幼馴染の変人ベーシストの料理番になった件について。 作:かんかんさば
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今回の話は前編後編で分かれます。
#5 はむきたす脱退事件(前編)
「そういえば最近バンド...はむきたす?のほうはどうなんだ?」
「確かに。はむきたすどういう曲とかやってるの?」
「...最近は売れ線のアーティストの曲をオマージュしたような歌詞が入ってる曲とかそんなの」
虹夏とリョウが家にパエリアを食べに来たとき、バンド活動について聞くとリョウは少し間を空けてから答えた。そしてその後暗い表情をしていたリョウに俺はモヤモヤとした違和感を抱き、あれから2週間ほど経った今でもその違和感は消えていなかった。
あの日の夜、俺は虹夏にロインを入れ、リョウの暗い表情について話した。
『さっきのリョウのあの暗い表情、なんか引っかかっるよな』
『だよね。あそこまで暗い表情なんてあまり見ないし...バンドでなんかあったのかな?』
『もしかしたらリョウにバンドのこと聞くのってタブーなんじゃ...』
『やっぱりそう思う? 』
『なんて言うんだろう...聞かないで欲しいってオーラがしててそれでなんかタブーっぽく感じたんだよ。でもライブ見に来てって言ってたから違う気もするんだよね』
『うーん...しばらく聞かないようにしておくか』
『そうしよう。おやすみ』
『おやすみ』
違和感は虹夏も感じていたみたいで、俺は自分だけじゃなかったと少し安堵した。
◇
数日後。
俺は虹夏とリョウの対バンライブを見に行くために近所のライブハウスへと足を運んだ。
対バンライブということもあってか、会場にはたくさんのお客さんがいる。
「なんか思ってたより人多いなこれ」
「リョウのバンドってこんなに人気だったんだ……」
ドリンクを買ってちょうどいい感じの場所に陣取る。
周りにははむきたすのファンであろう人がたくさんいる。
「はぁはぁ…… 夢小説のネタを早く……!」
「あ〜、はむきたすの演奏早く始まらないかな〜! リョウ様のベースで早く身も心もドロドロになりたい……」
嘘でしょ。あいつのファンってこんなやばい連中しかいないのか?
リョウのファンに困惑しているうちに対バンライブが始まった。
どのバンドの演奏も会場を大いに盛り上げた。そしてはむきたすの出番がやってきた。
「ぽっぷこーんの皆さまありがとうございました〜! 続いてはみなさんお待ちかね、ざ・はむきたすの登場で〜す!!」
「こんにちは〜!!ざ・はむきたすで〜す! 」
恐らくリーダーであろう人が順番に紹介していく。
「最後にベースのリョウ!」
「どうも……」
リーダーからの紹介にもいつものようにマイペースで、何を考えてるか分からないような表情を浮かべてリョウは言葉を発する。
こういうところでも緊張しないのは羨ましい。
メンバーの紹介が終わると早速一曲目の演奏が始まった。
この曲ははむきたすのオリジナルソング。
初めて聞いてみたけど最近の売れっ子バンドの曲を意識しているのか、耳に残りやすい感じの曲だ。
楽しげに、観客を盛り上げるように演奏する他のメンバーをよそにリョウは少しだけ暗いような顔をしていた。いや、切ないというか悲しそうなというかとにかく楽しそうとはとても言えない表情を浮かべていた。
そしてはむきたすの出番が終わるまでその顔が変わることは無かった。
◇
「へぇ〜リョウちゃんにそんなことが」
「そう、それで話を聞きに来たんだよ」
土曜日、俺は八丁堀にある姉の家に来ていた。
なぜロインで済むことをわざわざ家に行ってまでするのかというと、はむきたすの対バンライブに行ったその日の夜、バンドの事情に詳しいだろうと思い、元バンドマンの姉にロインをした。
『突然で申し訳ないんだけどさ、バンドでよくあるいざこざってどんなのがある?』
『急にどうしたのよ。まあ、色々あるけど』
『例えば?』
『うーん...多すぎて時間かかりそうだし、今度家に来なよ。じっくり話した方がわかりやすそうだし』
と絶対取材帰りで文字打つのがめんどくさいからという理由が伝わってくるかのように日を改めて家に来るように言われ、今に至る。
「あんた今、少し失礼なこと考えたでしょ」
「いや、なんも。ってか早く教えてよ、バンドでよくあるいざこざ」
「あー、例えば音楽の方向性の違いとか?ポップ路線でいこうとするバンドの中にロックが好きなメンバーがいるとバンドの中で亀裂が生じるのはよくある話だよ」
「確かに。バンドが解散するってなった時の話でよく聞くかも」
方向性の違い...でもあいつ前に髭男の曲を引いてた時は別に嫌そうな顔はしてなかった気がする。これが理由では無さそうだ。
「他には色恋沙汰?メンバーで三角関係があったりすると揉める原因にはなるね。あ、あんたには関係ないか」
「うっせ」
色恋沙汰...リョウに彼氏出来るわけないか☆
「え?虹夏やリョウに恋愛感情を抱かないの?」って思ったそこの君、俺はあの2人を幼馴染として見てる。友人としての好きはもちろんあるが、異性としてのそれは全くない。
いいか?全くないからな?
