異世ばと! ※スーパーなろう大戦に作者オリキャラが参戦する話です   作:笠本

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第13話 VS『勇者A』①

 突然、眼前に現れたレイゼ。僕の方へ手の平を向ける。

 

「――――ファイヤ!」

 弓槻さんが叫ぶ。

 

「させねえよ!」

 ダンッとレイゼを足を半歩踏み出す。その靴裏から木のツルみたいなものが何本も飛び出てきた。ムチのようにしなった緑色のツルが弓槻さんの両手両足に巻き付き、身体を高くもちあげる。

 

「弓槻さん!」

「あぐっ!…………」

 

 さらに地面から伸びてきたツルが合わさり、弓槻さんの全身を覆う。二重三重に巻き付いたツルは一体化し表面をゴツゴツと縦に裂け目の入った樹皮へと変化させる。

 その上部ではツルが横に伸びていき、枝と大量の葉へと変わる。

 

 ほんのわずかの時間で平原に数メートルもの高さの大木が出現した。

 

「言ったよなあ俺は精霊王の加護レベル10があるってよ。つまりは全ての精霊魔法を最高強度で使えるってことだ。メガネちゃんの火の聖霊魔法レベル7が勝てるわけねえだろ。

 

 ちなみにこいつは精霊樹な。ドラゴンすら取り込んで養分にする。例え魔法を使おうが端から魔力を吸い取ってくから、もう何もできねえぜ。殺す気はねえが割り込みのバツとしてしばらく反省してもらう」

 

「割り込み……?」

 

「俺はイベント戦じゃザコから潰す派なんだよ。メインとやりあってるとこに効かねえ攻撃されるとウゼエだろ。つーかよ、この大会も予選くらいはちゃんとやっといてほしいぜ。いまさらザコとか萎えるわ。まあメガネちゃんは中ボスくらいには認めてやってもいいけどよ、その周りに序盤のゴブリンがいるとかありえねえだろ」

 

「はあ? けーいち様だって立派な勇者様ですYO」

「あん? チビがなにほざいてる。あれか? 志は勇者とかダセえこと言うなよ」

 

「違いますYO! 好き嫌いせずに何でも食べれるとか……あれ……えっと、なんかこう、あるんですYO!」

 チェトさんが困り顔でこっちを向いてほら、バシッと言ってやれとジェスチャーしてくる。

 

「ありがと、チェトさん。せっかくかばってくれたけど、僕、戦闘力はないんだよね」

 

「はっ、俺が異世界に来ていい点がもう一つあったぜ。それは圭一くんみたいな無能はさっさと死ぬってことだ。地球みたいにザコの命にも価値があるとかキレイ事はねえからよ。

 

 メガネちゃんも可哀想になあ。せっかくのスペックなのに、地球に戻るから世間体とかでテメエを切り捨てできねえんだろ」

 

 レイゼの言葉に、反射的に自分の中の一部が冷めるのを感じる。

 ダメだな……こう短絡的に動いちゃ……。だけど……でも、まあいいだろコイツはもうあっちに入れて。

 

 僕はレイゼに伝えた。

 

「弓槻さんだけじゃないよ。うちは他のメンバーもすごいから。レオンは本物の勇者で騎士で基本スペックが段違い。エリエナは巫女で回復から結界構築まで多彩な技持ち。みんなで四級の魔王討伐の経験もあるよ」

 

「ああん? なんの話だ? まさかそんなすごいメンバーに囲まれてるボクもスゴイんですうってか? いるよなあそういうヤツ! 俺が王国の何とかっていう将軍倒したときもそうだったぜ。ただ周りで肉壁やってただけのモブ兵士が酒場で吹いてやがってよ、思わずぶちのめしたわ。寄生――――」

 

「寄生虫、お荷物、無能、足手まとい。そう言いたいんだろ。分かってるって」

 

「あっ? 分かっ――――」

 

「しかも全員目標が高いんだ。弓槻さんは本気で自分の魔法で社会が変えられるって信じてるし、レオンは生まれた世界を崩壊から守る予定だ。エリエナも故郷に残した一族を救うために頑張ってる」

 

