幼馴染の変人ベーシストの料理番になった件について。   作:かんかんさば

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機種変したので初投稿です。



#43 変毒為薬(後編)

「あなた、ギターヒーローさんですよね!!」

 

ひとりが、俺と虹夏が隠してきた秘密が無慈悲にもぽいずんさんによって暴かれてしまった。

暴かれた瞬間、その一瞬だけ目の前が真っ白になった。

しばらくスターリーを覆った沈黙を破ったのは喜多ちゃんだった。

 

「えっと、何の話……?」

「まさかアンタたち知らないの?」

 

突如として訳の分からないことをいうぽいずんさんに喜多ちゃんは困惑する。そう言うのも無理はない。なぜなら彼女はいつも猫背で引きこもり一歩手前だけど肝心な時にはとてもかっこよくなる、結束バンドのギターとしての後藤ひとりしか知らないのだから。

 

ぽいずんさんは、まだギターヒーローがどういうことなのかを説明していない。だから止めるのは今のうちだ。

彼女を止めようとしてみたが、とても止められる勢いではなかった。

 

「このギターヒーローさんはね!超凄腕高校生ギタリストで!それでいて男女問わず学校の人気者でロインの友達数は1000人越え!しかも彼氏はスポーツ万能成績優秀バスケ部エースの完璧ボーイという超リア充女子なのよ?」

「人違いじゃないですか?」

「即答!?」

 

そりゃそうだろ。そんなちゃちなラノベみたいなやつがひとりって言われても違うとしか言いようがないだろ。

待てよ、これならひとりをギターヒーローから遠ざければ万事OKなんじゃないのか?

 

「そうですよ。そのギターヒーローってやつとそこの超絶コミュ障で陰キャ甲子園四連覇中の彼女がそんな神がかった女子高生と同一人物なわけないじゃないですか。ぱくぱくやみさん、目、付いてます?」

「ヴっ……」

「ぽいずん♡やみだよ!」

 

今の発言でひとりが○んだような気がするが気にしない。どうせ後で復活するから。

それよりも今はこのキッついぶりっ子を追い出すことに心血を注がねばならない。

にしても、どうやって追い出すか。そんなことを考えてるうちにぽいずんさんが口を開いた。

 

「でもギターヒーローさんですよね、この人」

「だから、違うって言ってるじゃないですか!こんな年中ジメジメした匂いがするジャージを来てて学校にはろくに友達いなくてそもそも会話も家族以外とはほとんどできないようなやつがそんな絵に書いたような青春送れると思いますか?遅れるわけないですよね?そうだよなぁ、そうに決まってるよなぁ!」

「楓ストップ!これ以上はぼっちちゃん本当に○んじゃうって!」

 

ふとひとりの様子を見てみると、もう完全に消し炭になっていた。こりゃやり過ぎたな。

 

「だってその伸びっぱなしの髪は抜け感出してるように感じるし、普段のジャージもあえて世間のトレンドから外れるコーディネートにすることによってカリスマ性が目立ってるの! そう、カリスマはそんじょそこらの雑草とは違うの。きっとレモンとかパプリカとか好きでフラミンゴ飼ってて私生活はハッピーで埋め尽くされてますよね? やっぱギターヒーローさんはカリスマなのよ!!」

 

そんなオーバーキル論点ずらしをしても、ぽいずんさんは考えを変える気配は無い。

 

「ひとりがそんな誰津玄師なわけないだろ!ほら、ひとりも違うって言ってやれ!虹夏もなんかひとりに!」

「そ、そうだよぼっちちゃん! 違うなら違うって言わないと!?」

 

なんとか言ってくれよ。じゃないとこいつを銀河系の外れに追放出来ないんだけど。

 

しばらく瀕死になっていたひとりは俯きつつ体を震わせながら起き上がり、顔を上げた。

もしかして否定するのか、そんなことを考えていると重たそうな口を彼女は開けた。

 

「あっ、いやぁ……ふへっ、ち、違いますよォ……うへへ」

「絶対この子だ〜!!!!!」

 

バカ野郎ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!

