ハイスクールD×D ~審判を超えし者~【凍結】 作:メラニン
ではどうぞ!
―― 一誠side
俺たちは天祢さんに案内されて、離れに荷物を降ろした。離れは二つあり、古いほうが俺たち男性陣。新しい方がオカ研の女性陣という事になった。
そして、早速明日から働く表の『大黒屋』に出てみると俺たちは絶句した。
「おうち、ばっちー!」
何でも思った事を口にするアラス・ラムスがおそらく皆が感じているであろう思いを代弁してくれた。
中のスペースは結構な広さなのだ。多分50人近以上は対応できるくらいの座席数。しかし、その座席である椅子がヒドイ。天板のスポンジが露出し、カバーが無事なものが見たところ一つたりとも無い。テーブルも大量の埃を被っている。近くのテーブルに手を掛けると、ガタリと音を立てて傾く。どうやらテーブルの足がしっかりとバランスを取れていないようだ。因みに、それらの座席類は全て木製だ。
おまけに店の看板も『大黒屋』という字が辛うじて分かるレベルで錆びている。
店の奥にあるドリンクサーバーはテーブルの金具や看板同様に錆び付いているし、こちらも頭に埃を被り蜘蛛の巣が張ってある。その近くの二台あるレジはまだマシだが、側にあるドリンククーラーの中身がコーラ数本というのが何とも物悲しい。壁も所々禿げているかヒドイ部分は小さいが穴が開いている。
トイレが店内に設置されているため恐らくまだまともだろうが、その近くにあるシャワー室の前には10分100円と書かれた看板があるが、一体いつ書かれたのか分からないくらい錆がヒドイ。その近くにあるコインロッカーは正常に機能するのかすら怪しい。見た所調理に必要なスペースはまだ綺麗という事だけが救いだが………
もはや廃墟と呼んでも何ら問題無いような店。それが俺の第一印象だ。しかし、現実は残酷でここで明日から俺たちは働かなくてはならない訳だ。マジで勘弁して下さい。
「………失礼だけど、私ここでは買い物しないと思う」
「……ですよねー」
遊佐さんがある意味当たり前の事を言って、天祢さんもこの状況はしっかり分かっているようで肯定している。肯定するくらいなら何故こんなになるまで放っておいたんだと、突っ込みたくなる気持ちを抑える。
いやでも即席店長って名乗るくらいだから、多分急にこの店を任されたんだと思う。この店は元々天祢さんの父がやっていたって言ってたからな。
「あの、天祢さん――」
「かったいなー、芦屋君!気軽に天祢っち、って呼びねぇ」
芦屋の言いたいことは分かる。しかし、それを天祢さんが底抜けに明るいテンションで遮る。が、芦屋も黙ってはいない。
「………天祢さん、浜開きはいつと仰ってましたか?」
「明日!!…………いやぁ、ヤバいんだよねぇ。ガチでピンチ。どうしよ?」
そんなのコッチが聞きたい。いや、確かに掃除くらいはこの人数が居るんだから余裕で終わる。しかし、問題はその後だ。ここからこの店をリカバリーするのはかなり労力がいる。正直リカバリー仕切れるのか怪しい。いや、出来なければ明日からの営業に間に合わない。
「がち………ぴんち……がち…ぴん?ままー、がちゃ◯んってなーに?」
「アラス・ラムスはまだ知る必要ないわ。大人になったら分かるわよ」
アラス・ラムスが赤ん坊特有の聞き間違いを起こし、某テレビ局の名物キャラクター名を出すが、遊佐さんはそれからやんわりと意識をそらせようとする。
いや、ホントにどうすんだ?俺たち異世界組は全員苦笑いだよ!
「………あの、天祢さん。天祢さんは普段どんな仕事をなさってます?」
「えっと結構、肉弾戦系?」
「に、にくだんせん?はい………?」
「えっと、料理は出来ないです、はい。家庭料理以下です。キャベツの千切りとか無理です………」
大丈夫か、この店長………
不安しか無いよ。
「………ま、まぁ、料理に関しては芦屋も居るし何とかなるだろ……それよりも、浜には他にライバル店も見当たらない…つまり、市場は独占状態……………店はこんな状況………なのに明日から浜開き………けど、一人頭千円は安くねぇ………」
ブツブツと真奥が何かを言い出すが全ては聞き取れない。多分、ここから如何にして店を改善するかを思考しているのだろう。今回バイトする中でも、このフリーター魔王だけが社会人なのだ。ここに来る前にも『俺が指揮して大成功させてやる!』って張り切ってたからな。
そして、シンキングタイムが終わったらしい真奥は顔を上げてそれぞれを確認する。
「………天祢さん、もし大入りとかあったら手当とか出ます?」
「え、そりゃ出すけど………でもこのスペースに大入りとかは少し期待は出来ないかなぁ。毎年大入りとかはしないし」
「いいんです。始めから目標を高めに設定しといた方が、仮に達成できなくても最終的な終着点は良くなります。よし、お前ら!大入り目指すぞ!」
「でも、真奥。一体どうやるんだよ?いくら僕でもここから明日までに色んなモノを間に合わせるのは無理って分かるよ?」
「はっはっは!甘いぞ!漆原!俺を誰だと思っていやがる!とにかく、今日1日で何とかなる様に全力で"ハリボテ"を作るぞ!」
そして、エンテ・イスラの魔王による、海の家『大黒屋』のBefore,Afterが始まった!