「あと...あれだ。売れることを意識しすぎでギスギスしてそのまま解散とか。若干方向性の違いと似てるとこもあるけど私も大学の頃後輩ちゃんのバンドがそんなことで解散してたなぁ」
「あーね、うーん…… どうなんだろ……」
結局分からず終いだった。
「ところでなんで楓が悩んでるわけでもないのにこの話したの?あっ、もしかしてアンタリョウちゃんのこと好きなn...」
「ちっ、ちげぇよ。凄い暗い顔をしてて少し心配になっただけ。それに虹夏も俺と同じ理由で星歌さんにある程度は聞いてるってよ」
「へぇ〜、虹夏ちゃん星歌パイセンにも聞いてるんだね。あっ、そうだこれお土産なんだけど星歌パイセンにも渡しといてくれない?今日バイトでしょ」
「あ、ありがと。話聞いてくれて助かったわ。じゃあね」
「あ〜い。恋人とっとと作れよ〜」
「黙れ!アラサー独身女!」
「まだ24だ!」
全く、あっちも独身で「独身を謳歌してやる!」とか言ってるくせに俺には恋人を作れとかなんなんだろうか。
何か俺や虹夏が力になれることはあるだろうか。俺は下北沢へと向かう途中の電車の中で考えていた。
〜〜⏰〜〜
「お疲れ様で〜す。あ、店長、これ姉からの土産です」
「お、ありがとな」
姉の家からバイト先のスターリーに直行し、星歌さんに姉のお土産を渡す。
ちなみにお土産の内容は広島のもみじ饅頭。厳島神社の取材の帰りに買ってきてくれたらしい。姉のお土産選びのセンスは尊敬できる。
「じゃあ、早速仕事だ。そろそろドリンクサーバーの詰め替えが来るから来たら受け取ってそのまま中身補充しといて」
「了解っす」
ドリンクサーバーの詰め替えを受け取るため、階段を昇って外に出る。
空を見ると今にも一雨降り出しそうなどんよりとした空模様をしていた。午前中、八丁堀に行ってた時は珍しい梅雨晴れをしていたからか俺は少し不穏な空気を感じながら詰め替えの到着を待つ。
「あっ、お待たせしました〜。こちらご注文いただいたサーバーの詰め替えになります。サインの方を」
「はい...あっ、どうぞ」
「ありがとうございます!こちら結構重いので気をつけて運んでください」
「はい...あ、ありがとうございました〜」
下まで運んでくれないのね。
にしても困ったものだ。詰め替えが入っているダンボールは2つあるのだが、1つ持つだけでもかなり重い。
別に運べなくはないのだが階段を登ったり降りたりするのはめんどくさい。
「手伝おっか?」
「おわっ? って虹夏か。あ〜、1つ頼むわ」
どう運ぼうか考えていると虹夏が来た。
女子に手伝わせるのはなんだか申し訳ないが、手伝うと言ってくれてるし手伝ってもらおう。
「よいしょっと。やっぱ中身が飲み物ってだけあって結構重い...虹夏これ持てるか?」
「うんしょっ。いや?全然持てるけど」
「やっぱドラマーって筋肉つくんだな」
「ま、まぁ、そりゃそうだけど……」
ドラムやってるとそのうちボディビルの大会とかに出て丸太でドラム叩くパフォーマンスとか出来るようになるのかな。
「ちょっと失礼なこと考えてない? ほら、早く運ぶよ」
「は〜い」
虹夏とともに詰め替えを中へ運ぶ。
中に入ると、奥の楽屋からギターとベースの軽快なサウンドが聞こえてきた。今日の出演者さん達が演奏しているのだろう。息のあった演奏に聞いているこちらも惹かれてくる。
「おい、仕事中だぞ。あとでたっぷり聞けるんだから今は仕事に集中しろ」
「すいません」
曲の合わせに耳を傾ける前にまずは自分の仕事に集中しなくちゃな。
〜〜⏰〜〜
「飛翔たいたら戻らないと言って〜♪目指したのは蒼い蒼いあの空〜♪」
ライブが始まるといよいよ業務は本格的に忙しくなる。といっても忙しいのは1組目から3組目までの話で、4組目以降はお客さんはもちろん沢山いるが、カウンター業務は落ち着いてくる。
「いや〜あのバンドいいよね〜。カバー曲を歌う時も元の曲の良さを殺さずに自分たちなりの表現もだせて」
