幼馴染の変人ベーシストの料理番になった件について。   作:かんかんさば

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新章開幕なので初投稿です。ちなみに今回から始まる章が2年生編最終章です。


それぞれの道の、はじめの一歩
#50 夜に駆ける


年が明けてから早2週間がたった。一昨日から3学期が始まり、授業もどんどん受験モードへと移り変っている。

 

今は3限目の世界史の授業。歴史は得意ではあるが、担当の教師の話が退屈すぎる。いやね、反応に困るのよ。自分の娘と甥っ子姪っ子にお年玉あげたらボーナスほとんど消し飛んだって言われても。

新年早々授業脱線してこんな話を聞き続けるのも悲しいので、一旦年末年始の思い出に浸ってやり過ごそう。

 

まずは大晦日。その日は珍しく虹夏も来ていたから彩乃も混ぜて4人でス○ブラ大会を開いた。初めは個人戦だったけど、あまりにも俺が勝ちすぎて途中から3対1になってたな。

 

「あ〜!また楓兄に即タヒコンボされた!」

「彩乃、任せて」

「甘いな。ずらしたところで置き技すればいいんだよ!」

「ぐぬぬ…… 虹夏、やっちゃって」

「わかった。楓、覚悟〜!」

「ちょっ、コントローラー取るのはズルだろ!!」

 

コントローラーを取り上げられて強制的に負けさせられるとは思わなかった。そんな策を思いつく暇があったら対策練ればいいと思うのですがね。

 

その他にも、家族で福笑いしたり、近所の神社に初詣しに行ったりと、普段なかなか集まらない家族と楽しく正月を過ごすことが出来た。そんな家族も3日前には全員元の生活へと戻っていった。

寂しくない、と言えば嘘になる。だけど、そんなことで下を向いている暇はない。俺がしっかりしなきゃみんな安心して日々の生活を送れないからな。

 

「というわけなんですよね。あ、そうだ授業しなきゃですね。そうですね〜、プリントの4番から──」

 

お、やっと授業再開した。

 

「1929年にイタリア政府と教皇庁の間で結ばれた条約はなんでしょう、下村くん」

 

マジか、いきなり当ててくるか。ふっ、残念だな。そこは既に予習済みだ。

 

「ラテラノ条約です」

「正解です! 素晴らしいですね〜!!」

 

よしっ、決まったな。受験勉強として先取り学習しておいて正解だったぜ。

 

「楓、見てこれ」

 

席に座って悦に浸っていると、斜め後ろの席に座るリョウから教科書を手渡された。そこには───

 

「ぶふっ、なんだこれ」

「傑作でしょ……」

 

とんでもない落書きを施された写真があった。

いやこれ失礼すぎるでしょ。ボールペンとかでペンギンにされてるじゃん。しかもまぁまぁ面白いのタチ悪いな。あ〜、笑いが止まらねぇ〜!!

 

「下村くんと山田さん、何が面白いのか知りませんが授業中の笑い話は控えてくださいね」

「す、すみません……」

「すんません」

 

しまった…… せっかくスパッと問題に答えられて気分よかったのにな。でも笑ってしまった俺が悪いからしょうがないか。

 

「怒られちゃったね」

「何が怒られちゃったねだよ」

 

元はと言えばお前のせいだからな?

 

 

 

 

 

 

 

お弁当を食べ、午後の授業3つを終えて放課後に入った。新学期早々7時間授業はなかなかキツいが、そのうち慣れるだろう。

 

「毎週金曜7時間授業があと1年あると思うとキツい…… 虹夏、どうにかして」

「みんなキツいと思ってるから大丈夫だよ。3年生になれば自由選択とかで少しは楽になるかもだし」

「私だけ2時間授業とかにならないかな……」

「ならねぇよ。あ、そういえばお前ら自由選択何にしたんだ?」

 

下北沢高校では3年次から文系と理系に別れ、それぞれの専攻に基づいた専門的な授業が展開される。そして、金曜日の6限と7限には自由選択科目が開講され、より発展的な授業を受けることができるようになっている。