「妾はセカの業界シェアを100%にして、不運にも未発売となったタイトルを他の萌芽(並行)世界から回収するという使命を帯びとるんじゃよ」

 まあそれも叶うといいね。

 

「だから凄えのはそいつらでテメエ―――」

 

「僕でも役立てるとこがあるんだよ。皆のスケールが大きいから絶対にサポートは必要になるから。ああ、もっとスペック高くて皆のリーダーにふさわしい人間は他にいるよ。どこかには。でも今ここにいるわけじゃないし、皆のサポートを実際にやってきたのは僕だし、僕がやりたいって希望を出してちゃんとSPECの鑑梯(かんてい)員の承認ももらえてるし。

 

 弓槻さんたちだって…………あれ、こないの女性ばっかの世界でなんか三人からの視線がちょっとあれだった気がするけど――――なあファム、大丈夫だよな、ちゃんと皆も僕のこと認めてくれてるよな?」

 

「うるせえ! そこは『みんなが僕に夢中でいつも取り合いしちゃって大変だよとほほー』くらい言い切っとけや!」

 

「ああ……うん。そういうわけで僕は戦闘力はないけど正式にリーダーになってるし、別に皆の弱みを握って縛ってるわけじゃないし、追放もされる予定ないし、引き抜きには誰も応じない。ってことで」

 

「なに早口でペラってるかって、要は皆がお優しくて寄生虫を飼う余裕がありますよってことだろうが? つーかよ、その頼みのメガネちゃんがいま俺に捕まってんだけどよ。この現状を認識しろや」

 

「ああ、それじゃそろそろ助けるよ。そしたら後は弓槻さんがお前を倒すから」

 

――――お待たせしました。もう終わりましたです!

 

 ちょうど耳奥のイヤホンに弓槻さんから連絡が来たところだ。

 

 時間稼ぎはもういらない。次に行く。

 

 ほんとはせっかくこちらを舐めてかかってるんだから、もっと惨めっぽく下手に出て油断させる方がいいんだけど。

 

 レイゼがつまんないことを言ってくるから。

 反射的に自分にとって関わるのが時間の無駄、どうでもいい存在ってフォルダに入れてしまった。

 

 異世界の現地住人だけじゃない、地球でも僕が皆にふさわしくないと、そう言ってくるやつは多い。そりゃ美男美女が勇者や魔法使いやってるとこに一般人が混ざってれば文句を言いたくなる気持ちは分かる。

 

 だけど異世界行って、皆のサポートに駆けずり回る僕にはそんなの相手にしてる余裕はないのだ。

 まあ前はそういうの一々気にして落ち込んだりもしたけれど。

 

 弓槻さんに励まされたり、リオンに真顔で不思議がられたり、エリエナに怒られたり、早百合さんに蹴飛ばされたり、カウンセラーの先生の指導受けたりとかあって。今は外部からそう言われても反射的にスルーできるようになった。

 

 外野じゃない、対戦相手を前にしてやることじゃないんだけど――――いや、違うな。ほんとは、正直言って僕が舐めてしまってるんだ。

 

「やっぱドラゴンや魔王と戦うと、いくら僕より強くてもジェネラルゴブリンくらいならなんとでもなるって思っちゃうとこあるよなあ」

 

「はあ?」

 

 コイツは僕より強いけど、弓槻さんよりはるかに弱い。

 

 ならどうでもいい相手だ。いつものように僕がサポートすればどうとでもなる。

 僕はポケットから召換オーブを取り出す。

 

 レイゼの現在の召換領域(スケール)は30メートル。

 そして昨日晒したレイゼのミス。

 

 2点あればやることは決まる。

 

「魔法勝負といこう――――領域展開!」

 歯車を二段階回し30メートル領域に設定。

 

「使えねえもん得意気に弄ってんじゃねえよ!」

 レイゼが炎を手のひらから生み出す。

 火炎放射器のように噴出する炎が僕の眼前で左右にそれていく。

 

「あああああああんッ!? なんだこれはああああ!」

 

 初手で魔法を発動させようとしたレイゼから僕を守るため、さっき弓槻さんがはってくれた不可視の盾。

 

