クラウスが出立する時に少女たちに伝えた、「体を休め、羽目を外しすぎるな」という一言はクラウスが屋敷を出て扉を閉めた瞬間に少女たちの頭の中から消えていった。
「私は旅行三昧よ」「僕もゆっくりショッピングでも行きたいかな」「俺様、エルナちゃんとサラの姉貴と冒険です」「エルナ、コイツが来るなんて聞いてないの」「まぁまぁ、みんな一緒の方が楽しいっすよ」「とりま一回着替えてくるにゃー」
ダンがお披露目のためのモニカコスを着替えるために自室に戻ったときでさえ少女達は喋り続けていた。
リリィが机の上に立ち、拳を掲げて音頭を取る
「皆さん、休暇は楽しみですかー?」
「「「「「「「イェーイ」」」」」」」
グレーテも小さく拳を掲げ応じている。
「この程度ですか?もっと声を大きく」
「「「「「「「イエェェェェイ」」」」」」」
普段なら「ノリウザ」と悪態をつくモニカも今回ばかりはにこやかに応じる。
「まだまだー」
「「「「「「「イエエエェェェェェイ」」」」」」」
グレーテも頭の上まで拳をあげて応じる。
「まだまだ、もっとー」
「おい早く進行しろーーー」ジビアが突っ込もうとした時、
「ヒャャャャッッッッッッハーーーー」
一際大きなダンの声が響いた。それはジビアの制止により話が次のステップに進もうとしたタイミングだったため広間にただ1人響いていた。
「お前も休暇楽しみにしてたんだな、、、」
ジビアにジト目で慰められそうになったためダンはそそくさと広間から出て行こうとする。
「ま、まぁ明日からは各自休暇を楽しむとして、今夜はみんなでパーティです。」
リリィも煽りすぎたのと雰囲気が微妙になってしまったため進行しにくそうにしている。
「じゃあ、まずは食料調達ですね。とりあえずはミートパイは買いましょう。グレーテちゃんが教えてくれたお店のものを、、、めちゃくちゃ美味しかったですねぇ」
「ボスが教えてくださったお店ですから。宴会にふさわしいでしょう」
先ほどのコールアンドレスポンスが終わった後、クラウスがいなくなったことが改めて寂しいのかグレーテは傷心気味に答える。
そのミートパイはかつてグレーテがクラウスに勧められて灯のメンバーで買いに行ったもので、最後のピースを取り合ってクラウスに嗜められるほど美味だった。
「エルナ、エルナはケーキも食べたいの」「はい、ぜひ買いに行きましょう、エルナ先輩」「素敵な葡萄ジュースはどうするかにゃー」「あら、用意しましょう」「僕が後で倉庫から出しておくよ」「俺様、気になります」「やめとけ、お子様にははえーよ」「先輩方も未成年っすよね」
何はともあれ灯メンバーは外出の準備を始める。表向きである宗教学校の制服に着替え、玄関に集まる。目的地であるミートパイ屋まで喋りながら向かい休暇を満喫する。
ミートパイ屋が見えて来た時、リリィが駆け出すのを見て少年、少女達は思わず苦笑いしながら同じように走り出す。少年は看板を見て立ち止まり、そして少女達はもれなく勢い余ってドアと少年にぶつかっていった。
店主が外の騒動に恐る恐る出てくると、そこにはドアにぶつかり鼻を赤くした少女達と少年にぶつかり文句を言う少女達がいた。店主はおそらく『臨時休業』という看板に原因があるとわかると丁寧に謝り出した。
リリィは自分たちが悪いことを告げているとモニカが鼻を動かし、異臭に気づく。
「生ごみの匂いがする、今朝方そこのプランターにまかれたの?」
「よく分かるね、お嬢ちゃん。最近、嫌がらせがあってね」
考えが煮詰まっていたであろう店主は少女達に話をするために店内に招き入れた。
「マンハイム社からレシピを売るように話があってね。それが全く良くないんだよ、値段も安いし2度とこの店で売らないでくれと言ってきてね。そうなんだよ、それで断ったら次の週から仕入れ先の店から買えなくなったり、オーブンの修理を断られたりしたのさ。うちは継いでくれる人もいないし、引退しようと思っていてね。」
店主から聞いた話はかなりひどいものだった。そして店主のやる気も無くなっていることを感じ取ると少女達はすごすごと帰っていくことしかできなかった。
人気のない海辺に着いた時には先ほどまでの宴会ムードはどこかに行き、鬱屈とした空気が流れていた。
「宴会が台無しです」
そういうアネットをサラが撫でていると、ジビア、リリィ、ダンが体操を始めた。互いに目配せをして頷くと
「「「マンハイムをぶっ潰す」」」
「ちょっと待って、あなた達何をするつもり?」
ティアが慌てたように止めに入る。しかし3人は悪びれる様子もなく、淡々と
