異世ばと! ※スーパーなろう大戦に作者オリキャラが参戦する話です   作:笠本

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 前半は弓槻がオーブの圏外で魔法が使えた件の解説ばかりです。前回からの続きはこちらから


第14話 VS『勇者A』②

【昨日:レイゼとの揉め事のあと】

 

 僕は周囲の店主たちに騒がせたことを詫びて、皆の所に戻ると弓槻さんとファムが頷きあっていた。

 

「どう、割り出せた?」

「ばっちりです」

 

 いきなりレイゼに絡まれてしまった僕たちであるが、だったらあいつの情報を引き出せるだけ引き出そうとしていたのだ。

 弓槻さんとファム、二人の専門家が見ればいろいろ分かることがある。

 

「いまのレイゼって人の世界は魔法の起点が使用者に限定されるタイプですね。汎用的な魔道具は存在しないし、分岐型のコードは入れられないみたいです。見えてる範囲にだけ注意しとけばいいってことです」

 

 レイゼがやってきた世界の魔法の仕組み(システム)について語った弓槻さん。チェトさんが首をかしげた。

 

「なんで分かるんですか? あっ、ゆづき様も鑑定スキルであっちをチェックしたってことですね」

 

「鑑定はいくつかありますけど今は使えないないですよ」

 

「えっ? いくつも? …………あれ、そもそもまだ召換オーブをお渡ししてないから鑑定スキルがあってもなくても使えるはずがなかったですYO。なんであのいじわる勇者様の情報がわかったんですか?」

 

「あのレイゼって人が自分で教えてくれたんですよ」

 

 チェトさんが「?」をいくつも表情に浮かべる。

 

「あいつが弓槻さんの魔法が5系統あるって言ってたでしょ。実は弓槻さんってほんとはもっといっぱい魔法が使えるんだよね」

 

「まったく失礼ですよ。私は多重系統保持者(マルチキャリア)なので、実際は33系統、965種類の魔法を所有してます」

 

「ええっ!? そんなに! ゆづき様はほんとに魔法のすご腕だったんですね!」

 

 そうなのだ。ガチの勇者である早百合さんに才能を見出され、直接育てられ、子供の頃からあちこちの異世界に放り込まれてきた弓槻さんは多重系統保持者(マルチキャリア)と呼ばれ、現時点で33系統、千種類近くの魔法を取得している。

 

「つまりさ、レイゼが鑑定で読み取れたのがそのうちの5系統6種ってことは、逆にあいつの世界では他の28系統は存在しない可能性が高いってこと」

 

「ほへー?」

 とチェトさんがやっぱり不思議顔。

 

「えっとさ、鑑定スキルってのは――――」

 

 鑑定スキルというのはその世界固有のスキルだ。

 相手のスペックが覗ける=鑑定、というスキル自体は多くの異世界にある。

 だけどそこで表示される所有スキルや魔法といったスペックはその世界のシステムに(のっと)った物のみなのだ。

 原則としてその世界に現時点で存在するスキル・技術・概念のみだ。

 

 例えば僕は馬に乗れるし、自転車も運転できる。いわば乗馬スキルと自転車運転スキルを持っているわけだけど、中世相当(Mクラス)の異世界で鑑定を受けて表示されるのは乗馬スキルだけだ。

 その異世界に自転車が存在しなければ、スキルも存在しないものとして扱われる。

 

 だけど現地住人が自転車を発明すれば。その途端に僕が自転車運転スキルを所有していると表示される。

 

 それは仮に僕が立つのが無人島で、自転車が誕生したのが星の反対側の大陸であってもだ。

 

 その世界(システム)に承認されたスキルだけが鑑定に表示される。

 

 だからレイゼが弓槻さんを鑑定しても、人の体力や体内魔力量という共通項目と、たまたま一致していた魔法の一部しか読み取れなかったのだ。

 

「――――ってことでさ。逆に言えば乗馬スキルが表示されない場合はその世界には馬がいないんだなってことになるでしょ。そうやって弓槻さんの魔法の何が表示されてて、されてないかでレイゼの世界の環境が推測できるってこと」

 

 早百合さんが言うには『ゆづちゃんの持ってる33系統は異世界の8割でどれかが機能する』のだと。こういうある・ないの判別の基準に適しているのだ。

 

「ふふん。けっこうコツが必要なんですよ。実際は無ければ無いというわけではないですからね。あの人は私の魔法陣作成スキルに触れてなかったですけど、それはあちらでまだ発展してないだけで世界観(システム)上は帯魔型なら動作するはずですからね」

