幼馴染の変人ベーシストの料理番になった件について。 作:かんかんさば
現在バンドリMyGO!!!!!とのクロスオーバー回を執筆しています。完成したらここでも告知します(掲載先はチラシの裏です)
ジリジリジリ───
スマホのアラームの大きな音で目を覚ます。時刻は5時25分。どうやらいつもより少しだけ遅く目覚めたようだ。カーテンを開けた先に見える空はまだ暗く、朝日を待っているようだ。今日は3月18日、修学旅行の初日だ。
「さて、支度するか」
そう呟いてショルダーバッグに私物を詰める。着替えなどが入ったスーツケースは前もって送っておいた為、そこまで詰めるものはない。充電器や酔い止めの飴、タオルなどちょっとした小物だけだ。
私物を詰め終わったところで1階に降り、朝飯を用意する。前の晩に生姜焼きを予め作っておいたのであとはレンジで温めるだけだ。白飯も炊いておいたものがあるからそこまで時間はかからない。温め終わった生姜焼きを2人分の皿に盛り付け、2人分のお椀に味噌汁をついでそれぞれテーブルに並べる。
あとは奴を起こすだけだ。
「おい起きろ。もう飯できてんぞ」
「……」
「おーきーろ!」
「うーん……もっとお金貢いで……」
こいつ起きねぇな。ならしょうがない。
2階からミニアンプとギターを持ってきて布団の横にセットする。そしてボリュームをMAXにして思いっきりEコードを弾けば……!
ジャーーーーーン!!!
「うるっっっさ!!」
「早く起きねーからこうやって起こさせてもらったわ」
「主人である私に何たる仕打ち。後で覚えとけ」
こうやって爆音でギターを鳴らせば大抵の人は目を覚ます。が、相手の機嫌は高確率で悪くなる。ちなみにうちの家はほとんどの部屋が防音仕様なので近所迷惑の心配はない。
とにかく、リョウを起こしたところだし朝食にするか。
「……」
「ところでリョウ、今日何あるかわかってる?」
「私の誕生日181日目」
「修学旅行初日な」
「そういえばそうだったね」
そうだったねじゃないだろ。もう少し学校のことにも関心持ってくれよ。この前の卒業式だって爆睡してて起きてたの最初と最後の5分だけだったじゃないか。
「もう少しスケジュール管理しっかりしてくれよ。それに修学旅行中ずっと世話できる訳じゃないからな?」
「虹夏もいるからそこは大丈夫」
「なら大丈夫か……じゃなくて! 少しは自分の身の回りの事ちゃんとやれってこと!!」
「善処します」
まあ、出来る限り世話を焼くことにしよう。
飯を食い終わったところで、寝巻きから私服に着替え始めた。3月とはいえまだ少し肌寒いので多少調整が効くような服装だ。
着替え終わったところで下に降りて靴下を履き、準備完了だ。リョウも準備が終わってれば出発できるのだが……
「お前……!」
寝てやがる。寝てやがるぞこいつ。しかも着替え途中っぽいし。ならばもう1回ギターで起こす……のはやめよう。多分修学旅行中ずっと機嫌悪くなる予感がする。
しょうがない、虹夏を呼ぶか。
「もしもし虹夏、今大丈夫か?」
『大丈夫だけど、どうしたの急に?』
「リョウが着替え中に二度寝した」
『あ〜……』
天使様も呆れてんじゃねぇかよ。ガチで心配になってきたわ。
「だから着替えさせながら起こしてやってくれ」
『リョウったら……うん、わかった。ちょうど今家出るところだからリョウ起こしたら一緒に行こ!』
「そうしよう。それじゃお願いしま〜す」
『は〜い』
でもこういうとき本当に虹夏がいてくれると助かるんだよな。やはり持つべきものは友と言ったところだな。
ピンポーン。
どうやら虹夏が来たみたいだ。
「おはよ〜。リョウはどこ?」
「和室にいる。朝飯は食わせたから着替えたらもう出れると思う」
「は〜い。じゃあ起こしてくるね〜」
「お願いします!」
中に上がると一目散に虹夏は和室へと向かっていった。そして戸を開けて勢いよく布団を剥いで「早く起きろ!!」と喝を入れた。流石に2度も起こされると流石にリョウは目が冴えたようで、急いで着替え荷物をまとめて和室から出てきた。
「2回で私を完璧に目覚めさせるとはやるね」