 

「あたしは政治経済と倫理にした」

「あ、同じだ。リョウ、お前は?」

「私は早く帰りたいから倫理だけにした」

「なるほど、お前らしいな。ってことは俺ら倫理だけは一緒だな」

 

選択科目の決定は9月だったが、ここ数ヶ月忙しくてなかなか聞けていなかった。一緒に受けられるとなると、なんだか嬉しく感じる。

 

「じゃ、俺はここで。ひとりと喜多ちゃんには後で合流するって伝えといて」

「わかった! ところでどこにいくの?」

「ちょっと用事があるんだ。多分6時半ぐらいには合流出来るかも」

「ふーん、なるほどねぇ〜。とりあえずぼっちちゃんと喜多ちゃんには伝えとくから」

「ありがと、じゃあまた後で!」

 

虹夏とリョウと別れ、俺はある場所へと向かうことにした。ある場所というのはストレイビート。クリスマスイブのライブの時にスカウトを受けたレーベルだ。今日はそこに話を聞きに行くことになっていたのだ。本当はもう少し早く行ければよかったのだが、年末年始特有のゴタゴタで忙しかったのでかなり間が空いてしまった。それでも予定を調整してくれた司馬さんには感謝しかない。

 

一旦家に荷物を置いて、大きめのカバンを持って目的地へと歩き始めた。家から歩いて10分ほどの所にストレイビートはある。

正直、すごく緊張している。変なことを口走ったらどうしようとか、本当に自分をスカウトする必要があったのか。そんな考えで頭を埋め尽くされていくうちに、あっという間に目的地に到着した。

 

「おぉ……」

 

建物の見た目はとても年季が入っていて、時折中からネズミが出てくる。本当にレーベルの事務所なのか疑いたくなる。

 

中からそっち系の人とか出てこないよね?

 

恐る恐る階段を昇って、震える手でドアをノックして開けてみる。ドアを開けるとそこには司馬さんがいた。

 

「お待ちしておりました、下村さん。さぁ、中へどうぞ」

「あっ、失礼します……」

 

事務所の中はこじんまりとしていて、落ち着いた感じの雰囲気が漂っている。恐らく、さほど大きい規模ではないのだろう。

 

「粗茶ですがどうぞ」

「あっ、ありがとうございます……」

「改めまして、私ストレイビートでマネジメントをしております、司馬都と申します。本日は御足労いただきありがとうございます」

「どうも、下村楓です。こちらこそこの度はお忙しい中ありがとうございます」

 

お互いに自己紹介をすると、場の雰囲気が一気に引き締まる感じがした。これから今後の活動を左右する話をするというわけだ。気を抜いたらいけないな。

 

「では、早速ですが本題に入ります。下村さんはレーベルと聞いてどのようなイメージを持たれていますか?」

「そうですね、大きめの事務所の中の一部門で、音楽のジャンルごとに設けているものですよね」

 

レーベル、あるいはレコードレーベルというのはレコード会社が音楽のジャンル毎に設けているブランドのようなものだ。所属するミュージシャンの音楽とそのジャンルや方向性、規模を作品以外でアピールする手法である。

 

「よく知ってますね」

「姉がロック関連の雑誌の記者をやってまして、前に教えてもらったんです」

「なるほど。あ、もしかしてお姉さんって芳談社の下村伊織さんですか?」

「知ってるんですか!?」

「以前、弊社に取材にいらしてたんです」

「そうなんですね」

 

まさか姉貴がここに取材に来てたとは…… 本当に世界は広いのやら狭いのやら。

 

「とりあえずレーベルについての説明は特にしなくてもよさそうですね。続いて、あなたに関して質問させていただきます」

「はい……」

「ギターの他に弾ける楽器はありますでしょうか」

「一応、ピアノなら少々。あ、いずれはキーボードにもチャレンジしたいなと思っています」

「そうですか。ありがとうございます」

 

キーボードにチャレンジしてみたいと思う理由は主に2つある。1つはピアノが少し弾けるのでその技術を活かすことが出来るかもしれないということ。2つ目はギター以外にもできる楽器があった方がいいという個人的な考え方だ。

