幼馴染の変人ベーシストの料理番になった件について。   作:かんかんさば

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筆がのったので初投稿です。

なお今回はダーク○イは一切出てきません。


#46 幼馴染2人組VS大槻ヨヨコVSダー○ライ

12月3日土曜日。

 

今日は結束バンドのライブの日だ。しかもあいつに色々言われてから最初のライブだ。

あの出来事以来練習はより一層取り組んできたし、ノルマは余裕を持って捌けるようになってきたからきっと大丈夫だろう。

 

「すみません店長、友達迎えに行ってくるんで一旦外でてきます」

「あいよ」

 

そんなライブの日に俺は今日、大槻を招待した。

待ち合わせは開演30分前の16時30分。スマホで時間を確認すると画面には16時20分と映し出されていた。

少し早いかもしれないが余裕を持っていた方がいいのかもしれない。コートのポケットに手を突っ込んで俺は駅前の広場へと向かった。

 

広場に着くと大勢の人だかりがあった。

クリスマス関連の出店が沢山出ていて、そこの商品を買おうとする人たちだ。俺の家はこういう所のものを買ったことがないので、今年は一つ買ってみるのもいいだろう。

 

『今着いたわ』

『小田急線の改札前にいるから』

 

出店を見てみようとしたその瞬間、大槻からロインが来た。

どうやら到着したみたいだ。大勢の人の中でも大槻は目立つから案外すぐに見つか……見つ……あれ、どこだ。

 

大槻ならベレー帽にロザリオのネックレスとわかりやすい服装をしているのだが、どういう訳か見つからない。

 

「ちょっ、ちょっと!」

 

もしかしてあれか、下北沢に来たつもりが青森の下北駅に来ちゃいましたとかなのか。だとしたらすっごく煽り甲斐があるな。

 

「まっ、待ちなさいよ!」

 

うん、見つからないな。本当に青森行っちゃったかもしれないし、お土産としてりんごでもたかるか。

 

「待ちなさいって言ってるでしょ!?」

「うわびっくりした……って誰?」

「私よ私、大槻ヨヨコ!」

「マジかあいつこういう厄介ファンいるんだ」

「本物よ!」

 

突然声をかけてきたのは自分のことを大槻ヨヨコだと思い込んでる一般人……ではなく大槻だった。

だってしょうがないじゃないか。いつものベレー帽もロザリオのネックレスもない、少し地味で真面目そうな私服の女子高生みたいな見た目だもん。

 

「なんでわざわざそんな変装してくるんだよ」

「こうすれば誰も大槻ヨヨコって分からないかなって思って……」

「別にいいだろ、気づかれたって」

「そっ、そういう問題じゃないの!」

 

あいつらちょっとやそっとの事じゃ気にしないと思うんだけどな。

 

「今日結束バンドは何組目なの?」

「確か3組目だったと思う」

「そう……」

 

無関心な返事とは裏腹に彼女の口角は緩くなっている。きっとライブが楽しみなんだろう。

 

「結構楽しみにしてんだろ、今日のライブ」

「ちっ、違うわよ! 敵情視察だから!! 別に楽しみなんてちっとも思ってないわ!!」

「楽しみなんだな」

 

大槻と喋っているうちにあっという間にスターリーへと戻ってきた。外には行列が出来ていたので、大槻にはそこに並んでもらって俺は仕事に戻った。

 

「楓がサボりとは珍しい」

「違うわ。あとお前に言われたくねぇよ」

「てへっ」

「てへ、じゃねぇよ」

「まぁそれはそれとしてなんで抜け出してたの?」

「友達を迎えに行くためだよ」

「芦名って子?」

「違うって、大槻だよ」

「むむ、女か……」

 

うわこいつ大槻の名前出した瞬間すごく不機嫌になったぞ。どす黒い闇のオーラが全開だよ。

 

「大丈夫だって、そういう関係じゃないから」

「その言葉、本当?」

「本当だよ。このくだり前もやった気がするけどな」

「来てるなら終わったら本人に直接確かめた方がいいか」

 

そう言ってリョウは楽屋の方へと戻っていった。

なんか怖くなってきたな。ただ事実を証明するだけなのに。

 

「おや、下村くん、お友達を呼んだんですか?」

「はい」

 

受付に戻るとPAさんが話しかけてきた。

 

「呼んだのが女友達なんですけど、それをリョウに言ったらあいつ急に機嫌悪くして」

「ほう……なにか山田さん的に思うことがあるのかもしれませんね」

「思うこと……ってなんですかね」

「それは〜……深く考えない方がいいですね。乙女の秘密ってやつです」

「そうですか……」

 

