幼馴染の変人ベーシストの料理番になった件について。 作:かんかんさば
あとがきにお知らせがあるので本編を読み終わったらご一読お願いします
9月18日。
今日はリョウの誕生日だ。
「ふっふっふっ、この私を盛大に祝うといい......!」
そして一年で一番彼女が傲慢で厚かましくなる日でもある。
例年なら彼女は朝から家族に盛大に祝われているはずなのだが───
「あのなぁ、リョウ」
「ん?」
「なんでせっかくの誕生日なのに朝から俺の家でダラダラしてるんだよ」
──なぜか朝から俺の家でくつろいでいる。
リョウが朝から家にいることはもう慣れたものだが、なにも自分の誕生日までそうすることは無いだろう。
「なにか問題でも?」と言わんばかりの表情でしばらくこちらを見つめた後、ここにいる理由を答えた。
「今年は親が奇跡的に仕事だったからここに来た。それに親からは昨日うざいくらいに祝われたし」
「あっ、そう……」
理由を聞くとなんだか納得できてしまう。医療従事者がいくら最愛の娘の誕生日だからといえど休むなんてことはあってはならないのだ。
「あと」
「あと?」
「朝から17歳になりたての私を拝めて楓も嬉しいでしょ?いや、嬉しいはず」
「……」
17歳になってもその傲慢でちょっとうざい態度は相変わらずと言うわけですね、はい。
「それで、お祝いは?」
「え?」
「お祝い、用意してるんでしょ?早く出して」
ドヤ顔でプレゼントをねだるようにリョウは右手を出してきた。
そうなるだろうと思って予めプレゼントは用意しておいた。それはリョウの期待におそらく答えることが出来るであろうものだ。
「取ってくるからちょっと待ってろ」
俺はそう言って2階の自室にプレゼントを取りに行……
あれ?ない。嘘でしょ、ないんだけど!?
通販で頼んで昨日の夕方には届くようにしていたはずなのに無いぞ。
とりあえずスマホで確認してみよう。もしかしたらポスト配送にしてて届いたことに気づいてないかもしれないだけだしな。
【お届け日:2022年9月18日 16:30頃】
はい、終わったわ。
なんで幼なじみに渡すプレゼントの配送日を一日間違えるんだよ。
てかまずいぞこれ。
プレゼントの配送日を一日間違えてましたなんて言ったら100%機嫌を損ねてしまう……
誕生日の朝からこんな目に逢うのはなんか可哀想だな。いや、配送日を間違えた俺が悪い。ここは正直に話してしっかり謝らなければな。
俺は重い足取りでリビングに戻り、リョウにプレゼントがまだ届いていないことを正直に伝え、謝る。
「あの……リョウさん……」
「ん?」
「その……プレゼントなんですが……まだ届いてなくて……」
「なんで?」
「その……昨日の夕方に届くようにしていたはずが間違えて今日の夕方に届くようにしちゃいまして……」
「へぇ」
いつもの無表情で「へぇ」なんて言わないでよ。めちゃくちゃ怖いんだけど。
「楓」
「はい」
「用意はしてるんだよね?」
「はいもちろんです」
「よろしい」
「へ?」
「用意してるんだったらそれでいい。用意をしてくれてるのに責めたりなんかしない」
怒られると思ってたのも杞憂だったみたいだ。
「でも……せっかくの誕生日なのに俺のミスでこんな目に合わせちゃったからせめて何か罪滅ぼしでもさせてもらえないか?」
「罪滅ぼしね、じゃあ……」
「じゃあ?」
「今日一日私を色んなところに連れてって」
そう言って彼女はスマホで色んな場所の写真を見せてきた。
学校の近くにある穴場のカレー店、等々力にある渓谷。そして鶴見の工業地帯。
「行きたい場所ややりたいことが沢山あるから。楓にはそれに付き合ってもらう。もちろんご飯とかは奢ってね」
「あ、はい……」
奢るのは確定なんですね。まぁ、今日ばっかりは仕方ないか。
今日は夕方から虹夏の家でリョウの誕生日会があって、それ以外に予定は無い。
きっかけがアレだがせっかくの機会だ。今日はリョウの行きたいところに連れてってあげよう。
あれ?これってもしやデートじゃね?
