幼馴染の変人ベーシストの料理番になった件について。   作:かんかんさば

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CENTRALに当選したので初投稿です。


#38 桜木町

「楓の行きたかった場所ってここであってるの?」

「ああ」

 

金沢八景駅から電車で30分弱、俺と虹夏は横浜の日の出町にやってきた。本来ならこのまま下北沢に帰るつもりだったのだが、この後特に用事もなければ、お昼すぎと言うこともあり、このまま帰るのも勿体ないということで急遽寄り道することになった。

 

「にしてもいいのか?」

「ん?」

「別にお前だけ先帰っててもよかったのに、付き合わせちゃって」

「あ~、あたしも特に予定はなかったから平気だよ」

 

ひとりの家に行く時もそうだったが、今日の虹夏はやけにご機嫌だ。ただ、八景から京急線に乗り込んだ時からは少し顔が赤く、ソワソワし始めたため、そこは少し気がかりだ。

 

「ところで今はどこに行こうとしてるの?」

「あ~、伊勢佐木町にある松板屋の跡地」

「なんだっけ、ゆずの聖地だっけ?」

「そう、そこがゆずの聖地だからこの機会に巡礼しとこうかと思って」

 

今回、日の出町駅で降りた理由は聖地巡礼をするためだ。

伊勢佐木町の松板屋はかの有名なフォークデュオ、ゆずが路上ライブを行っていた場所だ。俺は小学生の頃以来の大ファンなので、一度行ってみたいと思っていたのだ。

 

「はーい、とるよ~」

 

虹夏にスマホを渡して写真を撮ってもらう。こういう聖地で写真を撮れることが嬉しいのか、自分でもわかるくらい笑顔になってしまう。

 

「路上から国民的アーティストになるなんて凄いよね。あたし達もいつかはドームツアーできるようになれたらな~」

「その前にまずはレーベル契約しなきゃな」

「まぁ来年の春ぐらいにはミニアルバム(未定)だすからそこからペース上げてバーンとやってこう!」

「定まってないのか……」

 

でも、どんな形でマイペースでやってくのが1番だからな。精一杯応援させてもらうぞ。

 

 

一通り写真を撮り終えた後、少し遅めのお昼ご飯を食べることにした。その辺のファミレスでもよかったが、せっかく横浜に来たということで元町中華街に行くことにした。

 

「人いっぱいだね~」

「さすがって感じだな」

 

土曜日ということもあり、多くの人でごった返している。この人混みだとはぐれる可能性は十分ある。細心の注意を腹いつつ、ちょうどいい感じのお店を探す。しばらく歩き、探してみるもさすがの人混みなのか、どこも満席のようだ。

 

「この時間でも埋まってるもんだな……」

「だね……だったら食べ歩きにする?」

「そうだな……」

 

なんだか申し訳ないな。リョウの誕生日の時もそうだったけどなぜ俺はこういう時に限って上手くいかないんだろうか。

 

「ねぇ楓!あそこの小籠包屋さん行ってみない?」

「ん?あ~、あれか。いいじゃん、行こう」

 

偶然虹夏が見つけた小籠包屋さんに行ってみると、そこには多くの人が並んでいた。レストランではなく出店タイプのお店なので、そこまで長い時間は待たないだろう。

 

「焼き小龍包、美味しそうだな……!」

「わかる~、なんか見た目からして美味しそうな気がする……!」

 

厨房から漂うおいしい匂いにヨダレが出てしまいそうになる。必死に堪えながら待っているとあっという間に先頭になった。

 

「ご注文どうぞ~!」

「焼き小龍包2つお願いします!」

「個数はどうしますか?」

「俺は6つで……虹夏は?」

「あたしも6つで!」

「かしこまりました~、少々お待ちくださいね~!」

 

注文をしてから受取口の近くに移動する。先程感じた美味しい匂いがさらに強く感じるようになり、食欲がさらに増していくような感じがする。

 

「お待たせしました~、熱いので気をつけて食べてくださいね!」

「「ありがとうございます!」」

 

店員さんから焼き小龍包を受け取り、近くのベンチへと移動する。すると、先程のいい匂いが風に乗ってこちらに流れてきた。

うん、いい香りだ。何度でもこう言いたくなってしまうぐらいにいい香りだ。

 

「では、いただきます」

「いただきま~す……って熱ッ!?」

「急がなくても逃げないぞ……お、美味いなこれ」

 

外はカリッとしていて、噛むと熱い肉汁がブワッと出てきて中の餡の味をより一層引き立てる。ただ、作りたての焼き小龍包は当然めちゃくちゃ熱い。なので食べ方には少々注意が必要だ。とはいえ、出来たての熱々だからこその美味しさがあるので急いで食べたくなるのも無理は無い。

 

「ん~~!おいし~!!!」

 

にしても虹夏、リョウとはまた違う感じだけど美味そうに食うな。

 

 

 

 

 

 

 

肉まんや春巻きなど、中華街ならではの物を食べ歩きしながら1時間ほど楽しんだあと、俺たちは中華街を後にした。

そして、中華街から30分弱歩いて今は桜木町にあるコスモワールドという遊園地に来ている。

 

「あの観覧車テレビでよく見た事あるけど、実際に見ると大きいね~」

「だな」

「なんか花火みたいだよね」

「夜景が有名だからな」

 

今俺たちが眺めているのはコスモクロック21という名前の観覧車。このコスモワールドのシンボルのような観覧車だ。真ん中にはデジタル時計が付いていて、夜になると鮮やかにライトアップされる。

 