「1回で起きてくれよな…… まあいい、出発するぞ」
忘れ物がないことを確認し、家の鍵を閉める。家を出たら、旅立ちの合図にふさわしい晴れた空が広がっていた。これから旅が始まるという実感が湧いてきたところで、俺たち3人は駅へと歩き始めた。
電車を乗り継いで集合場所の品川駅で飲み物と昼食を買い、そこから新幹線に乗り込んだ。今は暇すぎて窓の外の景色をぼーっと眺めている。通路を挟んで向かい側の蘆名や上杉達はそうそうに寝落ちした。あまり新幹線に乗ったことがないのか、流れる景色が新鮮に感じる。2人がけの席に自分しか座っていないので、隣の人に気を使うなんてことをせずに景色を眺められる。それでも暇なのには変わりないが。
「隣、いいかな?」
「いいけどリョウは大丈夫なのか?」
「爆睡中だし、広島着く前に戻って起こすから大丈夫」
窓の外の景色を堪能していると、虹夏が隣に座ってきた。そもそも席移動自体禁止だったような気がするが、今更つっこむのもめんどくさいし担任も爆睡してるのでノーコメントでいこう。新幹線は今ちょうど三河安城を通過したあたりだ。目的地の広島まではまだまだ時間がある。これも旅の醍醐味なのだろう。
「なんか高校2年もあっという間だったね〜」
「わかる。今年は結束バンド結成したり俺も俺で活動始めたしで本当あっという間だったわ」
「こうしてる間にあっという間に高校卒業しちゃうのかなって思うとなんだか寂しいね」
今年、というか今年度は自分たちの日常がガラリと変わっていった。そして、日常が変化したことで日々が過ぎていくスピードがとてつもなく早くなった気がする。そしてそのうち高校を卒業して大学入って卒業して、あっという間に学生生活に幕を閉じてしまうのだろう。そう思うと虹夏の言うことにはすごく共感できる。
「まあ先のことなんて考えたってしょうがないな」
「そうだよね〜」
今は修学旅行中だ。そんなに先のことを考えてたら楽しめるものも楽しめなくなってしまう。
「そういえば明日の倉敷、結局あたしたち2人で行動するってことでいいんだよね?」
「まあそうなるな」
今回の修学旅行では班行動が2回ある。1回目明日の倉敷美観地区で、2回目は大阪のユニバであって、それぞれ班構成は違う。明日の倉敷での班は俺と虹夏にクラスメイトの安東くんと川口さんの4人班になっている。このメンツで倉敷を巡る予定なのだが、なんとこの4人では一切行動しない。なぜなら───
「川口さんと同じ班になったから2人で倉敷をまわりたい!?」
「うん…… せっかくなら彼女と二人きりでまわれたらなって思うんだ。下村くん、おねがい!」
「……俺はいいけど、虹夏は?」
「全然大丈夫だよ!せっかくなら彼氏彼女2人きりで歩きたいよね〜!」
安東くんと川口さんは2人きりで倉敷を歩くことになっているからだ。 というのも2人は最近付き合い始めたカップルだ。まあ気持ちはわからなくもないし、2人が幸せならオッケーですということで了承したのだ。
「スイーツとか食べ歩きするか?」
「お、いいね〜」
「……にじかぁ」
「あ、リョウ起きるかも! それじゃ楓また後で!」
何を食べるかあらかじめ決めようと思っていたら、リョウが起きてしまい、虹夏は元の席に戻っていった。2人の座席は俺が座っているところから東京寄りに2つ後ろ。行き来することは簡単だが、リョウの世話をする以上そう容易ではないだろう。
最初の目的地である広島に着いたのは午前11時。そして、平和記念公園で平和学習を行いバスに乗りこんで忠海港に向かった。
「つかまって」
「信じるわ」
忠海港から船に乗り込んで宿がある大久野島へと移動した。途中、船の先頭にたってタイタニックごっこを蘆名とやったのはいい思い出になった。
そして夕食と風呂を済ませた今、就寝前の自由時間に入っている……のだが───
「只今より裁判を始めるッ!」
「いやいやちょっと待て。なんで俺が縛られてんだよ」
「被告は黙っとれぃ!!」
同じ部屋の蘆名と上杉にタオルで腕を縛られ、身動きが取れなくなっている。どうやら今から裁判とやらが始まるみたいだ。俺なんかしたっけ?