 

「ほわー、よく分かりませんがゆづき様が魔法の達人だってことは分かりましたYO!」

 

 チェトさんが得意げな弓槻さんの周りを飛んで褒め称える。

 

 そうなんだよな。簡単に言ったけど実際はそこまで直接的に割り出せるわけじゃないのだ。

 仮にレイゼの世界に詠唱魔法というのがあったとして、多分弓槻さんは同じ効果は発生させられるが、あちらに詠唱は正しい発音とリズムで発声することという縛り(ルール)があれば現地語を知らない弓槻さんは『無し』とされる。

 あるいは詠唱魔法自体が存在しない場合も『無し』なわけだから、そのどちらなのか判断はつかないのだ。それも原理的に存在しえないのか、まだ開発されてないだけなのかも不明なのだ。

 

 それを推測できるのは異世界の世界観(システム)に詳しいファムと魔法の専門家(エキスパート)である弓槻さんが揃ってればの話だ。

 

「今回は精霊魔法が表示されてたから、あちらの魔法体系は割り出しやすかったですけどね」

 

「あっ、それ。たしかにレイゼは精霊魔法があるって言ってけど、あれって何がそう解釈されてたの? 普通は精霊魔法はご当地限定のローカルなものだから鑑定で表示されるはずないよね?」

 

 精霊魔法も多くの異世界に存在する魔法だ。たいていは精霊に働きかけて、司る自然現象に因んだ奇跡を発現させる。

 その精霊魔法の取得は精霊とフィーリングが合うとか、神殿や聖地に赴くとか、試練を乗り越えるとかで、相手と契約する必要がある。

 実際に弓槻さんもいくつかの異世界で精霊魔法は取得しているが、他の異世界に行って表示されることはない。契約した精霊がその異世界にいないんだから。

 

 そうなると弓槻さんの鑑定結果で精霊魔法と表示されていたのは実際には別の何かということになる。

 

「あれは術式系統のC01からC28のどれかだと思いますよ」

 

「Cシリーズってなんだっけ?」

 

「魔法を錬成するときの変換効率を上げたり制御を方向づけするための術式です。あの人が使った火魔法は体内錬成の一般的なものでしたけど、精霊魔法はそれをブーストしてくれるんですね」

 

「向こうにはそういう精霊がいるんだ」

 

「多分人格持った生命体じゃなくてただのプログラム的なものです。管理者が世界観(システム)上で用意してたものに、現地の人が分かりやすいイメージで扱ってるだけじゃないですか」

 

「ああ、そういうパターン」

 

「実際、あそこでC08を入れてた防壁魔法(ブロック)がフルで作動する気配がありましたから、間違いないです」

 

 僕がレイゼに絡まれたとき、弓槻さんはすでにバリア魔法を準備させていた。いざという時は力ずくで僕を守れるように。実際にはリュークさんが介入してくれたので発動待機で終わったわけだが。

 

 あの位置は当然レイゼの召換オーブの領域内だったが、弓槻さんの魔法は問題なく発動できたし、効きも良くなっていたという。

 

「ただC01からC28は私的には同じ種類なんですけどあちらの鑑定で火と風しか表示されなかったってことは……………呪法と絡めた縫合型の術式だけが精霊魔法とされてるんだと思います。

 

 そういう歪な鑑定結果だったから逆算してあちらの世界観(システム)が割り出せたんです。

 

 あっ、安心してください。もちろん表示されなかった分だってその辺のおまじないレベルの呪法をパックしてデコードしとけばもっと数は増やせますし、威力も上がりますから。風の精霊魔法がレベル2だなんて失礼は晴らしてみせますよ。具体的には―――――」

 

 専門の魔法の話となって、ニコニコと語りだした弓槻さん。

 

 チェトさんの方は何度か頭をかしげていたが、ぽんと手をついた。

 

「なんとなく分かってきました。ご近所の猫人のミーちゃんはよく合コン(お見合い)行くんですけど、いつも男の子の尻尾の太さとかネコ耳の張り具合をチェックするんです。でもミーちゃんのおばさんはそんなのどうでもいいから親の年収をチェックしろって怒るんですYO。

 立場によってチェックできる所が違うって話なんですね!」

 

 チェトさんがファンタジー観をぶち壊してきた。

「あっ、うん。そんな話」

 