リョウだって明かしたくない秘密の一つや二つあるか。これには突っ込まないでおこう。

そう念じて俺はPAさんと共に受付業務を再開した。今日は週末ということもあってかいつもより若干人の入りが多い。

お客さんを捌き始めてから少しして、大槻がやってきた。

 

「こんにちは〜。今日はどのバンド見にこられました?」

「けっ、結束バンドです……」

 

どもってる感じ面白いな。なんかモニ○リングとか大晦日のガ○使見てるみたいで笑けて来るわ。

 

「ぷふっ、た、楽しんできてくださいね〜」

「う、うっさい!」

 

やっぱり大槻をイジることでしか得られない栄養素はある。しかもこれをバイト中に摂取できるとはなんといいことなのだろうか。

 

「可愛い彼女さんですね」

「PAさんまでそれ言います?」

「ふふっ、冗談です♪」

 

そう言って見えたほほえみは、少しニヒルな雰囲気を醸し出している。これが大人の余裕ってやつですか?多分違うだろうけど。

 

「あれ〜見たことない子だ〜!」

 

ある程度捌ききったので、お茶を飲んで一息ついていると大槻がひとりのファン2人組に捕まった。

 

「あの〜今日初めてライブ見に来た感じですか〜? 結束バンド見に来たんですよね?」

「名前なんて言うの?」

「えっ、あっ、おっ、大つ……」

 

めちゃくちゃキョドってるじゃないすか。ほら、頑張れ頑張れ。

 

「つっきーです……」

「つっきーちゃんって言うんだ! かわいい名前だね〜!」

「今度から一緒にライブ行こ! あ、そうだロイン交換しない?」

「あっ、あんまりしたことないからよくわからかい……」

 

なんかすげぇ嬉しそうなんだけど。「下北沢って悪くないわね!」とか思ってそうだな。

てかつっきーっていいニックネームだな。今度からそう呼ぶか。

 

「つっきーちゃんはどの曲が好きなの?」

「わっ!私は別にファンじゃ……!」

「じゃあなんで今日見に来たの?」

「そっ、そそそれは……」

「それは?」

「はっ、初めてライブ映像を見た時すごい衝撃を受けて…… 考えたくなくてもずっと結束バンドのことばっか考えててネットでメンバーのこととか色々調べちゃって…… きょっ、今日だってたまたま友達が日程教えてくれてて空いてたから来ただけだから! そうよ、衝動的に来てただけ!!」

「それがファンなんじゃないかな……!?」

 

やっぱり好きなんですね結束バンド。

 

究極のツンデレ営業を見せてもらったところで室内は暗くなり、ライブが始まった。そしてそのタイミングで俺は観客のいるエリアへと移動した。

結束バンドの演奏が始まると大槻はスマホを取りだし、なにかボソボソ呟きながら一生懸命にメモを取り始めた。

 

「宣伝力があまりないのかな。バンド名で検索しても引っかかりにくいだろうし、SNSや音楽配信サービスでもどんどん利用してかないと今の時代いい曲作ったってすぐ埋もれちゃうんだから」

「さすがだなつっきー。マネージャーとかやってみたら?」

「やらないわよ。てかなによ、つっきーって!」

「面白そうだから呼んでみた」

「っ……」

 

ライブが進んでいく事に、徐々に盛り上がっていくのがここのライブのあるあるなのだが、今日はそれに大槻もノっている。その様子を見ると俺は連れてきてよかったなと思った。

 

「ありがとうございました〜! 結束バンドでした〜!!」

 

そんな盛り上がりを見せた結束バンドの出番はあっという間に終わった。

ファン2人組が物販で大槻にグッズをプレゼントして、彼女はご満悦な様子になっている。

 

「今日のライブも良かったよ〜!」

「ありがとうございます!」

「そうだ、今日はね〜新しいファンの子を連れてきました〜!!」

「えっ、ちょ」

「え〜嬉しい! ありがとう〜!!」

 

おっ、とうとうご対面したぞ、結束バンドと大槻。絵面としてはなかなか面白いな。

 

「わっ、私は用事があるのでこれで……!」

「みんな〜! つっきーちゃんにサイン書いてあげてよ」

 

ファンの人が虹夏にCDを渡すと、順番にサインを描き始めていった。

虹夏や喜多ちゃんはサインを書いたことがない、という割にはセンスあるものを書いていた。リョウとひとりはまぁ、うん、自分らしさが出てるなって感じのやつだ。

 

「あれ? なんか見たことある気がする。 楓、この子知らない?」

「あ〜、この子大つ「きっ、気のせいでは?」えぇ……」

「みんらぁ〜」

 