――○●○――
まず魔王がやったのは人員をそれぞれグループに分けることだ。オカ研の内、部長、朱乃さん、ゼノヴィア、木場、黒歌、イリナ、小猫ちゃんがホール担当だ。
そして料理担当は俺と芦屋が鉄板担当。コンロの方はミラとアーシアが担当する。まぁ、ここはいい具合の采配だと思う。俺は言わずもがな料理ができるし、普段から我が家で手伝っているアーシアもメキメキ腕を上げてきている。ミラは前世から俺と競い合っているし、問題なし。芦屋の料理も昨日食べた限り、結構美味かったから大丈夫。いや、本当に料理組にイリナとゼノヴィアが来なくて良かった。この二人だけはダメだ。絶対に!この前作ってもらった味噌汁を飲んで腹を壊したから………
で、レジ担当は天祢さんと真奥。しかし、真奥は全権指揮というチーフなので、必要に応じて各部署にヘルプに入る。そして、駄天使とコミュ障ヴァンパイアは真奥が考えたカキ氷の販売担当だ。この二人の部署だけは若干特殊だ。そして、急遽準備の方のみだが遊佐さんと千穂さんも手伝ってくれる事になった!鎌月さんはアラス・ラムスの子守と言う事で、一緒に砂遊びをしている。
そして、各グループに別れたところでそれぞれに真奥が指示を飛ばす。
「まずは、ホール担当の子たちはホールにあるすべての掃除だ。壁も含めてな。で、バランスの悪いテーブルにはこの付箋を貼って行ってくれ。後で足を少し削るか、廃材とかを足と地面の間において固定するから。床掃除の方は砂粒一つ残らないくらい徹底的にな」
そう言って真奥は各自にカラフルな付箋を渡す。
「じゃあ、まずは私たちは掃除から始めさせてもらうわ。さ、行くわよ、皆!」
「「「「「はい、部長!」」」」」
「へぇ、あの子たちは同じ部活仲間だったのか。統率が取れてるねぇ」
天祢さんが感心したように呟く。それに御構い無しに真奥は次の指示を出す。
「次に料理組には鉄板とコンロのそれぞれの掃除。まぁ、鉄板は一人居れば問題ないだろ。そこは話し合って決めてくれ。で、余りは掃除に参加だ」
「あのー、すいません」
「ん?何だ、兵藤君?」
「俺手先器用なんで、コインロッカー直しましょっか?」
「「「「「え!?」」」」」
相当ビックリなさってるご様子。これでも器用貧乏って言われるくらい色々できる。言ってて悲しくなるけど………
けど、実際にさっき確認したところ、開かないロッカーがそれなりにあるので、これはやった方が良いというのが俺の考えだ。他にも、シャワー室の取っ手が緩んでたりと気になる部分がそれなりにある。
「………できるのか?」
「まぁ、工具と油などがあれば……」
「天祢さん」
「はいよ。こんな事もあろうかと、既に手元にあるよ」
いつの間に持って来てたんですか、天祢さん。
「よし、兵藤君は今すぐ取りかかれ!あれ、待てよ………ロッカーが出来るってことは……」
「うーんと、見ないことには分かりませんが、不具合があれば多分一通り他も直せると思います」
「よっしゃあぁぁ!じゃあ、まずロッカーの修理!次にシャワー室!他にも気になった所があれば次々修理しちまえ!」
「了解しました。じゃ、行ってきまーす」
俺はそのまま言われた通りに故障箇所の修理に向かった。ま、やれるだけやってみるか。
――side out
――ミラside
イッセーが掃除に向かった後、真奥が再び指示を飛ばし始めた。というか、コイツ他にも名前考えられなかったわけ?魔王が真奥って………
そのまんまじゃない。
「よし!これは嬉しい誤算だ!まさか、あのロッカーが全部使えるとは……」
「うーん、あのロッカーがそんなに必要になるかい、真奥君?」
