ぼっち・ざ・すとれいしーぷ!   作:三文小説家

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 オリ主の周りもそろそろ整理を始めないと。

 というか、今回も賛否が分かれそうな話です。オリ主が本心見せるとぼっちちゃんが確定で怯えるので……


陰翳礼讃

 或る日。

 彩加と虹夏はSTARRYへの帰路についていた。

 

「ごめんね~、買い出し付き合ってもらっちゃって。彩加力持ちだから助かるよ~」

「問題ない。むしろ、こうでもしていないと落ち着かなくてな」

 

 彩加は今回のオーディションには参加しない。彩加の実力は突出しすぎている。そのまま受かったとしても、彩加の実力なのかバンドの実力なのかは判然としないまま終わってしまうだろう。そして、その摩擦はいずれ火を噴き、バンドという建物自体が倒壊するのだ。

 

(腕があるのに足手纏いというのも、おかしな話だ)

 

 彩加は自分が世間を、人間を知らなかったことを痛感していた。実力さえあれば生きていける。そんな甘い世界では無かったのだ。

 

「まあ、そもそも人間不信拗らせすぎて誰にも頼れなくなった結果ホームレスになった人間が、まともにバンド活動できるわけも無かったんだが」

「言ってて悲しくならない? 時々ぼっちちゃん以上のコミュ障発揮するのなんなの彩加」

 

 しかも現状奇行を繰り返しているだけのひとりと違い、彩加は真面目に死にかけている。ツチノコに変形する不思議生物でもないため、当然ながら蘇生もしない。普通は一度死んだらおしまいだ。

 

「とはいえ、胃潰瘍で強制終了したが、ホームレス生活もそれなりに快適ではあったぞ。銭湯やコインランドリーは利用できたしな」

「ここが日本じゃなかったら胃潰瘍が来る前に死んでたんだよ」

「そうだな」

 

 あっさりと興味無さげに返事をする彩加の生への執着の薄さに溜息を吐く虹夏。

 

「そういえば、彩加がネットで所属してる……セフィロトだっけ? 言う集団に助けを求めるっていう手は無かったの? 確かに匿名だし信用できないのは分かるけどさ」

「……………………その手が有ったか」

「バカがよぉ!!」

 

 単に彩加がその発想に至らなかっただけであった。完全に数学や哲学その他を話し合うだけの場所だと思っていたのである。怪しいとか言う以前にその発想にすら至っていない。

 

 改めて説明すると『セフィロト』とは彩加が所属しているインターネットのコミュニティであり、数学、哲学、論理学などについて日夜話し合っている。構成員は全てセフィラの名前で登録されており、彩加はNetzachという名前で登録している。

 

「まあ、素性の分からない人達についていかなかったのは不幸中の幸いかな……」

「いや、実は何人か知ってるんだ。本名も、顔も……何人かでオフ会やったから」

「じゃあ頼りなよ! 自殺する前に誰かに頼るっていう発想を持って! お願いだから!」

「それについては何も反論できん……」

 

 実際、所属する一人から言われたのだ。彼女の涙声など初めて聞いた。存在していても誰かの枷となり、死んだとしても悲しむ人間がいる。

 

(私は生き残ったわけじゃない。生かされたんだ。私は誰がKeterであり、収容する病院の捜索から法的手続きまでおこなったのかを知っている)

 

 彩加は尊敬する人物から貰った帽子を押さえた。

 

「少なくとも、GevurahとTipherethには近いうちに会いに行くさ。今なら少し、話せそうな気がするんだ」

「そうだね。楽しんできなよ」

 

 虹夏は心の底からそう思う。檻を開き、傷めるだけの翼を広げて飛び立とうとしている彩加。それを止めようとは虹夏は思わない。空は蒼く広いのだ。

 

「I know the moon, and this is an alien city.」

「ん? どういうこと?」

 

 首を傾げる虹夏に、彩加は説明をする。

 

 引用元はエイミー・ローウェルの詩『A London Thoroughfare. 2 A.M.』であり、詩の内容は明るすぎるランプに歩道を徘徊する浮浪者と、夜の通りの不気味さを綴っている。だが、最期には白いランプに妨害され照らすことのできない、痩せた艶の無い月を愛するという文で終わる。

 

「私の旧友は月しかいないと思っていた。しかし、午前二時のロンドンの通りではないのだ。たとえランプに妨害されたとしても、私には月虹が存在した」

 