リョウが大槻の正体に気付こうとした時、きくりさんがやってきた。いつも通りフラフラになっていて、いわゆる「出来上がった」状態になっている。

 

「今日のライブもよかったよ〜! あの〜、あへ〜4曲目エモの塊でサイコーだった!」

「あなた今来ましたよね」

「今日3曲しかやってないですよ。あっ、ゲストで呼んでくれてありがとうございます! ちょうどたくさんライブしたかったところだったんで助かります!」

「いーのいーの!」

「ちょっと待ってください!」

「ん、どした〜?」

「今度のアレ結束バンドも出るんですか?」

「あれ、言ってなかったっけ〜?」

 

初耳だよ。初めてのソロ出演の共演相手が結束バンドだなんてすごい偶然だな。

 

「楓もでるの!?」

「うん、オープニングアクトとしてソロで出ることになった」

「凄いですね!! それにしても、どうして私たちを?」

「なんかね、朝起きたらなぜか送信履歴に入ってたんだよね〜! 魔法みたいなこともあるもんだ!!」

「でもシラフでも結束バンド呼んでたよ〜。 楓くん呼んだのもほぼシラフだったし」

「山でベロベロになってる状態がシラフって凄いですね」

「やっ、やっぱり適当だったんじゃないですか……!」

 

きくりさんが俺と結束バンドを呼んだ時の詳細を話していると大槻が割り込んできた。

あっ、自分から正体明かしにきたなあいつ。

 

「大槻ちゃん?」

「えっ、あっ、いや、違います!!」

「絶対大槻ちゃんだって〜」

 

ほぼバレてるし、この際俺がバラしちゃうか。

 

「合ってますよ。こいつ大槻ですよ」

「やっぱり〜」

「ちょっ、下村! アンタねぇ……! はぁ、そうです! 私が大槻ヨヨコ!」

「えっ、誰?」

「……」

 

まさかの覚えられていなかったパターンかよ。この流れだと普通「あっ、あの大槻ヨヨコ?」みたいな感じになるやつなのに。そういう空回りもまた大槻の面白さなんだよな。

 

「なぁ、楓」

「はい店長」

「あの子アホの子なの?」

 

空いている楽屋に着替えに行った大槻を見て店長はそう尋ねてきた。アホって訳では無いけどな。

 

「そうですね…… 真面目だけどいつも空回りしてその様子が面白い感じですかね」

「なるほどねぇ」

 

店長は納得した様子を見せてした。

 

「どう、これでわかった?」

 

しばらくすると大槻はいつもの格好で戻ってきた。初めからそれ着てこいよ。

 

「シデロスの……なんでここに?」

「え〜、大槻ちゃんまだ納得できてない感じ?」

「そうです!」

「酔った勢いとはいえ結構考えたんだけどな〜」

「でも!」

「でも何? 大槻ちゃんは私の目が節穴とでも言いたいの?」

 

うわ怖っ! 急になんか圧がすごくなったんだけど!?

 

「そっ、そんな意味じゃ……! かっ、帰ります! 結束バンド! 特に後藤ひとりっ! 私と姐さんのライブ台無しにするのだけは許さないから!」

 

そう捨て台詞を吐いて大槻は出ていった。

と、思いきや──

 

「話を聞かなきゃ。私、大槻ヨヨコに話つけてくるから楓も一緒に行こう。あ、あと虹夏も」

「あっ、ああ!」

「え、あたしも!?」

 

リョウに手を引っ張られ、俺と虹夏は外に連れ出された。そして早歩きで駅に向かおうと大槻に追いついた。

こうなることは分かっていたが、こうも突然にやってくるとは思いもしなかったな。

 

「なっ、何よ!?」

「君が噂の大槻ヨヨコか。少し話がしたいんだけどいい?」

「かっ、帰るって言ったでしょ!?」

「いいから来て」

「……」

 

いつにもましてどす黒いオーラを放つリョウに大槻は大人しくなった。

そして、そんな彼女に着いていく形で俺と虹夏と大槻は駅から少し離れた、人気の少ない公園にやってきた。

 

「さて、大槻ヨヨコ。楓とはどういう関係なのか説明してもらおうか」

 

公園に着くとリョウは早速1人がけのベンチに足を組むような形で座った。

その姿はまるでラスボスみたいな感じだ。

 

「どういう関係って…… というかそもそもアンタ誰なのよ!?」

「そうだね、まずは私が自己紹介しないといけないね。私は山田リョウ。結束バンドのベース担当で楓とは幼稚園の頃からの幼馴染。ついでに虹夏も自己紹介して」

「あっ、あたし? あ〜、あたしは伊地知虹夏! 結束バンドのドラム担当でリーダーやってます! 楓とリョウは小1からの付き合いで、リョウの言う通り幼馴染ってやつです!」

