異世ばと! ※スーパーなろう大戦に作者オリキャラが参戦する話です   作:笠本

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第16話 最強と最凶

「くそっ……ありえねえ。この俺がこんな序盤で……こんなおっさんにッ!」

 

 荒い息に上下する肩を抑えた少年。

 視線の先に立つのは一人の中年男性。着流しの和装にどこにでもいそうな特徴のない顔。

 

『これはまさかの大番狂わせかー! SAIKYOのスキルを駆使して前大会2位だった"全て撃ち抜く者(ストライカーズ)"が無名の新人パーティーに追い詰められているZE! ストライカーズの本領は光速の魔弾。避けることは不可能! 前大会優勝のリューク選手ですらダメージと引き換えで攻略したこの魔弾。ですがこの新人は明らかに見てから避けてるZE! 信じられません!』

 

 彼らの上空で妖精の女王が大会早々の波乱に高い声をあげた。

 

『しかもこのパーティー、構成人員3名の内2名は式神という紙でできた依代だったことが判明しています。つまりソロで優勝候補を圧倒! こいつはとんでもないダークホースの登場だZE!』

 

「まだだああああ!」

 少年は数度目の光弾をフィールドに生み出す。今まで以上の密度。少年が手を振り下ろせばその全てが目に止まらぬ速度で動き出す。

 

「すまないが、私に飛び道具は通じない」

 男は僅かに身を捩り初弾を避け、表情を変えることなくフィールドを動き回る。だがある箇所で足を止め、そこへ無数の光弾が集中した。

 

「だろうなあああ!」

 少年の叫びと共に男を中心に爆発が発生。白煙が吹き上がる。そして少年が瞬時に分身。その全員が刀を振れば斬撃が爆発の中心地に叩き込まれた。

 

『おおっとこれは凄まじい攻撃だZE! 一発一発が必殺の魔弾に加えてユニークスキルを連発だー! これは優勝候補の意地を見せたかーーー!』

 

「どうだ! リュークを倒すために編み出した俺の新パターン、弾幕密度10倍だ。もはや安全地帯は存在しない。ただし3割はフェイク。ただのライトニング。俺の魔力量の限界超えてるからな。

 だけどそれくらいおっさんなら見抜けるだろ? 見抜いてくれたよな。あっさりフェイクの着弾ポイントに移動してくれやがってよ。でもそこが本命。全てのボムをそこに仕込んだ。これで――――」

 

 白煙が揺らぎ、飛び出る影。

 男が一直線に少年に向けて走った。使い古しの布地できた服はほつれ一つ無し。

 反射的に振られた刀をかいくぐり、ダンッという踏み込みと共に男の拳が少年の腹部にめり込む。

 

「あがあっ!?」

 腹を抑えうずくまる少年。

 男はゆっくりと姿勢を直し、その場に立ち少年の動きを待つ。

 

 しばし息ができずにいた少年はようやく男を見上げると言った。

「くそがっ……10カウントしちまった…………降参だ。…………おい、おっさん。あんた何者だ?」

 

 少年の問いにそれまでどこか達観したような表情であった男が戸惑いを見せる。

 

 上空では妖精女王が最強パーティーの一角が落とされた衝撃を叫ぶなか、軽々とした足取りで近づいてくるのは、ポニーテールの長身の女性と双子の男児と女児。

 少年のパーティーメンバーの生き残りだが今まで離れたところで観戦していた三人。

 

「ねえねえ、『おっさんに興味はねえ、どうせ瞬殺するから』とかイキっといてまったく手が出ずに負けちゃうのってどんな気持ち?」

「「どんな気持ちー?」」

 

 女性がニヤニヤとしながら少年の顔を覗き込み、双子が手をつなぎながらくるくるとその周りを走る。

 

「くそ女神がっ」

 

 ポニーテールの女性は今度は男に近づき声をかける。

 

「あははっ、そんな構えないでよ。私はバトルは見る専なんで、ここで離脱するからお兄さんの勝利ってことで。うん、それでこのイキリボーイの言葉を翻訳するとさ、負けて悔しいから次の目標にするんでお兄さんの名前を教えてください、って言ったんだよね。

 てことでこの負け犬にズバッと名乗りと煽りコメをかけてやってくれない?」

 

「「ズバッとどうぞー」」

 

「私は……闒人(むらびと)だ。光の下を歩む君のような少年に名乗れる名はない」

 男は首を振って言った。

 視線を落として呟くように。それは見かたによっては涙を堪えているようにも、怒りをおし殺しているようにも見えた。

 

「村人……?」

 

「いいや、闒人(むらびと)だ。卑しく下劣で……愚かな悪霊だ」

 

 

***

 

 

 その男が命を落としたのは祭りの準備の最中(さなか)であった。

 

