幼馴染の変人ベーシストの料理番になった件について。 作:かんかんさば
最後の方にアンケート載せたので良かったら答えてください。
あの酷な出来事から一夜が明けた。
リョウのいつものウザったく厚かましい態度も、虹夏の子供っぽく賑やかで明るい雰囲気も今日はどこか遠くへ行ってしまったような気がする。
二人ともいつもよりだいぶ大人しいのだ。気まずいというか、緊張しているような空気感が朝からずっと俺たち三人の間に漂っていた。
「……」
こうして、学校終わりにスターリーに集まっても終始無言のまま。
「なぁ、お前ら──」
このままでは埒が明かない。誰かがこの状況を打開しなければ本当に終わってしまう。
そう思った俺は口を開いた。
「昨日のアレ、どう思った?」
「……そりゃ、悔しかったよ。楓はその……どう思ったの?」
「俺は──」
思ったことを言おうとするが、言葉につまる。
言ってしまうのが正しいのかもしれないけど、それがかえってトドメを刺すような発言にもなってしまう。
「ハッキリ言ってください。きっと先輩も思うところがあるんですよね……」
どうやらこの際、心を鬼にしてはっきり言ってしまう方がいいな。
「悔しいよ。すごく悔しい。両手の手のひらから血が出てくるくらいには悔しかった。でも、あいつが言ってたことは割と正しかったし、遅かれ早かれ言われてたのかもなぁって思った」
「そうなんだ……」
「あとこの際だから言っておくけど、実はSICK HACKのライブが終わったあたりからだけど、正直たるんでるなって思ってた。こういうのはもう少し早く言えた方が良かったのかもな、ごめん」
「いいよ謝らなくて……言いにくい雰囲気にしちゃってたのは多分あたしたちの方だから……」
「別に謝らなくてもいいのに……」
言いたいことが言えるのってこんなにもいい事なんだな。
それなら、みんなの志に火をつけるような感じのことを言わなきゃな。こんな湿気た雰囲気にはもううんざりだし。
「まぁいいや、いつまでもこんな雰囲気でいられるのも嫌だしお前らにもう一つだけ言いたいこと言わせてもらうわ」
「うん……」
一言を口にする前に水を一気に飲み干して、深呼吸をする。
よし、行けるな。
「現実から目を逸らすな。外野に否定されて悔しかったら、その外野を黙らせることができる力を、名誉を、努力して勝ち取って結束バンドが本気だって証明してみせろ。いつまでもぬるま湯に浸かるなよ」
だいぶ厳しいことを言ってしまったかもしれない。
「ありがと、楓。そう言ってくれて嬉しいよ」
「ああ、どういたしまして」
でも、結束バンドのことを考えれば、この言葉を浴びせるのが最適解だったのかもしれないな。
「昨日は結束バンド否定されて悔しかったけど、今のままじゃそんなこと言われてもしょうがないのかも……」
「そうですよね……」
「だから──」
虹夏はカウンターから一枚のポスターを持ってきた。
「これに出てみんなの力を証明しよう! ってことなんだけどどうかな……!?」
そのチラシには未確認ライオットと書かれていた。
未確認ライオットと言うのは10代限定で出場できるロックフェスで、ここでの活躍をきっかけにメジャーデビューするアーティストもいる。
実はこのフェスには6年前に姉貴が、2年前にきくりさんが出場している。姉貴のバンド、"Flügel"は準優勝、きくりさんのSICK HACKは優勝という結果を収めている。
「じ、実は私今日その話をしようかなって思ってたところだったんです……」
「喜多ちゃん……!」
「じゃあ、リョウも!?」
「別に、みんなが出たいならいいんじゃない?」
空気読めないよなこいつ。あとお前のツンデレ営業は合わないからやめた方がいいと思うぞ。
「後はぼっちちゃんだけだけど……」
「ひとりちゃんはこういうの嫌がりそうですもんね……」
「実際昨日のやつはぼっちには悪い話じゃなかったしね」
四人中三人が出場するということになったが、肝心のひとりの意志を聞かなければ話は決まらない。
そんなことを考えていると、バタンと扉が開き、ひとりがやってきた。
「あっ、ぼっちちゃん! 今みんなで未確認ライオットっていうフェスに出ようって話になってたんだけど、ぼっちちゃんは……」
虹夏が確認を取ろうとすると、ひとりはカバンからチラシを取り出しこう言った。
「みんなでグランプリ取りましょう!」
その目は覚悟を決めたヒーローのように、俺の視界に映った。
本気だということが十二分に伝わる素晴らしい目だ。
「本気なんだね!!」
「あっはい!!」
「ライブ審査とかネット投票とかあるみたいだけどいいんだね!」
「あっはい……」
「最終審査はフェス形式で数千人の前で演奏するみたいだけどいいんだね!」
「うっ、うぅ……あっ……はい……」
「「おお〜っ!!」」
なんか段々萎縮してたように見えるけど気のせいか。
「ぼっちちゃんも喜多ちゃんも気持ちが同じで嬉しいよ!」
「実は私も持ってきてたから私も持ってきたから仲間入れて」
「素直じゃないな!」
だからツンデレは割に合わないって!