 レイゼは勘違いしていたが、弓槻さんの『ファイヤ!』の掛け声は魔法の発動の合図であって、別に火魔法を意味してるわけではないのだ。

 

 炎の突進を防ぐことで今は巨大なカバー範囲をあらわにした盾。自身の魔法が阻まれ、レイゼは怒りに顔を歪ませる。魔法を放つ右手に左手を添え、さらに火力が増す。

 だが弓槻さんの防壁はそんな程度では破れない。

 増大した炎は上下へと激しく散っていくだけ。

 

 僕はオーブをポケットにしまうと次の行動に移る。

 

「けーいち様、いまこそ反撃ですYO!」

 しゅっと拳を突き出すチェトさんに、僕は反転しながら言った。

 

「えっ? 違うよ逃げるんだよ。いくよファム」

 さっと両手を上げて抱っこフォームになったファムを脇に抱えあげてそのまま後方へダッシュ。

 

「はあああああですYO!?」

 

 

 

***

 

 

 

「だっせえ、だっせえだろ俺が!」

 炎の放出を終えてもその残滓(ざんし)、舞った火の粉に反応し薄っすらと光る面。つまりはレイゼの魔法ではついに貫けなかった不可視の盾。

 

「最初に仕込んでたってわけかよ。くそメガネが、やってくれたなああ!」

 

 レイゼは自身が生み出した精霊樹を睨みつけた。膨らんだ幹の中腹にいる弓槻に向けて。

 

「あいつが女捨てて逃げるザコだってのはいい。あのスペックじゃそれしかできねえんだからよ。問題は俺がそのザコ殺すのに1ターン以上かけるはめになったってことだ。ザコがザコ貫いてんのに俺が裏切んのはおかしいだろが!」

 

 レイゼが手を向けて、魔力を送れば大木の表皮が波打つように脈動した。

 

「勧誘してやろうと思ったけどよ、やっぱお前はこのまま潰すわ。そんで逃げた圭一くんは一人デスゲーム開催な。10ターンかけてなぶり殺す」

 

 

 その内部、弓槻がつぶやく。

「うーん、面倒ですね。これドレインの効果が発動しました。別にマナを纏えば妨害はできるんですが、ちくちくMPを消費しちゃいます。体力(HP)かMPのどっちかですね。やっぱりこれ、大きい魔法でさくっと潰しときません?」

 

 弓槻の言葉の届く先。無線にて反応するのは圭一。

 レイゼから約50メートルの位置。

 

「こんなとこでMPは消費したくないな。もうちょっと待ってて」

 

 圭一はそう言うと首筋の咽喉マイクから手を離す。

 

「けーいち様、どーするんですか。ここ数十メートルは離れてますよ? これじゃゆづき様が魔法が使えないですYO! せめてオーブの設定を100メートルにしてみましょうよ…………」

 

 チェトの戸惑いをよそに、圭一は抱えていたファムを降ろしながら言った。

「ファム、制限解除だ」

 

「おう、ビシッとかましたるんじゃ」

 幼女は圭一の腹部に手を押し当てる。そして何かを呟く。圭一の周囲に緑色の 魔法陣がいくつも輝いた。

 

「おわっ!? けーいち様、これはいったい?」

 

「僕のスキルに課せられた制限を取っ払うんだよ」

 

「おおっ! これは燃える展開だYO! ついにけーいち様の真の力が解放されちゃうんですね!」

 チェトがワクワクと見つめる中、圭一の周囲に浮かぶ魔法陣。その内のいくつか、記号や文字が変化し日本語へと表示を変える。

 

『この制限を解除することで申告なダメージを負う危険性があります

  解除を進めますか 【はい】【いいえ】』

 圭一が【はい】の箇所に触れると表示が消える。

 

 続けて彼の前面に再考を促すいくつもの警告文が浮かぶ。

 

以下すべてに【はい】(オールグリーン)だ」

 圭一がそれらを振り払うように腕を動かす。周囲の魔法陣が一斉に消え、一瞬だけ圭一の身体が輝いた。 

 

 チェトの目には先程と変わらぬ姿に見えるが、圭一とファムの自信に満ちた表情に期待して尋ねた。

 

「けーいち様、いったいどんなパワーアップしたんですか? 竜の力を解放するとか、鬼の血が目覚めるとか? あっ、実は悪魔と契約した禁忌のスキルが使えるようになるとかも燃えるんだYO!」

 

「ああ、そんな感じ。翻訳スキルに介入して禁止用語が使えるようになったんだ。これで人の悪口とか言い放題になったってわけ」

 

「YO!? YO!?」

 

 チェト、困惑。どれだけ強力な力を手に入れたのかと思いきや、ただの悪口が言えるようになっただけ?