 すっとローブから大きな携帯ゲーム機を取り出したファム。

 

「よりわかりやすく言えばセカタサーンのソフトをライバル機種のプレジャーステーションに入れても『Pleasure Station 規格のディスクではありません』と出て動かんじゃろ。つまり他機種ではいかな傑作が詰まったデータもノイズとしか読み取れん。

 

 しかしもしもそのソフトを音楽CDプレイヤーにかければじゃ、音声トラックに入ったデータだけは読み込めるので「これはサカタサーン専用CDロムなの」「普通のCDとは違うのだよ!」とゲームキャラの声で警告音声が流れるんじゃ。

 

 さらにこれをパソコンで開いてみるとじゃ、むろんゲームはできんが代わりに中の動画が直接再生できたり、画像がバイナリ形式で読み出せたりするんじゃ。これはセカタサーン本体の再生ではできんことじゃな。

 

 このように一本のソフトがハード(システム)が違えば読み込めるデータ形式も違ってきてしまうということであるぞ。

 

 ちなみにメーカーがパソコンで開くことを想定して、こっそりムフフな画像データを忍ばせとるという伝説があるんじゃが、ライバル機種だと具体的なタイトルが判明しとるが、どうもセカタサーンには無いっぽいのう」

 

「YOー!? YOー!?」

 

「そんなのチェトさんに通じるわけないだろ。日本だって分かる人の方が少ないぞ」

 

「――――というわけなのです」

 一方でその間も聴衆のことは気にせずに魔法の解説をしていた弓槻さん。ファムの話以上にに詳細は理解できていないんだけど、肝心なところだけは確認しておく。  

 

「えっと、細かいことは分かんないけどさ、つまりレイゼの精霊魔法レベル10にも対応できるってことだよね」

 

「当然です! むしろあちらをレベル9に落とせちゃいますよ!」

 

「その意気ですYO! あんないじわる勇者なんてボッコボコにしてやってくださいYO!」

 チェトさんがシュッシュッとミドルパンチをとばす。

 

「おまかせですよ!」

 弓槻さんがぐっと右手を握りしめた。

 

「そっか、じゃあレイゼパーティーの件はこれで片付いたってことで。あとは他の鑑定持ちのパーティーもこんな感じで気づかないでいてくれればいいんだけどな。システムが違いすぎて弓槻さんがスキルなしとか誤解してくれれば不意打ちだってできるし。

 

 でもそりゃ無理だよな。大会開始までにいろんな人のステータスを覗くだろうから、鑑定がそういう仕組だってすぐ分かっちゃうよなあ」

 

 明らかにベテランの魔法使いな外見でも、鑑定して魔法がないと表示さればおかしいと思うはず。

 

「えっと、それなんですけど、あの人のことでちょっと気になることがあるんです。あのとき仲間の人がリュークさんを鑑定しないようにって言ってましたよね。別にあちらの鑑定スキルはかけても相手にバレないタイプなんですよ。なんで止めたのかなって」

 

「あっちの世界でマナーとして決まってて、反射的に止めただけなんじゃない? 分かってれば目を凝らす仕草で鑑定してるなってバレるだろうし。それか僕らのときみたくリュークさんに情報が漏れるのを恐れたとか」

 

「そうかもですけど…………ううん、あの神官があえて鑑定をさせなかったんじゃないかって思う。彼にリュークさんのステータスを見せたくなくて」

 

「なんで……だろうな」

 彼女の推測に、これまでの実績から信憑性を感じて僕は考える。

「ハイスペックぶりに自信喪失させたくなかった……とか?」

 

「逆じゃろ。リュークん所の世界観(システム)からすると、あの似非勇者がやつを鑑定したら魔法無しと表示されるわけじゃろ。それで舐めてかかるのを恐れたんと違うか」

 

「いや、さすがに前回大会優勝者だぞ。ちょっと情報収集するだけで火魔法の使い手だって分かるし、その時点で鑑定の仕組みに気づいてステータスを信じすぎないようにしようって気をつけるだろ…………んんっ? まさか鑑定が絶対じゃないって気づかせないために止めたとか…………そりゃないか」

 

「ありですよ。あんなリーダーならわざと妨害して負けさせてやろうって考えてるかもしれませんよ…………うん、そう。あのパーティー、リーダーと他のメンバーとの間に妙な空気を感じたような……ありえるかも」

 

「でもさ、どのみちあそこで気づかなかったとしても、大会までには気づいてるって」

 

