スーツでグラサン?の人についてはいまだに外見しか知らないので許してくださいごめんなさい。
静かな幕引きだった。
白く石化し、脆く崩れ落ちたセル。どうやらシララは己の使命を全うしたらしい。
もくもくと立ち込める白煙を黙って見つめながら、皮肉な話だなと思った。
「皮肉なものだな」
そう口を開いたのはサイモンだった。君もそう思うだろ? そう問いかけてくるかのように視線が投げかけられたのは俺だった。ああ、そうだな。俺に言えるのはそれくらいだ。
「どういうことだよ?」
「マイクが、シララたちを世界樹が生み出した防衛装置のようだと言っていたのを覚えているか?」
「……ああ、そういうことね」
「? それがどうかしたのかよ?」
「自分を守るために生み出したものに滅ぼされるなんて皮肉ねってこと」
リッキィがセルの残骸を見つめながら答えを言った。
崩れ落ちた巨躯はさらに崩壊を続けており、すっかり白い粉末になってしまっている。白煙も収まってきた。大気の流れが完全に落ち着いたとき、そこにはもう何もないのだろうなと根拠も無く確信した。その様は結局、沈黙に耐えきれなくなったアーサーが帰還の術式を使い、揃って街に戻ってきたことによって見れなかったのだが。
街に帰還すると、日が傾き始める頃だった。後は執政院に事の顛末を伝えれば、全てが終わる。このギルドも解散と思うとほのかに寂しい気もするが、全員生きているのだ、また何度でも会う機会はあるだろう。
「ねえレオリオ、どうかした?」
「ん?」
「何か言いたそうだったから」
ほら、さっきはアーサーが勝手に術式使って帰還しちゃったでしょ? と、リッキィがアーサーを軽く睨む。俺のせいかよと騒ぐアーサーに、ラクーナとサイモンが間髪入れずにお前のせいだと突き放す。
「レオリオもそう思うわよねえ?」
楽しそうでいやらしい笑みをこちらに向けるラクーナには同調したいとはあまり思わなかったが、なんだよなんだよと騒ぐアーサーが五月蝿いのでやはり同調することにした。
「そうだな、アーサーのせいで言い逃したことがある」
「レオリオまで!」
「まあ、大した事でもないんだがな……」
正直、思いつきのようなことだった。俺はそれを今でも、おそらく未来永劫そうであればいいと信じるのだろうが、でも、それは俺の正義の下で導かれる答えであって、ここで発するのは違うような気がした。
「なんだよ、言えよ。レオリオが言わなきゃ俺は怒られ損になるだろ」
「アーサー……」
「少し、」
いや、違うというか、言いにくいだけで、アーサーやサイモン、リッキィに伝えるのが憚られるだけなのだが。
「少し、思っただけだ。シララを、モリビトたちを作り出したのが世界樹の意志なら、ヴィズルはやっぱり人間だったんだって言えるんじゃないか……そう思った」
皮肉なのかもしれない。でも、それは彼が研究者として、最後の生き残りとして生きた証になる。そうなればいいと、そうであると信じるのが、俺の正義だ。
「それが君の正義か、レオリオ」
「……サイモンたちには、悪いと思う」
「? なんでだよ?」
「今回ばかりはアーサーに同意だ」
「え?」
「……まさかサイモンたちには私も含まれてるの?」
「……まあ」
「心外ね」
目に見えて不機嫌になったリッキィや、本気で理解できないといった風なアーサーとサイモンに戸惑う。我関せずとばかりに一人でくすくす笑うラクーナを思わず恨めしげに見つめれば、一言だけ、馬鹿ねえと再び笑われた。
「ヴィズルを肯定することが、僕たちに対して後ろめたいと思っているのか?」
そこまで単刀直入にずばり言われると、たじろぐ。
「俺たちの故郷がグングニルで破壊されたからか?」
言いにくいことを。
「で、それを作った私にも気が咎めるってこと?」
「……お前ら、もう少し言葉選んだらどうだ」
「あっはははは! ダメだわ、もう! おかしい!」
ラクーナが可笑しそうに笑い続ける。確かに、可笑しな状況だ。笑ってる奴と怒ってるような奴と呆れたような奴と分かってないような奴と戸惑ってる奴。こんなバラバラで、傍目からは一体何の話をしているのやらといったところだろうか。
「お前の正義がそう言ってんなら、いつもみたいに堂々としてりゃーいいだろ」
「あら、アーサーにしては良いこと言うわね!」
「俺にしてはってなんだよ!」
