あれは何年前の事だったか。
数年経った今でも忘れられない勝負があった。
それは今でも鮮明に覚えている・・・
「ロン」
対面の男の声が辺りに静かに響き、手牌が倒される。
俺の切った北が男の単騎待ちに刺さった。
北は二枚切れ、しかも中張牌を二鳴きしたタンヤオの手に見えた俺にとっては痛い一打となった。
中を暗刻で抱えての北単騎・・・鳴き方から見ても・・・
「この南三局で二万点近く離されてるおめぇなら、掴めば躊躇なく切ると思ってたぜぇ?」
そうニヤリと不気味に笑う男に俺もふっと息を吐きだし笑い返す。
「そうだよな、攻めてこようとするやつを打ち取るための待ちだもんな」
「カッカッカッ・・・そう言う事だ。そんなもん抱えてちゃ絶対に和了れねぇからな」
「掴めば死、必然の和了りって事か?」
「そうでもねぇぜ?王牌にいれば逆に俺の和了はねぇ」
「つまり運が悪かったって事だな」
相手の手を読み、自分の手をギリギリのところを通しても運が悪けりゃ相手に当たるし、運が良けりゃこっちが和了れる。
麻雀を運だけで片付ける気はないが、互いに引くことのないめくりあいになれば、どうしても運がものを言う。
俺は今回、最も安全そうに見えた超危険牌を掴み、振り込んだ。
山にたった一枚しかないその当たり牌を掴むようじゃ運が悪いと言っても仕方ない、仕方ないんだけど・・・
「まだまだ、オーラスが残ってる」
「そうだな、最後まで何があるかわからねぇ、それが麻雀だもんな」
「ああ、だからこそ・・・」
「「面白い」」
この南三局まで千思万考を尽くし、戦ってきた。
考えを巡らせれば巡らせるほど体が熱く燃え上がり、頭が冴えわたる。
だからこそ絶望的な状況のオーラスでもワクワクが止まらない。
配牌はどうか?ツモはどうか?相手はどう仕掛けてくるか?考えれば考えるほど燃える、燃え上がる。
ましてや、こんなとんでもないく強いやつが相手ならなおさら。
俺の打ってきた数々の麻雀の中でも一番の勝負だ。
だからこそ勝ちたい、この熱い勝負を制したい。
さあ、行こうか。運命のオーラスだ!!
サイコロを回し、オーラスが開始された。
雀卓からせり上がってきた牌を取っていく。
・・・うん、悪くない配牌だ。逆転の目はまだ残ってる。
打牌前に一呼吸置き、手牌の中の一筒を掴んで切り捨てる。
それが合図となったかのように辺りの空気が変わった。
緊張感漂うひりつく空気が辺りを支配した。
その空気をどこか心地よく思う自分がいる。
なぜそう思うかはわからない、この空気が自分の求めていたものなのか何なのか・・・ただ、ひとつだけわかる事がある。それは・・・
燃える、最っ高になぁっ!!
俺はその燃える気持ちを胸に、ツモ牌へ手を伸ばした。
この時の勝負は俺の心に深く刻み込まれている。
数年経った今でもあの時の事を思い出して身震いするほどだ。
しかし、あの時以来あの男に出会えていない。
あらゆる雀荘に顔を出したが、その男を見つける事が出来なかった。
俺は今、いつかあの時のような勝負をあの男と出来る事を夢見て牌を握っている。
だが同時に、麻雀を楽しめなくなってきている自分がいる事も自覚している。
相反するような感情の渦巻く中、自らの一打を切り出した。