幼馴染の変人ベーシストの料理番になった件について。 作:かんかんさば
エタらないように頑張らなければ...
だいたいの学校が夏休みに入り、多くの学生が羽を伸ばす7月の下旬。
俺は去年までとは違う夏休みを過ごしていた。家族はいない、部活にも入っていない、去年までとはまるで正反対の夏休みだ。といっても家に他の誰かがいないわけではない。
誰がいるかって?そう、ヤツだ。
「私は今年の夏休みを最大限に有意義なものにしたい」
「はぁ」
「だから夏休みの宿題を初日で終わらせることにした」
「へぇ、頑張って」
「でも私は勉強は得意じゃない」
「知ってる」
「だから楓、手伝って」
リョウは夏休み初日から家に押しかけ、俺に夏休みの宿題を手伝わせてきた。
昼過ぎに始めて、終わる頃には日付が変わっていた。
最初の方は分からないところを聞かれてそれを教える形だったが、最後の方はほぼ俺がリョウの宿題をやる形になっていた。そして夜遅くに終わったので案の定寝不足になり、次の日のバイトで店長と虹夏にこっぴどく怒られた。
許すまじ、山田リョウ。
と、リョウのおかげで良くも悪くもいつもと違う夏休みを過ごしている。
しかし、今日はリョウが家族で出かけるため来ないというので、俺は夏休みに入る前から計画していたあることを実行に移すことにした。
神奈川県の三浦に三崎まぐろを食べに行くことだ。
早めの昼ごはんを食べ、家を出て、下北沢駅から井の頭線、東横線、京急線と電車を乗り継ぎ約2時間、三崎口駅へと辿り着いた。
いざ三浦に着いたとしてもただ三崎まぐろを食べて帰るだけでは何か味気ないと思い、俺はどこか観光してから食べに行こうと思った。
「お〜、お兄ちゃん一人旅かい?」
見知らぬおばちゃんに話しかけられた。恐らく地元の人だろう。
「はい、一人で……」
「洒落た格好してるってことは横浜から来たのかい?」
「いえ、下北沢から」
「下北沢から〜、お兄ちゃん今日は三浦初めてきたのかい?」
「そうですね、初めてで。あっ、もし良かったらおすすめの観光スポットとかってあります?」
「それなら、油壺の水族館とかどうだい。迷ったらあそこ行っとけば楽しめるぞ〜」
「ありがとうございます!それじゃ」
「気をつけてな〜」
地元の人の親切心には自分も見習うべきところがあると感じた。
三崎口駅からバスで25分、油壺の水族館へと辿り着いた。
チケットを買って、入場するとなにかとリアルなアシカのモニュメントと目が合った。今は昼間だからそこまで怖く感じないが、もし夜に目が合ったら怖くて逃げ出してしまうだろう。
通路を進んで長い階段を降りていくとステージが広がっていて、ちょうど今からイルカショーが始まっていたところだった。
「みなさーん!今日は油壺水族館にお越しいただき、ありがとうございまーす!!」
イルカショーは小学生の頃に見たきりだが、改めて見ると童心に帰ったようで意外と面白いと思う。
まあ、まだ高校1年生なんですけどね()
イルカショーを見終わり、次はこの水族館の一番の売り、回遊水槽へと向かう。
そこは辺り1面全部水槽で、たくさんの種類の魚がいて、その水量は約750トンにも及ぶという。
「すっげぇ……」
オオメジロザメを見て、その迫力に圧倒される。このオオメジロザメという獰猛な性格のサメがいて、本州だとこの水族館にしか展示されていない貴重な種類らしい。にしてもこの牙、もし海などで出くわしたら頭から美味しく頂かれるだろう。
「タベテモオイシクナイヨ……」
あまりのインパクトの強さに思わず独り言を呟いてしまった。
油壺水族館を後にし、今日食べにいくマグロ料理屋へと向かう。
昼過ぎに水族館に入ったが、バスに乗る頃には既に日が暮れていた。かなり有意義な時間を水族館で過ごせたのではないかと思う。