 前々から医師に警告されていた心臓がついに限界を迎えたのだ。

 痛みに机に伏した男が必死に顔を上げれば、視界に入るのは己が信仰対象の姿絵が映し出されたモニター画面。

 

 板張りの床に座った巫女装束の少女と黒い三角帽子が特徴の金髪の少女。

 喧嘩でもしたのか、互いに背を向けておもしろくないという表情を浮かべた二人。だが偶然にそばに置かれた二人の手が、わずかに伸ばした互いの指がそっと触れ合っている。

 

 男の信仰心の全てを込めた渾身の作。

 正しく信仰のある者が見れば、その二人の指の重なりに幾重もの想いのやり取りが読み取れただろう。

 

 最後の力を振り絞りって自身の魂の写し形の保存処理を終えると、男は笑みを浮かべて椅子から崩れ落ちた。

 

 後はこれまで共に信仰を高め合ってきた同士が引き継いでくれるだろう。

 

 男は生涯の傑作を残せたことを誉れとして己の死を受け入れた。

 

 願わくば来世は神々の住まう楽園に生まれんことを。そう祈りつつ。

 

 

 そして次に男が目覚めたとき、自分の最後の願いが叶ったことを知った。

 

 最悪の形で。

 

 目の前には巫女装束の少女と金髪の少女。

 肩を抱き合う二人。その足元には形が潰れたままの三角帽子が落ちている。

 

 男の遺作たる姿絵に描かれた少女たち。

 

 だが二人が互いに寄り添うのは情誼の現れではなく怯えから。

 憎まれ口と軽口を交わすはずの表情はこわばり。

 言葉に代わり心の内を絡ませるはずの指は緊張に固く握りしめられ。

 

 森の中に立つ木造の小屋の前。壁を背にした少女を囲むのは自分と同じ姿格好の者たち。

 彼らは少女に下卑た視線を向け、下劣な言葉をかけてその反応に笑みをこぼす。

 

「ああああああああああああああああああっ!!!!!!!」

 

 男は叫んだ。自分がどんな存在に身をやつしたのかを理解して。

 

 闒人(むらびと)なのだ。

 

 それは風に揺れる純白の大花を傷つける害虫。

 楽園にあってはならぬ害毒。信仰を汚す忌み人。

 少女を汚さんという邪悪。

 

 どうした、と悪霊供が気さくに声をかける。

 ()()への言葉。

 

「――――せねば」

 

 男は震える手で懐から香炉をとりだす。

 嫌悪に顔を歪める少女たちに向けて漂う香りと薄い煙。二人は糸が切れたように身体の力をなくし意識を失った。 

 

 何をする、これから楽しもうというのに。そう責め立てる周囲の奴腹に男は雄叫びと共に襲いかかった。

 

 やがて。周囲に飛び散った血と臓腑。

 男は自身の手をそばの小川でしつこく洗いあげる。

 

 そしてその一角だけは血の一滴もかかることのなかった少女二人を、男はそっと抱えあげた。

 

 

 半刻ほどに離れた神社の縁側に横たえられた少女たち。

 みじろきと共に巫女が薄く目を開く。視界にぼんやりと映る人影に反応した少女。

 

「だれ……?」

 

 だが彼女が身を起こしたときには周囲には誰の姿もなし。

 

 困惑する少女。

 ううんっ、とそばの金髪の魔法使いが意識を戻す。辺りを見回していつの間にか日が落ちていることに気づくと腹が減ったとこぼし、巫女にタダメシ食らいが偉ぶるなと返される。

 そうして互いに憎まれ口をききながら、二人は社の中へと入っていった。

 

 その姿を影で見送った男は手にした香炉をしまいこんだ。

 一晩の記憶を無くす香。二人から忌まわしき悪夢を消した香り。

 

「すまない、すまないっ!」

 男は滂沱の涙を流しながら神社を後に、森をかける。

 

 どこまで離れたのか。

 男は懐から小刀を取り出した。

 

 一刻も早くこの呪われた身から解放されたかった。首筋に刃先を当てればその冷たさが救いに思えた。

 

 だがその小刀が彼の首を突くことはなかった。

 

 

 月夜の竹林を小走りにかける獣人の少女。師に命じられた馴染みの洋館に薬を届ける使いの帰り道。

 

 月明かりに雲が陰り、ふっと何かの気配に背後を振り返るがなにもなし。少女は首をかしげ、背中の薬箱を背負いなおすとまた走り出す。帰ったら師からもらえるご褒美を想像しながら。

 

 しばらくして月が雲から姿を現すと、男は小刀についた血を拭いとった。足元には彼と同じ背格好をした死体。

 獣人の少女を狙っていた不逞の輩。

 