なに人の努力を水の泡にしとんのじゃ。どうしてくれのさ。

 

俺の努力も虚しく正体が露呈しまったところで、喜多ちゃんがぽいずんさんに質問をし始めた。

 

「あの、ひとりちゃんがギターヒーローってどういうことなんですか?」

「本当に知らないの!? いいわ、無知なアンタ達にも教えてあげる!」

 

ぽいずんさんはスマホでギターヒーローの動画をドヤ顔で見せる。

見せられる喜多ちゃんとリョウのリアクションは以外に普通な感じだった。

 

「上手いことは何となくわかってたけど言わないから別にどうでもいいかって」

「私もなんかあるのかなぁって薄々感じてたので別に……」

「もうちょっと驚いてよ!もう少し引き伸ばししてもいい展開なのに!」

 

先に進めたい作者の気持ちを考えろ。

あれ、俺はなんでこんなメタ発言をしてるんだ?

 

「でも驚いてますよ?この大量の虚言には」

「ぼっち様、動画の収益の管理はこの山田にお任せ下さい」

 

虚言には驚くよな、だって無理あるし。

あと山田、テメーはダメだ。

 

それはそれとして、正直ギターヒーローに関する問題は杞憂だったみたいだ。みんなそこまで驚いているわけでもなければ気まずい雰囲気にもなって……一部を除いてなってないしな。

 

微妙な反応を見せた二人にぽいずんさんは呆れたのか、今度はひとりの元へと移動した。

 

「ところでギターヒーローさん、さっきのライブはなんであんな酷い演奏を?」

「あっ、私人見知りで……その……だからバンドだとうまく合わせられなくて……それに動画は家で一人で弾いてるので……」

「……いいんですよぉ〜、天才にだって欠点はあるもんですからぁ! むしろプラスですよぉ!」

 

こいつひとりにはとことん甘いな。ますます腹たってきたわ。

 

「え〜!ひとりちゃんってこんなにすごい子だったの?」

「再生数すごっ!」

 

ひとりのファンの人がスマホを見てそう呟くと、ぽいずんさんは食いつくようにその人たちに話しかけた。

 

「これからでかいツラできるから喜びなさい! あんた達はギターヒーローさんの選ばれし古参ファンだから!」

「は、はぁ……」

「将来メジャーデビューして事務所の意向で音楽性がガラリと変わり新規ファンを疎ましく思いあんなに大好きだったミュージシャンに愛憎という感情を抱くようになり聞くのは昔のアルバムばかりで最近の曲は面白くないだの初期の方が好きだったのインディース時代は良かったと愚痴垢で変わり果てる権利があんた達にはある!」

 

嫌だよそんな権利、いらんわ。

 

「全然嬉しくないです」

 

ほら、ファンの人もそう言ってるし。

 

「どうします店長、今のうちに追い出します?」

「そろそろ閉店だし、私が圧かけて追い出すからいいよ」

 

時計を見るともう21時過ぎ。閉店の時間は刻一刻と近づいていた。

すると、ウッキウキのぽいずんさんはひとりに声をかけた。

 

「ウチの編集長にかけあって業界の人に紹介して貰えるように言っときます! 良い人がいるって」

 

その一言に俺は忘れかけていた違和感を再び抱き始めた。

普通、結束バンドを紹介するのであれば良い人たちと言うはずだ。

 

「えー、デビューできるかもってこと?」

「すごいじゃん!なんか一気に結束バンドの存在が遠く思えてきたかも!」

「うへへ」

 

あまりにも都合のよすぎる展開に俺は耳を疑う。

業界の人に紹介してもらえるのは音楽業界ではよくある事だ。でも、そういうところから不祥事や事件が起きている、なんてこともよくある話だ。

それにさっきの取材だってあからさまにひとりのことしか聞いていなかった。結束バンドを事務所なりレーベルにスカウトするのであればメンバー全員にある程度は質問するだろう。

 

ということは、この人まさか──

 

違和感からぽいずんさんの目的を推測したその時だった。

彼女の口から言葉が放たれた。

 

「え、結束バンド? 何の話?」

 

結束バンドの蕩けたにやけ顔が一瞬にして固まる。

たった今この瞬間、俺の抱いていた違和感は現実となった。

 