その後、改めて結束バンドのみんなは未確認ライオットの詳細について確認した。
流れとしてはデモを送る一次審査、ウェブ投票の二次審査、ライブハウスで実際に演奏する三次審査、そしてフェス形式で行われる最終審査。この四つの審査で優勝を決める。
一次のデモ審査の締切が4月なのでそこまでに曲やミュージックビデオを作り、スターリーでの月一のライブに加えて路上ライブを加えるなど活動を活発化していくことになり、ここから半年近くバンド中心の生活になることが決まった。
ここまで本気だと話もすぐにまとまるものなんだな。
「あの、うちのシフトだけはちゃんと入ってね……」
「いくらでもここでライブさせてやるって流れじゃないんだ……」
「うちのシフト増やして沢山ライブすりゃいいじゃん。多少は楓が穴埋めてくれるだろうけど」
「一回3万もするのに無理だよ! 多少は楓が穴埋めてくれるけど」
なんか俺がシフト交代する前提になってませんかね。
「多少は交代してもいいけど全部は無理だか「ちょっと先輩!!」oh……」
なんでこんなタイミングで遮られるんだろう。
「ここここれ優勝賞金100万もあるんですか!?」
「そうだよ〜」
「おいお前ら」
「どっ、どうしたんですか?」
「思う存分ここでライブしろよ!分前5割で手を打とう!」
「遠慮します」
欲が見え見えだよ、店長。
「同世代で今人気のバンドでもチェックしてみよ!」
「いいですね!」
虹夏がオーチューブで同世代、つまりメンバーが基本10代のバンドを調べる。
まず初めに出てきたのは"ケモノリア"。
都内中心に活動中のエレクトロロックバンドで、ダンスミュージックとロックを融合させた斬新なサウンドが売りのバンドだ。
「このバンドの曲弾いてて楽しいんだよな。あと、ボーカルとドラムがすぐ喧嘩するけど見てる分にはすごい楽しいし」
「なんでそんな裏事情みたいなの知ってるの!?」
「だって俺、今度ここのサポートでギターやるもん」
俺は今度、このケモノリアのライブにサポートメンバーとして出演することが決まっている。
実を言うとSICK HACKのライブ以降、色んなところからサポートとして声がかかっていたのだ。
ただ、正規メンバーとしてのスカウトは結束バンドだけだったがな。
「なんかいつの間に凄いことになってるね……」
「さすがですね、先輩!」
次に出てきたのは"なんばガールズ"というバンド。
大阪を中心に活動していて、曲中にパロディを盛り込んだりで若者を中心に人気を集めているコミックバンドだ。
「ボーカルの向井豹子って人は阪神ジャガーズの大ファンみたい」
「リョウ詳しい!勉強熱心だね〜」
「ってまとめサイトに書いてある」
「情報源が浅いな!」
スマホ見ながら言ってたからまさかとは思ったけどな。
「最近だと新宿FOLTで活動中の"SIDEROS"ってバンドは有名かもな」
「あっ、前に廣井さん見に行ったところ……」
「そうだ。で、このギターボーカルが大槻ヨヨコって言ってこいつがリーダー。結成1年足らずでワンマンできるほどの人気と実力を兼ね備えてるんだ。まぁ、活動自体は3年前からしてるけどメンバーをクビにしまくってて現体制では1年目なんだ」
「暴君だ……」
「ヨヨコ……まさか!」
「そういえばこの人、楓先輩の彼女さんでしたよね?」
「確かに、SIDEROSについて話してる時すごい生き生きしてたな〜。さすが、彼女の事は一番理解してる良い彼氏さんだね〜」
「違うわ。こいつは友達だよ友達。第一、彼女が出来たら報告するって言っただろ!」
なんど大槻との関係を訂正すれば気が済むんだこいつらは。絶対わかっててやってるよな。しかも喜多ちゃんまで乗ってるよ。
「へぇ……こいつが泥棒猫か。楓が誰のものかわからせなきゃ……」
なんかリョウは小声でボソボソ喋りながらどす黒いオーラを放ってるじゃん。
もうこれ大槻本人から否定してもらった方が早いぞ。
『はっ、はあっ!? 下村が私の彼氏!? なんの冗談なの? ふざけるんじゃないわよ!!』
バッサリ否定してくれる姿が目に浮かぶわ。ありがたやありがたや。
『ね、ねぇ下村。その、さっきの…… ほら、アンタの友達が言ってた冗談、あれ、本当にしてあげてもいいわよ?』
ダメだ、なんかよくあるラブコメ展開に向かいかねないわ。俺の心の中の大槻のキャラ付けが変になってる。解釈違いだよこれは。
「うわ、絶対楓今変なこと考えてたでしょ」
「大丈夫、楓がこんな人気バンドガールと付き合えるわけないのはよく知ってるから」
こいつら分かっててやってたのか?
