竹國取物語   作:sharan

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第1話

刻は未明。月は沈みかけ、まだ朝焼けも望めない時刻。星明かりのみを頼りに、膝下まで伸びる草草を分けつつ古竹に斧を振るう、人影が一つ。節と節の間に刃を立て目星をつけ、腕一杯に振り上げると、斧が自らの重みで落ちる流れを使い、一つ、また一つと刃を沈ませていく。指一本分の厚みを残した竹は、刃によって作られた傾きに合わせて折れていく。倒れた竹を完全に断ち切り、一本の長い棒となってしまった竹を、人影よいしょと肩に乗せ運んでいく。これを陽が真上を向く少し前まで続けていく。

運ばれた竹は、まず枝を落とされ、加工されやすい長さにまで短くされ、予定されている用途に合わせて割られていく。若竹はよくしなるため長いまま様々な形へと変化させられ、古竹はしっかりと陽に干したあと窯に入れられ竹炭として生まれ変わる。この竹を取り、加工することを生業とした一家が存在した。竹を採ること2日、竹を加工すること3日、村に行き竹を売ること2日。月の満ち欠けを基準に、定めた日にちで一家の行動は決められており、竹を売った金で米や野菜、道具や少しばかりの嗜好品を買って生活していた。

主に、山に潜り竹を採っていたのは齢70を超えているであろうが、腰はしっかりと伸びており未だ健在の翁。名を与太と申した。与太は、切り倒した竹の枝を落とし、幹はさらに半分に、枝はこれまた竹製の背負棚に積み込み、仕分けをしながら竹を採っていた。枝が積まれた背負棚を身に付け、山積みとなった竹の数本を肩に載せ、山を降らんとする青年が一人。名を麻一と申し、20回目の新年を迎えた一族の長男である。村にいた特段手先が器用な娘を嫁に貰い、歳1つとなる子も授かっている。この二人が山に行き、竹を採り麓の家まで竹を運ぶ仕事をしている者たちである。

麻一が竹を運ぶ先。一族が住む麓の家。庭に幹枝を降ろす、麻一はまた山に登っていく。降ろされた幹をさらに斧で割り、二節から六節ほどの長さにしたのち、さらに細かく今度は縦に割る仕事を任された少年。名を忠二と申し一族の次男にあたる子だ。忠二が割った幹の、年齢や硬さ、長さで分け、それを各々の方へ持っていく少女が一人。名をすみれと申し一族の三女となる。すみれは目利きや感触によりそれぞれを適した加工元へ運び、庭中を駆け回っている。すみれによって運ばれた竹の中で比較的新しく、軟らかくてよくしなるものを、薄く皮切りし、竹籠や傘に織り込んでいく女性が二人。名をさくらと、ぼたんと申しそれぞれ一族の長女、次女となる。


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