「わかる。カバーもいいけどオリジナル曲もなんか聞いてる人の心をガシッと掴むような感じがいいんだよな」
「あっ、そうだ! ねぇ、楓。バンドとかって興味ない?」
「どした?急に」
「あのね、最近文化祭に向けてバンド組みたいな〜って思っててさ」
虹夏の突然の提案に俺は驚く。正直姉のバンド活動とかを見てバンドには憧れを抱いていたし、やってみるか。
「いいよ。でもやるとなれば必然的にリョウも誘うことになるけどどうすんの?」
「たは〜。そういえば今リョウにバンド関連の話するのタブーっぽいしね……」
「まあ、その話があいつのタブーじゃなくなったら誘ってみるか?文化祭ってだいぶ先だし」
文化祭に向けてバンドを組もうとなったのはいいが、リョウがバンドのことで何かしら悩んでる今、迂闊にリョウをバンドに誘うとかえってリョウの機嫌を損ねてしまうだろう。
「伊織さんに聞いてなんかあった?暗い顔の理由に近そうなの」
「ううん、結局分からず終まいだった。そっちは?」
「私も。お姉ちゃん『あいつのことはわからない』って」
「そっかぁ。まあ、何かあればその時は力になってあげようよ」
「そうだね」
虹夏も分からなかったとは驚いた。意外と分かったりしてなんて思っていたが、そう簡単では無いようだ。
「あとは私達でなんとかするから2人とも今日は上がれ」
「「はい!お疲れ様でした〜」」
バイトを上がり、スターリーを出て家に向かう。
スマホで時間を確認すると20時を過ぎていた。今から買い物に行くには遅すぎるし、今日は家にある材料で作ろうと思っていたら、ぽつりと雨が降ってきた。
傘を持っていなかったため、急いで走る。幸いスターリーから家までは走って2分くらいなのでそこまでビッショビショには濡れないだろう。
家に帰り、スマホを見るとリョウからロインが来ていた。
『今日は遅くなる。8時半くらいにそっち行くから』
さっきスターリーを出るときにはまだ通知がきていなかった。トーク画面を見ると送信時刻が7時半くらいと書いていることから、遅延があったのだろう。
冷えた体を温めるため、シャワーに入る。
ドリンクサーバーの詰め替えを受け取るときに見た雲に感じた不穏な空気。今雨が降っているからか、その不穏な感じがより一層強まっていく。
シャワーを出てルームウェアに着替え、リョウに食べさせる料理を作る。
ゴロロン!ゴロロン!と鳴り響く雷鳴が雨が降っているだけの静かな雰囲気を切り裂く。
まるでこれから起こる何かを暗示しているかのような感覚。
そして8時半を過ぎても一向にリョウが来ないことが追い打ちをかけるようにさらにその感覚を強めていった。
その感覚による不安に包まれているとドアチャイムがなった。
恐る恐る玄関を開けるとそこには
雨に打たれてビショビショになり、先日よりも暗い顔をしたリョウが立っていた。
稲光に照らされているその顔はやりきれない思い、喪失感、虚無感の3つが漂っていた。
「お腹...空いた。ご飯...作って」
暗く悲しく、今にも涙が溢れ出しそうな顔をしたリョウを──
「分かった。風邪ひく前に早く上がれよ」
ただいつものように家に受け入れた。
そして、この夜は長くなるかもしれない、そう感じたのだった。
後編はかなりシリアスな展開になりそうです。
高評価、感想、アドバイスなどをして頂けると作者のモチベと筆のスピードが上がるので是非お願いします。
現在は評価バーをオレンジか赤で埋めることを目標にしています。
☆8や☆9、☆10くださいお願いします(高評価乞食)
タイトル変更は
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してもいい
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しなくてもいい