幼馴染の変人ベーシストの料理番になった件について。   作:かんかんさば

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卒業式シーズンなので初投稿です。

なんか最近ギャグっぽい描写からサラッと真面目あるいはシリアスな展開に持ってくように書くのにハマってます。
たぶん原因はAve Mujicaの見すぎだと思います。


#41 予期せぬヒトカラ(×2)

カラオケ店、それは高校生にとって大きな大きな存在の一つだ。カラオケの使い方は単に歌うだけではない。集中して勉強するために利用するもよし。カップルでイチャイチャするもよし。オタク仲間と映画を見て感想を語り合うもよし。とにかく、各々好きな楽しみ方で利用することが出来るとても大きな存在だ。

俺もよくリョウや虹夏、下高の友達とよく言っている。前者の二人とはよくテスト終わりのご褒美に、後者のグループとは土日によく行っている。今日はその後者のグループとカラオケに来たのだが─────

 

『ごめん、急にバイト入って行けなくなった!』

 

上杉がバイトで来れなくなり、

 

『わりぃ、今日急に部活入っちゃった!』

 

隣のクラスの伊達も部活で来れなくなり、

 

『すまん、今日春香とデートなの忘れてた!』

 

蘆名が彼女とデートで来れなくなってしまった。

よくない奇跡三連発で急遽中止になってしまった。まぁ、伊達と上杉はしょうがないとしよう。蘆名、お前は彼女とのデート忘れんなよ、泣くぞ坂戸さん。

とにかく、他のメンツが来れなくなった以上中止だ。普通なら今から家に引き返すところなのだが、そうする訳にも行かない。なぜならもうカラオケ店まで来てしまっているからだ。しかも今日来ているカラオケ店はシモキタにある店ではなく、笹塚にある店だ。わざわざそこじゃなくてもいいだろというツッコミは受け付けない。

それはそれとしてせっかくここまで来たのだからすぐ引き返す訳にはいかない。なので、急遽ここ笹塚でヒトカラをすることになった。

 

「すみませ〜ん」

「は〜い……」

 

呼び鈴を鳴らすと、なんだかやる気なさげな店員がでてきた。感じ悪いな。

 

「高校生一人、フリータイムでお願いできますか?」

「あ、フリータイムっすね、かしこまりやした。空き部屋確認するのダルいし適当なとこ突っ込んどけばいっか」

 

なんか今ヤバい発言が聞こえた気がするけど大丈夫か?

 

「希望の機種とかはありますか?」

「いや、特には……」

「んじゃあ、そこ突き当たり右の45番の部屋になります。ドリンクバーはそこにありますので、ごゆっくりどうぞ……」

 

もうちょっと愛想良く接客しないのかな。なんか眠そうだし、少し気持ちは察するけどさ。

 

店員の案内された部屋にたどり着くと、部屋の明かりがついているのがわかった。

 

「すれ違う心は溢れる涙に濡れ」

 

あ、これめっっちゃ気まずいやつだ。

ん、この歌声もしかして……

 

「紅に染ったこの俺を慰める奴はもういない」

 

耳をドアに当てて声を聞いてみる。

やっぱりこの歌声は大槻だな。まずい、発作が……!

 

説明しよう!

俺は大槻ヨヨコが視界に入ると何かしらイジりたくなってしまうのだ!

もちろん、大槻を虐めるなんてことは言語道断一切しないぞ。常識の範囲内でやってるからな!

 

「もう二度と届かない この思い」

 

そろそろサビが終わるな。ここで乱入するか。

決心した俺は思いっきり扉を開けて──

 

「閉ざされた愛に向かい「叫び続ける」」

 

大槻の歌ってる曲に割り込んでみた。効果は抜群だ!

