幼馴染の変人ベーシストの料理番になった件について。 作:かんかんさば
12月23日金曜日。
「おつかれ〜!」
「こちらこそ、お疲れ様です!」
とうとうライブ前最後の練習が終わった。
今回バックバンドを務めてくれる人達と喋りながらスタジオから撤収する。
この人たちは当然だが、今回初めて組む人達だ。初めは緊張したが、今では肩の力を抜いて話すことが出来る。
「にしても廣井さんもまたこんな才能の原石を見出すなんてすごいよな〜」
「そ、そんな、才能の原石だなんて……」
俺の事を才能の原石というのは角谷さん。きくりさんの知り合いで、普段は会社員をしながらバンドでも活動している人だ。今回はベースを担当してもらうことになっている。
ちなみに何かにつけて褒めてくる性格の持ち主だ。
「あながち角谷の言ってることは間違いじゃないぞ」
「いやいやそんなこと」
「まぁ謙遜したくなる気持ちもわかるけど、こういうのは素直に受け取っとくのがいいぞ!」
そう言って肩をバシっと叩いてきたのは鮫島さん。角谷さんと同じバンドのメンバーで、今回のドラムを担当してもらう方だ。
ちなみに鮫島さんはうちの母の教え子だそうだ。
「そういえば明日のライブ、沙都希先生も見に来るんだよね?」
「はい、そのために今日福島から帰ってくるんです」
「終わったら挨拶しなきゃな。色々話したいことあるし」
「そうなんですか、きっと母も喜びますよ」
そう言うと、鮫島さんは嬉しそうな笑みを浮かべた。
「じゃあ、僕はここで。明日はよろしくお願いします!」
「うん、こちらこそよろしくね」
「期待してるぞ〜!」
駅の構内に入るタイミングで二人と別れる。
そして改札口を通り、ホームを歩いているとスマホから通知音がなった。
画面を見るとロインのメッセージが来ていた。送り主は母。あと50分ほどで東京駅に到着するという旨のメッセージ。
今いるのは池袋、東京駅までは丸ノ内線で20分弱かかる。今は16時を少しすぎた辺りで、待ち合わせの時刻は17時丁度。向かうには少し早いかもしれない。迎えに行く前に新宿駅でリョウと虹夏と合流する予定がある。その事を考えると今から向かうのがいいのかも。
あ、あと少しお土産みたいなのも買う時間があるといいな。だったら尚更急ごう。
「まもなく、6番線に新宿・渋谷方面行きが参ります」
時間配分を考えているうちに電車がやってきた。
ドアが開き、降りる乗客を先に通してから電車に乗り込む。少し経つと発車ベルがなり、ドアが閉まって電車は動きだした。
流れ始めた人混みの景色を見ながら俺はリョウと虹夏に「山手線のホームに来て」とロインを送った。
「いや〜、楓のお母さんと彩乃ちゃんに会うの久しぶりだな〜」
「中学の卒業式以来だもんな」
「おばさんの手料理、とても美味しかった」
新宿駅でリョウと虹夏と合流するのに成功した。人混みに紛れないようにホームで待ち合わせる作戦が功を奏したのか、すんなりと合流できた。
「お父さんも帰ってくるんだっけ?」
「父さんは仕事の関係で明日フォルトに直行するって今朝連絡があった」
「もしかしたらその仕事、楓の事件の弁護かもしれない」
「俺が何をしたっていうんだよ」
「未成年のくせして飲酒喫煙女遊びをたらふく楽しんだ罪」
「1ミリもやってねーよ」
息子の冤罪に付き合わされる父さんが不憫すぎるわ。
「ギターに少し洒落た服じゃ説得力ないよ」
「お前に言われたかねー」
「照れっ」
リョウの方がよっぽどやりそうなんだよな。
10年後の今頃とかきっと──
『楓、コンビニでタバコ買ってきて。あ、いつものね』
『ファジーネーブルを頼むとは、まだまだ甘ちゃんだね。やっぱりギムレットとかウォッカじゃないと』
『今日はファンの子と遊んでくるからご飯はいいや』
──とか言いそうだな。なんか怖いかも。
「失礼な、私は君と違ってちゃんとしているからそんなことにはならない」
「心を読んでくるな心を」
大人になってもリョウのこういううざったい所は変わらないんだろうな。
「東京、東京。ご乗車、ありがとうございました」
しばらく雑談していると、あっという間に東京駅に到着した。
売店でお土産を買ってから山手線のホームから東北新幹線の改札口へと向かう。そこが母との待ち合わせ場所だ。
「あら、楓にリョウちゃんに虹夏ちゃん、久しぶり〜!!」
「お久しぶりです!」
「おばさん、久しぶりです」
早めに向かうとそこには既に母がいた。
母と会うのは夏休み以来。優しい雰囲気は相変わらずのようだ。
「久しぶり、母さん。彩乃は?」
「彩乃もそろそろ着くみたいだけど。あぁ、変な男とかに絡まれてないかしら…… 心配だわ……」
「そこまで心配しなくても大丈夫だろ」
母はものすごく心配症だ。出かける際に少し歩いただけで家の鍵を閉めたか不安になるくらいだ。家で一人暮らしをすることなった時も、「ちゃんと食べてる?」とか「辛くなったらいつでも来ていいからね?」と毎日ロインを送ってきたくらいだ。
きっと彩乃なら大丈夫だろう、と思っていると彼女からロインが来た。
『今東京着いたんだけど楓兄とおかーさんどこにいる?』
「東北新幹線の改札にいる」とロインを返そうとすると、
「いたいた!」
彩乃がこちらにやってきた。多分探しながらロインを送ってきたのだろう。
「久しぶりね、彩乃。ちゃんと迷わず来れた? 変な男に絡まれなかった?」
「うん、大丈夫だったよ。あ、リョウさんに虹夏ちゃん、久しぶり!!」
「久しぶり、彩乃」
「相変わらず元気だねぇ〜」
合流して少し会話をした後、東京駅から帰路につく。小さい頃はよくこうして帰っていたからか、懐かしく感じる。
「そーいえば楓兄、明日はどんな曲やるの?」
「うーん、教えない」
「え〜、いいじゃん教えてくれたって〜!」
「今言ったら明日の楽しさ半減だろ」
「む〜」
すぐ拗ねるところもまた懐かしく感じる。それを見て母は微笑みを浮かべる。
「まぁまぁ。よし、それじゃあ楓とリョウちゃん虹夏ちゃんの壮行会も兼ねてファミレス行くわよ〜!」
「やったぜ。おばさん、ゴチになります」
「あ、ありがとうございます!」
「いいのよいいのよ!その代わり、明日は頑張ってね!」
そもそも、今日リョウと虹夏も一緒に来ているのはこの後ファミレスに食べに行くからだ。下北沢を離れるまではよくこうして食べにいってたものだ。
それぞれ楽しそうな笑みを浮かべるみんなに俺は少し、幸せを感じる。
明日のライブ、なんかすごくいい感じな演奏ができる気がするな。
次回、「聖夜の起爆剤」
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毎回サブタイに使ってる曲名ですが、物語の内容と関係がない場合もあればある場合もあります
タイトル元:米津玄師「KICK BACK」
クロスオーバースピンオフは
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