「では上杉、起訴内容を」
「はい蘆名裁判長。被告人下村楓は本日3月18日午前10時頃、東海道新幹線車内の座席で伊地知虹夏さんと隣同士仲良く会話していた疑いで起訴されている。被告人、起訴内容に間違いはないか?」
「間違いはないけどなんでそれで起訴されるんだよ」
ただ話していただけで起訴されるのは横暴すぎる。きっとなにか(しょうもなさそうな)理由があるはずだ。
「下村、お前は伊地知さんがクラスの男子から大人気なのは知ってるよな」
上杉の言うように、虹夏はクラスの男子から大人気だ。7月から毎月行われている「彼女にしたいクラスの女子ランキング」で7ヶ月連続1位に輝いている。ちなみにリョウは3位だ。
「そりゃもちろん」
「お前は幼馴染という立場を利用して常日頃から伊地知さんと楽しくおしゃべりしている」
「別に喋ったっていいだろ」
うわ、なんか理由気づいちゃったかも。すごくしょうもない理由な気がしてきた。
「お前、推しのアイドルに熱愛報道が出たらどう思う?」
「そりゃマジかっては思うけどさ……」
「俺らにとってはそれと一緒なんだよおおおおおお!!! お前と伊地知さんが喋ってんのはああああ!!!」
「えぇ……」
本当にしょうもない理由に俺は困惑する。そして虹夏がアイドル視されていたことにさらに困惑する。あいつのどこにアイドル要素があるのだろうか。
「というかお前ら彼女いるんだから別にそこまで妬まなくたっていいだろ」
「いやそれとこれとは話が違う」
「同じく」
「はぁ……」
彼女いない歴=年齢の俺としてはお前らに嫉妬したくなるわ。
「まあいい。判決を言い渡す」
「え、いきなりかよ」
「主文、被告人下村楓をおみやげ代──」
唐突に判決が言い渡されようとしたその時、部屋のドアをノックする音が聞こえた。
「ちょっと行ってくる」
誰か来たのだろうか。予想としては伊達か坂戸さんのどちらかだろう。そういえば蘆名、後で坂戸さんと散歩しに行くとか言ってたな。こんなことしてて大丈夫なのか?
「ごめんね夜遅くに。楓いる?」
「あっ、はい。下村ならそこに」
来訪客はまさかの虹夏だった。こんな遅い時間に何の用があるんだろ。
「楓〜、明日の話しながら少し散歩し……ってなんで縛られてるの!?」
「謎にこいつらに裁判かけられてる」
「どうせなんかやらかしたんでしょ。まあいいいや。蘆名くん、楓少し借りてっていい?」
「ぜひどうぞ!!」
おいこいつら虹夏が来た途端ペコペコしだしたぞ。判決はどうすんだよ判決は。
判決は一旦保留となり、俺は拘束を解かれて部屋を後にした。まあ拘束と言ってもガッチガチに腕を縛られてた訳じゃないので振りほどこうと思えば何時でも振り解けたのは内緒だ。
「ところで楓、なにやらかしたの?」
「……別に大したことじゃない」
「何今の間。余計気になるんだけど」
「本当に大したことじゃないから教えない」
「え〜」
男子の醜い会話は知らない方がいいと思いますよ。
翌日。
朝食を食べて俺たちは大久野島を後にした。忠海港からはバスに乗りこみ、尾道で昼食を食べたあと倉敷に到着したのは14時すぎのことだった。そして今、担任の説明を受けて自由行動が始まったところだ。
「それじゃ、楽しんできてくれ。二階堂先生になんか聞かれたら上手く誤魔化しとくから」
「本当にありがとう!!」
安東さんと川口さんのカップルを見送り、俺と虹夏2人になった。虹夏は2人を見送ったあと満面の笑みで「じゃあ行こっか!」と言った。その笑顔を見るとアイドル視されるのも納得できる。
「お、今なんかあたしのこと褒めようとしたな〜?」
「別に、安定の子供っぽさだなって思っただけ」
「もう、そういうとこだよ!」
「悪い悪い」
「はぁ、そういうことあたし以外には言わないほうがいいよ?」
「言われなくともそうしてるわ」
こうやって接することができる友達は学校にリョウと虹夏以外にはほとんどいない気がする。蘆名や上杉たちも友達であることに変わりはないが、心の底から笑って接することができない。バイトをしている時、フォルトに遊びに行く時、ユニット活動している時。これらの方が学校にいる時よりも何倍も楽しいと感じる。まあ、今こんなこと考えてたってしょうがないか。
「ねぇ楓、あそこ行ってみようよ」
虹夏が指をさした先にあったのはデニムストリートという観光スポットだ。岡山県は国産ジーンズ発祥の地として有名で、ここではデニム製品の他にデニムをモチーフにしたユニークなグルメが楽しめるようになっている。昨日話した時にデニムまんやデニムソフトは話に上がっていたので、行ってみることにしよう。
入ってみるとどこもかしこも名前の通りデニムだらけだ。衣服はもちろん小物や装飾品まで置いてある。ここにあるものは後でちゃんと見るとして、まずはデニムソフトを食べてみよう。
「すみません、デニムソフトひとつください」
「はーい、デニムソフトひとつですね」
「あたしはデニムまんひとつ!」
「はーい!!」
