異世ばと! ※スーパーなろう大戦に作者オリキャラが参戦する話です 作:笠本
森にそびえる木々の間から柔らかな日差しが降り注ぐ中、鳥のさえずりに重なって荒々しい甲高い声が響いた。
「逃がすんじゃないよ! ジジイはともかく、若い二人は絶対に捕らえるんだよ!」
「長姉様! あっちで長身の方のが見つかったそうです!」
「ふん、可愛げのない方かい。私はもう一人のケイイチって細い方がよかったねえ。ああいうのに下袴だけで給仕させるなんてオツじゃないか。あれは躾れば可愛い声で鳴くと思うねえ。まあ二人とも手に入れるけどさ。さあ急ぐよ!」
声が去っていき、大木の陰に隠れていた僕は息を吐いた。
「あちらのリーダーは圭一さんの方が狙いみたいですよ。もてもてですねぇ」
街道の脇、森の浅部で共に隠れていた少女、弓槻さんがおかしそうにつぶやいた。
「もててるって言うのかなあ」
僕は立ち上がり、二人並んで森を奥に進む。大きく浮き出た木の根を飛び越えると少女の左側だけ編まれたお下げが揺れた。
すましたその顔を見ながら思う。
本当にもてたい相手とはもう一歩、距離が縮まらないのに……。
小さくため息をついていると、やがて見えてきたのは木につながれた馬。その足元には横たわる年配の男性。
そばには銀髪の幼女。肩までの長髪を赤いリボンで括り、黒いサングラスを
「ファム、様子はどう?」
「汎用ポーションをあるったけかけて、落ち着いたところじゃ……おっ、目覚めるぞ」
そこで男性のまぶたがぴくっと動く。やがてゆっくりと目を開き、自分を覗き込む
「もがっ……」
慌ててその口を塞ぐ。
「大声を上げないで下さい」
男性が目で分かったと合図してくる。ゆっくりと手を離して告げた。
「異世界調査議会、通称SPEC所属の真上圭一です。あなたの救助に来ました」
そんな組織にただの高校生であった僕が所属することになった理由は長くなるが、いまの任務はこの人を元の世界に連れ帰ることだ。
男性は僕が同じ世界の住人だと知りほっとした顔を見せ、涙を浮かべた。
「よかった……見捨てられてなかったんだ」
元は上等なブランドものだったろうスーツに涙がこぼれ落ちる。今は殆どのボタンが千切れ、各所に破れやほつれが目立ち、全身が汚れにまみれ見る影もない。
「いきなりこんな世界に放り出されて…………ようやく人に会えたと思ったら、言葉も分からないし…………それに、それに、あの女達は私を見るなり…………まるで物みたいに……ああっ、あ……あいつらは……?」
男性が僕の腕にしがみつく。
この人は今までこの世界の現地住人に捕らえられていたのだ。ここは中世日本に似た文明・地域。そこに紛れ込んだ現代人がどういう扱いを受けるか。
この怯えようを見れば命を奪われなかっただけよかった、そういう状況だったのだろう。
それでもこの男性は閉じ込められていた家の庭に、石でSOSのモールス信号のサインを記してくれた。ドローン空撮映像がそれを捉えたことで、何とか救出に向かうことが出来たのだ。
とはいえ退却の際に現地住人に見つかって、こうして追われてしまってるのだけれど。
「あの人達なら、仲間が囮として引っ張っています。ここにはいませんよ」
「ああ……助かった……うっ!」
男性が突然の痙攣。さらには泡も吹きだす。
「またか! ファム、ポーションを!」
慌ててポーションを飲ませると痙攣は収まる。だが額には脂汗。動機も細かい。
「ファム、原因は分かる?」
この世界でも機能するはずの回復ポーション。その一級品を飲ませても根本的な治療にならないというなら、持病や感染症ではないはずだ。
「症状だけ見ると呪いっぽいの。とにかくこの世界から離れるのが一番てっとり早いじゃろ」
「……分かった。二人はこのまま船まで向かって」
「馬を使える道には追手がおるじゃろ?」
「いや、ちょうど連絡が入った。囮のレオンが完全に包囲された。逆に言えば追手が集中してる分、街道を突っ切って船までたどり着けるはずだよ」
耳奥に仕込んだイヤホンを通し、別ルートで進んでいた仲間から状況報告が入っていた。向こうの事態が大分悪いことも。
「圭一さんはどうするんですか?」
「僕はレオンを助けにいく」
「危険ですよ!」はわっと弓槻さんが慌てる。
「なら私も!」
「いや、ファムじゃあ馬が操れない。それに街道の追手もゼロにはしていないだろうから弓槻さんじゃないと突破できないよ」