 

「質問は以上です。それでは、今回当レーベルが下村さんとどのような形で契約したいか申し上げますね」

「は、はい……」

「今回当レーベルとは──」

 

司馬さんはカバンから資料が入ったクリアファイルを取り出し、テーブルに並べた。

資料を手に取ってみるとそこには”専属演奏家契約”と書かれていた。

 

「今回当レーベルとは専属演奏家契約を結んでいただけたらと考えています」

「ってことは俺はレーベル所属のミュージシャンになるんですか?」

「そういうことになります」

「いいんですか? まだまだ駆け出しも駆け出しですよ!?」

 

ソロとしてまだオープニングアクトを1回やっただけの駆け出しギタリストにする話ではない。いくらなんでも話がおいしすぎる。やはりこれは何かのドッキリなのでは。

 

そういえば、家族に話した時も話がおいしすぎるって言われてたな。

 

『ええっ!? 楓兄レーベルにスカウトされたの?』

『うん…… この前のイブのライブの後に。ほら、このレーベルなんだけど』

 

家族にスカウトされたことを話したのは、三が日も明けた4日のことだった。突然のスカウトにみんな困惑していたことを覚えている。

 

『ふーむ、ストレイビートか。どれどれ、住所を見る限り実在はしているね』

『大丈夫? あの時の楓の演奏は確かに凄かったけど……ほら、なんかデビュー詐欺とかなんとかあるって言うじゃない?』

『そんな心配しなくても…… でもなんかいまいち信じきれないというか……』

『行くだけ行ってみなさいよ。そこのレーベルがそんなことするわけないし』

『まぁ、行くだけ行ってみるか』

 

結局姉貴の一言で行くことを決意した。

 

「実は、今回下村さんにはあるユニットに加入していただければと思っています」

「そ、そうなんですか?」

「そのユニットというのはこちらです」

「クリムトの夜?」

 

司馬さんが追加の資料を渡してくれた。そこにはクリムトの夜というユニットと、それに関する基礎情報が書かれていた。

この資料によると、クリムトの夜はこのストレイビートに所属する音楽ユニットで、去年の秋頃に結成されたようだ。作詞作曲担当のAmeによる幻想的な詩と世界観に様々なジャンルを踏襲した楽曲と、ボーカルのワラビによる力強くも時折儚い歌声が魅力のユニットと、書かれている。

まだ目立った活動とかはなく、駆け出しではあるが、SNS等で少しずつ人気を得ているようだ。

 

「はい、今回下村さんにはこのクリムトの夜からスカウトがかかっており、声をかけさせていただきました」

「え、ええええ!? や、やっぱりなんかのドッキリじゃないですか!?」

「ドッキリではありませ「いやいやだって!」はい?」

「それなりに人気があるユニットにいきなり入ってくれなんていくらなんでも話が出来すぎじゃないですか!?」

「そうでしょうか? 下村さんにはクリムトの夜のメンバーとして相応しい実力があると思いますが」

「そう言っていただけるのはうれしいのですが、やはり話が早すぎるというか出来すぎているというか…… あ、すみません、なんか……」

「いえ、よくよく考えたらそういう反応をされるのも無理はありませんよね。ですが、こちらとしては本気であなたにクリムトの夜に加入していただきたいのです。そうだ、Ameさんから伝言メッセージを預かっているのでこちらをご覧ください」

 

司馬さんからパソコンを渡され、動画をクリックすると、Ameさんと思しき人が映っていた。

 

『は、 はじめまして…… く、クリムトの夜作詞作曲担当のあ、Ameです……』

 

なんか話し方の雰囲気がひとりに似てる……

 

『こ、今回……下村さんをスカウトしたいと言い出したのは……わ、私です。し、下村さんはどんな曲にも柔軟に対応できて、そ、それに高い技術を持ち合わせています。わ、私は……その、下村さんのギターなら、く、クリムトの夜の曲に合うと思ったので、す、スカウトしました。あ、あなたは、まだ駆け出しのギタリストかもしれませんが、わ、わたしたちもまだまだか、駆け出しだから一緒にせ、成長できたらとお、思います…… な、なななななので、もし、よかったら、か、かかかか加入してくれたら、う、うううう嬉しいでしゅ!? うぅ……』

