ぼっち・ざ・すとれいしーぷ!   作:三文小説家

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活動報告に書いたぼざろ二次を実際に書いてみた。多少設定とかは(整合性の問題で)変わっているが、だいたいあんな感じになる。


桜の樹の下で

 今誰かがあたしを見ようものなら、口から獲物の血を流し、飢えぬ腹を満たそうとする獣に見えているだろう。

 

「ク……ソ……が……!」

 

 僅かばかりの力を振り絞った悪態を天に投げかけた後、私は胃酸によってどす黒くなった血を吐いた。病名はおそらく胃潰瘍。実家を追い出されてからホームレスと同じ生活をしていた私は、慣れない生活を続けた代償を支払っている。この年じゃ親の同意無しにネットカフェも利用できないからだ。未成年、高校生という強力な身分を私は呪った。

 

 あのクソ親どもは私を放逐するだけしてアフターケアは何も無しと来た。追い出された理由は自業自得とも言えるが、少し杜撰すぎやしないか。確か何とか言う犯罪になるはずだ。法律にはあまり詳しくは無いが、保護監督責任遺棄だったか? それとも年齢的には適応されないのだろうか。今更こんな事を思い出すとは、死を感じて走馬灯でも見え始めたのかもしれない。

 

 そう、死だ。今なら救急車でも呼べば助かるかもしれない。だが、私はそうしようとは思わなかった。あのクソ親に、恥をかかせてやる。お前達が見棄てた女が、血を吐いて死んでいる。大好きな『家の名』が汚されちまうなア。どうせ学生証は手元にあるんだ。ほどなくして私の家は特定されるだろう。ざまあみやがれ。

 

 平日の朝っぱらから血を吐いて闊歩する女。75日は都市伝説にでもなるだろうか。私は死の直前に確認事項を思い出す。バイオリンは学校の音楽室に隠した。教科書と本はロッカーに放り込んである。後は……どこか桜の樹を探すだけだ。

 

 梶井基次郎の小説に、桜の樹の下には屍体が埋まっているというのがあったはずだ。別に科学的な根拠があるわけじゃない。ただ桜が美しく咲き誇るからだ。音楽の上手な演奏が決まって何かの幻覚を伴うように、灼熱した生殖の幻覚させる後光のようなものだ。

 

 確かに想像してみれば造作もない事だった。あの美しさが屍体を吸って作られるなら、確かに安心も納得も出来ようものだ。私のような醜い女も、その養分になれるだろうか。

 

 暫く汚泥のような血を撒き散らしながら歩き回ると、ちょうどいい桜の樹を見つけた。時期が春とはいえ、呆れるほどに咲き乱れている。この爛漫と咲き乱れる桜の下に、一つ一つ屍体が埋まっている所を想像してみた。虫のような屍体、犬猫のような屍体、そして人間のような屍体……それらは皆腐爛して蛆が湧き、たまらなく臭い。桜の根は貪婪な蛸のようにそれらを抱きかかえ、そこから液体を吸っている。

 

 夜になれば百鬼夜行、花見客は何処に消えた? 腹が立つくらいの快晴に赤い血が染み込んだような、無邪気な薄紅の花弁。誰も気が付かない異常な美。フラクタルが支配する春に、私は喰われようとしていた。

 

 

伊地知虹夏にとって、この朝は何気ない日常のはずだった。いつものように家を出て、山田リョウと合流し、学校が終わったらリョウや、ぼっちこと後藤ひとりとバンドの練習をする。そのはずだったのだ。通学路の脇に生える桜の木の下で口から血を流しながら倒れている同級生、苧環(おだまき)彩加(あやか)を発見するまでは。

 

 半ば無意識的に救急車を呼んだことまでは覚えていたが、そこから先は覚えていない。これは虹夏本人の証言である。

 

 

「……?」

 

 目が覚めた私の視界に飛び込んできたのは、知らない天井だった。異様に白い部屋に、前腕部に刺さる点滴、意識しなくとも知覚する医薬品の匂い。まず間違いなく病院だろう。どうやら私を助けたもの好きがいたらしい。友達もいない、家族からも見捨てられた女を助けるとは、神とやらがいるなら善良な性格をしているのだろう。

 

「フフッアハハ……」

 

 なんという事だ。私の死を以て完成するはずの実家への復讐計画が頓挫した。歩いている影に過ぎぬ人生が、束の間の灯が初めて役に立つと思った物だが、どうにも上手くはいかないようだ。自殺は許されないというわけか……この世の神は善良にして随分と厳格であるらしい。

 