「あたしが言ってるのはギターヒーローさんだけよ。他のメンバーの事までは知らないわ」

 

この状況に理解が追いつかない結束バンドの代わりに、俺がぽいずんさんに質問をする。

 

「もしかしてですけど、あなたがスカウトをしたのは、元々取材をするつもりだったのはひとりだけということですよね?」

「そうだけど?」

 

これまで経験した事の無い最悪な答え合わせに俺は胸が締め付けられる。

やはり、初めからそのつもりだったのであれば早めに追い出しておくべきだったのでは無いのだろうか。

そんな甘い蜜でみんなを騙したぽいずんさんにふつふつと怒りが湧いてくる。

「どうしてそんなことを──」、と問い詰めようとしたその時、またしてもぽいずんさんは口を開いた。

 

「てかさ、結束バンドってガチじゃないですよね?」

「え……」

 

結束バンドはガチじゃない。その一言で俺の怒りは一気に沸騰した。

 

「……こいつらの」

「ん?」

「こいつらの、どこがそのガチじゃないって判断材料になるんだよ!」

 

俺は彼女たちが本気で努力しているのはわかっている。でも、本気が身内だけではなく、ぽいずんさんや姉貴のような業界の人にまで伝わるかというと、そうとは言い難い。そして、その本気がどこに向かっているのかも、時折俺はわからなくなる。

それでも、今の発言は到底許せるものではない。

 

「言っとくけどあたし、仕事柄アンタたちよりたくさんのバンドマンを見てきてる。だから大体そのバンドがどこを目標にしているのかは見てて大体わかんのよ。でもって結束バンドの実力は下の上、よく言えば中の下。そんなんで声かかるとか夢見すぎでしょ。自分たちの実力を客観視してるの? それも出来てないようじゃギターヒーローさん以外は論外。さっさと他のギター集め……あ、君が入ったら? でも、君の実力でも結束バンドには宝の持ち腐れか。とにかく、他のメンバーあつめて身内でわちゃわちゃやってたら?」

「……」

 

多分、今の発言からして俺の実力もある程度こいつに認められているのだろう。

普段だったらそれはとても嬉しいことなのだが、今はそれがとてつもない屈辱のように感じる。

 

「適材適所ってやつよ。素晴らしい才能をこんなところで腐らせちゃいけないの。いつまでも内輪ノリでしか輝けないような場所じゃなくて、プロの世界で演奏した方がギターヒーローさんのためになるの。バンドの世界じゃ引き抜きなんて当たり前の話よ? それに──」

 

こいつの言っていることは説得力がある。でも──

 

「ギターヒーローさんが本来の演奏をできるようになったら、他のメンバーは足手まといになるのよ」

「……っ!」

 

足手まとい。その言葉に俺は握りしめていた拳をより強く握りしめる。

 

リョウは方向性の違いからバンドを脱退したことで一度閉ざした音楽の道を、結束バンドで今度こそ自分の音楽を貫き通すことで再び歩き始めた。

 

虹夏は志半ばで途絶えた姉の分まで有名になり、結束バンドの知名度が上がった際にはスターリーも有名にするという夢があるから、いつもひたむきに頑張っている。

 

喜多ちゃんは一度逃げた罪悪感からも、ひとりを支えられるような演奏をできるようにならないといけないという使命感にも向き合って、必死に練習している。

 

そんな三人だからこそ、きっとひとりはこれまで一緒に演奏してきた。そして、これからも演奏していきたいと思ってるはずだ。

それを、ただライブを一度や二度見ただけのやつに否定されるのがたまらなく悔しい。

 

だから───

 

「……足手まとい? ふざけたこと抜かすんじゃねぇよ!!!」

「え、何?」

 

俺は声を荒らげた。

 

「確かにあんたから見ればこいつらは足手まといかもしれない。だがなぁ! ひとりから見ればこいつらは!こいつらは大切なバンド仲間なんだよ!それを!今日初めてライブ見たお前が!しかも途中までスマホ見ながらライブ聞いてたようなやつに、こいつらをああだこうだ言う資格なんてどこにもあるわけねぇだろ!!!!」

 