 

「そう、異世界における未成年勇者の死亡原因トップであるイキリ死。初対面の権力者にタメ語で接したり、地元のヤクザ者や先輩冒険者に舐めた口きいたりして余計な恨みを買って殺されてしまう。それがイキリ死じゃ。

 

 中世相当(Mクラス)異世界なんぞ貴族()からヤクザ()まで蛮族メンタルじゃからの。舐められたら相手をつぶさんと自分が社会的に死ぬ。仮に勇者のチートスキルで正面からは勝てんでも、搦め手つかってでも採算度外視で潰しにかかってくるからの。ハニトラすりゃ大体イチコロじゃしな。

 

 そこで圭一の使っとる正規版の翻訳スキルでは18歳以下のユーザーに保護機能を働かせとるんじゃ。

 

 権力者を相手にするときは語尾に自動でサーをつけたり、ヤクザ者を挑発してもふんわりとおだやかな言葉に強制的に変換されるんじゃな。これによって未成年勇者の生存率が改善されたんじゃよ」

 

「うわーん、激しくいらない機能なんだYO!」

 

「いや、てっきりあいつは追ってくるかと思ったらこなかったからさ、挑発しておびき出したいんだよね。まあ、基本技で十分だと思うよ」

 

 そして圭一は声をはりあげた。

「おーい、レイゼー!」

 

 その叫び声はレイゼに届く。

 

 「あん?」と振り返って遠くに圭一の姿をとらえたレイゼは余裕ぶって失笑した。

 

「おーおー、ちゃっかり離れといてから声だけ参戦とか、さっすが圭一君。ザコムーブがブレなくて一周して感心するわ」 

 

 だが次の瞬間には顔を怒りで歪ませる。

 

 圭一が腕を上に伸ばしながら。ファムは左手を添えた右腕を折り曲げながら。二人で揃って中指をつきたてたのだ。

 

「「ファーック・ユーー!」」

 

「んだテメエッ!」

 

 激昂するレイゼ。すぐさま唱える。

「転移!」

 

 圭一から20メートル弱の位置に出現。

 

「よおし、30メートル離れたぞお」

 

「あっ、そっか。アイツがオーブ持ってるわけだから、30メートル以上離れればゆづき様を捕まえてる木の精霊魔法も使えなくなるってワケですYO!」

 

 チェトが声を弾ませて言ったが、レイゼは冷笑して否定する。

 

「バーカ! 情弱すぎんだろ。いいぜ、魔法の使えねえ圭一くんに説明するとだ、たしかに俺のみたいな高位精霊魔法はオーブを30メートル設定にしねえと発動しねえがな。そのぶん生み出したもんの強度も半端ないんだよ。要は物理で存在させてるってわけだ。オーブが無くても木としては残ってんだよ。女の腕で抜けられるわけねえだろうがよ!」

 

「いいよ、変な魔法効果さえ無くなってくれれば」

 

 レイゼの背後に火球が迫った。

 

「はっ!?」

 レイゼ、着弾寸前で振り向き、右手に炎を纏わせ、火球をかき消す。

「んだこれは……はあああっ!?」

 

 魔法の放たれたであろう先。視線を向けたレイゼは自身の生み出した精霊樹の一部が破壊されているのを見た。

 

 砕かれた中腹の幹から上半身をのりだし腕を伸ばしているのは弓槻。

 さらに火球を二発撃つと、腕を引いて幹の内部へ戻る。次にはそこから幾筋もの亀裂が走り、根っこと幹と枝とが同時に破裂。

 

