、これがわからない。
「楓、置いてくよ?」
「ああ、ごめんごめん」
リョウにジト目で注意され、俺は彼女に続く形で電車へと乗り込んだ。
「ところでなんで俺だけなんだ?虹夏とか喜多ちゃんも誘えばよかったのに」
「虹夏は店長と出かけてるし郁代は連絡先知らない」
虹夏はしょうがないとして、喜多ちゃんの連絡先知らないって、それでも同じバンド仲間なのか?
2人の名前を出すとリョウは少し不機嫌そうな顔をし始めた。
新宿の映画館に着いたのは11時を少しすぎた辺り。まだ時間に余裕があるとはいえ、ポップコーンを買う人の列に並ぶことを考えると意外と余裕は無さそうだ。
「とりあえずチケットは発見できたからいいとして、ポップコーンどうする?」
「ポップコーンはL一択。ドリンクはちょうどペアのセットがあったからそれを買おう」
今日のリョウ、やけに積極的だな......。
買うものを決めた俺たちは列に並ぶ。ゴールデンウィークということもあってか、そこそこ長めの列だが、話しているうちにあっという間に先頭になった。
「ご注文どうぞ〜」
「ポップコーンのLとペアドリンクセットで」
「味はいかがなさいますか?」
「リョウ、何にする?」
「塩味で」
「ドリンクの方はいかがなさいますか?」
「あ、コーラで」
「私はレモンティーで」
「かしこまりました〜。合計で1500円になります」
注文を伝え、代金を支払うと、スタッフの人はスコップのようなものでポップコーンを掬って容器に入れる。もう1人のスタッフさんがあっという間にカップにドリンクを注ぐ。俺もバイトであんな風に手際よくサッとドリンクを作りたいな......。
「はい、ポップコーンの塩味Lとコーラとレモンティーです〜。お2人とも、映画楽しんできて下さいね〜」
「あ、ありがとうございます!」
スタッフさんは笑顔でポップコーンとドリンクを渡してきた。この感じの接客、勉強になるな......。
「うむ、やはり映画館のポップコーンは絶品」
「おい、俺の分も取っとけよ?」
「考えとく」
ポップコーンをむしゃむしゃと食べるリョウを見ながら、俺はスマホで時計を確認する。入場時間はだいたい10〜15分前と考えるとそろそろアナウンスが入るだろう。
「入場開始のご案内です、シアター9番。不殺の刃the finalは、ただいま入場開始となりました。ご鑑賞になるお客様はチケットを用意してゲートへお進み下さい」
入場開始のアナウンスがなり、リョウからチケットを受け取りゲートへと進む。チケットを見せると入場特典を受け取った。ノベルティのメタリックなキーホルダー、当然ながらリョウとはお揃いだ。座席に座るとリョウは目を輝かせ、嬉しそうにそれを眺めている。
「おそろいなのがそんなに嬉しいのか?それ俺どころかここにいる人全員とおそろいになるけど」
「楓はわかってない。むむ、このメタリックな感じ、もしやレアなのでは......?」
この映画の入場特典にレアバージョンがあるかどうか、スマホで調べてみる。レアバージョンなんてものは無かったが、せっかく上機嫌なのだし、言わないでおいてあげよう。
しばらく広告や新作映画の予告が流れた後、いよいよ本編の上映が始まった。この不殺の刃の魅力はなんといってもアクションシーン。スタントやCGを使わず、キャスト本人が生身で演じることによって生み出される迫力感はたまらない。
主人公が襲いかかってくる敵をバッタバッタとなぎ倒していく。そんな主人公の剣捌きを見ていると、ポップコーンを食べる手が止まらなくなってしまう。そしてポップコーンで水分を持ってかれた喉をコーラで潤す。全く、映画館で食べるポップコーンと飲むコーラは格別だ。横目でチラッとリョウを見てみる。彼女もまた、ポップコーンを食べる手が止まらなくなっていた。
終盤に差し掛かり、主人公とラスボスの直接対決が始まった。ただでさえ序盤から鮮やかだった戦闘シーンがより一層熱気が増し、さらにポップコーンを食べすすめる。そこにコーラで爽快感に浸っt......あれ?コーラってこんなレモンっぽい味だったっけ?
