幼馴染の変人ベーシストの料理番になった件について。   作:かんかんさば

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いつの間にか1話投稿から2年経ってたので初投稿です
スランプと某Mygo!!!!!と某Ave Mujicaに浮気してたら投稿遅れましたすみません。

名前だけでも出してみたいですね


かわりゆく日常
#36 ワタシダケユウレイ


「よ〜し、リハーサルも終わったしあとはリラックスしてこ〜」

「はい……」

 

今日はSICK HACKの月一ワンマンライブ。そして、俺の初めてのライブだ。そして今、そのリハーサルが終わった。練習の成果は自分でもはっきりと分かるぐらいには出ている。

 

 

「すいません、ちょっと外の空気吸ってきます。すぐ戻りますんで!」

「あ〜、いってらっしゃ〜い!10分前には戻ってきてね〜」

 

なのに緊張感のせいなのか、落ち着かない。

きくりさんに声をかけて一旦外に出ることにした。

外に出てみると、今日の観客であろう人達が列を成していた。一人、また一人と列に並ぶ人が増えていくにつれ、緊張が増していく。

 

急に列に並ぶ人達を見るのが嫌になり、スマホを開く。トゥイッターを見て現実から少しだけ目を逸らそうとしても「ミスしたらどうしよう。」、「自分にはやはり荷が重すぎたのか」なんて言葉が脳裏を駆け巡る。

はぁ、とため息をついてはスマホを眺め、ため息を着く。その繰り返しだ。

まぁため息をついたところでなんにも解決しないのだがな。

 

「なにため息ついてんの?」

「リョウ……」

 

その繰り返しを打破するかのようにリョウが声をかけてきた。

 

「みんなはどうした?」

「列に並んでる」

「そう……」

「で、なんでため息なんかついてんの?」

「……なんかプレッシャーを感じちゃってるんだよ」

「なんで?」

 

俺はリョウに思っていることを話してみた。彼女は黙って話を聞いてくれた。思ってることを吐き出すと、ほんのちょっとだけプレッシャーがマシになった気がした。

 

「──って言うことなんだ」

「へぇ…… 楓ってさ、今まで私と虹夏とライブした時もそんな風に感じてたの?」

「別にそんなことは……」

 

もちろん、今まで二人とライブした時も緊張はした。だけど今日みたいにプレッシャーに苛まれることはなかった。なにせ今日のライブは今までとは違う。SICK HACKの月一のライブであり、自分の初陣でもある。下手なライブをする訳には行かないのだ。

 

「そんなプレッシャーとか気にしてる方が失敗すると思う。深く考え込まなくていい」

「……」

「それに文化祭と路上ライブもやれたんだし、大丈夫だと思うよ」

「リョウ……!」

 

そうだ、俺は二人と文化祭と路上ライブを成功させてきたんじゃん。今日はちょっと観客が多くて一緒に演奏する人も違うだけ。リョウの言う通り気にしない方がいいのかもな。

 

「だったら、ロックの先輩である私がありがたいアドバイスをあげる」

 

なんか急にウザったくなった。この雰囲気ぶち壊してやがるぞこいつ。

 

「今日のライブ、見に来た人全員をファンにするぐらいの気持ちで行ったほうがいい。そうすれば絶対成功するから」

「……!」

 

見に来た人全員ファンにするつもりでやる、か。なるほど、なんか行ける気がしてきたぞ……!

「ありがとう、一人でも多くファンにしてみせる。だから楽しみにしてて」

「うん、楽しみにしてる。あ、ギャラ出たら焼肉奢ってね」

「それは考えとく」

 

なんか良くも悪くもリョウらしいな。まぁ、あのアドバイスはめっちゃありがたいと思うし、今は感謝しておくか。

 

 

 

「あ、楓くんおかえり〜」

 

リョウのアドバイスで少し自信がついた俺は楽屋に戻った。時刻は18時20分、もうすぐ開演だ。扉を開けるときくりさんがおにころをチューチューと飲んでいた。

 

「毎回思うんですけど、ライブ前に飲みすぎない方がいいんじゃないんですか?」

「う〜んわかってないな〜楓くん。こういう時のおにころが美味しいんだよ〜」

 

