ぼっち・ざ・すとれいしーぷ!   作:三文小説家

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 お久しぶりです。

 もうタイトルからしてぼざろ二次とは思えない。


R.I.P.

(此の身は刃……)

 

 飛び出していった虹夏を追いかける傍ら、彩加は思考を働かせる。それは或いは、耐えがたい恐怖を誤魔化すための常套かもしれない。

 

(私が持てる物といえば、軽い木細工と長さ二尺余寸の弓しかない。直くすれば阻む者は無く、奏でれば勝る者は無く、(めぐ)らせば並ぶ者はいなかった……それが、ここまで枷になるとはな)

 

 空は晴天、しかし、視界は氷雨。いっそ本当に雨が降っていれば良かった。涙を流したとて、哀哭の聲諸共溶けていったのだろうから。

 

(無論、地上にて奏術が最も長けているなどと自惚れるつもりは無い。過去、現在、未来、探せば私以上の奏者など五万といる。幼少の頃に少しだけ話した京極の令嬢、そして、朋友と認識してくれる大槻……しかし、それらは金剛の如き稀な者)

 

 数少ない前例はある。しかし、それを上回る差別、嫉妬、暴虐に晒された彩加は結束バンドを信じ切れずにいた。

 だが、早く自身の体質の事を伝えなければ遅かれ早かれ瓦解してしまう。

 

「いざとなれば、私一人が彼岸桜となればいい。凪いだ三途を渡るのに、四人も五人も必要ない」

「彩加先輩!」

 

 同伴者の声に、彩加はハッと息を呑んで思考を中止した。見れば、ひとりが心配そうに覗き込んでいる。改めて周囲を見回してみれば、爪先には川が流れていた。自らこのような場所に向かった記憶は彩加にはない。

 

「すまない……少し考え事をしていた」

「よ、良かったです……なんだか、取り憑かれたように川に向かい始めて……」

 

 〝憑かれている〟。案外その通りかもしれないと彩加は思った。黄泉の醜女が自分に憑依したと錯覚するほどに、人間関係に疲弊しているのかもしれない。

 

「初対面では叫び声を上げて気絶していた少女が、随分と頼もしくなったものだ」

「そ、それは……すみません」

「ふふ、そう縮こまるな。責めているわけではない」

 

 彩加はひとりを撫でながら、自分の出来る精一杯の笑顔を向ける。そして、悲し気に、そして静謐に告げる。

 

「しかし、私を引き留めた事をお前は後刻後悔するかもしれんぞ」

「え、それは……どういう……」

「お前達は私を、殺したいほど怨むかもしれない」

 

 ひとりには分からない。彩加がどのような業苦を背負っているのか。誰が彼女をここまで悲観的にしてしまったのか。天才で、聡明で、街道を歩けば半数以上が振り返る美人で……ひとりに無いものを全て持っているように見える彩加がここまで苦しむ因果が、ひとりには分からない。

 

 だが、このまま彼女を離すわけにはいかない事だけは分かった。それは、虹夏が最も悲しむ事だろうから。

 

「え、おい……!」

 

 故に、ひとりは彩加の手を引いて歩き出した。きっと、彩加がその気になれば簡単に振りほどける程にひとりの力は弱い。彩加が戸惑い、気が変わらない内に連れて行かなければならない。

 

 

 

 

 

 一方、分かりやすく拗ねている虹夏は空き地にあるキッチンカーでドリンクを購入していた。リョウと喜多が合流した後、虹夏は少し意外な光景を見た。

 

「彩加がぼっちに引っ張られてる」

「え……アレどういう状況なんですか?」

「あ、あの! 彩加先輩が川に飛び込もうとしていて……止めました!」

「でかしたぼっちちゃん!」

「誤解を招くような言い方をしないでくれ……まるで私が自殺しようとしてたみたいじゃないか」

 

 だが、ひとりから息も絶え絶えに語られる彩加の様子を見て、誤解でも何でもない事が全員に周知された。

 

「なので……はあ……連れて……はあ……来ました」

「ぼっちちゃん、とりあえず息しよう!」

 

 とりあえず、息を整えてから星歌の意向について伝えるひとり。要約すれば、オーディションを受けて合格すればライブに出られるという事である。虹夏は「なら最初からそう言えばいいのに。お姉ちゃんの意地悪」と零していた。

 

「まあ、数学者か論理学者でもなければ、人間は回りくどい方法を選ぶからな」

「……彩加が言うと説得力がある」

「どういう意味だ。確かに、詩や文藝から引用して話す事も多いが」

「違うよ。彩加、私達に話してない事あるよね。……何で死のうとなんてしたの?」

 

 彩加は一瞬だけ息を詰まらせ、そして吐き出した。

 

「……やっぱり、誤魔化されてはくれないか」

「駄目。話して」

 

 虹夏の言葉に促され、結束バンドの面々の表情を見て、彩加は話す事を決めた。

 

「ニーチェという哲学者は言ったらしい。才能が一つ多い方が、一つ少ないよりも危険だ、と」

 

 そして、彩加は結束バンドが作る音によって自分に生じている異変について話した。ただ単に演奏が下手なだけではない。どうしようもない不協和音によって引き起こされる不調。

 

「こんな才能なんて、欲しくなかった。音が鼓膜を通って、頭蓋骨に沿って這い進んで、脳を直接弄りまわされるかのような感覚を味わう。もはや呪いだ」

 

 その才能のせいで彩加は誰からも理解されず、家族からは暴力を振るわれた。落ちこぼれなどと呼ばれたが、いっそその方が良かった。こんな呪いを返上できるなら、愚鈍なままで痛かった。