そんな映画の内容と1mmも関係ない疑問を頭の片隅に置いたまま、映画は幕を閉じた。
「いやぁ、面白かったな」
「うん、主人公が放った必殺の一撃はかっこよかった」
「だよな!あの一撃に全てをかけるって感じ、マジでかっこいいよな」
スクリーンを出て2人で映画の感想を語り合う。趣味が合うからこそ話はどんどん弾んでいく。
話しているうちにコーラがレモンっぽい味に変わっていたことを思い出し、リョウに話してみることにした。
「そういえば、途中から俺が飲んでたコーラの味がさ、レモン味っぽくなったんだよな」
「私はレモンティーが途中からコーラみたいになってた」
ん?途中からコーラみたいになってた?
ってことはお互いに飲み物取り違えて飲んじゃってたってことになるよな......。
ってことはま、ままままさか、俺はリョウと間接キスしちゃってたって事か!?
「どうしたの楓、顔赤いよ?」
一瞬後ろを向いてスマホの内カメを起動して自分の顔を写す。画面に映る俺の顔は頬が赤く染っていた。
「い、いや、もしかしてだけどさ、俺とお前、互いに飲み物を取り違えてたんじゃ......」
恐る恐る、リョウに取り違えてしまっていたかもしれないことを伝えてみる。すると、彼女はみるみる頬を赤く染めていく。少々気まずいような、恥ずかしいような、そんな雰囲気が二人の間を走る。
まずい、なんか話さなきゃな......。
「ま、まぁ、こんな些細な失敗なんてだ、誰にもあるし、気にせず行こうよ......」
「......うん」
なにこの間、怖いんですけど。
結局、しばらく気まずい雰囲気のまま遅めの昼ごはんを食べ、映画鑑賞は幕を閉じたのだった。
◇
今日は楓と新宿に映画を見に行った。今はその戦果を電話で虹夏に報告している。
『どうだった?楓とのデート』
『楽しかった』
バイトが休みの日突然誘っても乗ってくれたし、服選びに時間がかかって遅れたのに全然怒ってなかった。楓のそういう優しいところはいつ感じても好きという言葉しか出てこない。でも、電車で移動する時に他の子の名前を出したのは少し嫌だったな......。
それもきっと彼なりの優しさなんだろうけど、できる限り私を見ていて欲しい。
『そういえば虹夏は店長とどこ行ってたの?』
『あ〜、あたし達も映画見に行ってたんだよね〜』
『もしかして不殺の刃?』
『ううん、「愛し愛され、振り振られ」っていう恋愛映画。あたしもお姉ちゃんも感動してすごい泣いてたんだよねぇ〜』
毎回思うけどなんでこの姉妹は手のかかった自爆をしに行くんだろう。
『そうそう!そういえば見てる途中でさ〜、あたし、間違えてお姉ちゃんのりんごジュース飲んじゃったんだよね〜』
『へぇ〜......って、あ』
『ん?どうかした?』
虹夏のエピソードを聞いて、私は昼間の出来事を思い出す。昼間、私は見ていた映画のアクションシーンに虜になっていた。初めのうちはそれを肴にポップコーンとレモンティーを飲んでいた。しかし、途中から間違えて楓のコーラを飲んでしまっていた。そう、私は楓と間接キスをしてしまっていたのだ。気づいたのは映画が終わってから。彼が飲み物を取り違えていたかもしれない事を私に伝えたところで気づいた。その時の彼の顔は真っ赤に染まっていた。
そんな出来事を虹夏にそのまま伝えてみる。
『えぇ〜!?間接キスしちゃったの?』
『うん......』
『なんかすっごいキュンキュンしちゃうなぁ〜』
客観的に見ればそうなんだろうけど当事者からすればそんな感情は出てこない。
しばらく虹夏とガールズトークをした後、電話を切り、寝っ転がりながら今日の出来事を思い返す。今日の楓、なんやかんやですごい楽しそうだったな......。
──ピロピロリン!
思い返しているとロインの通知音がなった。相手は楓。期待と不安が半々。そんな感情を抱きながら私は内容を見る。
『今日は楽しかった。また一緒に映画見に行こうぜ』
"また見に行こう"、楓のその言葉に私はとてつもなく嬉しく思った。そして、今度はどんな映画を彼と見に行こうか、なんてことを考えていることに耽るゴールデンウィークの夕方だった。
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高評価くれー!!(承認欲求モンスター)
山田リョウは
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恋愛つよつよであるべき
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恋愛クソ雑魚であるべき