いやいや、罪滅ぼしだから。そんなこと考えるんじゃないぞ、俺。
支度をして家を出て、最初にやってきたのは学校の近くにあるカレー屋さん。
お昼を食べるには少々早いのではと思ったが、今日の行程や夕方からの誕生日会のことを考えると早めに昼を食べていた方がいいだろう。
「ウマイカレー(通称)」という名前のこの店は初見ではなかなか見つけづらく、所謂穴場という感じのお店だ。実際に行ってみると本当にすぐには見つからず、探すのに10分ほどかかった。
中に入り、お冷を受け取ってメニューを受け取りそれを眺める。
どれも魅力的なメニューばかりだが、俺が気になったのは抹茶カレーというものだ。
なんだか面白そうなカレーだなと思い俺は店員さんにそれを注文してみることにした。
「すみません、この新茶チキンってのを一つお願いします」
「あ、新茶チキンは他のカレーとセットでの販売をしてまして、他のカレーと二つか四つかセットでご注文ください」
もう一回メニューを見て、もう三種類カレーを選んで店員さんに注文した。
カレー四つのセットで1800円。お値段的にはまぁ妥当だが、なんとご飯のおかわりが自由なんだそう。そう考えると1800円という値段は実は安い方なのではと思う。
リョウと一緒にカレーを注文し、しばらくするとカレーがでてきた。
楕円形の銀皿に堂々と乗っている白飯と、丸い銀皿に乗った四つのお椀の中に入っているカレー。
さっそくスプーンで新茶チキンを掬ってご飯と一緒に食べてみる。
カレーのスパイスとチキンの旨味にお茶のさわやかなほろ苦さが合っていてとても美味しい。
他の三種類のカレーも一つずつ順番に食べてみるがそれらもとても美味しい。特にとんこつポークカレーは絶品だ。
熟成された豚骨スープに重厚なスパイスが合わさっていてご飯がどんどん進む。
「楓、私の一口あげるから楓のどれか一口頂戴」
「じゃあこの新茶チキンってやつでいいか?」
「うん、それで。なら私は鮭カレーあげる」
互いに頼んだ小鉢を一口ずつ交換してみることにした。
え、間接キスになるじゃないかって?
新茶チキンはまだ一口しか食べてないしリョウも鮭カレーはまだ一口しか食べてないから別に平気だ。
それに5月のアレは意図せずして起こったものであって別にこういうのじゃそんなことは気にしないのだ。
交換した鮭カレーを口に運んでみる。
鮭のペーストで出来たソースに鮭のほぐし身をふんだんに使った具。これでもかというくらい鮭に溢れているがこのカレーだ。
鮭の塩味にココナッツやコリアンダー、黒胡椒などのスパイスが合わさっていてとても美味しい。
「この新茶チキン、美味しい……」
どうやらリョウも新茶チキンはお気に召したようだ。
「それはよかった。にしてもお前本当美味そうに食うよな」
「人の金で食べるカレーは美味しいからね!」
いつものダウナーが嘘みたいにウキウキな様子でカレーを食べ進めていく。
少しイラッとするが、今日だけは彼女の立ち振る舞い全てに寛容でいてあげよう。
「では3000円ちょうどお預かりします。ありがとうございました〜」
高校生にしては少し値が張ったけど貯金に余裕はあるし、たまにはこういう使い道もありかもしれないな。
カレーを食べ終え、下北沢駅から電車に乗り、次に向かったのは等々力渓谷。
渋谷から電車で15分、東急大井町線等々力駅の近くにあるこの場所は、東京二十三区唯一の渓谷で、訪れてみるとさっきまで都会の街並みの中にいたのがまるで嘘のように感じられる自然豊かな場所だ。
「相変わらず不思議な場所だな……」
「この不思議感がクセになる……」
ここにはちっちゃい頃何度か水遊びをしに行ったことがある。よくビッショビショになって親に怒られてたっけな。
「ワハハっ、それ〜っ!!」
幼い頃の思い出を思い返していると小さな子供が水遊びをしていた。
今日は日曜日ということもあってか、家族連れがチラホラいる。
いいな、家族と遊べるなんて羨ましいよ。最後に家族5人揃ったのいつだったっけ?たしか小学「えい」は?