「ええ。水遊びするのに貴重品を収納しておくには自前の車か、ここしかない訳です。コインロッカー目当てに入ってくれた客がここで買い物してくれる可能性が上がります。それに、使えるロッカーが多いほど荷物を取りに来たお客さんがまたここで買い物してくれるかもしれないじゃないですか?つまり、単純に一つのロッカーが使えれば、それだけで買い物してくれるかもしれない回数が1回ずつプラスされるんですよ。
まぁ、本来はそんな単純じゃないですけど、シャワー室にしたって、使えるものが多けりゃ多いほど客単価のアップに繋がるんです。まぁ、他にも理由はありますけど、一先ずはこんな所ですかね」
「なるほどねぇ、勉強になるよ」
「い、いや、そんな……ほとんど勘でやってるんですけどね………」
いや、勘でここまでやる経営者ってのも中々居ないわよ。それを自覚してるのかしら?この魔王さんは。
「っと、次だ。おい、恵美!近くのデパート行って、5千円以内でこの紙に書いてあるもの全部買ってこい!」
「はいはい、分かったわよ」
「あ、そうだ。レシート貰うのを忘れんなよ」
「レシート?領収書じゃなくていいの?」
「こういう小口の場合は品目が書いてあるレシートの方がいいんだよ。もし購入内容が書かれてないようなら、領収書貰ってこいよ」
「分かってるわよ、それくらい!」
「あー、あとそうだ!天祢さん!小口現金っていくらあります?」
「んー、二万ちょいかな?もっと必要かい?」
「二万もありゃ十分です。恵美、ついでに銀行行って小口とは別に万札何枚か下ろして全部百円玉に崩してきてくれ」
「いいけど、何でよ?」
「ここは海水浴場。紙幣を持ち歩く人は少ないだろう?」
「あー、なるほどね。分かったわよ、行ってくるわ」
そう言うと、恵美の方は天祢に確認を取ってそのまま行ってしまった。
「………芦屋さん、何で泣いてるんですか?」
その言葉に振り返ってみると、確かに芦屋が目から涙を出して泣いている。悪魔大元帥って地位のやつが普通泣く?
「聞いてくれますか、佐々木さん…………あの、エミリアが魔王様の指示に従っているのです。うぅ…………悪魔の大敵てある勇者に魔王様が命令をしてらっしゃる…………コレは1人の悪魔にとっては小さな一歩かもしれませんが、魔界にとっては大きな一歩です!」
あら?今のセリフって………
「多分、色々間違ってますし、勘違いも入ってると思うので、アームストロング船長に謝ってください」
「ううっ、挫けずに生きてて良かった……」
それを愛想笑いでスルーした千穂は真奥の元に向かった。にしても、芦屋大げさすぎよ。
「あ、ちーちゃん。お袋さん大丈夫だって?」
「はい!さっき電話したら天祢さんも説明して下さって、OKを貰いました!」
「………こりゃまた、ちーちゃんの家に何かお礼を持ってかねえとな」
「え、わ、悪いですよ、そんな…………それに私が好きでやってる事ですし!」
「うーん、こりゃ冗談抜きでちーちゃんを、うちの軍に下さいって言う日が近いかもな……」
「え、ま、真奥さん、それって………」
そこで真奥が何かに気付いたようにハッとなって、急いで取り繕うとする。
「え、え………ち、違うぞ!?べ、別に今のは例の返事とかじゃなくて、深い意味は無くて………あ、でも否ってわけでも無くて………」
「………『うちの軍に』が無かったら、あの、その………予約は確………し……あぅ………」
「え?」
お互いに耳まで真っ赤になる二人。
………へぇ〜、何となく気付いてたけど、千穂って……
「で、でも、いつか本当に…………その、私のこと………」
「………おーい、衆人環視。仕事無いんなら、僕帰っていい?」
「うお!?」
「う、漆原さん!?」
ちっ、あともう少しのところを………
本当に使えないわね、このバカ駄天使!ちょっとは空気読みなさいよ!!