 破片と木の葉を舞い散らせながら、すっとマントを広げて地面に降り立った弓槻。

 

「なんで……壊れる?……魔法が……使えてる?」

 

 向かってきた二発の火球を相殺するも、想定外の事態に呆然とするレイゼ。

 そして気づく。背後を振り返る。

 そこにいたはずの圭一はファムを脇に抱えてすでにさらに後方へ。

 

 レイゼの視線に二人が反応。

 中指をつきたてる幼女。

 両手を開いてみせた圭一。何も持っていないよという仕草。

 

「くそがっ、あいつオーブを途中で落としてきやがったか!」

 

 レイゼはもう一度、精霊樹の方を向いて気づいた。

 弓槻と自分たちとの直線上。草むらがある。そこに圭一がオーブを置いてきたのなら、精霊樹までが30メートル圏内。

「あのメガネが魔法が使えるってことかよ!」

 

 喉を押さえながら圭一が叫ぶ。

「弓槻さん、仲間を先に仕留めて!」

 

 レイゼの視界にすでに弓槻に近づいていた仲間の姿が映る。4人の少女。

 

 精霊術師と治癒術師――――オーブの領域にいなければ魔法が使えない。

 戦士――――身の丈に合わぬ大剣を振るうには身体強化魔法が必要。

 斥候――――身軽さを生かした偵察とトラップ解除を担う。戦闘ではサポートのみ。

 

 状況の変化にとまどう彼女たちに拾い上げた杖をむけ、詠唱を始めるのはレイゼの精霊魔法を砕ける高レベルの魔法使い、弓槻。

 

「くそがあああ!――――転移!」

 レイゼは弓槻の背後に跳ぶ。

 

 無防備に晒された背中。杖を地面につき、魔力を練り上げている弓槻。

 

 レイゼはかまわず炎の球体を叩き込もうとして――――

「がああああああ!」

 

 浮いていた片足が地面についた瞬間にレイゼの全身が痺れた。

 手で支えることすらできずに顔面から地面に倒れ込む。

 

霊脈誘起型電撃爆砕地雷陣(ピカニャン・スタンプ)を設置しました」

 振り返りにっこりと微笑む弓槻。「()()()()直進で来ましたね」

 

 笑顔のまま次の標的へと移る。杖を向け、魔法の構成を始める。

「ではお仲間さんの方も仕留めますね」

 

「まだだあああ!」

 レイゼはかろうじて動く右手を浮かした。魔力の集中を感知して弓槻が即座に反応。

 

「耐衝撃無制限応(ブロック)和術式、展開(ファイヤ)!」

 先ほど圭一を守った防壁。レイゼの最大火力たる火の精霊魔法をしのいだ盾。

 

「テメエじゃねえんだよおおお!」

 

 放出される濃密な魔力。

 色さえついて見えるそれが濃縮され、揺らめき、人の形を造る。生み出されたのは女性型の像。肌は滑らかに銀一色。瞳は閉じられ口は固く結ばれたマネキンめいた無機質さ。身体の要所にパーツのみの鎧が浮かんでいる。

 

「やれ! 精霊王オーディナー!」

 

 女性像――精霊王の瞳と口が開く。瞳孔の無い銀色のままの瞳は意思を伝えず。機械的にパカリと開かれた口から、甲高い音が響き渡った。

「アアアアアアアアアアア!」

 

 突如、精霊王の前に水が激流として出現する。ダムの放出のような大量の水量と流速が直線的に進んでいく。

 

「バカが! オーブを置いてきたってことはあそこっきゃねえだろうが!」

 水の流れは弓槻ではなくその反対に向かった。

 

 レイゼが目をつけたオーブの隠し場所たる草むら。

 そこを濁流が呑み込む。草が土ごと抉られ、人の半身程度の石であれば一斉に流され、地表に生える全てが100メートルは軽く流された。

 残ったのは舞い落ちてきた数枚の葉が水たまりに浮かぶのみ。

 

「こんだけオーブが離れりゃテメエはもう魔法が使えねえだろ」 

 

「ああ、そういう意味ですか。まあ別にいいですけど」

 タンッ、と弓槻が足を踏み込む。

 ブーツの周囲から伸びるツタ。

 