油壺水族館からバスで30分ほどでマグロ料理屋に着いた。
早速中に入り、店員さんに注文する。
「すみません、漬け丼1つ」
「はい、漬け丼1つね。少々お待ち」
気さくそうな店員さんだなぁと思いながら、スマホを眺めていると、リョウからロインが来た。
『布団が吹っ飛んだ』
初歩的な親父ギャグをわざわざ送ってくるな。そう思っていると店員さんが漬け丼を持ってきてくれた。
「はい、漬け丼1つお待ち遠様。わさび入ってるから気をつけてね」
「ありがとうございます」
気遣ってくれる当たり本当に気さくな人だ。こういう店の口コミって信用できるのもわかる気がする。
レンゲでマグロとご飯をすくい、口に運ぶ。
口に入れた瞬間、マグロのジューシーな味わいと酢飯の少し甘い味のハーモニーが口に広がっていく、2時間かけて下北沢から食べに来た甲斐があったと思う。
「ごちそうさまでした!」
「はいよ、またおいで」
お会計を済ませて軽く挨拶をすると店員さんが優しい言葉をかけてくれた。昼間にも感じたが、観光客に気遣う親切心は見習いたいと思う。
バスで三崎口駅へと戻り、お土産を買って京急線に乗り、いよいよ家路に着く。
といってもいつだって旅にはアクシデントが付き物である。
何があったかって?
電車賃が足りずに途中下車することになりました\(^o^)/
帰りの電車の中でICカードの残高を確認すると、なんと金沢八景までしかいけない額しか残っていなかったのだ。恐らく、家を出るときにちゃんと財布の中身を確認していなかったのだろうか、財布も雀の涙程度の小銭しか入っていなかった。この歳になってこんなミスをするとは自分でも中々恥ずかしいと思う。
帰れなくなったが野宿をする訳には行かないと思い、俺は金沢八景に住んでいる親戚の直樹さんにロインを入れた。
『すみません、突然で申し訳ないのですが一晩だけ泊めて貰えないでしょうか……』
『どうしたんだい?急に』
『いろいろあって帰れなくなっちゃって……』
決してお金足りなくて帰れないなんて恥ずかしくて言えやしない。
『今どこにいる?』
『金沢八景駅です』
『よし、そこで待っててくれ。今から迎えに行く』
『え?いいんですか?』
『困ってるんでしょ?泊まっていきなさい』
『ありがとうございます!』
突然泊めてくれなんていう甥を快く受け入れてくれるなんて、なんと優しい叔父なのだろう。
しばらくして車に乗って直樹さんがやってきた。車に乗ってからしばらくすると、直樹さんは事情を聞いて来た。俺は正直に帰りの電車賃が足りなくなったと答えると直樹さんは大笑いしていた。
「それで帰れなくなっちゃったんだ」
「はい……、この歳になってこんなことって恥ずかしいですよね……」
「まあまあ気にしないで、今日はゆっくりんでいきな」
親切すぎるでしょ、この直樹さん。これじゃ後藤直樹様様だよ。
直樹さんとしばらく談笑しているといつの間にか直樹さんの家に着いた。
車を降りて直樹さんがドアを開ける。
すると─
「あ!かえでおにーちゃんだー!!」
「ワンッ!」
瞬く間に従妹のふたりと犬のジミヘンが飛びついて来た。
「おっと、おお〜ふたりにジミヘン、元気にしてたか?」
「うん!げんきにしてたよ!」
「ワンッ!」
相変わらず元気のいいふたりと可愛らしいジミヘンには癒される。
「あら〜、いらっしゃい、楓くん。さあさあ、上がってちょうだい」
「あ、美智代さん、お邪魔します」
この人は美智代さん。母の妹で俺の叔母に当たる人だ。
「そうだ、ひとりって今家に居ます?」
「いるわよ。ちょっと呼んでくるわね」
そう言って美智代さんはひとりを呼びに行った。
後藤家とは昔からの付き合いで、よくお正月やお盆にはこちらが遊びに行っているような関係だ。
「あ、楓くん……」
「よ、ひとり。久しぶり」
