ぼっち・ざ・すとれいしーぷ!   作:三文小説家

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 約半年もお待たせして申し訳ございません。理由としましては、書く作品が増えたのもそうですが、何より文が思いつきませんでした。しかし、ゲーテとメルヴィルの力を借りて書ききりました。

 再び原作の話に戻ります。彩加の口調を少し見直すかも。


オーディション

 オーディション当日。STARRY内では準備が進んでいた。防音の壁を貫通したリハーサルの音が聞こえる中、私はあの一団に加われていない現実を目の当たりにする。よりにもよって、私の腕がその他の面々よりも格上なのだからと言う理由なのが質が悪い。

 

 せめて逆ならば良かったのだ。私が下手で、その他の面々が上手なれば、私が悪魔に魂を売り渡せば解決したのだ! 私に原因があるのならば当然、取るべき行動は私に帰結する。自分の手で状況を動かせるというのは偏に安心感を伴うものだ。今言っても栓無き事だが……

 

 私を揶揄する言葉として、『悪魔に魂を売り渡した女』という陰口は耳が腐るほど聞いている。ヴァイオリン界の巨匠、パガニーニと同じ陰口をたたかれるというのはヴァイオリニスト冥利に尽きるが、残念ながら私の姉を始めとして、悪魔どころか天使にすら愛されている演奏者は五万といるのである。

 

 だが、おそらくそれが、私の最初にして最後の悪行なのだ。

 

 私は悪魔に魂を売り渡し、身を削ってヴァイオリンを練習する執念を手に入れた。目的が両親からの下らない誉め言葉ひとつであったとして、そのために私は指が擦り切れようとも練習したのである。そして、その魂の代償が、この劫罰なのだろう。

 

「うう……」

 

 呻き声がした方向を振り向くと、我が義長姉、伊地知星歌が緊張した様子で椅子に座っていた。なんだかんだ、星歌さんは虹夏のことを愛している。自分でオーディションという条件を提示したとはいえ、胃が痛くなるのは必然であろう。

 

「彩加~」

 

 星歌さんが気の抜けた声で私の名を呼んだ。私は椅子を運び、彼女の隣に座る。逆の隣にはPAさんが座っており、真意の掴めない笑顔で星歌を眺めていた。

 

「店長溶けちゃってますね~。あんな意地悪しなきゃよかったのに」

「うう!」

「追い打ちをかけないでやってください」

 

 PAさんに追撃を喰らい、腹でも蹴られたかのような声を上げる。仕方がないので私が慰める。こういうことは不得意なのだが……

 

「……あの場ではああ言いましたが、店長の判断は英断と愚考します。あのままでは大空に飛翔したとして、未知に羽根をもがれ、地に落ち、晩餐の一皿となるのが関の山でありましょう」

「いや、そこまでは思ってねえよ……」

「そうなりますよ。彼女等が小鳥であるのならば」

「なんだ、この、肯定されてるのに心臓に杭を打ち続けられているような感覚は」

「私より追い打ちかけてるじゃないですか、彩加さん」

 

 PAさんにも言われてしまった。しかし、大なり小なり星歌さんにそういう意図があったのは間違いなかろう。このまま虹夏達結束バンドが進んだとして、彼女等の目標は成就はしない。星歌さん以外の〝調律〟によって踏み潰されるのみだ。

 しかし、彼女等も折れない。ならば自分くらい越えて見せろと言うのは非常に正しい。せめて見守る価値くらいはあると思わせなければ、どのみちこの先は無い。

 

「Face the fear, build the future. 私も彼女等も、一度ここで恐怖に向き合わなければならない」

「恐怖に向き合い、未来を作る。この前やったゲームに出てきましたよー。良い言葉ですよね」

「そんな意味なのか、その英語……」

 

 『苦しみよ。お前が私から離れぬが故に、私はお前を尊敬するに至った』という、フランシス・ジャムの詩にあるように、地下にあるライブハウスでは時を知るのが難しい。しかし、それが私達を刹那の永遠から救ってくれていたのである。向き合うべき恐怖を、問題点を避け、漠然とした夢と言う安逸なる逃避先を見つめ続ける波止場。しかし、我々はそこから出航しなければならない。