「ふーむ、どうかの。そのまま本番まで気づかんままかもしれんぞ」

 

「なんで?」

 

「あやつは今ガチのチート主のリュークにへこまされたわけじゃからな。ああいう(やから)は自分より格上に見える相手の鑑定なんぞせぬよ。勝てない自分を認めたくなかろうからの。

 

 これから鑑定したとしても圭一みたいに見るからに格下と思える相手だけじゃよ。それなら魔法もスキルも無しの低スペックと表示されたところで、安心するだけで余計なことなど考えんとみるの」

 

「分かった。それじゃ本番で戦うことになったら、そこを突けるかもって考えとくよ。まあ100パーティーもいるんだから再戦することなんてないと思うけどね」

 

「いやあ、向こうは積極的に探してくると思うぞい。恥かかされた訳じゃからな。かというてリュークに挑む度胸はなかろう。なら確実に勝てる雑魚の圭一を狙ってこような」

 

()()()()。大丈夫だよ、このパーティーがあんなやつに負けることはないからさ」

「はいっ」

「そのとおりですYO!」

 

 

 

――――というのが昨日の打ち合わせだったわけだが、どうやらレイゼは本当に自分の鑑定の限界に気づいていなかったし、仲間たちはそれを隠していたようだ。

 

 まだいくらでも戦いようはあるのに、レイゼ一人が拘束されただけで降参を申し込んできた。

 

「いいですよ。じゃあ条件詰めましょう」

 

 なら搾れるものは搾り取ろう。

 

「ざけんな! テメエらなに降参してんだ! 殺れ!」

 

 仲間の女性四名。それぞれ表情に温度差があるけど、みんなこれ以上戦う気はないと剣や杖は収めている。

 

「そちらのリーダーは文句言ってますけどいいんですか?」

 

「いえ、それよりお聞きしたいことがあります。やはりあなた方も精霊術を使えるのですね。それも精霊王オーディナー様を拘束できるほどの。どうかこのまま精霊王の解放をお願いしたいのです」

 

「精霊王……この人のことですね」

 皆が視線を向けるのは弓槻さんの生み出した樹木に拘束された、装飾されたマネキンみたいな人物。

 レイゼのとは違い二本の幹が絡まったりといびつな形状の精霊樹。そこに斜めになって埋もれたマネキン像はどこかシュール系の絵画を思わせる。

 

「それで、解放というのは?」

「はい、このまま精霊王を顕現させた状態で…………消滅させていただきたいのです」

 

「いいんですか?」

 口ぶりからするとこの人達にとって信仰の対象みたいなんだけど。

 

「まあただのマスコットキャラですからね」

 弓槻さんが立てた指をくるくるさせながら言った。

「こういうプログラム(機能)が信仰を得てそれっぽく形づいてるだけですから、別にこの人が実存するわけ……もがっ」

 

 異世界の人の前でなにやら危険なことを口走りだした弓槻さんの口を塞ぐ。幸い相手は分かっておりますみたいな落ち着いた表情のまま。

 

「いまの精霊王はレイゼ様に隷属した状態になっています。ここでオーディーナ様に一時でもお隠れいただくことで、その軛から開放されることができるのです」

 

「はっ!? ざけんなテメエ! なに勝手なこと言ってやがる!」

 さっきからずっと横で罵り続けているレイゼがさらに声をはりあげた。

 

「レイゼ様。本来オーディナー様は世界救難の際に一時的にお力をお貸しいただける決まりです。決して個の意志で動かせる存在ではありません。我らはいつまでも神殿の御座を空にしたままにするわけにはいきません」

 

「んだと、くそがっ!」

 

 二人の間にどんないざこざがあったのかは知らないけど、僕としては自分たちの取り分を要求させてもらうだけだ。

 

「じゃあ代りにこのオーブをください」

 僕はレイゼから借りたオーブを皆にも見せた。

 

「けーいち様、それはないですYO!」

 

「ルール上は問題ないよね」

 どうせこの人たちは降参(リタイア)するなら僕らがもらってもいいでしょ。

 

「えー、そりゃ相手パーティーのオーブを使っちゃだめなんてルールはないですけど…………いえ、そもそもオーブは登録したパーティーのものですから、あちらが全員リタイアしたら自動で教会に回収されちゃいますYO」

 

「うん。だから彼には一人でここに眠っててもらおうかなって。そしたらずっと借りとけるでしょ」

 