「……レオリオ。僕は無責任に君の正義が一概に正しいとは思ってないし、言うつもりもない。だが、僕は君の考え方を尊敬しているし、尊重しているし、そうであれば良いと大よそに関して願っている」
「そうね、」
うん。一つ頷いて、リッキィは口を開いた。
「別にね。私もマイクも、たぶん、あの人も。肯定してほしかった訳じゃないの。理解されなくても構わない。それが私たちそれぞれにとっての正義だったから信じて進めたの。でも、あなたはそうじゃない」
総ての正義となれ。
「あなたは、私に見せてくれた。総てにとっての正義を。理想や夢物語じゃない、自分で掴み取る正義。意志の力が、正しいことを為すための原動力になるってことを教えてくれた。私にも、パパにも、ヴィズルさんにも成しえなかったことを果たしてくれたのは……レオリオ、あなたなの。だからね、だから。信じていいと思う。あなたがそうであればいいと願うなら、私も皆も、きっとそう願えると思う」
なんだか寄りかかってるみたいな言い方だけど、と言葉を濁す。少し俯きだしたリッキィの肩に寄りかかりながら、別に良いじゃないとラクーナは口を開いた。
「レオリオは我らがリーダー。判断を任せるなんて当然でしょ?」
「そーそー! なんてったってハイランダーだもんな!」
「その理論はおかしいがな」
「……そうか。なら、信じるよ、俺も。信頼する仲間が信じてくれてるんだからな」
夕暮れ時を知らせる街の鐘が鳴った。ああ、これもそろそろ聴き納めだと思うと、胸が沈むようでもあるし、高鳴るようでもある気がする。
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本当の聴き納めは今日だったな。
そんなことを思いながらエトリアの入り口の門を潜る。ほんの数ヶ月前に反対方向に潜った時は、こんなことになるなんて思ってもみなかった。
「誰も知らないのね。昨日、この街が救われたことを……」
「それでいいのさ」
「ただ働きでもいいじゃねーか」
「……そうね」
そういう話じゃないけどな、なんて突っ込みは野暮なんだろうな。
「私たちは一旦ミズガルズに戻るわ。今回のことを記録しないとね」
「そういえば、ミズガルズはもともと調査目的だったな」
「おかげで考えたくないレベルで記録書が増えそうだわ……」
「が、頑張れよ……」
「俺はー……、ま、サイモンについて行くだけかなー」
「こき使ってやるよ、たんまりな」
アーサードンマイ……と思ったが、書類が整理出来そうには見えない。サイモンの手伝いに追われるということだろうか。あちこちから書類を掻き集めて運ぶだけとか。……アルケミストなのに、肉体労働か。
「君は? リッキィ」
「私は……」
リッキィと目が合う。
「この時代を見て行くつもり。知りたいの、この世界の今を」
「……そうか」
「何かあればミズガルズを訪ねなさい。いつでも力になるわ」
「手伝ってやらなくもねーからさ!」
ありがとう。そう言ってはにかんだリッキィ。アーサーは頭の後ろで手を組んで、サイモンは腰に手を当てながら、ラクーナは背中の荷物を背負い直して、俺はやはり寂しくないことを噛み締めながら、皆で笑った。
「まーたなー!」
「またね!」
「またいつか」
「ああ、また」
「必ず、ね」
街外れの十字路で別れる時、当たり前のようにまた会おうと言えた。
「ねえ! どこに行きましょうか?」
そう言って満面の笑みを浮かべるリッキィを風が撫でる。初めて会った頃の態度がまるで思い出せそうになく、つい笑いながら答えてしまった。
「そうだな。とりあえず、他の世界樹がある街でも行こうか?」
「なんで笑ってるの? でも、それも良いわね。やっぱり気になるから」
「その前に俺は村に帰って長に報告しないと」
「ハイランダーの村よね。私も着いて行っていい?」
「ああ、大歓迎だ。もっとも、かなり小さい村だけど」
「野営食じゃないなら問題ないわ」
「それなら問題ない」
「じゃあまずはレオリオの故郷ね」
「ああ。ひとまずそこを目指そう」
その後はどこに行こうか。他の世界樹を目指す前にミズガルズに寄ってもいいし、また皆で樹海に挑むのもいい。ラクーナの故郷で本場のアイスを食べるのもいいな。君が気になるならサイモンとアーサーの故郷を訪ねよう。何をするにも、時間はたっぷりあるのだから。