 

自己紹介を終えたところで、リョウはその辺にポケットから雑草を取りだし、それを食べながら大槻に質問を始めた。

 

「改めて、大槻ヨヨコ。楓とはどういう関係?」

「たっ、ただの友達よ」

「本当に? そういうこと言っといて裏で付き合ってたりして。本当のこと言った方が楽だよ」

「ほっ、本当に友達よ! そうでしょ、下村?」

「えっ、友達なの? 知り合いじゃなくて?」

「えっ……嘘っ……」

「おお……なかなか酷い返し方」

「えぇ……」

 

試しにいつもの冗談で返してみたけどこれでいけるか?

少なくとも恋人同士と言うには無理があるように証明できると思うけど。

 

「むむ、これで恋人と言うには少々無理がある」

「多分これ大槻さんの言う通りじゃないの?」

「一応楓にも聞いておこう。この大槻ヨヨコは彼女とかじゃなくて友達ってことでいいの?」

「うん、てか今の冗談見せられてカップルっていう無理あるだろ」

「確かに。ということは2人はただの友達っていうことなのね」

「そっ、そうよ……」

「そういうことだ。ってか何度も彼女じゃないとか友達だって言っただろ」

「なんか誤魔化されてる気がしたから疑ってた、ごめん。あ、ちなみにもうちょっと続いてたらへそから電気流そうかと考えてた」

 

一体どこのプレジデントだよ。濡れたタオルで洗いざらい吐かされそう。

 

「あたしも本当に彼女かと思ってたよ〜。ごめんね楓」

「お前もいじってきてたもんな。まぁいいや、事実証明できたし。な、大槻」

「……そっ、そうね! ほっ、ほとんどなんなのか分からなかったけど……」

「どうしたの、顔赤いけど大丈夫?」

「べっ、別になんともないから! もう用はないでしょ? 今度こそ帰るから!! あっ、下村も私と姐さんのライブ台無しにしたら許さないから!!」

「おっ、おお……」

 

顔を真っ赤にした大槻はすごいスピードで走って帰って行った。なんかしちゃったのかな。

 

「すごいスピードで帰ってったね……」

「にしても楓に彼女はいなかったのか。やはり紅葉に春は遠いね、楓だけに」

「バカにしてんのかお前。てかお前も彼氏ぐらい作れよ。あ、でもまずは好きな人見つけないとだな」

「いるよ、好きな人」

「えっ、マジで?」

 

嘘だろ、リョウに好きな人が出来たのか?

誰だ、焼けた肌が良く似合いそうな洋楽好きの人か? それとも美味しいパスタ作る人?

 

「それって誰、上杉? それとも西荻?」

「違う」

「え〜、誰だよ」

「教えない」

「そんな〜。虹夏は知ってんの? リョウの好きな人」

「うん、知ってるよ」

「えっ、どんな人? ちょっと耳打ちでもいいから教えて」

「う〜ん、いくら楓でも教えられないかな〜」

 

リョウの好きな人ってこんな機密情報なのかよ。どんなすごい人なんだよ。

国宝級イケメンか某事務所系アイドル? それとも石油王とかか?

 

「じゃあさ、今度のライブ終わったら教えてよ」

「無理」

「えぇ〜」

「でもこれからの頑張り次第で少しずつヒントは出してくかもしれないから。まずはイヴのライブ、一緒にがんばろう」

「道のり遠くない? まぁいいか、どの道頑張らなきゃだし」

「そうだね〜! あ、今日ファミレスに食べに行こうよ! ぼっちちゃんとか喜多ちゃんも誘ってさ」

「いいなそれ」

「私の分は楓の奢りで」

「それはない」

 

こうして、俺と大槻との関係に関する疑いは晴れた……と言っていいだろう。

それはそれとして、結束バンドとSIDEROSもイヴのライブに出るんだな。みんなには立派な姿を見せなきゃいけないな。

 

 

 

───ピロリンッ!

 

 

 

突然スマホから通知音がなり、画面を開くと誰からロインが来ていた。

アプリを開くとそのメッセージの主は姉貴からだった。

 

『イヴのライブなんだけどさ』

『私の他に母さんと彩乃と父さんも見に来るって』

 

ここで家族全員集合か、何年ぶりだっけな。

なんかより一層頑張らなくちゃいけなくなったな。




次回、「KICK BACK」

この小説一応原作7巻の範囲で終わらせるつもりなのにまだ3巻頭までしか進んでないという事実

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