「ドン引きですYO!」

 チェトさんや神官さん達が半目でこっちを見てきた。

 

「いやいや、だってあのレイゼの様子だとオーブを持ってリタイアしたら皆さんを襲うかもしれないですよ。ここは安全のためにも僕が預かってた方がいいと思うんですよ」

 

 今も横でパーティーメンバーたちを罵倒し続けてるレイゼ。ここで倒して教会にとんだら今の麻痺(パラライズ)状態からは回復するだろうから、逆ギレして神官さんたちに危害を加えるかもしれない。

 精霊王の加護を失ったってことは魔法の威力は落ちるんだろうが、勇者として呼ばれてるくらいなんだから、素の攻撃力だってそれなりにあるだろう。

 

「分かりました。どうぞお預かりください」

 皆で顔を見合わせ、同じ結論に至っただろう彼女たちは僕に頷いてくれた。

 

 

***

 

 

「それではファイヤっと」

 

 弓槻が魔力を送り込むことで精霊樹が脈動した。精霊王に巻き付く歪な二本の幹はさらに細かく数本に分かれると、より強固に縄のように絡みついた。その縄が接する精霊王オーディナーの肌が急速に色あせくすんでいく。その黒ずみはやがて全身に広がり、次に末端から剥がれ、粒子となって風に流れていく。

 朽ちた銅像を思わせるその姿は数分で消えていった。 

 

 その間、圭一とファムが手を合わせて黙礼。

 レイゼのパーティーメンバーたち四名は祈りを捧げ、跪き、気軽に手を振り、我関せず離れてと、それぞれの形で見送る。

 

 中腹が空洞となった精霊樹は、役目を果たしたとばかりに葉と枝が急速に枯れ、幹も根も砂が崩れるように形を失った。

 あとには元の平らな地面だけが残る。

 

 神官は精霊王の消滅を見送ると、圭一に頭を下げ今も動けずに地に倒れたままのレイゼの元に向かった。

 

 レイゼの罵声には応えず、しゃがみ込み静かな声で告げた。

 

「まずはレイゼ様にお詫びを申し上げます。教皇陛下の独断とはいえあなたを平和な世界から召喚し、勇者の任を負わせたこと。ほんとうに申し訳ありませんでした。せめてもの補填に教皇の私有財産の一部を金塊と宝石に変えてここの教会に預けております。この地ならば残る生涯を安泰に送れるでしょう」

 

「ざけんなっ! 殺すっ! 誰が炎竜を殺してやった! 王国を潰してやったと思ってる!」

 

「あなたがそれを言いますか……いえ……教皇の兵に責を求めるべきではないでしょう。ですが私は精霊術師としてあなたがオーディナー様の試練を不正な手段で乗り越えたことだけは認めるわけにはいかないのです」

 

「ああん!? あっちのメガネも言ってただろうが。お前らが崇めてる精霊王なんてのは所詮はただのプログラムなんだよ! いわば俺は管理者権限をハックして100%を引き出してやっただけだろが!」

 

「ええ、どうやらチキュウの方にはそう見えるのでしょうね。ですが我らにとっては精霊王オーディナー様は世界の守り手。あるべき形に戻させていただきます」

 

「バカが! 戻ったらまたハックするだけだ。テメエらの迷信に付き合うつもりはねえ!」

 

「そうですか。ですがあなたを召喚した教皇は今頃、弾劾裁判が行われています。試練の神殿もすでに処置ずみです。それにあなたが精霊王の加護を失ったことはすぐに大勢に知れるでしょう。身の安全のためにこの地での生活をおすすめいたします」

 

 そう言いながら立ち上がった神官は冷ややかな目でレイゼを見下ろす。

 

 その視線から逃れるように、レイゼは他の少女たちに向けて叫んだ。

「お前たちもか! 誰が今まで守ってやってたとと思う!」

 

 白いフードをかぶった治癒術師の少女がレイゼに近づき、抑えた声で告げた。

 

「あなたが王国との戦いの際に囮に使った小隊は私の故郷の者たちでした」

 とだけ短く。それだけで自分の抱えたものが伝わるはずだとばかりに。

 

「私は何とも思わんがな。私自身も武を極めるのに手段は選んでこなかった身だ。そもそも男なんぞ野望を抱いてなんぼだろう。その果てに夢破れたなら潔く散ればいい」

 

 一瞬、レイゼに期待を与えながら結局は突き放した戦士。

 