 顔にはよく見れば土気色に見せる粧が施されている。これで少女の前に出ていれば薬師である彼女は気遣いを見せてくれただろう。

 

 男にはその悪辣が感じ取れた。近くに許さざる邪悪がいると。

 

 ああそうか、と男は呟いた。

 

 これは己への罰なのだ。

 身をわきまえずに信仰に分け入ろうと望んだ罪。純白の大花は自然の中で咲き、揺れるもの。人が近づくなど許されないというのに。

 

「滅ぼさねばならない」

 

 ならばこの罪は償わなければならない。 

 闒人(むらびと)は今夜の数体だけではないだろう。

 全てを消し去るのだ。()()()()()

 

 そして男は闇夜に姿を消した。

 

 

 …………これは男の贖罪の物語である。

 

 楽園では闒人が果てなく生まれ続けてくる。

 裏通りに。人里離れた山間に。

 

 だがそこには必ず男の姿があった。

 人の形をした悪鬼悪霊。奴らが無意識に発する徒党を組まんとする波長。

 それが同族である男に伝われば。

 

 殲滅である。一片の肉片すら残すことなく。楽園に影などあってはならない。少女たちにおぞましくドス黒い思念に触れさせてはならない。

 

 そのために男はただ一人戦い続けた。

 

 卑劣共の反撃に傷つこうと誰に助けを求めることなく。決して人に顧みられることはなく。

 

 ときに男は少女たちに追われることもあった。悪霊どもは無害な村人を装う。少女たちの信徒であることも。彼女たちにとっては男は罪なき人々を害する凶徒にしか見えなかった。

 

 闒人の存在を知る少女たちの保護者から狙われることもあった。瞬きより短い時間にナイフで全身を切り刻まれた。散布された薬品に臓腑を焼かれた。

 

 それでも男はただ無言で距離をとり、また闒人を狩り続けた。

 

 なぜなら事実、男もまた闒人なのだから。

 

 

 ああ――――

 だがどうか読者よ。

 いまこの時だけは男の罪を許し給え。その能力の発揮に称賛を与え給え。彼の多才に喝采をあげ給え。

 

 彼の力の(みなもと)は神格さえ持つ少女たちを組み伏せたいという欲望がもたらす外法の異能。男にとって忌むべき力。新たに生まれる闇を屠るためにその力を使うほど、突きつけられる己の罪の深さ。

 

 それでも私はあえてここに願おう。

 どうかこの大会を進む彼にあなた方の声を届かせてくれまいか。その償いに僅かばかりの光を与えてはくれまいか。お前の戦いぶりは他の勇者や冒険者や令嬢たちの活躍に決して引けを取らないのだと。

 

 たとえ彼にとってこの大会が資金を稼ぐためのものでしかなく、楽園に戻ればまた光など求めず、己の生の全てを闇の中に終わらせることだけが望みだったとしても。

 

 

 

 …………最後に、その決して語られることのない男の贖罪の物語の名をここに記そう。

 

 

 

 百合おじさん 楽園最凶最悪に転生す 〜 The silly unclean sprit.

 

 

 

闒 

 常用外漢字

 訓:むら

 音:トウ・ドウ・ロウ

 

 村や里の意。あるいは楼上の建築物を指す

 また卑しい、下劣という意味を持つ

 

用例

 中国最古の地理書、山海経において闒非(とうひ)という人面の怪物が記述されている

 




 百合おじさんは名前ないと不便なんで、後でしれっと付けてるかもしれないです。



 さて、本作は13万文字超えて一区切りついた現在、UA1000以上でお気に入りに入れてもらえたのが3名。最新話付近のPVからすると全話読んでくれたのは0~一桁人程度かと思います。数話エタ作品を除くと多重クロスジャンルの最下位ですね。
 処女作をテコ入れでバトル展開でリメイクしたら、まさかより読まれなくなるとは。

 そこで次のテコ入れとして本作の作中でライバルとして登場する100パーティーのスピンオフ作品を先に作っていこうと思います。
 実際すでに8パーティーが短編、長編という形で実現しているわけですが。正直そちらもあまり読まれてるとは言い難いのですけれど、まあ100作も書けばどれかは当たるんじゃないかな。
 本作の続きはそれからになります。


※『無実の断罪婚約破棄からの追放ルートにのった私は最高の修道院を用意しました』をなろう・カクヨムで公開しました。
全パーティー入場②に出てきた『乙女ゲーの主役になりました/ていうか押し付けられました ~悪そうな令嬢はだいたい転生者~』の外伝的な短編です。

※『デスです! — フルダイブ型VR・RPGでデスゲームに巻き込まれたので実況配信しちゃいます! なおR18タイトルなのですでに社会的に死亡Death —』をカクヨムで公開しました。こちらも全パーティー入場②に登場したパーティーです。

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