「はっ!?」

 

 精霊王オーディナーがさきほど弓槻がそうされたようツタに絡められた。まったく抵抗することもなく、ツタは精霊王を覆うと、大木へと変化した。

 

「なんで……なんで魔法が使える!? オーブはもう追いやったはずだろが!」

 

「オーブは圭一さんが持ってますけど? ははあ、あそこに置いといたって騙されちゃったわけですね」

 そもそも圭一は草むらにオーブを置いてはいない。そう思わせるように誘導しただけ。弓槻はそう指摘した。

 

「はっ!?……いや、そうじゃねえ! それじゃあなんでテメエはオーブがないのに魔法が使えてるんだ!」

 

「なんでって…………親切に自分で教えてくれたじゃないですか。私がそちらの領域で魔法が使えるって」

 

「はっ……? 何を言ってる……?」

 

「わざわざ鑑定して私の所有魔法33系統のうち、5系統の魔法が使えるって漏らしてくれたじゃないですか。鑑定結果に出てるなら使えるに決まってるじゃないですか」

 

「どういうことだ! …………待て! なんでテメエの精霊魔法が火も風もレベル10になってやがる!? なんで土も水もある!?」

 

 目を凝らし、弓槻を鑑定したレイゼは慌てた。昨日鑑定したときは彼女の精霊魔法は火のレベル7と風のレベル6。それが最高レベルに上がっていた。さらには所持しないはずの土と水の精霊魔法までも表示されている。この短期間でありえない事態。

 

「いま上げましたから。うーん、正確に言うと元々レベル10相当の魔法を持ってて、それをそちらの世界の様式(システム)に合わせてデコードしたって感じです。やっぱり直に触れれば解析もあっさり終わりますね」

 

「なんだそりゃ……」

 弓槻の言葉の意味が分からず困惑するレイゼ。そこで彼は視界の隅に近づいてくる仲間の姿を見つけ、叫んだ。

「お前たち! すぐ来い! コイツをぶっ殺せ!」

 手段など知らぬ。とにかく自分を追い詰めた少女を排除せよと命じた。

 

「よし、確保ー!!」

 だがそこへ飛びついたのは圭一。レイゼが弓槻を狙った時点で彼女の勝利を前提に舞い戻っていた。

 

「ヒャッホオオ! 略奪のお時間じゃああ!」

 ファムが叫び、圭一と共に怜彗の身体をまさぐった。

 

「くそがっ!? テメエらなにしやがる!」

 

 ファムがレイゼの腰のポーチを開いてオーブを発見。

「よっしゃオーブをゲットじゃぜい!」

 

「よっし、離脱!」

 受け取った圭一が反転。

 

「待て! ざけんなテメエ!」

 近づいてくる仲間が再び召換領域の外にでると気づき、レイゼは叫ぶ。

 

「悪いがオーブはいただくよ」

「わーん、強盗のやり口だYO!」

 

「弓槻さん、あっちはまかせた」

「おまかせください!」

 

 杖を向ける弓槻。

 だが近づいてきたレイゼの仲間たちは言った。

「お待ち下さい! 我々は降参します!」

 

「はっ!?」

 

 レイゼは慌てた。何をありえないことを言っているのか。自分が卑怯な手で追い詰められているというのに、なぜこいつらは助けようともせずに逃げ出そうとするのか。

 

「いいですよ。じゃあ条件詰めましょう」

 圭一はさも分かっていたというように応じた。仲間の神官はこくりと頷くとゆっくりと近づいてくる。杖を降ろして戦意が無いことをと示しながら。

 

「なんだよ……これは……」

 

 レイゼは呆然と仲間と敵を見上げた。

 なぜ自分は無様に地に倒れ、最強の攻撃手段として使役していた精霊王が拘束されているのか。

 自分を見下ろす形の圭一。平凡な顔つきの取るにたらない雑魚だったはずなのに、なぜ彼がこの状況を当然として場を仕切っているのか。

 

 レイゼは叫んだ。この不当な状況を否定しようと。

 

「ありえねえだろうがああああ!」

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