 彩加は光の無い眼で、誰が見ても痛々しい笑顔で告げた。

 

「話してみて、改めて分かった。私はこのバンドを去るべきだ。お前達だって、ただ一人の狂人に壊されるのは本意ではないだろう」

「それで……彩加はどうするつもりなの?」

「さてな……人の肉を得ただけの化け物だ。如何ようにもなるさ」

「…………」

「そう悲しそうな顔をするなよ。所詮、この世は飛花落葉。私は散りゆく草木の一つに過ぎないというわけだ」

 

 細胞とて、人体の維持のために自殺する。彩加はその役割を全うしようとバンドから抜ける。もう期待などしない。何も無い。射干玉を征く敗残兵には相応しい末路だ。そう言って去ろうとする彩加を、リョウがラリアットで止めた。

 

「何をする。山田……!」

「ごめん。絶対に離す気は無いよ。彩加が私達と一緒にいるのが嫌になったとか言うなら止める気は無かったけど。そんなくだらない自己犠牲で抜けるなら、意地でも止める」

 

 リョウは彩加をそのまま押し倒す。普段の彩加なら踏ん張る事もできただろうが、弱っている今では抗う事も出来ない。

 

「くだらない……だと……」

「うん。くだらない。多分、私が一番嫌いなもの」

 

 横たわる二人に虹夏も近づいて来て話しかける。

 

「そうだねー。流石に今の言葉は聞き捨てならないかなぁ。あたしたちの演奏が下手なのは事実だし、別に指摘されたって何とも思わないよ。寧ろそんなことであたしたちが彩加を排斥するって思われてたのがショックかな」

「そうですよ! なんでもっと早く言ってくれなかったんですか!」

「まあ、分かるよ。今までの経験からそう思っちゃうっていうのはさ。でも、それなら最初から拾ったりなんてしないよ」

 

 そう。虹夏は彩加を自分から拾ったのだ。彩加の、ともすれば集団を崩壊させかねない才能を知った上で。

 そして、寧ろ今までよりも能天気な声で虹夏は宣言した。

 

「とりあえず、オーディションに受かるのもそうだけど、まずは彩加が参加できるようにならないとね!」

「練習あるのみですね!」

「ああ、うん、そうだね……」

 

 前向きな喜多だが、虹夏は明るくも少し難色を示した表情であった。誰もがその原因に気が付いているが、口には出せない。一人を除いて。

 

この二人(喜多とひとり)が一番不安なんだけどって顔してる」

「口に出すんじゃないよ! 彩加よりも集団クラッシャー発動してるじゃん、リョウ!」

「とりあえず、二人のパートはオケ流しとくからアテフリの練習をしておくように」

「「はい!」」

「エアバンドじゃないんだよ! どれだけへたっぴでもリズム揃えて熱意を伝えれば分かってくれるって!」

「虹夏……トドメをさしてやるな」

「え」

 

 悪意が無い分、それが本音だと嫌でも理解させられた二人はダメージを受けていた。ひとりは土管の中にズルズルと入っている。蛇か鼠のような行動だが、内部でブツブツと自虐の言葉を吐いている。

 夜に遭遇したら少し怖いかもしれない、と彩加は思った。

 

 彩加は帽子を拾って起き上がる。仮に結束バンドが自分を受け入れてくれるなら、願っても無い。触れ合った指に爪を立て、握り合う手を潰さずに済むなら、それでいい。

 

「だーいじょうぶだーいじょうぶ! リズム隊が上手ければ何とかなるよ!」

「そっそうでしょうか……」

「うん。皆がリョウや彩加並に演奏できることを求めてるわけじゃないと思うんだ。多分、熱量とか……バンドとしての成長? とかを求めてるんじゃないかな」

「随分と曖昧だな……」

 

 何を以って成長とするのか。何を以って熱量とするのか。曖昧に過ぎる基準であるように彩加には思える。結局、それらは全て相対的な物であり、観測者の知識と経験の投影でしかない。コンクールなどと違い、技術力と言った明確な真理や判断基準は存在しないように思える。

 

 彩加には寧ろ、凄まじい難行であるかのように思えた。チップもオッズも不明瞭なギャンブルなど、不公平の極みではないか。しかもそれが、ダブルブラインドならともかく、相手の方にのみ情報が開示されている。

 

「唐突にギャンブラーみたいなこと言うじゃん。でも、だからこそ、あたしたちでもライブに出れるかもしれない。もし、彩加の言う通り、コンクールやカジノみたいに基準やオッズが厳正に管理されてるなら、あたしたちにはどうすることも出来ない。でも、それが無いならあたしたちにだって勝機がある」

 

 また、相談の末に彩加はオーディションには参加しない事になった。虹夏が言うには、まずは彩加に自分達が追い付く事から始めるのだそうだ。

 

(お願いだから、彩加には幸せになって欲しい。一度で良いから、彩加の心の底から笑った顔が見たいよ)

 

 悪夢に(うな)され、泣きながら「ごめんなさい」と連呼する彩加の姿が虹夏の頭から離れない。普段のクールな言動で忘れそうになるが、彩加は普通の傷ついた少女なのだ。ベッドで抱きしめた時の震えからも、それは分かる。

 

 虹夏が決意を固めている横で、ひとりは何かを考え俯いていた。

 




 短めだけど、久しぶりなのでリハビリ程度に。なんか、ぼっちちゃんにここまで世話焼かれるオリ主って珍しい気がします。彩加はタイプ違いのコミュ障というか、社会不適合者というか。

 あと彩加の頭の中が結構忙しい。学生だったり文豪だったり思想家だったりギャンブラーだったり。
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