 やや遠回しではあるが、それでも虹夏は自分への信頼を口にしてくれた彩加に微笑みを浮かべた。

 

 

Side 彩加

 

 

 事実は小説よりも奇なり。

 

 誰もが一度は耳にしたことのある文言であろう。実際、世界に存在する事象という物は容易く人間一人の想像など上回るのである。

 現に、宇宙が空にあるなどと、最初に気が付いたのは誰であろうか。それ以前は別の次元にあるとすら考えられていた。げに荒唐無稽であると、現代に生きる者共は嗤うであろう。しかし、未知の物に相対した時に人間が思いつく事など大抵は滑稽か荒唐無稽かであろう。

 

 そして、唐突に気づきを得るのだ。宇宙は空にある、と。

 

 まあ、いと仰々しきことを言っているが、目の前に広がっている光景はキノコである。正確にはキノコのような髪型をした結束バンドの朋友である。実際にマッシュヘアーというらしい。名前が有ったのか。

 

「え……何その髪型……」

「バンドマンの成長を見た目で表現しようと」

「脳に菌糸でも蔓延ったか、山田」

「やっぱりリョウか……」

 

 その見た目がどう成長につながるのか知らないが、山田の中では確定的ロジックとして成り立っているらしい。さながら帰納法によって証明された数列のように。

 そして崇拝する喜多は追従し、後藤は断れないが故の同調であるということか。

 

「飲酒喫煙女遊び。そして髪型をキノコヘアー。それがバンドマン!」

「浅学故知らぬが、バンドマンとはそういうものなのか?」

「彩加に変な知識植え付けないで! 意外と純粋なんだからこの子!」

 

 純粋か。そうか。私見だが、私が純粋というより世の中が捻くれ過ぎているだけであろう。

 

 私が話半分に日時計のペンダントを弄っていると、後藤から「あっあの……わ、私女遊び無理です……私と遊んでくれる女の人がいません……」という、実に悲しい言葉が飛び出した。

 それを見た山田が再び迷言を吐く。

 

「大丈夫。下北沢のビレバン前でギター背負って気怠そうにしとけば多分誰か寄って来るから」

「だから偏見に満ちた情報教えんな! 真面目にやれ!」

「いざとなったら彩加についていけばいい。女の子のファン多いし」

 

 私は日時計から手を放した。私にファン? いたのか?

 

「何故彩加本人がキョトン顔してる……主に一年生を中心に勢力を拡大してるのは有名」

「初耳だ。むしろ私は避けられていると思っていたが?」

「ちょっと前まではそうだった。でも、最近は表情が柔らかいからか堕とされてるのが多い」

 

 私は虹夏を見る。私一人では山田が戯れに嘘を言っているのかも分からぬ。しかし、虹夏の反応を見れば虚偽では無いようだ。

 

「うん。そうだね。リョウと一緒にいると指数関数的に覗き見する女の子増えるね。彩加は気付いてなかったみたいだけど」

「そうなのか……全く知らなかった」

「でも正直納得ではある。彩加って美人だし、背も高いし、運動も出来るし、頭いいし、ヴァイオリンも上手いし」

「うわあ……改めて見るとモテる要素の塊ですね……」

 

 なるほど、そのような人物が女子から好かれるという事か……というか、少しむず痒いからやめて欲しい。私はポケットから知恵の輪を取り出して気を紛らわせることにした。あ、取れてしまった。

 

「おまけに覗き見してた女の子が足を滑らせて階段から落ちかけた時に神速で助けてた。『大丈夫か?』なんて声もかけて」

「しかもファンと気付かずにね……あれだけの事が有ってファンの存在に気付かないってどんだけ自分に興味無いのさ」

「私服の色彩が基本死んでるのが余計にそれを物語ってる」

 

 確かに、虹夏と出会う前であれば「世辞は間に合っている」とか言っていただろうが、しかし色彩が死んでるとは何だ。

 

確かに無彩色で固めがちではあるが、それだって立派な美であろう。話していなかったかもしれないが、私は病的なまでに肌が白い。夏場となればそれなりに肌を露出するし、常に引き籠っているわけでもない。

 

 しかし、呪いであるかのように私の肌は焼けないのだ。小説において肌の色として、白粉(おしろい)か陶器のようとよく形容されるが正にそれだ。髪も右眼も白く、左眼だけが黒と悪目立ちしている。