 

「……」

 

ただし、噴火寸前のようだな。ここは一回見て見ぬふりをしよう。

 

「ごゆっくり〜」

「ごゆっくりじゃないわよ!?」

「お邪魔しました〜」

「ちょっ、扉閉めないでよ!?」

 

あ〜、面白い面白い(愉快犯)

この程よくぷりぷり怒るのがいいんだよな。

一通りリアクションで楽しんだ後、事情を説明することにした。

 

「へぇ、店員に適当に案内されたらたまたま私の部屋だったってことね」

「まさかにまさかの連続だよ」

「ふーん、ところで下村、今日あんた一人で来たの?」

「そう。一緒に行く予定だった友達三人全員にドタキャンされた」

 

ヒトカラになった経緯を話すと大槻はクスクスと笑い始めた。なんだこいつ。

 

「全員にドタキャンって、あんた災難だわねwww」

「だろ」

「日頃の行いが悪いからじゃないのかしらwww」

 

別に罰当たりなことなんてしてないと思うけどな。大槻へのイジりは敬意を込めてのものだし別にどうということはないだろう。

 

「かく言うお前はなんでヒトカラやってんだよ。まさか、長谷川さんたちにドタキャンされたとか?」

「そっ、そんなわけないでしょ!?」

「じゃあなんだよ」

「れっ、練習よ練習。べっ、別にあくび達とか姐さんとかに断られたとかそういうんじゃないから! 一人で練習してるだけだから!」

「図星だな」

 

こういうのって発言の最後の方が本当の理由だったりするんだよな。わかりやすくて助かるよ。

 

「そっ、それに私はあんたなんかよりたくさん友達いるんだから!」

「ほう、例えば?」

「例えばって……まずあんたでしょ? あと姐さんと銀次郎さんに、あくびに楓子に幽々に佐野さんに……あとトゥイッターのフォロワー……って何よその顔」

「いや、お前のこと知り合いって思ってたからさ、まさか友達認定されてるなんて思ってなかった」

「え、嘘……」

「冗談だよ冗談」

 

そう言うとまたぷりぷり怒り始めた。あぁ、面白い。

十分楽しんだし、部屋替えてもらうか。ヒトカラを邪魔するのもよくないからな。

 

「まぁ、大槻にお友達がたくさんいることがわかったし、部屋変えて貰うよう頼んでくるわ」

「え、あ、ちょっ、ま、待ちなさいよ!」

 

部屋を出ようとすると引き止められた。この後の大槻の発言は何故か予想がつく。

 

「せっ、せっかくの機会だし?あんたの歌声も気になるから…… その、一緒にうたってあげてもいいわよ?」

「お、おお……」

 

予想的中だ。誘い文句が少し面倒臭いが、せっかくの機会だし受けることにしよう。

こうして俺と大槻、それぞれのヒトカラは急遽二人一緒にやることになった。

 

大槻からリモコンを貰い、曲を検索する。一曲目は盛り上がりが大事だと個人的に思っているので、それに相応しい曲を入れる。

他に曲が入っていなかったのか、入れてから程なくしてさっき入れた曲が始まった。

 

「思い出すのは君の歌 会話よりも鮮明だ」

 

一曲目に入れたのはVaundyの「怪獣の花唄」。カラオケに来た時はいつも一番最初に入れている曲で、俺の十八番の一つだ。

 

「さわげ怪獣の唄 まだ消えない夢の唄唱えて」

 

Aメロ、Bメロ、サビと、どこでも盛り上げやすいのがこの曲のいい所だが、一番盛り上がるのはやっぱりあそこだろう。

 

「ねぇ僕ら「眠れない夜に」手を伸ばして「眠らない夜を」また伸ばして「眠くないまだね」そんな夜でいたいのにな」

 

ラスサビ後のCメロだ。ボーカルとコーラスが交互に歌うので、合いの手も合わせやすい。

実際、大槻も合わせてくれるので結構盛り上がっているのではないだろうか。

 

「過ぎてく日々には鈍感な君へ」

 

歌いきったところでマイクを置いて、テーブルに置いてあるコーラを一口飲む。このときのコーラの味は格別に美味い。

コーラの味わいに浸っていると得点が出てきた。点数は97点、なかなか幸先のいいスタートだ。

 

「ふーん、中々やるじゃない」

「ボーカルやってたんでね」

「そうなの!?」

「まぁ、文化祭で組んだバンドでだけどな」

 

そんなに驚くことなのか?