だとしたらすごくウザイよ。
「でも、同世代にこれだけ活躍している人たちがいるんですね」
「当面はこの人達が目標ってことになるね」
「だけどこっちは曲も知名度も圧倒的に足りない……」
「あたし達のオリジナル曲今6曲あるとはいえ向こうには全然劣っていると思うからあと1曲は欲しいね。それでミニアルバムを作ってミュージックビデオも撮ろう。だから、次の曲は最高の1曲にして、その曲をデモ審査に送る!」
決意を固めた虹夏の一言に対し、ひとりとリョウはプレッシャーを感じたような顔をしていた。
特にリョウのはそれがより一層強く俺には見えた。
その後、店長が以前撮影していた結束バンドのライブ動画をオーチューブに上げ、鑑賞した。
自分たちの演奏を客観的に見た彼女たちは、それぞれの問題点を意識しつつ練習を始めた。
練習をしている時の彼女達の表情は本気でやっているということを見ている側に見せつけるような表情だった。
そして練習が終わり、俺はリョウと虹夏の三人でコンビニに立ち寄ってアイスを食べている。
もう完全にオフシーズンとは言え、練習終わりに食べるのは美味しい。
「ところで楓さ」
「ん?」
「昨日のやつなんだけど、あれどういうこと?」
「ああ、あれか」
あれ、ということは昨日の発言、結束バンドのサポートメンバーということだろう。
「俺、結束バンドに入るよ」
「本当!?」
「でも、正規メンバーとしてじゃなく言葉通りサポートメンバーとしてね」
「なぜに」
「そうだよ、別に正規でもいいのに」
「俺の夢はお前らとは少し違うからな」
「どういうこと?」
「俺の夢は──」
俺の夢、それは簡潔に言うと自分の力でより一層高みを目指していきたいというものだ。
高みを目指すのであれば結束バンドに所属して一メンバーとして色んなバンドと切磋琢磨して行けばいい。でも、やるからにはできるだけ自分の力で全力でやりたい。楽器、バンドを問わず結束バンド含めもっと色んな人達と切磋琢磨してそれぞれの音楽を知りたい。そして、いつかは自分の音楽を奏でて、熱気の籠った声援を溺れるくらいに浴びてみたい。
これが俺の夢だ。
「──というのが目標」
「すごい、さすが楓」
「いいじゃん、あたし達応援するよ!」
「ありがとう。お前らも頑張れよ?」
「当然」
「そうだ、これを……!」
「これって……」
虹夏が渡してきたのは黒いリストバンド。結束バンドのみんながライブの時に手首に着けているものだ。
「いいのか、貰っても?」
「いいんだよ、サポートと言えどメンバーなんだから!」
「ありがとう。あ、これまで通りお手伝いはさせてもらうからそこんとこよろしく」
「じゃあこれから毎回楽器代と交通費援助して」
「それは自分でどうにかしろ!」
虹夏から貰ったリストバンドを左手首に付けてみる。付けてみると、なんだか世界が変わって見えたとかそういうのは無いが、気分が上がってくるような感じがした。
俺が目指す道は確かに見えた。後は、一歩一歩をしっかりと夢を叶えるために歩いていくだけだ。
夢を追う姿を誰かにくだらないと揶揄されたとしても、意味が無いと後ろ指を刺されたとしても、それが俺を成す原動力になるのだから。
夢が叶った時、俺はこのロックな世界に自分の存在を証明してやる。
次回、「大槻ヨヨコ伝説」
なんだかんだ、楓くんは
高評価、お気に入り登録、感想、ここすきなどしていただけると作者のモチベと筆のスピードがあがるので是非お願いします。
高評価くれー!!(承認欲求モンスター)
タイトル元:ASIAN KUNG-FU GENERATION「リライト」
【アンケート回答のおねがい】
現在、他のバンド作品(ガルクラ、バンドリ、けいおん、BECK)などとのクロスオーバー作品を本編とは別作品として制作しようかと考えています。
ただ、正直需要があるのかがわからないので読者の皆様の意見を聞きたいと思っています。
回答締切は5月31日ですので、ぜひ回答していただけると幸いです。
追記
仮に書くことが決まった際にはチラシの裏に投稿する予定です
クロスオーバースピンオフは
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閲覧用