背徳感ってやつか、だとすれば気持ちはわかるかも。

 

「あ、君も飲んでみる?緊張をほぐすのにもちょうどいいよ〜」

「未成年に酒を勧めるな!」

「え〜、最初に飲んだ時は止めなかったじゃんか〜!」

「そういう問題じゃないだろ……!ところで楓くん」

「はい」

「緊張してるか?」

 

志麻さんが急に尋ねてきた。緊張してないと言えば嘘になるので、俺は緊張していると答えた。

 

「そうか、まぁそうだろうな」

「でも、なんか自信はありますね」

「そうなのか?」

「そうなんですよ、友達に『見に来る人全員ファンにするくらいのつもりでやれ』って言われて自信出てきたんですよ」

「そうか、いいなその心意気!」

「じゃあ、そろそろ行こうか〜!」

「そうだな……」

「そうですね」

 

楽屋から舞台袖を経由してステージに移動した。ざわざわとした大勢の観客の声が、まだ幕が上がっていないステージに立っているこちらに聞こえてくる。俺はそれに臆することなく、たんたんとセッティングを始める。

 

ギターにシールドを取り付け、アンプに繋げる。次にチューニングをすれば準備は完了。きくりさんと志麻さんも準備が出来たようだ。

すると、煙の演出と共に幕が上がり始めた。ステージからは結束バンドのみんな、SIDEROSのみんな、そしてこの前チケットを買ってくれたお姉さんとそのお友達など、大量の観客が見える。

俺の心の中には自信とほんのちょっと残った緊張がある。今、この状況においてそれを武器にするには十二分と言ったところだろう。

手元に置いてある水を一口飲んで息を整え、俺はギターを構える。

 

志麻さんのドラムスティックの合図で演奏が始まった。

イントロから歌い出し、AメロBメロを通して段々とオーディエンスのボルテージは上がっていく。サビに入るとさらに上がり、留まることを知らずに熱気が込み上げていく。

 

そしてその勢いは曲の演奏が終わるまで衰えることは無かった。

 

 

 

「ありがと〜お前ら〜!!」

 

一曲目の演奏が終わり、きくりさんによるMCが始まった。いつも通り酔っ払いながら志麻さんや観客とトークを繰り広げていく。何度も観客として見てきたその光景も、演者として横から見るのは新鮮だ。

 

 

 

その後、2曲目3曲目と熱狂は続いていき、あっという間に最後の曲となった。

最後の曲は「ワタシダケユウレイ」。俺にとってこの曲はSICK HACKの曲の中でいちばんのお気に入りだ。そしてお気に入りだからこそ一番練習した曲でもある。

 

「おめぇら最後だぞ〜!ぶち上げろぉ〜!!!」

 

イントロとともにきくりさんが観客を鼓舞するかのように叫ぶ。それに呼応するように観客も熱気に溢れた歓声を出してくる。

 

「間違い探しの夜更かし あら楽しい 迷い子が手招く夢の国へ」

 

自分でもわかるぐらい、今の自分は今までで一番絶好調だ。どうやら、2時間前の緊張はどこかへ行ってしまったみたいだ。

 

「ぐるぐるぐる踊りましょう べたべたべた蔓延るの」

 

観客の熱気、いや最早狂気と言った方がいいかもしれないこの雰囲気が俺を飲み込もうとしている。多分この雰囲気に飲み込まれれば、きっと俺は変わるはず。

 

 

 

「嘘だらけ塗ったトーストおひとついかが? ワタシダケユウレイ」

 

もう何度目かも分からない観客の狂気的な歓声と拍手がステージへと向けられる。

去年の文化祭で、4月の路上ライブで味わったあの高揚感が溢れ出し、歓声と拍手がそれを更に増幅させる。

 

そうだよ、これだよこれ、これだったんだよ!

この感覚をもう一度味わいたかったんだよ!!

ライブをやり切ったあと、観客から送られる熱気のこもった声援。それをびしょ濡れになるくらいに浴びる。あぁ、なんて気持ちがいいんだこれは!

俺にとってロックをやるのはこういうことなんだなぁ……!