「ちょっ、何すんだよ」
「あんまりにも隙だらけだったからつい」
いつの間にか靴を脱いで、川に入っていたリョウに水をかけられた。今日は寛容でいてあげようとは思ったけど、やられっぱなしも癪だな。
「やりやがったなこの!」
「まさかやり返してくるとは……ふふっ、おりゃっ!」
「おわっ!」
まさか高二にもなって水遊び、しかも水のかけあいをするとは思わなかったが、意外と楽しかったりもするもんなんだな。
少々濡れた顔をタオルで拭き、靴下を履いて俺たちは等々力渓谷を後にした。
水遊びで服がほとんど濡れなかったのはラッキーだったな。
等々力駅から電車を乗り継いで一時間。次にやってきたのはJR鶴見線海芝浦駅。
関東の駅百選にも選ばれているこの駅は神奈川県内でも有数の秘境駅だ。都心から電車で30分ほどの位置にあるこの駅が秘境駅と言われる理由はその構造にある。
「ここ降りられないんだな」
「まぁね」
この駅は会社の工場の敷地内にあり、そこの関係者でないと降りることが出来ないのだ。しかし、この海芝浦駅を利用する客は工場の関係者だけじゃない。
海芝浦駅の隣には海芝公園という公園があり、東京湾が一望できるということで小学校の写生の授業で使われているほか、女性やカップル・家族連れなどの観光客にも人気だ。
ホームの先にある小さな門を通り、海芝公園に足を踏み入れてみる。
辺りを見渡すと広がるのは東京湾と京浜工業地帯の工場、そして水辺を飛ぶ鳥たちが織り成す綺麗な景色だった。
江ノ島で見たテンションがあがるようなあの綺麗な海とはまた違う、時間を忘れていつまでもボーッと眺めていたくなるような、そんな景色だ。
「みて楓」
「ん?」
「あの雲、虹夏の頭の三角のやつみたい」
「ほんとだ。あ、あの雲はクジラみたい」
ベンチに座って、空に浮かぶ雲を何かにたとえながら雑談を一時間ほどしていると、あっという間に西日が差すようになった。
「そろそろ帰るか」
「そうだね。ケーキが待ってる」
簡易改札機で処理をして電車に乗り込む。
短い三両編成の列車に揺られながら工業地帯を通り、鶴見駅へと戻っていく。
リョウは疲れてしまったのか、隣の新芝浦駅に着く頃には眠りに落ちてしまっていた。
電車を乗り換える度に起こすのを繰り返すこと一時間二十分。俺とリョウは無事下北沢に戻ることが出来た。
家でプレゼントを回収し、虹夏の家に向かう。
本当は今日のプチ旅行は虹夏も誘ってみたかったのだが彼女は今日バイトだったため、断念した。
「おじゃましま〜す」
「おじゃまします」
「二人ともいらっしゃ〜い!そろそろご飯できるから手洗って席ついてて!」
ドアを開けると虹夏が満面の笑みで待ち構えていた。
リビングに入るとリョウの好物のカレーや唐揚げ、ポテトサラダ、フライドポテトといった定番のパーティー料理が食卓に並べられていた。
「そういえば昼もカレーだったけど大丈夫なのか?」
「え、お昼カレーだったの?あ〜ごめん!」
「別にカレーは食べてて飽きないから大丈夫。それにお店の味も好きだけど虹夏と楓が作る家庭的な味も好き」
「あ、ありがと……」
「も〜褒められると作りがいがあるなぁ〜!ほらたーんと食え!」
サラッと褒められたけどなんだか嬉しいな。
しばらくして、オーブンで焼かれていたであろうピザが出てきていよいよ準備は整った。
「それじゃあ」
「「リョウ、お誕生日おめでと〜う!!」」