「でも……」
「大丈夫、本船の状況分析からすればここは男女比が1:30の世界なんだ。貴重な男が殺される事はないよ」
ドローンの空撮映像で分かったのはこの世界が極端に偏った男女比であること。推定男女比1:30。
外を歩くのは女性のみで、僅かな男は家の敷地から出ることはない。
いや正確には数の少ない男は家の中に囲われているのだ。
僕は救助対象を馬に括ると、弓槻さんの肩にそっと触れる。
「帰還までの時間を稼いだらすぐに逃げ出すから。また後で会おう」
彼女は何かを言いかけて口を開くが、ファムが「早う逃げるぞい」と彼女を押しやる。
僕も決意が鈍らぬよう、すぐに後ろを振り向き腰の剣を抜き走り出す。
獣道らしき木々の隙間を、視界を邪魔する小枝を剣で払いながらひたすら走り抜ける。
やがて遠くから聞こえる
前方の茂る葉の隙間に人影が揺らぐのが確認できた所で音が止み、重なった歓声が上がる。
「レオン!」
叫びながら葉を散らし飛び出る。
そこは森の端、草むらの広場に三十人程の袴姿の女性達。その多くが手に片刃の長剣や槍を持つ。
「圭一! 来るな!」
黒色に一房、白銀が混ざる髪をふり乱し、叫ぶのは僕と同じ年頃の眉目秀麗の少年レオン。僕の友人であり相棒。彼は今、数名の少女たちによって地面に組み伏せられていた。
レオンの周囲には小学生くらいの少女たちが群がる。嬌声を上げながらレオンの服や靴を引っ張り、剝がそうとしている。
「お兄ちゃんの靴もーらいっと」
…………こんな小さな子達も動員されていたのか。だからこそレオンが追い詰められるわけだ。こちらから傷つける訳にはいかない現地住民に本来は非戦闘員の子供達。そのハンデが無ければアイツはこの倍の数がいても負けはしない。
一人、色付きの帯を締めた長身の二十歳ほどの女性が声を上げる。
「ご覧よ、どこの家の者か知らないけど、ジジイの代わりにこんな若い兄弟を二人寄越してきたよ!」
周囲の女性達がわあっと
「男拐いは死罪と決まってるけどねえ、こんな取り引きなら喜んで矛を収めようじゃあないか」
「拐ったのはあなたたちの方でしょう。僕らは同胞を助けただけです」
さすが
完全に男を馬や羊みたいな動産扱いだよ。男は財産で所有物。飼い主が見当たらない羊は当然のように自分たちのものにするし、返して欲しければ同じだけの金銭価値のある男をよこせと。
もうほんと蛮族。
「馬鹿をお言いでないよ。私らは迷い人を保護しただけさね。どんな事情か知らないけど、男一人で外に出そうなんて薄情な家より私らの方がずっと可愛がってやれるよ。あんたらだってそうさ、可哀想に男だてらに剣を持たされて。
僕が相対するのはこの世界に漂着した男性を、貴重な男だからと囲っていた現地住人達。
保護していたと言いはるのは年格好と口ぶりからしてこの集団のリーダー。この世界の家の基本ユニット、一~三名の男性を共用の夫とする多数の姉妹。その子供世代の長子だろう。
あちらは当然のように僕らがどこかの家に所属していて、その家の女たちに指示されて動いてると考えている。
「まあいいさね。アンタらがどこの家に囲われてるかしらないけど、今更逃がしゃあしないよ。あのジジイはとんだ
そう言って僕を見ながら舌なめずり。
「お姉様!?」長子のそばに立つ女性が目を大きく見開く。
「ああ、ただ連れ帰ったんじゃあ母様達がおもちゃにして離しゃしないよ。ちょいと味見くらい許されるってもんさ」
「やった!」
「さすが長姉様だよ!」
「こんな若いのを二人もなんて夢みたいだね!」
リーダーの周囲、地球であれば高校生くらいの少女達が喜びに沸き立つ。
そこへ顔にあどけなさが残る少女数人が近づき懇願する。
「ねえ長姉様、二人もいるんだ、私らだってご相伴に預かったっていいでしょう」
「ふん、まあいいさ。そっちの若白髪を剥くくらいは許してあげるよ。但し種は私らのもんだ。一滴でも
少女たちは手を取り合い歓声を上げる。
レオンから靴を取り上げた子供達も、それを空に放りながら喜びの声。
「チビ共は見るだけだよ!」――――ぶぅと揃って頬を膨らませる。
なんて事でしょう。ここは女たちの世界。こんな小さな子たちですら僕らをイヤラシイ目で舐めつけてきていますよ。だが、これでいい。この流れなら確実に時間が稼げる!