 ………………胃の痛みも気にせず一頻り笑った私は、全てがどうでも良くなった。いや、それは語弊があるか。バイオリンと音楽以外の事がどうでも良くなった。実家への復讐も、卒業後の将来も、何も考える気が起きなくなった。

 別段どうということは無い。今しばらくの与えられた時間を使って惰眠を貪ろうではないか。私は病室で眠りに落ちた。

 

 児童相談所の人間が私の事情聴取に来た後、私に来客があると看護師が言っていた。見舞いか? 仮にそうだとすれば家族ではないだろう。それだけは分かる。私が顔だけを看護師に向けると、来客は私を助けた人物であると言う。

 この醜女を助けた酔狂な人物がどんな顔をしているのか拝みたくなった私は入室を許可した。恨み言を言う気は無い。それに、一応感謝もしておかなくてはならないからな……

 

 

 桜の樹の下で倒れていた彩加を助けた虹夏はベッドの上に横たわる少女を見て言葉を失っていた。あまりにも彼女が美しかったから。肩口に届くか届かないかくらいの雪のような白い髪、日本人離れした美貌、スラリと長い肢体、開かれている黒と透明の虹彩から成るオッドアイ。

 

 美人云々というよりは動物として美しいと思った。空を飛ぶ鷹や、精悍な鹿のように。実を言うと、彩加は虹夏が通う高校でも話題になっていた人物だった。人を寄せ付けない雰囲気に特異的な容姿。そして伝説となった文化祭でのステージ。

 

 助けた時にはそれどころではなかったが、どことなく異質と言うか、或る意味強烈な存在感を放つ少女だと虹夏は思った。

 

「私を助けたのは、アンタか?」

 

 虹夏が呆けていると、病人の方から声がかかった。思考を取り戻して応対をする。

 

「あ、はい。救急車を呼んだのは私です。苧環さん」

 

 一応同学年であるはずだが、なんだか敬語になってしまう。話すのが初めてということもあるが、やはり雰囲気的に委縮してしまうのだろう。虹夏は普段はいきなり名前呼びすることもあるが、なにせ文化祭の時の彩加の演奏が凄まじすぎて、そんな気楽には接する事ができないと思っていた。だが、病人の方は呼ばれ方に不服があるらしい。

 

「……私を名字で呼ぶな」

「え、あ、ごめんなさい! 一応初対面ですし、いきなり名前呼びされるのも嫌かなと。彩加さん」

 

 彩加の方もそれは予測していたらしい。だが、病に臥せっているのと元々の気性からぶっきらぼうな言葉遣いになってしまう。本人に虹夏を脅かすつもりは無かったが、相手を威圧させてしまった事に彩加は謝罪する。

 

「悪い……私は実家と縁を切っていてね。名字で呼ばれたくないんだよ……とりあえず、私を助けてくれたことには感謝しておく。手を煩わせたな」

「いえ、手遅れになる前で良かったです。まさか生きていてこんな場面に遭遇するとは思ってませんでしたけど……」

 

 実家と縁を切ったという言葉に、虹夏は踏んだ地雷の大きさを実感する。見れば彩加の髪は文化祭の時には長かったはずだということを思い出した。背中まではあったと記憶していたが、バッサリと切られている。美容師に依頼したわけではないだろう。切断箇所が乱雑に過ぎる。

 

 彩加が自分との会話を楽しんでくれているらしい事が唯一の救いだが、再度地雷を踏まないようにと注意を払いながら会話を続ける。

 

 

 私を助けた女は伊地知虹夏と名乗った。会話の流れで同学年だと分かってからは、少なくとも私は気やすく話せるようになり、向こうも本来は明るい性格なのだろう。普通の女子高生同士のテンションに近い会話を展開できるようになった。

 

「へえ、伊地知はバンドをやっているのか」

「そうだよー。私はドラムやってるんだ。他にもベースと、ギターと、ギター兼ボーカルの子がいたんだけど、一人逃げちゃって……」

 

 中々に前途多難であるらしい。残った人数で誤魔化せるオーケストラとは違い、数人しかいないバンドでの欠員はかなりのダメージだろう。

 

「やはり、アンサンブルやオーケストラとは違うものがあるんだろうな。私はそれらの楽器については碌に分からないが」

「彩加はバイオリンが弾けるんだよね。文化祭の時の演奏、凄かったよ」

 

 文化祭の時の演奏、か。思えばそれが家を追い出されたのはそれが原因かもしれない、というか間違いなくそうだろう。私の自嘲するような嗤い声に伊地知が慌てた。また地雷を踏んだかもしれないと思っているのだろう。