虹夏の合図とともにクラッカーを鳴らし、リョウの17歳の誕生日を祝う誕生日会が始まった。
さっそく虹夏が作った料理を口に運ぶ。
程よく胡椒が効いたポテトサラダにサクッとジューシーに揚がった唐揚げにフライドポテト。どれもとても美味しい。
「うむ、美味い」
主役もご満悦のようだ。
雑談しながら料理を平らげると、虹夏は部屋の明かりを最小限になるまで消した。そして、冷蔵庫からバースデーケーキを取り出した。
「火付けて」と虹夏に小声で言われ、俺はポケットからライターを取り出してロウソクに火をつけた。
「「ハッピバースデートゥーユー、ハッピバースデートゥーユー!ハッピバースデーディアリョ〜ウ!ハッピバースデートゥーユー!!」」
そしてケーキをリョウの目の前に置くと、彼女はふうっと息をふきかけ、火を消した。
「おめでと〜!」
「おめでと。あ、そうだプレゼント!」
「そうだった!」
カバンに入れておいたプレゼントが入った小袋を取り出す。
虹夏も用意したプレゼントを持ってきたところで二人一緒にリョウにプレゼントを渡した。
「開けていい?」
「もちろん!」
まず最初にリョウが開けたのは虹夏からのプレゼント。中身はリョウに似合ったキレイめなデザインの爪切りセット。
ベーシストはタッピングやスラップなどで指を結構使うのでリョウにはピッタリの品物だ。
「じゃあ次は私をまたせた楓からのやつを開けよう」
「え、どういうこと?」
「届く日を一日間違えたんだよ……」
「おい」
本当に申し訳ない。来年は気をつけます。
「おお、これは……!」
小包を開けてプレゼントの中身を確認し、驚くリョウ。
俺が渡したのは高性能のワイヤレスイヤホンとイヤープラグ。
ワイヤレスイヤホンは音楽をよく聞くリョウにピッタリだと思うし、せっかくならいい音質で聞いて欲しいと思い選んだ。そしてイヤープラグは大きすぎる雑音から耳を守る高性能の耳栓だ。
轟音で耳を痛めてしまわないようにと思い選んだ物だ。
「二人ともありがとう。大切にする」
「そう言ってもらえると嬉しいよぉ〜!ね、楓!」
「ああ、大事に使ってくれよな」
とても嬉しそうにしているリョウを見て俺は、プレゼントを渡して良かったと心の底から思えた。そして——
——これからもリョウがずっと笑ってくれますように。
そう心の底から願ったのだった。
改めてリョウ先輩、お誕生日おめでとうございます!
で、お祝いの番外編を上げておいてアレなのですが、今回の投稿をもって更新を一旦ストップさせていただきます。
理由としては大学でのレポートや課題で小説を書いて投稿するというのが難しくなってしまったからです。
書くのを辞めるわけではありません。大学の方が落ち着くまでは少しづつ書きためてストックを貯めて、落ち着いたらバンバン投稿していこうかなと考えています。
続きを楽しみにしていただいている方には申し訳ないですが、どうかもうしばらく待ってください。
最後になりますが、今後ともこの拙作をよろしくお願いします。
高評価、感想、お気に入り登録、ここすきなどをしていただけると作者のモチベと筆のスピードが上がるのでぜひお願いします。
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【第2回】好きなキャラは?
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