驚く様子を見せる大槻にリモコンを渡そうとすると、店員さんがピザとポテトをやってきた。

 

「お待たせしました〜、マヨコーンピザと山盛りポテトです」

「ありがとうございます」

 

そういえば、歌ってる途中に大槻はメニューを見ていた。多分頼んだのは彼女だろう。

 

「大槻って結構ヒトカラ行くタイプなんだな」

「なっ、べ、別に今日はたまたまヒトカラだっただけでいつもはあくび達と行ってるから! ほら、あんたも食べなさい!」

「ありがたくいただきます」

 

マヨコーンピザを一切れいただく。うむ、美味いな。こういうカラオケ店のピザを食べるのは始めてだ。今度リョウたちと行くときには頼んでみようかな。

ピザを食べていると今度は大槻がリモコンで曲を入れ、マイクを取った。

彼女が歌う曲は「CARNIVORES」という曲だ。原曲を歌っているのはSIDEROS、つまり本人の曲だ。

メタル系特有の重厚感溢れるサウンドに聞く側を虜にするフレーズ、そして大槻の説得力のある歌声。実際にライブ等で歌っているところはまだ2、3回しか見た事がない。でも、いつ聞いてもただ「上手い」という言葉では言い表し難いぐらいのパフォーマンスを持っているのがよくわかる。

 

聞き入っているうちに曲が終わり、採点結果が出来ていた。

結果はもちろん100点。まぁ本人曲なので当然といえば当然だ。

 

「上手いな」

「頂点を目指してるんだもの、当然よ!」

 

いつもリアクションが面白くてからかってはいるが、こういう時の大槻はシンプルに尊敬している。いついかなる時も頂点を目指す姿勢は余程の覚悟がないと出来ないからだ。

 

「そういえばあんた、バンドとか見つかったの?」

「いや、全然。オファーは来てるけど答えがうまくでなくて」

「そのオファーって結束バンドのかしら?」

「そう。幼馴染と演奏できるのは嬉しいし、楽しそうだなとは思ってるけど一度断ってるし……」

 

そう言うと大槻は少し考え込む素振りを見せた。そして、しばらくした後口を開いた。

 

「やっぱりあんたは入らない方がいいと思うわ。結束バンド」

 

まさかの発言に俺は驚く。これにはきっと、何か考えがあるのだろう。

 

「どうして?」

「バンドは楽しいだけじゃダメなの。もちろん、楽しいもあったほうがいいことに越したことはないわ」

「確かにな」

 

大槻はコップに注いであったお茶を一気に飲み干した。

 

「それに、見た感じあんたの向いてる方向は結束バンドの方向性とは合ってるようで合ってないと思うわ」

「そうなのか?」

「厳密に言えばある程度は同じだけど少し違うぐらいかしら。イソスタで動画見ただけだからそこだけで判断するのもあれな気がするけど」

「……」

 

結束バンドのメンバーとして演奏できるのは嬉しいし、誘われている以上是非そうしたいところではある。無論、ある程度経験を積んでからオファーを受けるつもりでいた。だが、自分の初ライブが終わってからその気持ちにだんだんと揺らぎ始めていた。

 

「それにあんた、やるからには全力で、本気でやるタイプでしょ?」

 

言われてみれば確かにそうだ。やるからには全力でやらなきゃ意味が無い。SICK HACKのサポートの時も学校やバイト以外の時間はほとんど曲の練習に割いていた。観客に違和感を与えないため、イライザさんに安心して同人誌を書いてもらうためだ。

 

「てかなんでそう思うんだ?」

「なんでって、あんたがフォルトで練習してたのちょくちょく見てたし……」

「そう……」

「それに一緒に演奏するのにバンドメンバーという形にこだわる必要なんてないわ。一度支える立場を選んだからにはウジウジしてないで全力で支えなさい」

「そうだな、ありがとう」

 

大槻の言葉に背中を押されたような気がした。

そうだ、俺は結束バンドを支える立場を選んだんだ。それに、支えられるのは事務的な面だけでは無い。サポートメンバーとして演奏面でもきっと彼女達の力になれるはずだ。

 

「なんかいい話を聞かせてもらったし、じゃんじゃん歌ってくか!」

「ふんっ、私に感謝しながら歌う事ね!」

 

その後、スッキリした気分になった俺と大槻は夜になるまでカラオケで歌いまくり案の定声がガラガラになったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後。

 

 

 

 

 

 

「え〜、今日はライブの日ですがその前にみんなに発表がありまーす!」

 

今日は結束バンドのライブだ。以前よりもみんなの腕前はよくなっているし、夏休みの時みたいに台風が来ている訳でもない。きっと大成功するに違いないだろう。

 

「じゃーん!寒くなってきたからバンドパーカーを作ったよ〜!」

 

