幼馴染の変人ベーシストの料理番になった件について。   作:かんかんさば

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新年度なので初投稿です。


#EX 戦国徒然草

天正十二年、武蔵国荏原郡下北沢。

足柄道と中山道の間にあるこの地に、一人の姫とその家臣が暮らしていた。

これはこの二人の何気ない日常のお話である。

 

「見つけましたぞ、涼千代様!」

「むむ、楓之助か」

 

姫の名前は山田涼千代(すずちよ)。下北沢を初めとした荏原郡一帯を治める国衆、山田家の一人娘であり、次期当主である。

その容姿は隣国どころか京の都にも噂されるほどの美しさだったという。そんな容姿端麗の彼女には婿入りの縁談が絶えなかったそうだ。

ただ、当の本人は容姿から想像もつかないほどに自由奔放であった。

 

そして、家臣の名は下村楓之助清忠(ふうのすけきよただ)。山田家筆頭家老下村家に生まれ、幼き頃から家臣としての教育をしっかり叩き込まれてきた青年だ。彼は武芸に長けていて、剣術においては武蔵国の中で右に出るものはいない。彼曰く、武芸の道を極めるのは涼千代様に仕える上では当然とのこと見たいだ。

 

「また勝手に館を抜け出してこんな草っ原に! 奥方様が心配されておりましたぞ?」

「妾がどこへ行こうとすぐに見つけてくるの。さすが忠臣といったところじゃな」

「あ、ありがたきお言葉……じゃなくて! なんの許しもなく抜け出されると某が父上に怒られるのですぞ!」

「なら清村に怒られぬようにそなたが妾を見張っておればよいではないか」

「それはそうでございますが! 涼千代様はいつもあの手この手で抜け出して! どうしてそこまでしてまで館の外に出たいのですか?」

 

楓之助は涼千代に館を抜け出す理由を尋ねる。家臣として、そういった行動は見過ごせない。

とはいえ、幼き頃から使えているのだから何かしらの事情があるのではないだろうか。

彼は頭の中でそう考えた。

 

「民草の生活を直接見てみたいからじゃ。嫡子たるもの、民の気持ちによりそう政をせねばならぬ」

「涼千代様……!」

 

なんと立派なお方なのだ。

楓之助は主君の考えに感動した。たとえ北条に従う小さな国衆であってもそのような考えを持つ人に仕えることができるのは当人にとってこの上ない幸せなのだ。

 

「ところで涼千代様、今日は何故街に出てるのですか?」

「よくぞ聞いてくれた、今日は星乃堂のよもぎ団子が食べたくて抜け出した」

「えぇ……」

 

少し拍子抜けしてしまった。だが、そんなことだろうと楓之助は思った。

なぜなら涼千代は欲に忠実でもある。館に商人がやってきた際に銭のちゃりんとなる音に目を輝かせる。

 

「星乃堂、なにやら今日はお虹が団子を作るみたいじゃぞ」

「誠にございますか? 楽しみだなぁ、お虹の団子」

 

お虹というのは涼千代と楓之助の幼馴染だ。街にある星乃堂という小さな茶屋を姉と切り盛りしている。天真爛漫で明るい性格で、いつしかそこの看板娘になっていた。

 

「ふふ、嬉しそうじゃのう。では行くぞ」

「そうですね! ささ、善は急げですぞ!」

「お主は露骨に態度に出るの」

 

二人は楓之助が乗ってきた馬に乗って星乃堂へと向かった。

手綱を握り、馬を走らせる彼の背中に涼千代はしっかりと掴まる。背中に感じる柔らかさと主君からの信頼に、年相応の邪な意味と家臣としての誇りを感じるのだった。

 

「おお〜、涼千代様に楓ちゃん! いらっしゃ〜い!」

「なかなか賑わってるな、お虹!」

「励んでるようで何よりである。よもぎ団子を二つ頂こう」

「はーい、ちょっと待っててね! あ、あたし後ちょっとで一休みってところだから一緒に食べようよ!」

「いいなそれ!」

 

台所へと戻るお虹を背に、楓之助と涼千代は外の椅子へと腰掛ける。空は晴れ渡っていて、お茶を飲むにふさわしい天気と言える。

 

「お待たせ〜! 一緒に食べるって言ったらお姉ちゃん最中つけてくれたよ!」

「これはこれはかたじけない」

「おお、美味い。さすがであるな」

「また先に食べて〜。ほら、楓ちゃんもたべよ!」

「そうだな」

 

涼千代の後に続いてお虹と楓之助はよもぎ団子に手をつける。

よもぎの程よい苦味が口の中に広がり美味である、楓之助はそんな味に頬を緩めながら食べ進める。

食べていると、不意にどこからか涼千代に鞠が飛んできた。

 

「涼千代様!」

 

楓之助が咄嗟に左手を差し出し、鞠を捕える。「何奴」と刀の柄に手をかけ、抜刀しようとしたが、すぐに構えを解いた。

 

「ごめんなさい……」

 

子供が謝ってきたからである。怖がるその姿に楓之助は優しく微笑みかけながら鞠を返した。

 

「遊ぶことは子供の仕事だからな。鞠で遊ぶときは十分気をつけるのだぞ!」

「はい!」

 

子供は笑顔で戻っていった。この戦乱の世だからこそ、そういう笑顔を守っていかねばならない。楓之助はそう思った。

 

「みんなが笑顔でいられる世の中が来るといいね」

「そうだな、そのためにも我らが戦のない世にせねばならぬな」

「楓ちゃんってさ、戦に出る時は怖くないの?」

「当然、怖いと思うておる。ただこの地の民たちを、山田の御家を、涼千代様をお守りする以上目前の敵など恐れてなどはいられぬ」

「楓ちゃん……」

「仮に戦で討死したとしても、それがこの先の泰平に繋がるとしたら、武士冥利につきるな」

 

楓之助は天正十年の神流川の戦いにおいて初陣を遂げている。

その際敵方である織田軍に囲まれ命の危機に瀕したが、持ち前の剣術で敵を一掃した。

 

「あたしはちゃんと帰ってきて欲しいな。だって、この先もずっと三人でこうして楽しくお茶飲みたいもん!」

「妾も同意じゃ。それに主君より先に死ぬのは許さぬぞ」

「お虹、涼千代様…… そうでございますな、なればより一層鍛錬を積まねばいけませんな!」

 

二人の幼馴染に向かって、楓之助はそう誓ったのだ。

 

 

この三人の間柄がこの先、それぞれの間柄を変えて戦乱を乗り越え江戸に幕府ができた泰平の世になっても続いていくのはまた別の話。

 

 




エイプリルフールネタです。
下村楓之助清忠と山田涼千代、お虹は本編のキャラクターとは何の関係もありません。

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