「い、いや、お前にも仕事はあるぞ!だからまだそこに居ろ!」
「居るなら何で声掛けてくれなかったんですかあぁぁ!?」
さっきよりも、顔が真っ赤になる千穂。ふふっ、面白いわね、この子。
「どうせ、どこで口挟んでも文句言うくせに。それよりも感謝するべきじゃない?僕が今の段顔で止めておいた事に」
「え、それって……」
「どうい…う……こ……と……………」
振り返った真奥と千穂と目が合った。いつの間にか、私やアーシアの周りには、ホールで掃除していたリアス達も居た。コッチに夢中で気付かなかったわね……
「…………さぁ、皆!掃除再開よ!」
「「「「「「はい、部長!」」」」」」
そこから、ホール担当組の行動は速かった。蜘蛛の子を散らすように一斉に掃除に戻っていった。
「お、お前らあぁぁぁぁ!」
「あ、ああああの、い、何時から見てました……?」
プルプル小さく震えながら千穂が聞いてくる。何だかアーシアと通ずるものがあるわね、この子。
「『冗談抜きでちーちゃんを、うちの軍に下さいって言う日が近いかもな……』からかしら?」
「ほとんど初めからじゃないですかあぁぁぁ!!」
「そんな事より、仕事はいいのかしら?」
そこで、真奥が大きくワザと咳払いを一つして、話題を変えた。
「うおっほん!!よ、よし、じゃあ、ちーちゃんはコッチのドリンクサーバーを磨いてもらう!」
真奥が出してきたのはお酢と食塩だった。ボールの中にそれぞれ等量ずつくらい入れて、たわしに付けて磨くと……
「うわ、凄い。本当に錆が落ちてる」
「コレをやって欲しい。足りなくなったら、塩と酢をちびちび加えていけばいいから」
「は、はい!やってみます!」
千穂はタワシを受け取って一心不乱に磨き始めた。きっとさっきの事がよほど恥ずかしかったのね。少し悪い事をしたかしら?
もう一方の真奥の方は次にギャスパーと漆原に指示を出してるわね。かき氷機の掃除と、椅子の天板のスポンジを全て毟っているみたい。確かに濡れた水着でスポンジの上に座るのは不快だし、いい判断かもしれないわね。
私の方はコンロの掃除をやりながら、隣で作業している千穂にさっきの事を聞いてみる事にした。
「千穂、あなたもしかしなくても、真奥のこと好きなの?」
「ふぁっ!?な、なななな何言ってるんですか、ミラさん!!」
「さっきの一連の流れを見てれば分かるわよ。さっき、返事がどうのって言ってたけど、もしかして待たされてるの?」
「う………えと……ううぅぅ………」
「ま、無理に言わなくてもいいわ。私も似たようなものだし」
「そ、そうだ!ミラさん達こそ兵藤さんのこと――」
「全部は言わなくていいわよ。多分そう……なんだと思うけど、そっちの方が幾分かマシよ」
「え?どうしてですか?」
「それはアーシアに聞けば分かるわよ」
「ふぇっ!?ミ、ミラさん!?何で私に振るのですか!?」
「どっちでもいいので教えてください!で、何でなんですか?」
アーシアがモジモジしながら口を開く。アーシアはこの辺が素直だからいいわよね。
それから私たちにあったことを、ざっくりと説明した。
「ど、どどど同棲!?い、いいじゃないですか、私の方より!」
「でも、そっちはあなたの気持ちに気付いてくれてるんでしょう?」
「まぁ、それは一応、その………告白もしましたし……返事は保留されちゃってますけど………」
「私たちの方は告白とかはしてないけど、いくらアプローチしたって、効果無しよ!?」
「うぅ……この前もイッセーさんと一緒に寝たのに普通でした……」
「え、アーシア!?それいつの話よ!?」
「あ、こ、コレは内緒なんでした………」
「あの、言いたくはないですが兵藤さんって枯れてるんですか?」
「………まさか」
いや、でも確かにおかしいのかも。藍華が言うには男子高校生なんか性欲の塊なんて言ってたのに。いい例(?)として同じクラスの松田や元浜なんかは飽きることなく毎日の様にエロトークをしてるわけだし。さすがにアレは私でも引くわ。けど、普通の男子高校生なんてどういう生き物か、なんて私には分かるはずもない。前世でも学校と呼べるような物には通ってなかった訳だし。それは生まれ変わっても同じだった。私の居た里には学校は確かに小さいながらあったけど、私は祀り上げられていて、普通通りの生活とは縁遠かった。
そう考えると、どうなのかしら?…………今度確認しておいた方がいいのかも。
「ほら、そこ!何サボってんだ!時間は無いぞ!チャキチャキ働け!」
「「「…………………」」」
「な、何だよ?」
勤務中の私語に気付いたらしい真奥が注意してくる。そこで私たちは今しがた注意してきた真奥と、既にロッカーの修理が終わったらしくシャワー室の修理に取り掛かろうとしていたイッセーを交互に見て溜息を吐いた。
「「「はぁ〜〜………」」」
「え?え?何だよ、ちーちゃんまで」
「まぁ、お互いに大変でしょうけど頑張りましょう」
「ええ、そうですねミラさん、アーシアさん」
「はい、一緒に頑張りましょう」
今日異世界で、私はまた友達と呼べる人間が増えた様に感じた。
作者はちーちゃんの恋路を応援しています。
原作の方だと、なんかアレ?って感じになってきましたからね。
さて、次回はプチ戦闘回です。
ではでは。