「ねぇ楓、あれ乗ってみない?」

「そうだな、せっかくの機会だし乗ってみるか」

 

虹夏の提案により、コスモクロックに乗ることになった。

受付で二人分のチケットを買って列に並んだ。かなり人気の観覧車なのか、大勢の人が列に並んでいる。

 

「やっぱ家族連れとかカップルで乗る人多いんだな」

「ね~、なんかカップルとか見てると青春って感じするよね」

「まぁ、今度はリョウとかも誘ってみるか」

「……そ、そうだね~」

 

リョウの名前を出した途端、虹夏は少し黙った。なにか気に触ることでもしたのだろうか、あるいは二人が喧嘩したのか。そんな考えが頭を駆ける。

「もしかしてリョウと喧嘩した?」

「別にそういうのはないよ」

「じゃあどういうやつなんだよ」

「それはね……う~ん、教えない!」

「なんだそれ」

「ほら、もうそろそろだよ。チケット出さなきゃ乗れないよ?」

「あ、ああ……」

 

虹夏の言うことがやけに気になりながらも、俺は係員の人にチケットを見せ、観覧車のゴンドラに乗り込んだ。

2人向かい合うように座ると、ゴンドラはどんどんと上昇していく。

 

「うお~、綺麗だな~!!」

「お前ほんと子供みたいにはしゃぐよな」

 

はしゃぐ虹夏を横目に見える景色を眺めてみる。街の方を見ると、横浜駅やランドマークタワーなど横浜を象徴するような建物が、海の方を見れば横浜ベイブリッジや赤レンガ倉庫など、これまた横浜を象徴するような港町の景色が見えてくる。

 

「童心忘れるべからず、って言うじゃん!」

「確かにな」

 

どんどんと頂上へと上昇していくにつれ、中に差す西日が少しづつ強くなっていく。それが鮮やかに虹夏を照らしていく。

 

「ねぇ楓……」

「なんだ?」

 

鮮やかに照らされた虹夏は、急にしおらしく話し始めた。

 

「もし、このまま結束バンドが上手くいってメジャーデビューしたりしても、仮にダメになっちゃったとしても──」

「うん」

「──楓は……あたしのそばにいてくれるよね?」

 

今は順調な結束バンドでも何があるかは分からない。出来れば避けたいが解散のリスクだってもちろんある。そうなった時にもそばにいてくれというのであれば、もちろんその願いには応えるのが筋だろう。

 

「そりゃもちろん、幼馴染だしな」

 

そう言うと、虹夏は少し沈黙した後、笑顔になった。ただ、笑顔の中になにかが隠れているような気がしてならない。そんな笑顔だ。

 

「そっか、幼馴染か~。やっぱ楓ってなんやかんやで優しいからね」

「なんやかんやって何だよ」

「まぁそれはそれだよ。で、楓」

 

そして、座席から立ち上がり俺に至近距離まで近づいてきた。その瞬間、笑顔の中に何が隠れているのかがわかった。

 

「でもその優しさはたまに女の子をその気にさせちゃうから気をつけてね?」

「は、はぁ……」

 

それは、今まで見たことの無い色気を纏った妖艶な笑顔だった。まるで今まで見てきた伊地知虹夏とは違う感じを表すかのようだ。

 

 

「これを機に一つ約束……って言うかお願いなんだけどさ」

 

そう言って彼女はただでさえ近い距離をさらに詰めてきた。ゴンドラが頂上に達した瞬間────

 

「な、なんだよ……って虹夏、ちょっ……ッ!」

 

───俺の右頬にキスをしてきた。そして、こう言った。

 

「たまにはでもいいから、あたしの事……その……幼馴染とかじゃなくて一人の女の子として見てよ」

 

その言葉に俺は声が出なくなった。しっかり者だけど時々子供っぽくなる虹夏のイメージからは想像もつかないくらい、大人っぽくて色気がある彼女の姿とその行動に理解が追いつかない。

気づけば、ゴンドラはもうかなり下の方まで来ていて、係員によって退出の案内が始まっていた。

 

 

 

「ふ~、楽しかったね~!!」

「そ、そうだな」

 

コスモワールドを後にした俺たちはみなとみらい駅から電車に乗りこみ、下北沢へと戻ってきた。下北沢までは大体1時間ぐらいだが、それもあっという間に感じた。

 

「それじゃ楓、また明日」

「お、おう……また明日……」

 

スターリーの前で虹夏と別れる。別れ際、彼女が笑顔で手を振り、自宅のある2階へと階段を登って行くのを見届け、俺は家へと歩き始めた。

 

家に向かういつもの道なのに、知らない道を歩いているような気がした。まるで道に迷ったかのように。

 

この瞬間、俺は悟った。俺の心はリョウと虹夏、二人の存在の間で揺れ動き始めたということに。

 




次回、「マイニューギアは計画的に」

いつからヒロインレース参加者が山田だけだと錯覚していた?

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曲名引用元:ゆず 「桜木町」

【第2回】好きなキャラは?

  • 山田リョウ
  • 伊地知虹夏
  • 後藤ひとり
  • 喜多郁代
  • 下村楓
  • 伊地知星歌
  • PAさん
  • 廣井きくり
  • 岩下志麻
  • 清水イライザ
  • 大槻ヨヨコ
  • 長谷川あくび
  • 本城楓子
  • 内田幽々
  • ぽいずん♡やみ
  • 後藤ふたり
  • 暗殺前の山田リョウ
  • 初期案後藤ひとり
  • 郁代(ぱぺちゃ)
  • 伊地知ニジカ
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