喰らう・クラウ   作:対魔忍ドナ

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第1話

バカでかい木がガサガサした肌を見せるように群集する林。その中にポツンとテントが張られていた。

テントは小さく、寝るのがやっとであろう。

居住性が悪そうな仮住まいの前では焚火の燃えカスがあり、その余熱で串刺しの肉が炙られている。

そうして朝日の光が雲に差し込まれ始める頃、テントの中からはい出てきた男がいた。

彼は不機嫌そうな顔を朝の寒さで一層歪めながら、ほったらかしだった肉に手をつけ、さも美味しくなさそうに()()()()と齧っている。そうして最後の一口を押し込もうとしたとき、

 

「シャーッ!」

 

と鳴き声がした。しかし、その声は獣にしては低すぎた。

 

男はその声を聴いて、自分の懐から剣のような物体を取り出した。

柄は確かに剣そっくりだったが、全体像を見ると串刺しになった小さな牙獣にも見えた。

 

「今やる」

 

彼はそれを撫でながら呟き、肉の欠片を刀身———それは『頭』にしか見えないが――に宛がう。

 

「シャアッ」

 

「剣」は短く鳴いて答え、小さな肉を美味そうに飲み込んだ。そうして、柄の端に付いた短い鎖をジャラジャラと振った。

鳴き声を確認した男は微かに微笑み、刀身、もとい『頭』を撫でた。

 

しかし、その微笑も直ぐに掻き消えた。

 

「近いな。準備しろ、サメ」

 

彼は牙獣のような剣……(彼はサメと呼んでいる)を懐に戻すと、キッと辺りを警戒する。

地響きがする。大きいのが段々と迫っている……ならばちょうどいい。男がそう考えながら息を潜めていると、二つ影が見えた。一つは目当てのモンスター。もう一つは人間の女性の影だった。

「……人間?クエスト情報には無かったはずだぞ?!」

 

女性の方は疲労が溜まっているのか、ヘロヘロになりながらも必死の形相で逃走している。

 

(まずい……!非常に……!ここでサメを”解放”したら、あいつも巻き込んじまう………ッ!)

 

男は何とか隙を突こうとするも、一人と一匹の動きはあまりにも不規則で、中々に合間を縫うことができない。

 

その時、彼女が足をもつれさせたのか、派手に転んでしまった。

 

「あっ……ああ……」

 

彼女の目と鼻の先にまで近づく、巨大な牙。嫌でも『捕食』の二文字を脳裏に浮かべさせる不快な肉の腐臭。そして巨大な鼻息。

気絶したくとも、生存本能が現実逃避すら許さない。

 

(うう……私はここで終わりなんだ……)

 

彼女の心が崩壊しかけた瞬間、いきなり目の前に人影が飛び込んできた。

 

「この瞬間だッ!」

 

男は獣の足が止まり、興味が一点に注がれる時。つまりは今現在のタイミングを狙ったのだった。

 

突然の乱入者に困惑する巨大なモンスター。それも計算済みで、男はサメに手を添える。

 

「弾けろ、『飽くなき願望』ッ!」

 

「シャァァァァァク!」

 

彼の言葉を合図に、サメはその身をメキメキと巨大化していく。まるで鉄くずを取り込んで成長していく一本の樹木のように。

そして変化が止まった時、男の手には巨大な継ぎはぎの鉄塊が握られていた。

 

「グルルオオオアア!」

 

「観念しろ!」

 

彼が腕を振るう度、バケモノの仰々しい叫びすらも喰らうように、鉄塊はその肉へと喰らいつく。その剣捌きは、ただ獣が欲求を満たすために肉を喰らうのとは違う、もはや美食を味わう『王』にすら見えた。

少なくとも女性の目にはそう見えていた。

 

男がモンスターの喉笛を裂く頃、その巨獣の体は無残な姿になっていた。

 

「一時はどうなることかと思ったぜ……なぁサメ?」

 

「サメェ」

 

元のサイズに戻ったサメは血で全身を真っ赤に染めながら、獲物の肉の分け前を一心不乱に食べていた。

 

「あの……」

 

火事場泥棒式に剥ぎ取りを行う男に、先ほどの女性が話しかけてきた。

 

「先ほどはありがとうございました!」

 

深々とお辞儀をする彼女を前に、男は急に挙動不審になる。

 

「へ、あ?い、いやまぁ……まぁ……」

 

彼はモゾモゾとしながら、サメの後ろに隠れる……到底その小さな体には隠れきれなかったが。

 

「……え、えーと。お礼がしたいんで、良ければ街について来ていただきたいんですけど……」

 

「は……?ひゃ、はい!分かりました!ク、クエストも今終わったところなんで!」

 

そう、この男。とんでもない引っ込み思案、所謂『コミュ障』なのである。

 

「……あの、お名前を……あ、私はフルーエ・パッツキン。フルーエと呼んでください」

 

「ぼっ!いや、俺はカルゾナ・ボナーラです……カルゾナで大丈夫……です……」

 

「シャー……」

 

飼い主のボソボソとした名乗りを聞きながら、サメはやれやれと首を振った。

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