虹夏は作ったバンドパーカーをそれぞれメンバーに渡していく。もちろん、俺もそれを受け取る。

試しに着てみると結構暖かくて着心地がいい。ナイス、虹夏。

 

「冬服、全てを包み込んでくれる……」

「ひとりちゃんがかたつむりみたいに!」

「バカつむりだ!!」

「バカつむり……」

 

あの一件のおかげでみんなからバカ扱いされてるのなんか面白いな。

そんなバカつむりはうずくまったまま一向に動く気配がない。

 

「バカつむり、塩かけたら動くかな?」

「○にますよ!?」

「動かしたきゃこう言うんだよ」

「ほう」

「おーい、バカつむり」

 

バカつむりの耳元に近づいてみて俺はこう囁く。

 

「動かないと今度から毎回お前が食べる唐揚げにレモンかけるからな?」

「ぎゃああああああ!!!!!!」

「ほらね」

「唐揚げに勝手にレモンをかけるとは、やはり楓はクズだった」

「先輩ってそういう人だったんですね……」

「いや違うからな?」

 

俺だって唐揚げにかってにレモンかけるやつは嫌いだよ。かけたければ自分の皿に取ってからかければいいのに。

 

「そういえばこの前の文化祭ライブからお客さんも少し増えてライブするの楽しくなってきたね」

「最近ノルマ分捌ける日も結構ありますしね」

「少しずつ増やしていこ〜!」

「はいっ!」

「ふつわ、生ぬるい小童どもめ…… そんな悠長な事言ってたらバンド戦国時代は生き残れんぞ……」

 

お、リョウにしては珍しくまともな事を言ってる。今日はきっと嵐になるのかもな。戸締りしっかりしとこ。

 

「結束バンドのSNSを作ってぼっちのマイニューグラビアをあげればすぐに上まで」

「プライドねぇのかお前は」

「誉は浜で○にました……」

 

やっぱリョウだったわ。でも、的を得ているんだよな、例えがあれだけど。

 

「そんな事ばっか言ってると友達いなくなっちゃうよ!?」

「真に受けてやんの」

「こいつ!!」

「でも、リョウ先輩の言ってることも一理あるのかしらね」

「そうだな、この先悠長にはやってられないだろ」

 

仮にプロを目指すのであれば、ひとりがギターヒーローであることを公表したほうがいいのかもしれない。

それに楽しいだけじゃ長くは続かない。このままダラダラ悠長にやっていけばこのバンドはどこかで崩れてしまう。どこかで"本気"にならなければ、それこそリョウの言う通りになってしまう。みんなそれぞれ努力していることは重々承知している。でも、その努力が外野から見た時にちゃんと伝わるかはっきり言ってわからない。

厳しいことを思っているかもしれない。でも、結束バンドが大切だからこそ、俺は彼女たちに今のままではいけないと思っている。

 

「ギブギブ……」

「やっぱり伊地知先輩、店長と同じ血を引いてるわね」

 

リョウが虹夏にシバかれているのを眺めていると──

 

「こんにちは〜!」

 

ドアが開き、挨拶とともに誰かが入ってきた。

 

「ばんらぼってバンド批評サイトで記事を書いてるものですが、結束バンドさんに取材したくて〜」

「は、はあ……」

「あっ、あたしぽいずん♡やみ、14歳で〜す!」

 

ぽいずん♡やみ、と名乗る結束バンドを取材しに来た女の子に、彼女たちは驚く様子を見せる。

俺も少し驚きはしたが、それよりも感じたことがある。

 

 

それは、この人が今の結束バンドをいい方向へと変えていくきっかけになるかもしれない。そんな予感だ。




次回、「変毒為薬」

ついに出てきましたね、あいつが。

※次回は前後編に分かれる予定です。

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高評価くれー!!(承認欲求モンスター)

【第2回】好きなキャラは?

  • 山田リョウ
  • 伊地知虹夏
  • 後藤ひとり
  • 喜多郁代
  • 下村楓
  • 伊地知星歌
  • PAさん
  • 廣井きくり
  • 岩下志麻
  • 清水イライザ
  • 大槻ヨヨコ
  • 長谷川あくび
  • 本城楓子
  • 内田幽々
  • ぽいずん♡やみ
  • 後藤ふたり
  • 暗殺前の山田リョウ
  • 初期案後藤ひとり
  • 郁代(ぱぺちゃ)
  • 伊地知ニジカ
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