「わー、みんな冷たいなー。私は感謝してるよー、生足チラ見せで竜晶石を貢いでくれるとかほんと最高だったもん。もうレイゼ様ほどのコスパ良い男なんて出ないよね。あっ、そうだ。私この大会が終わったら銀樹リング買って貰う約束してたんだけど、それってどうなっちゃうの? あー、やっぱダメ? しゃーない。そんじゃレイゼ様、今までありがとー」

 

 軽く笑顔で手を振る斥候の少女。

 

 レイゼは彼女たちを睨みつける、わずかに動く右手をわななかせている。

 

 その姿を後に神官が圭一に向かう。

「ケイイチ様、お待たせしました」

 

「あっ、はい」

 思っていたよりもレイゼが仲間たちから反発されていて、何も聞こえぬ振りをしていた圭一。違うんだ、そこまでするつもりは無かったんだ、などとつぶやきつつ。

  

「じゃあ弓槻さん、さっき言った魔法でお願い」

「はい、こんなことがあったらいいなと、すでに準備しておきました。バッチリですよ」

 

 神官たちと入れ替わりに圭一たちがレイゼの元へ。

 

「殺すッ、絶っ対殺す!」

 

「悪いけどしばらくここで眠っててもらう。オーブは僕らが大切に使わせてもらうから」

 

「うわあ、やっぱり強盗の言い草だYO」

 

「それじゃあ、ごめんね」

 軽く、罰が悪そうに片手を上げて謝意を示す圭一。

 

 弓槻がレイゼのそばにタンッと踏み込み、一歩下がる。

 足跡から生えてくる何十ものツタ。

 

「くそがああああああああ!」

 

 横たわったままのレイゼを優しく包むように巻き付いたツタが彼を持ち上げ、何重にも纏わりつく。やがて大木へと変化していく。今度は根を広げ幹太く安定した力強い精霊樹へと。

 

 その幹の内部。柔らかで暖かくさえある洞状の空間でレイゼがうめく。

 

「あっ…………なぜだ……こんなのおかしいだろ……が…………俺があんなザコに……やられるはずが……あっ……ああ…………」

 やがてレイゼの声は小さくなり、深い眠りに落ちていった。

 

 彼の身を包んだ精霊樹が風に揺れ、落ちた木の葉が圭一たちのそばを舞っていった。

 

 

 VS『勇者A』――――勝利!

 

 

【TIPS】

鑑定スキル

 

 対象のステータスを覗けるスキル。この大会の参加者にも所有者が多く、彼らの冒険を助けてきた有用なスキルです。

 しかし参加者がみな違う世界の出身となるNAROUおいては事情は異なります。

 

 鑑定で表示できるのは原則としてそれぞれの世界に現時点で存在するスキル、技術、概念のみです。

 鑑定結果に戦闘に適したステータスが表示されていなかったとしても、相手が無力である証明にはなりません。仮にステータス上はHPが低く攻撃力も弱いと表示されていても、身体強化魔法を使った近接戦闘を得意としているかもしれません。銃の名手かもしれません。

 鑑定側の世界に身体強化魔法や銃がなければそれに気づくことはできません。

 

 むしろ対象がその仕組みを理解していれば積極的に罠をしかけてくるでしょう。それがNAROUのバトルです。

 

 また圭一のSPECの任務において、この鑑定が派遣先の調査にも使われています。

 

 圭一が例に挙げていたように『自転車運転スキル』が表示されればその世界のどこかに自転車を作れるだけの工業力があることになります。

 

 他にもある異世界で圭一の鑑定結果に『錬金術レベル4』と表示されたことがあります。これは圭一の高校レベルの化学・物理学の知識が錬金術の名前で解釈されたのであり、少なくともその異世界では基礎の化学物理が地球と共通する世界だという証明になります。

 

 さらにレベル4という値が高いとされるか低いとされるかでその世界の化学・物理学の知識(錬金術)の最先端がどれだけかが判明します。

 

 圭一はSPECで農業や工業技術の基礎に関して研修を受けていますが、それは現地文明を発展させようというのではなく、この鑑定の指標に用いるためです。

 

 そしてSPECでさらに重要な任務は派遣先の異世界に基世界(地球)に干渉できる技術があるかの調査です。

 主に召喚魔法の類を危険視しているのですが、これは早百合が複数系統の技術を。弓槻もその一部を習得しています。二人を鑑定してそれらの技術が表示されていれば、その世界のどこかに地球に干渉しえる人物・組織がいるということです。

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