 

 ここで私の服の話に移る。山田が言うように私は無彩色の服を好む傾向がある。一番のお気に入りは漆器のような黒だ。伽藍を彩る深く広い蔭のような黒だ。無論、服を選ぶのを放棄したという理由がないとは言い切れないが、これにはれっきとした意図がある。

 

 例えば料理で想像してみて欲しい。

 

 白味噌、豆腐、蒲鉾(かまぼこ)、とろろ汁、白身魚の刺身……まあ何でも構わないが、そう言った白い肌の物を明るい色の皿に乗せた所で色は引き立たない。

 

 故に私は陰翳を纏う事で己の色を引き出すのである。黒い皿に刺身を乗せるように、味噌汁を漆器に注ぐように。

 

 そう話すと、虹夏と山田は意外そうな顔をしていた。

 

「意外とちゃんと考えてたんだね……」

「自分を刺身呼ばわりする辺りはロックに過ぎるけど、惰性で選んでるわけじゃないのは分かった」

「分かればいい。私とて一介の少女。瀟洒(しょうしゃ)なる装いに興味くらい持つ」

 

 それに刺身と呼んだところで支障などあるまい。あたかも白い肌を欠点のように語ったが、それほど悪くも無い。(あか)い切り傷一つとて、白い肌には装飾となろう。喜多が言っていた『映え』という奴だ。

 

 今の所予定は無いが、身を許した相手の口蛭(くちびる)が吸い付いた痕とて映える。ふむ、しかしそうか。肌が白いというのは窓の無い、光の無い(くるわ)とて存在感を失わぬな。白身に赤みがさしていくのも、料理としては面白いではないか。

 

 やはり陰翳、影こそが全てを解決する。私を彩るものは射干玉(ぬばたま)の闇なのだ。

 

「って……脱線しすぎ! そろそろ練習再開して!」

「でもやっぱり成長って目に見えないし、判断基準ぼんやりしてるし」

「ハッキリしてるよ! とにかくお姉ちゃんを納得させればいいんだから、練習あるのみ! デモも決起も無いよ!」

 

 成長か……それも技術面以外での。虹夏や喜多は大して悩んでいなさそうである。何も考えていないだけか、それとも何かしら私には想像の付かない基準があるのか……おそらく後者であろう。同じ理由で山田も平気そうだ。そもそも考えた所で奴は我が道を征くに違いない。

 

 残るは後藤だが……正直この手の話題は私の管轄外だ。おまけにオーディション本体に私は参加できない以上、何かを指摘するのもな。

 

しかし数日後、

 

 オーディション前日である。そして、私と後藤がテーブルを挟んで相対している。別に私が詰問しているわけではない。後藤の方から話しかけてきたのだ。

 

 そしてその内容は、

 

「あっ、私って何のためにバンドをしているんでしょう……?」

 

 ……私をツァラトゥストラか何かと勘違いしていないか、後藤。壁に書かれた木についての質問に私見を示して以降、此奴は私を預言者か何かのように思っていないだろうか。

 

 しかし、なんともまあ答えに窮する質問だ。文言だけ切り取れば完全に自分探しのそれだ。残念ながら基本的に来世まで見つからないタイプの探し物である。

 

 伊地知彩加は斯く語りき、と話した所で後藤の疑問に答えられるかは……望み薄であろう。度し難い。

 だが、素直に「自分で考えろ」と突き放した所で此奴が答えを見つけられるとも思えぬ。ダンテとてウェルギリウスとベアトリーチェの手を借りたではないか。

 

「……残念ながら、同じような質問を以前にしたな。お前ではなく、私から。まあ、その答えは世界平和だったわけだが。なんだ、心境の変化でもあったか?」

「あっ、うっ……ごめんなさい。私なんかが烏滸がましい質問を」

「御託はいい。質問に答えろ……と言いたいところだが、まあ、意地悪な質問をした詫びだ。今日は付き合おうじゃないか」

 

 相変わらず陰キャとやらの行動原理は分からん。まるで処刑台に登る罪人のような表情だ。そういえば、私のファンの話題の時に溶けていたな、此奴。例の青春コンプレックスとやらか。本人にそんな意思は無かろうが、私の生活をあげつらうかのように。

 