「圭一 ……逃げろ!」
「レオン、お前一人を羨ましい……っと、辛い目に合わせはしないさ。なに、僕とお前とでざっと十人ずつ相手にするだけさ」
「圭一 ……。ふっ、そうだな。俺たちが力を合わせればいつだって、どんな危機も強大な敵だって退けてきたんだ。よし、やろう!」
何か勘違いしてるレオンが裂帛《れっぱく》の意思でもって女性達を跳ねのけ、立ち上がるや拳を構える。
「感心しないねえ。男の力こぶは庭造りに使うもんだよ。そこんところちゃんと躾けてやらないとねえ」
リーダーが手を上げると、その妹達が僕らを囲む輪を小さくしていく。
気が早い数人が袴帯を解き、手にしたそれを鞭のようにしならせる。何に使おうっていうんだろうね?
僕は覚悟を決め、心の中で家族に報告する。
――――叔父さん、父さん、母さん。どうやら僕はついに異世界でレベルアップを果たす日が来たようです。
そう、これは不可抗力なんだ。友を救うため、任務を果たすため。きっと皆も分かってくれるさ。
そこへピッと小さな音がして耳奥のイヤホンから幼女の声が流れる。
『けーいちー、聞こえるかや?』
「どうした?」そっと喉元を押さえると、表皮に偽装された咽喉マイクが僕の応答をファムに伝える。
『原因が分かったぞい。やはりこやつの病状は呪いによるものじゃ』
ファムが先程の救助者の謎の症状の原因を突き止めたという。
「呪い? どこかに術者がいたの?」
『特定の術者がいた訳ではないのじゃ。そう、何でこの世界では誰も魔法を使えんのに大気中にマナが満ちたデザインなのかが疑問だったが、これで納得がいったわい。たった一つの魔法を行使するためだけに設定されてたのじゃ』
どういうことだ……?
『正確にはセーフティフィルターというべきじゃな。この世界の男女比1:30という最大の特徴。これを守るための防護機構じゃ』
その説明にさらに疑問が増した所でファムに問いかけられる。
『圭一よ、この世界で男女比がどういう仕組で1:30に偏ってるかは覚えてるかの?』
「ああ」
ブリーフィングで聞かされていた事だ。曰く男女の性別というのは受精時の精子の染色体で確定する。X染色体とY染色体の二種の内、Y染色体を持つ精子と結びついた卵子のみが男へと変化すると。
この世界の人達の身体構造は地球人と何ら変わりない。ただ一点、男性の精液、中の精子の染色体の比率が偏っていると推測されていた。この世界の
『今回の救助者みたいに他所からこの世界へ転移してくる者は一定数おるじゃろ。もしもその転移者がこの世界で子をなせば、男女比が半々で生まれてくるわけじゃ。その子の次の世代も半々じゃな。
そうなれば数世代後には確実に社会が変わっていく。それを防ぐためにこの世界に万遍なく巡らされた呪い――――他所の世界の男とこの世界の女の体液が混ざった時に自動で発動して、呪詛を纏う毒へと変化する。恐らくは男側にのみ作用するタイプじゃ』
えっ、それって、じゃあ…………
ことさらに明るい弓槻さんの声が入ってきた。
『つまりですね、もしもこの世界なら美女に囲まれてモテモテだぜえとか考えてる男がいたら…………死ね! って事ですよっ』
「ひいっ!」
朗らかな声色の底に込められた冷たい怒りに、僕は悲鳴を上げる。
にじり寄ってきていた女性達がその悲鳴をどう解釈したのか、口角を上げて大きく動く。
「もう我慢ならないよ! 一番槍は私が頂きさね!」
「姉さま、私も!」
『っちゅうことで妾たちが助けにいくまで純潔を守って清らかに生きるんじゃよ。まあレオンならともかく、お主ならそういうの得意じゃろ。じゃあの』
「あっ、待って、今かつてないモテ期が――――」
半裸になった三十人の女性たちが僕らを目掛け襲いかかってきた。
「あわわああああ!」
【Tips】
鈘は三本足の釜のこと。当て字。男が人前に出ることすらはばかれる世界での、男性主体の演劇。絶対数の少なさから、大衆芸能ではなく貴人のみに鑑賞が許される神事能として発展しています。長姉が見たことあるのは実際には後年に派生して生まれた女が男性役をつとめる歌舞妓の方。
駙馬は貴人の婿のこと。巴御前みたいなのをイメージしています。
本作は作者処女作の『バイト先は異世界転生斡旋業』を後で予定していたバトル展開をメインにテコ入れリメイクした形になります。
この男女比1:30世界の話はむかしそちらの話の第一話に当てていました。後になって小説・漫画のまとめサイトである『読み速』さんの晒し企画で作品を見てもらい、本編と状況が異なる設定を第一話にもってくることは読者に状況を理解する負担が発生してしまうと判明したために外していました。
今回ハーメルンに移るにあたり、あべこべタグが検索上位に来るサイト特性に期待して復活させてみました。いずれこの世界で圭一が男の権利を獲得する闘争を描いてみたいですね。