幼馴染の変人ベーシストの料理番になった件について。   作:かんかんさば

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レポート地獄に落ちてしまったので初投稿です

今回の話は若干短めです


#51 頑張るわ

「お、楓〜! こっちこっち!!」

「ごめん遅れちゃって、少し話が長引いちゃって」

「大丈夫大丈夫、こっちもまだ始まったばっかりだから」

 

ストレイビートから歩いて5分、新年会の会場である駅前のファミレスにたどり着いた。

虹夏とともに席に向かうと他のみんなも揃っていた。

 

「あ、先輩! お疲れ様です!」

「楓くん……」

「2人ともお疲れ様」

「遅い。私をまたせた罪として今日は楓の奢りね」

「元々遅れるって言っただろ」

「遅いのが悪い」

「はーい、変なこと言って奢らせないの」

 

今日の新年会は今年も1年頑張りましょうということで虹夏が主催したものだ。2023年のバンド活動をいい雰囲気で始められそうだ。

 

「よ〜し、それじゃあこれから2023年結束バンド新年会を始めま〜す! はい、拍手!!」

「「いぇ〜い」」

「ってことでまず初めにみんなそれぞれ今年の抱負を発表してもらいます!!」

 

リーダーの音頭で始まった新年会最初の催し物は抱負発表。これは去年まで3人でやってたのだが、今年は喜多ちゃんとひとりが加わっている。どんな抱負が聞けるのか楽しみだ。

 

「まずはあたしから! 今年の抱負は〜…… 未確認ライオット優勝です!!」

「「「「おお〜!!」」」」

「ガチだって証明するためにも、絶対外せないって思ってこの抱負にしました! ちゃんと達成できるように頑張ります!!」

 

そりゃそうだもんな。ここの所未確認ライオットを目標に頑張って練習してたし、ぜひとも達成してほしいな。

 

「ところで虹夏」

「ん?」

「去年の抱負、もう一個の方は達成できたの?」

 

ちょうど少し間が空いたタイミングでリョウが話を切り出す。お、そろそろあのお時間がやってきたな。

 

「伊地知先輩の去年の抱負ってなんですか?」

「あ、喜多ちゃん知りたい?」

「いいよ喜多ちゃん、そんなの知らなく「こいつの去年の抱負はな……」楓言うな!」

「確か2つあって1つ目がバントを組むことで2つ目が彼氏を作ることだったな。そうだよな、リョウ」

「うん、その通り。で、達成できたの?」

 

リョウが問いただすと、虹夏はみるみる顔を赤くしていく。

そう、あのお時間というのは前年の抱負に対する茶化しなのだ。毎年俺たち3人はちゃんとした目標に加え「恋人を作る宣言」している。

 

「ま、まあそれは今年も継続ってことで!」

「出ました、虹夏の”今年も継続"!3年連続3回目!!」

 

そして「今年も継続」というのも毎年恒例だ。

 

「春のセンバツみたい」

「もー、数えないでよ!!ってか楓もリョウも同じじゃん!!」

「「……」」

 

まあ、傷の舐め合いといえばそうでしかないのだが。今年は絶対こいつらよりも先に彼女作ってやる。

 

「まああたし達のことは置いといて、次はリョウ!」

「ふっ、私か。聞いて驚け、今年の目標は億万長者女子高生になることだ!!」

「きゃーっ!! 素敵です!! お手伝いできることがあればなんでも言ってください!!」

「お前らしいな」

 

億万長者女子高生になったらこいつ召使いとか雇いそう。そうしたら有名どこのシェフ雇って俺はお役御免になるんだろうな。なんか寂しいかも。

 

「なんともリョウらしい抱負だね〜…… それじゃあ次は喜多ちゃん!」

「はい! 私の目標は……結束バンドのボーカルとしていっぱい練習してもっともっと上手くなることです!」

「いいね喜多ちゃん!」

 

さすが喜多ちゃん、どっかの誰かとはえらい違いだよ。それにしても、もっと上手くなりたいのか。なら、こっちも活動の合間を縫ってってことになるけど力を入れて教えなきゃな。

 

「よし、じゃあ次はぼっちちゃん!」

「えっ、あっ、はっ、はい!」

 

虹夏の呼び掛けにひとりは少し驚いた。そしていつものように震えながら俯いてから深呼吸をし、顔を上げた。

 

「わっ、わたしの目標は、にっ、虹夏ちゃんと同じで、未確認ライオット優勝ですっ!!」

 

覚悟を決めたような顔でひとりは抱負を掲げた。その澄んだ瞳にはきっと、この仲間と必ず目標を達成するという決意が漲っている。そう感じさせられた。

 

「ぼっちちゃん……」

「ゆっ、優勝してもっと色んな人に結束バンドの曲を聴いてもらいたいです!!」

「そうだよね、未確認ライオットのその先だってまだまだあるんだからもっともっと頑張らないとね」

 

喜多ちゃんもリョウも声には出てないが、ひとりと虹夏の会話に心を動かされている感じがする。やっぱり、ひとりはすごいな。

 

「あ、あといい感じにお金を稼いでバイトと高校を辞めたいです……」

「えぇ……」

 