 

すごくキョドってたけどその分必死さが伝わってきた。たぶん、Ameさんは俺を必要としてくれている。だったら、その思いに応えるしかないな。

 

「Ameさんがスカウトしてくれたんですね」

「はい。まあAmeさんに紹介したのは私ですが。とりあえずいかがでしょうか。これでドッキリじゃないと証明できたと思います」

「はい、本当だったんですね…… わかりました。加入します、クリムトの夜に!」

「そうですか。なら、よろしくお願いします。こちらも全力で下村さんをサポートさせていただきます!」

 

俺の発言に司馬さんはにこりと微笑んで、再びカバンから契約書と思われるものを取り出した。

これで俺は晴れてインディースのギタリスト、そしてクリムトの夜の一員になる。そう思ってハンコを押そうとすると、外から誰かがすごい勢いで走ってくる音が聞こえた。勢いそのままにドアが開き、音の主と思しき人が入ってきた。

 

「あれ、もしかして司馬さん、この子がスカウトしたギタリストの子?」

 

入ってきたのは白と黒のジェミニヘアの女の人だった。一目見ただけでもわかるくらいにとても美人な人だ。

 

「ワラビさん、あまり勢いよく開けるとドアが壊れてしまいますよ」

「あー、ごめんごめん!で、この子がスカウトした子?」

「はい、この方が今回スカウトした下村楓さんです」

「あの、こちらの方は?」

「あーし? あーしはワラビ!クリムトの夜でボーカルやらせてもらってま〜す! 君の名前は?」

 

この人がワラビさんか。なんかすごいギャルだな。

 

「下村楓です!こ、この度クリムトの夜に加入させていただくことになりました!」

「ガチ!? やった〜!! よろしくね〜メイプル!!」

「メイプル?」

「え、楓だからメイプルって呼ぼっかな〜って思ったんだけど。ほら、だってもうあーしたちダチじゃん? 同じユニットの仲間なんだしカタいのなしで行こ〜よ。ね?」

 

すげぇ、ワラビさんめちゃくちゃグイグイ来るタイプだ。喜多ちゃん以上のコミュ強な人初めて見たわ。

 

「は、はい……」

「はい決まり〜。じゃ、早速だしロイン交換しよっか」

「先に契約書にサインしてからですよ、ワラビさん」

「は〜い」

 

スマホでロイン交換の準備をしてから、カバンからペンとハンコを取り出して、契約書にサインした。今、この瞬間から俺はレーベルに所属するギタリストになった。サインした契約書を司馬さんに渡すと、急に気が引き締まるような感じがした。

 

「はい、確かに受け取りました。では下村さん」

「は、はい!」

「あなたも、クリムトの夜も、私もまだまだ駆け出しの未熟者です。だからこそ私たちと互いに切磋琢磨し、一緒に成長していきましょう!」

「はい、よろしくお願いします!!」

「盛り上がってるとこ悪いけどそろそろいいよね? 連絡先交換しても」

「そうでしたね」

「そうだった。はい、これです……」

「お、ありがと〜」

 

ワラビさんとロインを交換し、すぐにクリムトの夜のグループロインに招待された。挨拶をするとすぐにAmeさんもスタンプを送り返して歓迎してくれた。

 

この人たちと成長して、高みを目指していけたらいいな。そう思い俺はストレイビートを後にし、一人今夜に駆け出していく。

 




次回、「頑張るわ」

ということで楓が加入したのはクリムトの夜でした(唐突な伏線回収)
今後彼らがどのような活躍をするかはその時のお楽しみに
原作のクリムトの夜に関する情報があまり多くないので捏造や改変が多くなるかもしれませんが、ご容赦ください


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タイトル元:YOASOBI「夜に駆ける」

クロスオーバースピンオフは

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