お店の人にそれぞれ注文して、カウンターで受け取る。近くのベンチに腰掛けて、デニムソフトを口に運ぶ。口に入れると爽やかなラムネの味とフルーティーなブルーベリーの味が広がりとても美味しい。
「美味しい〜!」
どうやら虹夏もデニムまんにご満悦のようだ。
「楓もひと口食べる?」
「……大丈夫」
こういう場面には幼い頃から慣れてるとはいえ昨日の裁判があるから迂闊にひと口貰えないんだよな。ただでさえこの場面を見られたらまずいのに虹夏からまんじゅう一口貰ったのを見られたら今度は命がない。
「大丈夫だって。別に楓なら気にしないし」
「そうじゃないんだよ」
「じゃあなんなのさ」
「それは……」
「もう、たまに楓ってカタブツになるからな〜」
でも、そんなしょうもない裁判ごときにビビって厚意を無下にするのは違うのかもしれない。ならここは腹を括ってその厚意に答えよう。あいつらに何言われたって虹夏は幼馴染で友達なんだ。
「そっか、気にしたってしょうがないな。虹夏、デニムまん一口くれないか?その代わりデニムソフト一口あげるから」
「うん、いいよ!ちょうどあたしも気になってたし」
虹夏からもらったデニムまんを一口、口に運ぶ。デニムソフトと同じようなデザート系の饅頭かと思ったらそうではなく、しっとりとした甘みのある青い肉まんだった。これもこれで美味しい。
「アイスも美味しい〜!」
「それはよかった」
「ね、デニムまんも美味しいでしょ?」
デニムソフトが甘かっただけあって、デニムまんの味でちょうどよく感じる。さあ、まだ食べ歩きは始まったばかりだ。他にも美味しい食べ物を食べようじゃないか。
「よし、じゃあ次行こうか」
「そうだね。しばらく歩きながら探そっか」
食べ終わったところで、次のお店を探し始めた。
この倉敷美観地区は江戸時代の街並みを保存していて、重要文化的建造物群保存地区に選定されている。倉敷は江戸時代、物資の集散地として栄えた町で目に見える建物には当時の名残を感じる。自分はこういったレトロな建物は結構好きなので、ただ歩くだけでも十分楽しめる。
「楓、ちょっと休憩しない?」
「そうだな」
とはいえ、歩き回っていたら普通に歩き疲れるのでまたまた近くのベンチに腰掛けた。自分はまだ全然歩けるが、虹夏は少しお疲れの様子だし、ちょうどいい。
「そういえば楓さ」
「うん」
「楓って好きな人いるの?」
「ぶっっっ!!」
虹夏の唐突な質問にお茶を吹きこぼす。いきなりなんてこと聞いてくんだよ。まあ去年のアレよりはまだマシだが。
「ど、どどどうした急に」
「なんか気になっちゃってさ」
女子はみんな恋愛には興味あるから聞かれても無理じゃないか。でも、言ったところでどうなるのだろうか。リョウのことが好きだと伝えたらきっと気を使わせてしまう。ならばいることだけ伝えてしまおう。
「……まあ、いるにはいるよ」
「いるんだ。ちなみに誰?」
「それは……」
「まあ何となく誰かわかるよ」
「え」
さっきまでの旅気分から一転、一気に去年の桜木町の時のような雰囲気に包まれた。虹夏はどこか悲しそうで、嬉しそうな不思議な表情を浮かべている。
「でも誰かは聞かないでおくよ。あたしはいるかいないか確かめたかっただけだからさ」
「いいのか?」
「いいの」
「そうか」
今度は割り切ったような、なにか決意を固めたような笑みを浮かべるようになった。悲しさが無くなったのであればそれでいい。だが、どうもわからない。なぜ俺の好きな人に勘づいた際にあのような表情を浮かべたのか。でも余計な詮索をするのはやめておこう。
「そういえば逆にお前はいるの? 好きな人」
とはいえ、自分だけいることを知られることだけは納得がいかないので聞き返してみることにした。すると虹夏はふっと笑ってみせた。
「いるよ、あたしも好きな人」
「なるほど、これで俺たち3人全員好きな人がいるってことか」
「そうだね〜。なんか恋する高校生って感じだよね〜」
「でさ、お前の好きな人って誰?」
「教えないよ、楓だって言ってないんだから。……まあ、よーく考えればその、わかるんじゃないかな」
今度は頬を赤らめながらも虹夏は微笑んだ。よく考えれば。よーく考えれば。ここ数ヶ月の虹夏の様子をさっと思い返す。
『たまにはでもいいから、あたしの事……その……幼馴染とかじゃなくて一人の女の子として見てよ』
あれ、まさか、虹夏の好きな人ってもしかして。いや、まさかね。こういうのは本人の口から出る言葉で確かめないと意味がない。
「ま、まさかお前のす「言わないで」え?」
「ちゃんと、
次回2年生編(後編)最終回後編、「春風が告げるのは始まりか、それとも終わりか」
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タイトル元:Official髭男dism「旅は道連れ」
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