しばらくして階段からひとりが降りてきた。
ひとりは俺の1つ年下の従妹で、昔から極度の人見知りで家族以外にちゃんと話せるのは俺と俺の家族ぐらいとしかいないやつだ。
「あ、な、なんで今日は家に……」
「三浦にマグロ食べに行ったんだけど、帰りの電車賃足りなくなって帰れなくなって、それで直樹さんに連絡入れて泊めてもらうことになった」
「そうなんだ……」
「そうだ、楓くん。ひとりに勉強教えてやってくれないか?」
「そうよ!楓くん、結構いいところ行ってるんでしょ?ひとりもせっかくなんだし、教えて貰ったら?」
直樹さんの提案に美智代さんが乗っかる。
進学校に通ってるから多少人に教えられるくらいには勉強ができるし、教えてあげよう。
「よし、ひとり、教えてあげるから部屋に行こう」
「あ、え、うぅ...」
ひとりと2階に上がり、ひとりの部屋に入る。机には参考書や高校のパンフレットが散らかっていて、しっかり勉強しているのが見て取れる。
「このパンフレット、秀華高じゃん。もしかしてお前こっちの方の高校うけるのか?」
「あ、うん。高校は誰も知らないところに行きたいから……」
「はぁ……」
誰も知らないところって、何があったんだよ。
「それで、勉強のほうは?」
「うぐっ……!」
「もしかして全くダメとかそんな感じか?」
「うん……」
「ノートとかってあったりする?一応、どれくらい理解出来てるかは分かるけど……」
するとひとりは無言でノートを差し出してきた。ノートを見た感じ、全く基礎ができてないというわけではなさそうだ。
ノートを見終わると次はワークを差し出してきた。
「じゃあ、ここの確認テストってやつやってみようか。夏休み前までの復習にもなるし」
「うん……」
ワークの確認テストに取り掛かるひとり。
途中、「あぁ……」だの「うぅ……」とうめき声を上げていたが、なんとか終わってこちらに渡してきた。
「うん、全部間違ってるな」
「あぎゅっ!!」
俺の一言にひとりは痙攣を起こす。全部間違ってるとはいえ、惜しい部分は結構ある。授業の内容が右から入って左から抜けていくタイプなのだろう。
「でも、惜しいところがあるから伸び代は結構あると思うよ」
「私に伸び代……うへ、うへへ……」
褒めるとすぐ調子に乗るのは相変わらずだなと思いながらその後も基礎をみっちり復習させた。
翌朝、朝食を食べてふたりと少し遊び、直樹さんから電車賃を受け取って後藤家を後にする。
「え〜、もうかえるの〜?もっとあそぼーよー!」
「ごめんね、もっと遊んであげたいけど帰らなくちゃ。次はもっと遊んであげるから。ね?」
「うん、やくそくだよ?」
「よ〜しいい子だ。美智代さん、朝ごはんありがとうございました」
「いいのよ〜、またおいで」
「あ、か、楓くん!」
「どうした?」
「こ、今度、そっちの高校の見学、行くから!」
「うん。待ってるよ」
突然来た親戚に対してこんなにもてなしてくれる後藤家のみんなには感謝しかない。そう思いながら、直樹さんの車に乗り改めて家路についた。
◇
「へぇ〜、そんな事があったんだね」
「そう、この歳になってほんとに恥ずかしいと思ったわ」
翌日、リョウに一人旅はどうだったか聞かれてそこでの思い出話を全て話す。今度三浦に行くときはリョウや虹夏も連れて行ってあげようと思った。
「そんなことより早くお昼作って」
「はいはい」
俺は二つ返事でリョウと食べる昼飯を作る。
そんな時、ふと思った。もしひとりとリョウ、虹夏が出会い、バンドを組んだらどうなるんだろう。きっとすごいバンドになるに違いないだろう。
俺は来るか分からない未来を楽しみにしながら昼飯を作るのだった。
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