「社長をぶん殴ってくる」「社長に毒を盛りましょう」「株価いじって経営難にするかにゃー」
「あなたたち、少し乱暴よ、さらに店主さんだって相当落ち込んでいたわ。マンハイム社をなんとかすればいい問題じゃないのよ」
ティアは冷静に諭す。実際、今回の問題はマンハイム社、嫌がらせを行う誰かだけではなく。店主の諦観、後継者の不在、そして嫌がらせによる金銭的被害と多岐にわたっている。これを完全に解決する策など誰1人として思いつかない。灯の参謀である彼女以外は、、、
「いい策が浮かびました。これなら全てを解決できます。」
「もちろん皆さんが手を貸してくださればですが」
グレーテが不安そうに周囲を見渡しながらそう尋ねると全員は頷き返し作戦の格好が決まる。もはや、モニカの「クラウスさんははしゃぎすぎるなっていってたけどね」というぼやきも誰の耳にも入っていなかった。
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陽炎パレスに戻ったのち各々情報収集に向かっていった。ジビアは社員証を盗み取り社員に変装し、取引先に評判を聞きに行っていた。ティアは取締役の接待をし、情報を引き出す、ダンは女性社員から噂話を多く仕入れて来ていた。
夜になり、全員がもどってきた。そこで集まった情報は、二代目の社長はボンクラで先代の作り上げた利益を無に帰し、昔の悪い仲間といまだにつるんでいるため、ピストルを持っているという噂があり、それを自慢としていそうな痛い人。そして愛人を抱えているが独身のまま遊び続けている、食事は外食のみで食品会社の社長として如何なものかといったものだった。
「典型的なダメな二代目ですね」
グレーテを中心に作戦会議が行われ、今回の作戦の最重要人物が選定されようとしていた。
「私たちの中で、一番頭が悪そうな人といえば、誰でしょう?」
「「「「「「「リリィ」」」」」」」
「なんですと、この天才リリィちゃんを持って頭が悪そうですと、、、リーダーですよ、このチームのリーダーなんですよ!!」
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街郊外のスラムに隣接した治安の悪そうなボロマンション、その低層階の階段から最も離れた部屋に才能はあるが機会に恵まれない女優の卵がいた。
「およよ、かわいそうなリリリン。おじいちゃんのミートパイ屋を継ぐようにレシピを教えてもらったにも関わらず、女優になるという夢を諦めきれず、一人劇団に飛び込み、待っていたのは極貧生活、リリリンの明日は光か闇か、、、、」
前言撤回、『機会に恵まれない大根役者がいた』。リリリン、もといリリィが部屋にいるのは理由がある。グレーテの作戦としては二日間の短期決戦だった。
初日、社長とリリィの接触、社長とショーンの接触、ショーンの社長への挑発。二日目、判断を急いだ社長から契約金を奪取するという作戦だ。
もちろん前持った作戦の準備はきちんとしている。ティアが会社の幹部に孫娘がいる情報を流し、エルナが社長に直接売れない女優がいることを伝え、ダンが会社の噂として孫娘のスタイルが抜群であることを流す。それだけで社長は新たな愛人候補、そして喉から手が出るほど欲しかったレシピを持っている少女の元へ訪れるだろう。そこで世界的に有名なショーンと出会い自身の取引額の少なさから才能を否定される。その晩にでもすぐに電話をかけてリリィにレシピを譲るように伝え高額のお金を支払う。そのお金を店主に寄付金として支払い、後は任せるだけだ。店主が改めて店を立て直してくれるか。引退費として自由に使うかは灯の預かり知るところではない。
この作戦も途中まではうまく行った。しかし夜にかかってきた電話が問題だった。「彼の二倍の金額を払う、その代わりにその場でミートパイを作ってくれ、店の味そのままならそこでお金を払おう」社長曰く、リリィに愛人契約の話を持ちかけた時に「殴りますよ」と返ってきたのが違和感を感じたらしい。レシピを買いにきた取引相手であることを除いても、女優の卵がそんなことを言うはずがないと言うことだった。なるほど、我らが天災大根役者はしっかりやらかしてくれたようだった。皆が一瞬リリィを見るが、グレーテの
「わたくしのミスです。想定可能でしたのに浮かれていたとしか言いようがありません」
と言う一言により、灯メンバーはリリィを見るのをやめ改めて作戦会議を始めるのだった。
「そういえば、ボスは一度再現されたとおっしゃていました。ボスに確認すればレシピが手に入るかもしれません」