最っ高に楽しいじゃねぇか!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふい〜、お疲れ〜!!はい、これお水」

「お疲れ様でした!あ、ありがとうございます!!」

 

終演後、ステージから楽屋に引き上げてきた。先程の余韻ら一向に抜ける気がしない。だが、そのお陰が天然水がより美味しく感じる。

 

「どうだった〜、初ライブ?」

「もう最っ高でした!」

「楓くんの演奏、とてもよかったぞ」

「さすが伊織の弟って感じだったよ〜」

 

志麻さんにも褒めてもらえるとはありがたい……!

これからも頑張らなくちゃな。

 

「服もバッチリ決まってたし、いいスタート切れたんじゃないか?」

「うんうん、なんか女の子平気で殴りそうなクズギタリストっぽく感じたよぉ〜」

「最初の被害者になりたいんですか?」

 

かっこよさげな服選んだんだけどなぁ。

 

そういえば、なぜきくりさんがド素人の俺をサポートに誘ってくれたのだろうか。それが気になった俺はおにころをチューチューと飲むきくりさんに聞いてみることにした。

 

「そういやきくりさん」

「ん〜?」

「どうして俺をスカウトしたんですか?」

「う〜ん」

 

理由を尋ねるときくりさんはおにころを飲むのを止め、考え込む素振りを見せた。

スカウトしてきた時に「パッと思いついたのが楓くんだったからかな〜」と言ってきたことは覚えているが、きっとそんな理由ではない気がする。

しばらくするときくりさんは口を開けた。

 

「あのね楓くん……」

「はい」

「私が君をスカウトした理由は二つあるんだ」

「そうなん……ですか?」

「そうだよ。まず一つ目は実力だよ」

「実力……?」

 

実力って、確かに周りから上手いと言われることはよくあるけど、そんな人気バンドと演奏できる実力は持ち合わせている自信はないな。

 

「8月の終わりぐらいかな、伊織と飲みに行った時に君が演奏してる動画を見せてもらったの」

「はい……」

「その時私思ったの。楓くんならきっとギタリストとして、アーティストとして大成するかもなって」

「そうなんですか……?」

「うん、君にはそれぐらいの実力があるってこと」

「は、はぁ……」

 

まさか自分の実力がそんな評価を受けていたとはな、いやいや実感わかないわ。

 

「まさか楓くん、私がなんかのドッキリでスカウトしたって思ってた?」

「……はい」

「なんかショック!?」

 

だって意外とそういうのしそうなイメージあったんだよ。

 

「とにかく、私は君の実力を見てスカウトしたんだ。それほどの腕を持ってることは自信もっていいからね?」

「は、はい……あ、ところで二つ目の理由とは……?」

「二つ目ね……」

 

二つ目の理由を尋ねるときくりさんは少し考え込んでから微笑みを浮かべた。

 

「二つ目の理由は君がもう少し立派なギタリストになったら教えてあげる」

「え、今教えてくださいよ」

「こればっかりは()()()()()()()()には行かないんだ〜」

「……それってあれですか、『君はまだそのレベルに達していない』ってやつですか?」

「そゆこと〜」

 

なにか含みがある言い方で余計気になるけど、それほどの理由だったらしょうがないか。

 

「おい、二人ともそろそろ打ち上げ行くぞ」

「うぇ~い、飲み放題!飲み放題!」

「今日は楓くんもいるんだからそんなに羽目外すなよ?」

「わかってるって」

 

こうして、俺の初めてのライブは成功に終わった。

この先、どんなことが待っていてもロックの世界なら生きていける。まだ門をくぐったばかりなのにそう思えた10月の夜だった。




次回、「君の街まで」

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曲名引用元:SICK HACK「ワタシダケユウレイ」

【第2回】好きなキャラは?

  • 山田リョウ
  • 伊地知虹夏
  • 後藤ひとり
  • 喜多郁代
  • 下村楓
  • 伊地知星歌
  • PAさん
  • 廣井きくり
  • 岩下志麻
  • 清水イライザ
  • 大槻ヨヨコ
  • 長谷川あくび
  • 本城楓子
  • 内田幽々
  • ぽいずん♡やみ
  • 後藤ふたり
  • 暗殺前の山田リョウ
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  • 郁代(ぱぺちゃ)
  • 伊地知ニジカ
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