辺りは静寂に包まれる。

怒りを爆発させたところで、効果があるのかはわからない。でも、今の自分には到底抑えられるものでもなかった。

 

しばらくして、ぽいずんさん……いや、ぽいずんと言っておこう。ぽいずんが口を開いた。

 

「てかさ、あんた結束バンドのなんなの?普通こういう反論ってメンバーが言うやつじゃないの? なんで外野のあんたが言うわけ?」

「俺か?ああ、俺は結束バンドの───」

 

自分は結束バンドのお手伝い。いや、お手伝いなんて生ぬるいやつじゃダメだな。みんな、俺が今この瞬間、勝手にポジションを決めることを許してくれ。

あとできっちり話はつけるから。

 

「───俺は結束バンドのサポートメンバー、下村楓だ」

「は、何?サポートメンバー?なんのお笑い?そもそも……」

 

笑いながらぽいずんはベラベラと喋る。

それに対してどう立ち向かうか考えているとPAさんと店長がやってきた。

 

「店閉めるからお前はもう出てけ。はっきり言ってお前のせいで気分悪いんだけど」

 

ぶりっ子対策なのか、店長はガスマスクをつけていた。

 

「下村くん、ここは私と店長と一緒にこの子を追い出しましょう!」

「は、はい……でもどうやってこいつ追い出すんですか?」

「これを見てください」

 

小さな声でそう言われたあとPAさんが見せてきたのはパソコンの画面。

そこにはぽいずんのものと思われる本名、年齢、住所、電話番号、その他もろもろが書かれていた。

 

「今のご時世特定するのは簡単ですからね。しかし、こんなに晒されてるなんてこの人相当アンチ多いんですね!」

 

へぇ……ってぽいずんめちゃくちゃ年齢サバ読んでるじゃん!

通りでキッついと思ったわ。

 

「ま、まあ今してる話が終わったら帰るんでぇ〜! それで、結束バンドのサポートメンバーって、サポートメンバーの定義わかって言ってんの? せっかく実力あるのにそういうとこ……」

 

さて、このサバ読みぶりっ子野郎に制裁を加えねばな。

 

「随分と気持ちよさそうに喋ってんじゃん、ぽいずん♡やみ、いや、本名佐藤愛子24歳東京都(自主規制)在住」

「え、なんであたしの本名とか住所知ってんの?」

「あなたの本名、ネットで晒されてましたよ」

 

イキリながら喋っていたぽいずんの勢いが完全に止まる。

さぁ、もっと追い討ちしなきゃねぇ。

 

「ギターヒーローの事とか結束バンドのことをさも当然のように好き勝手言うけど、そういうお前って営業時間前にアポなしで入ってきたじゃん、それ不法侵入じゃね? どうします店長、こいつ今から警察に突き出してそのまま豚箱にでもぶち込んでもらいます?」

「そうだな、それじゃあ今から「ぎゃあああああ!!」なんだようっせぇな」

「警察だけは勘弁してくださ〜い!!! 今すぐ帰りま〜す!!!」

 

ぽいずんはそう言って泣きべそを書きながら逃げるように帰っていった。

少しだけ胸にスカッとした爽快感が溢れたが、それも一瞬で収まった。

結局重い雰囲気のままだったのだ。

 

「楓……手……血が……」

 

リョウの言葉に俺は痛みを感じ始める。

手のひらを見てみるとそこには血が流れていた。正直、こんなになるまで怒っていたとは思わなかった。

ぽいずんが言っていたことは到底許せるものでは無い。

しかし、ああいったやつにも結束バンドを認めさせる方法を示してくれたような気が今になってしてきた。

変毒為薬、薬と毒は背中合わせであるように、今日の出来事がきっと結束バンドに取っていい方向へと向かうきっかけなのかもしれないと思った。

真っ赤に染まる自分の手のひらに俺は、結束バンドにとってどういう存在でありたいかの答えを改めて感じ取った。




次回、「リライト」


前回、結束バンドへの当たりが強くなるかもなどと言っていましたがそんなことはなかったです。
あと、今回の楓くんのあの発言は次回ちゃんと触れるつもりです。

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クロスオーバースピンオフは

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