 いや、いい、後藤にこの鬱屈とした感情をぶつけた所で何も解決などせん。

 

「別にお前が音を奏でる理由が世界平和だろうが世界征服だろうが構わん。よしんば何も無かったとして、責められる謂われも無いだろう」

「え……」

「こんなものは所詮文学だ。共感できる人間にしか刺さらん。今日決めた所で明日には変わっているかもしれぬ。その程度の物だ」

「えっあっ」

 

 何かにつけて信念だ理由だと問うが、それが確固たるものになり得ると誰が決めたのだろうか。私が知る限り確かなのは数学くらいのものだろう。数学は何故とは問わない。どうなっているかを問うものだ。

 

 私はテーブルに頬杖をつきながら後藤に笑いかける。怯えられてしまった。失礼な奴だ。

 

「しかしながら、お前がそれを求める理屈自体は分からんでもない。人間というものは言葉によって共同幻想を作りたがる生き物だ」

「共同……幻想……」

「そうさ。共感者が一人もいない夢追い人を何というか知っているか? 残念ながら、現在ではこれを狂人と呼ぶ。共感者有っての夢さ。盲言が体系化し、共同幻想が生まれて初めて夢たり得るのさ。だが、同じ夢を見たからと言って、同じ仮想現実体験なぞできない。だが、今回に関してはバンドというものが良い仕事をする。別々の体験をしているにも関わらず、それが同じだと思い込める仕組みになっている」

 

 これが、喜多の言う『第二の家族』の正体であろう。有り体に言えば、形を変えた宗教である。

 

 私は、後藤に最後の問いを投げかけた。

 

「さて、ここで問おう、後藤。お前がお前自身にかけた呪いは何だ? お前が欲して止まない。私との共同幻想と化す以前の、お前の中で具象化された概念は何だ? 別に口に出さずとも良い。それが、お前が音を奏でる理由であろう」

 

 後藤は暫く呆けていた。話を聞いていたのだろうか。と思ったが、「わかり……ました」と返ってきた。まあ、直ぐに理解できずとも、家に持ち帰って考えてみれば良いだろうが。

 

「あっあの……!」

「ん?」

「彩加先輩は……どんな理由で……バンドを……」

 

 以前に答えた気もするが……いや、今は答えが変わっている。

 

「壱に、バンドというものに興味が有った。弐に、生きる理由を探していた」

「生きる……理由……」

 

 後藤はその言葉にある程度共感したのか、噛み締めるように呟いた。だが、私はその先の答えに辿り着いた。

 

「だが、私はそんな理由など放棄した。全く、馬鹿馬鹿しい」

「えっ!」

「私も嘗ては信念や情誼に縛られていた。私の希望は或る人からの下らぬ言葉であった。そのために、泥水を舐め啜るかの如き道を歩んだ」

 

 自分でも口角が上がっているのが分かる。後藤は怯えているが、知らぬ。封印を解いたのはお前だ。

 

「だが、結局それらはこの音から遠ざかった。音は、私の手から発される振動に過ぎぬ。純粋であるが故に、有象無象の摩耗に耐えられぬのだ」

 

 思い出す。ヴァイオリンを持った時の原始の衝動を。

 

「空気を揺らし、水を揺らし、骨を揺らし、空間を破壊してこそ、音を奏でる理由が分かる」

 

 思い出す。私の音によって作り出された異界を、数式を。そして、曲が終わった時の寂寞を。

 

「私は空間を揺るがすためだけに音を奏でる。それだけだ」

 

 私はどんな表情をしているのか分からない。飢えた獣か。屍体を吸った桜か。だが、後藤が怯えるように後ずさり、虹夏に呼ばれて脱兎のごとく駆けていった辺り、恐怖を与える表情だったのだろう。

 

 まあ良い。フォローは虹夏がするだろう。後で説教を受けるかもしれないが、それは此方の話だ。

 




 色々。あえて何も言うまい。

 備忘録

セフィロト:彩加が所属するインターネットコミュニティ。構成員はセフィラの数と同じく10人。五人はオリキャラだが、五人は原作より。

タイトル:谷崎潤一郎の『陰翳礼讃』より。彩加は闇を重んじる。そもそも、彩加のキャラデザの案として『結束バンドがカラフルだからモノクロ放り込んだら彩になるんじゃね?』というものであったので、原点回帰とも言える。
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