グレーテはかつてクラウスから聞いた話を思い出していた。そこからはカオスだった。ティアがクラウスに連絡し、レシピを入手。しかし、そのレシピすら感覚的なもので、エルナの頬が犠牲になり、アネットによる試作品作成のためにパイをポココンと焼ける用のレンジ、本番用のすり替えを行うレンジそして遊び心による爆発するレンジの三種類が作られ、爆発。
仮眠をとりながら翌朝の5時まで作業は続いた。
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当日、社長に渡すレシピは食品会社の社員ならわかるようなミスをいくつも織り交ぜたレシピをわたした。具体的にはじゃがいもを太陽に当て、天日干ししてから使用する。豚ミンチは冷蔵庫から取り出してすぐに調理するなど、前者は毒を発生させ後者は食感を落とすと即座にわかるようなものだが、成金社長には全く伝わっていないようだった。
そして完成間際アネットのレンジとサラのネズミにより社長の隙を見て真似たミートパイと入れ替えた。しかし、一つだけ似ても似つかない点があった。それはリリィの入れた毒があるという点。
社長はミートパイを食べ終えた後リリィを拳銃で脅したが、彼女が振りまいた毒により失神。これで彼女たちの店長への見舞金を手に入れる戦いは終了した。少女たちのターンは終了し、少年のターンになる。
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俺はわざわざ少し離れた郊外まで出向いてとある少女から目をつけていたレシピを奪おうとしていた。本来ならば難癖をつけ交渉決裂、見て覚えたレシピを貰って帰る筈だったが、あまりの美味さに思わず褒めてしまったためやむを得ず拳銃を出した。しかしその後なぜか意識は混濁し、その周辺の記憶がなくなり気づいたら、廊下に転がされていた。許せない。とりあえず会社に戻り、立て直そうと立ち上がると猛烈な腹痛が襲って来た。立ち上がるのもやっとの思いで車へと向かう。そして転がり込むように車へと飛び込む。すぐにそれに後悔することになる。車の中は針で埋め尽くされていた。いくつかの針に刺されたのち車から飛び出すと俺を見下ろす男がいた。
「ハッハー、元気いいなぁ。何かいいことでもあったのかい?」
何を言っている?元気?いいこと?訳がわからない。男は俺が何も返さないでいると俺を見て納得するように呟く。
「刺し河豚、昔あるお姫様が猿の肝を病気を治すのに欲しがった。それを従者から聞いた河豚が怒ってお姫様を針で刺したらしい。随分回りくどいことをするよね、河豚は猿の肝と偽って自分の肝を渡せばなんなら殺せたのに、、、まぁ怪異は合理的だ。自分が死ぬことはしない。」
「お前はどうすればいいかわかるのか?俺を助けろ」
「威勢いいなぁ、何かいいことでもあったのかい。それに僕は助けない。力は貸すけど」
訳がわからない。おかしな服装にシガレットチョコ。ポケットから瓶を取り出し俺に向ける。
「これで痛みは引くはずだ、料金は持ち金でどうだい?」
「買おう、買わせろ。効果はあるんだろうなぁ。腹痛を消してくれ」
俺はそいつに財布を投げる。今は金など惜しくはない。先ほど少女に盗られたが、今は藁にもすがる思いだ。やつから薬をもらい直ぐに飲む。
「訳がわからない、なぜゆっくりと腹痛が消えていくんだ?」
奴は満足そうに頷くと一言残してさっていった。
「言っただろう、欲張ってはいけないと、この事から君が得るべき教訓は無闇に欲しがらない、ということだ。あの孫娘とおじいさんには関わらない方がいいよ」
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種明かし、リリィがミートパイに仕込んだ毒は腹痛を起こすもので、解毒薬はすでに車の中の針にふんだんに塗られていた。実際社長は自分で助かっていたのだ。怪しげな男(ダン)が渡したのは針に刺されたことへの鎮痛剤だ。薬代は灯メンバーの打ち上げになり、豪華な打ち上げがあったことは言うまでもないだろう。
最後までお読みいただきありがとうございます。
アニメ全話終わりましたね。セカンドシーズン言及できたの一回しかないですよ。プラチナむかつく。
お気づきの通り、現在物語シリーズを読み進めているのでテキトーにパロりながら進めていく所存です。
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