 

「別に伊地知が気にする事じゃない。私はあの行動を後悔はしていないからな」

「うん、あれは忘れられないよ。まさか自分で弦を切って残った一本だけで曲を弾き切るなんて」

「パガニーニ気取りの一学生が羽目を外したに過ぎない。奴ら、私の実家の名前だけで埃被った舞台に祀り上げ、要望通りにお上品な曲を弾いてやったら殆どが夢の世界に旅立っていた。今思ってもあれは腹立たしいと言わざるを得ないな」

「な、なるほど……」

 

 私の愚痴に伊地知は少し引いていた。まあ、恨み節を聞いて喜ぶような性格ではないだろう。

 

「だが、それなりに代償もあったさ……今にして思えば、実家を追い出されたきっかけはあの演奏が原因だろう。元から歪だった歯車が、アレを機に決壊した」

 

 家族の誰とも似ていない容貌、人外のような左右の虹彩の色。白内障でもないのに左眼の虹彩は白い。いや、白いのではなく透明なのか。身内からは仲の良い姉を除いて醜いと罵られていた。そのくせバイオリンの実力だけは抜きんでていた。音楽一家の苧環家の中で、コンクールの最優秀賞もコンサート・ミストレスの立ち位置も欲しいままにしていた。奴らはそれも気に入らないのだろう。

 

 当時は頑張れば認めてもらえると思っていた。だが、実力を付けるにつれ、私への愛情は無くなっていった。奴らの目に有るのは恐怖、侮蔑、そして足掻く虫けらを見る表情……何の事は無い。既に奴らの中で私への評価など確定していただけだ。最初から行き止まりだったのさ……

 

 冬が終わった途端に、奴らは私を追い出した。春まで待ったのは奴らなりの気遣いか。コンクールの賞金などで衣類と食事だけはどうにかした。だが、慣れない生活は私の身体を蝕んだ。運動はそれなりにしていたし、体力はあるほうだと思っていたが、思ったよりも私の身体は軟弱だった。

 

 私の家族は見舞いにも来ない。病院関係者が家に電話したらしいが、「そんな奴はいない」と切られたらしい。奴らの中で私はもういないものとして扱われている。

 

 私はこれらの事を伊地知に話した。殆ど初対面の人間に何故ここまで話す気になったかは分からない。だが、きっと私は本当は死にたくは無かったんだろう。それだけを自覚する。少なくとも、伊地知に助けられて安心するくらいには。

 

 ややあって、伊地知は口を開いた。彼女の目には一つの決心が見て取れた。

 

「……話してくれてありがとう、彩加。私が聞いてよかったのかは分からないけど、それでも、彩加の事知れたから」

「………」

「彩加は……退院したらどうするの?」

「さてね、児童相談所の人間が言うには、どこかしらの施設に入る事になるだろうってさ。そんな場所があるなら早くそこに行けば良かった……」

 

 私は一人の世間知らずの餓鬼に過ぎない。そう突き付けられた気がした話だった。まあ、捨てた私がどうなるかなど考えていなかった親からすれば、そんな施設の事など知っているはずも無い、ゆえに教えられるはずも無いが。すると伊地知は途端に立ち上がった。

 

「私、一回帰るね。ちょっとやらなきゃいけない事ができたから」

 

 そう言って伊地知は帰り支度を始めた。話の内容を不快に思ってるわけではなさそうだが、意図が読めない私は不安になる。そうしていると、伊地知はリュックサックを背負って病室を出ようとしていた。そして振り向いて私にこう言った。

 

「それに、彩加はとっても綺麗だよ!」

 

 そう言うと、伊地知が勢いよく部屋を出て走っていく音が聞こえた。「廊下を走らないでください!」「すみません!」という声もおまけで聞こえてきたが……

 

「あ、どうせなら本を何か持ってくるよう頼めばよかったな……」

 

 私はこれから始まる退屈な時間に憂鬱になっていた。だが、それは現実逃避じみた思考に過ぎない。私が綺麗だなど、初めて言われた。

 

 

 彩加の病室を出た後、虹夏は一直線に家に帰り、そして姉に頼み込んだ。彩加を伊地知家に加えて欲しいと。

 




※この作品はぼっち・ざ・ろっく!の二次創作です。

とりあえず、基本的にオリ主の彩加視点で書きますが、時々三人称視点になります。何故かと言うと虹夏とかの一人称視点を書ける気がしないから。しかし彩加は一人称の方が書きやすいです。

次回に虹夏の行動の理由とかを書いていきます。
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