それ言うと思ったわ。ひとりらしいといえばひとりらしいんだけども。

 

「まあ、素敵な抱負を聞けたってことで最後に楓!!」

「ああ」

 

俺はこれから言うことを整理するために、深く息を吸う。まだ、みんなにはレーベルからスカウトを受けたこととユニットに加入したことを教えたことをまだ報告していない。まずはその報告からにしよう。ちなみに、クリムトの夜に加入したことも報告するつもりだったがまだ公になっていない情報なので、司馬さんから口外禁止のお達しがでた。めちゃくちゃ言いたいけどこれはしょうがない。

 

「抱負を言う前に、皆様に報告したいことがあります」

「どうしたの、急に改まっちゃって。あ、もしかして彼女が出来たとか〜」

「そんなんじゃないよ」

 

まあこんなに改まってたらそう捉えられてもおかしくないか。それに、少し緊張が解けたし虹夏には感謝だ。

 

「じゃあ何?」

「この度レーベルからスカウトを受けて、今日、そのレーベルと専属演奏家契約を結んできました!!」

「「「「ええええええ!!?」」」」

 

突然の報告にみんなは驚く。特に虹夏とリョウはポカンと口を開き、鳩が豆鉄砲を食らったような表情をしている。

 

「スカウトされてレーベルと契約したって、いつスカウトされたの?」

「この前のイブのライブの直後」

「そうなんだ。別にその日に言ってくれてもよかったんじゃないかな」

 

ごもっともです。本当にすみませんでした。

 

「なんかその日に言ったら打ち上げどころじゃなくて言えませんでした……」

「はぁ、なんだかんだ楓らしいね。いいよ、とりあえずおめでとう!」

「ありがとう……」

「で、抱負は何? アイドルの彼女を作るとか?」

「その路線は無いわ!!」

 

でもリョウの言う通り売れたらアイドルとかとワンチャンあるのでは? いやいや、そんな軽い気持ちでやっていける物じゃないだろう。

 

「まぁいい。俺の抱負は───」

 

もう一度、深く息を吸って抱負を掲げる。

 

 

「─────アーティストとして成長できる一年にする。そのためにバイトも、練習も、目の前の全てに全力で取り組みたいと思う」

 

ステージに立つきっかけをくれたきくりさんのために、スカウトしてくれたAmeさんと司馬さん、そして心の原動力である結束バンドのみんなのために立派なアーティストになる。その覚悟をこの抱負に込めた。

 

「楓先輩、すっごく素敵です!!」

「すごい、楓の抱負で感動したの初めてかも」

「かっ、楓くんの抱負っていつも変なのなんですか?」

「だいたい彼女作るとかだったからね。それにしても覚悟が伝わってくる。是非頑張って」

「ああ、頑張るよ」

「とりあえず楓、スカウト&契約おめでと〜!!」

「ありがとう!!」

 

すっかりお祝いムードになったところで、あらかじめコップに注いでいたコーラを一口飲む。いつもと変わらない甘い味なのに、いつもより美味しく感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

楽しい時間はあっという間に過ぎていき、新年会はお開きとなった。今は駅でひとりと喜多ちゃんと別れて、虹夏の家の前でだべっている。

 

「いや〜、それにしてもすごいね。レーベルからスカウトを受けるだなんて」

「まさかとは思ったけどな」

「楓のヒモになる選択肢もアリになってきた」

「それはさせないからな?てか今もヒモみたいなもんだろ」

「ヒモじゃない。一人暮らしで寂しい思いをしている楓に寄り添う心優しい主人だよ」

 

だったらなんで主人が料理番からお金を借りてるんですかね。忘れてないからな、押上から下北沢までの電車賃貸したこと。

 

「それをヒモっていうんだよ…… というか、楓がこの前のライブでスカウトされたってことはそのうちあたし達もスカウトされるのかな?」

「あ、確かに。それもあると思うな」

 

今回のスカウトは少なからず、結束バンドにも声がかかる可能性があることを示した。彼女たちの実力は間違いなく上がり続けている。この調子でいけばそう遠くないうちに声がかかるはずだ。

 

「よ〜し、あたし達も楓に続くためにまずは一次審査突破できるように頑張らないと!」

「そうだな。応援してるよ」

「プロから応援されるとなんかやる気出るな〜」

「プロだなんてそんな、まだまだアマチュアだよ」

 

何をもってしてプロと言えるんだろうな。とりあえずまだまだ道のりは遠いことはわかるけども。

 

「あ、そうだリョウ! 楽曲制作、調子どう?」

「ぼちぼち……」

「リョウならいいの作れるよ! 楽しみにしてるね」

「……」

「リョウ?」

 

虹夏のエールにリョウは俯く。何かを考えているのだろうか。しばらく黙り込むと、ふうっとため息をついて、口を開いた。

 

「……まぁ、がんばるわ」

 

沈黙の後に呟かれたその一言と、どこか暗めな表情に俺はうっすらと感じた。

 

彼女がまた何かを抱え込んでいるのではないかと。




次回、「仲間がいる」

実は今回のお話は前回(50話 夜に駆ける)の一部だったのですが、文字数が1万文字を超える長さになってしまったため分離させてます

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クロスオーバースピンオフは

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