 

「そろそろ呼んできますかね……」

「いや、万全の態勢が整うまでは待ってやろう――――」

「何時間後の話だ」

「良いんじゃないですかね~。日が暮れちゃいますし」

 

 私はスタジオの扉をノックする。反応はない。集中しているのはまことに結構だが、時間だ。何となくキリが良さそうなタイミングを見て扉を開けた。

 

「時間だ。そろそろ舞台に上がってくれ」

「わ! びっくりした~。て、もうこんな時間!? もしかして待っててくれてたの?」

「主催者側が言いださなかったからな」

 

 いよいよという所で、虹夏達の表情は緊張に彩られる。私からすれば、緊張など演奏のスパイスでしかないが、常人にとってはミスを誘発する恐ろしいものであると聞く。だが、これだけ長いこと練習していたのだ。パフォーマンス面は心配ないだろう。

 

 ……らしくないが、最後に激励の言葉をかける。

 

「いよいよ出航か。私は航海の無事を祈っている。私は音楽は音と言う荒波においてオールを漕ぐようなものだと思っている。或いは、獲物を見定めるという意味では捕鯨に近いものかもしれぬ。だから言えることはこれだけだ。銛使い(ボーカル)! 銛を強く結べ! 操舵手(ベースとドラム)は船を回せ! 一等航海士(リードギター)は帆を張れ! そして全員でオールを漕げ! そうすればホワイトスコールでも来ない限り、沈没する事は無かろうさ」

 

 我ながら何を言っているのだろうと内心で自嘲する。一人で船を難破させた船員である私がこれを言うなど、滑稽でしかない。だが、少なくとも虹夏には届いたようで、「ありがとう、彩加」と言われた。喜多は頭に『?』を浮かべている。後藤は顔が崩れている。余計な事を言ったかもしれん。山田は……分からん。だが少なくとも聞いてはくれたようだ。

 

 要するに、リズムと言う波に乗り、オールを漕げと言う事だと伝えると、言わんとする事は分かったのか、四人は頷き返してくれた。

 

 オーディションの本番が、始まる。

 

 

 

 

 

 

「け、結束バンドです! よろしくお願いします!」

 

 虹夏が元気よく、しかし硬い声で挨拶する。四人はセッティングの終わった舞台の上で、ライトに照らされている。あのライト暑いんだよな……星歌さんも、PAさんも真剣だ。

 

「じゃあ、『ギターと孤独と青い惑星』っていう曲、やります!」

 

 舞台の四人は、肩に力が入っているように見える。あの山田でさえだ。後藤は……いつも通りだな。いや、何かしら整理がついたのか。ツァラトゥストラとなった事が多少は役に立ったろうか。

しかし、俯いており、姿勢は悪い。演奏者としては褒められたものではないが、他三人と違って変な所に力は入っていない。

 

 ハイハットが四つの音を刻んだ後、曲が始まる。

 

 『ギターと孤独と青い惑星』。随分と文学的なタイトルだが、おそらく後藤の半生をそのまま書いたのであろう。山田に『ありのまま』を要求され、導き出した文学。昇火士(ファイアーマン)が吐き出す有毒のケロシンの炎とは違う、華氏451度の言葉たち。

 

 なあ、一等航海士(後藤ひとり)、その星は羅針盤たり得るぞ。

 

 後藤ひとりは、求めて危難を追う狂熱家ではない。彼女の場合、勇気とは感情ではなく、ただ自分にとって役に立つもの、生死にかかわる現実の土壇場で、いつでも手に持っている道具のようなものだ。更に言えば、おそらく彼女にとってギターとは、船の牛肉やパンと同じく最も大切な装備品の一つであり、したがって馬鹿馬鹿しく浪費する物ではない……と、考えているかは別にして、身体がそういう風に出来ているのであろう。

 

 後藤ひとりは無理に合わせる事をやめ、自分のペースで弾き始めた。音楽の定石から言えば叱責すべき行動であるが、今回ばかりは正解であろう。言葉の通りに一等航海士は帆を張り、オールを漕いだのである。

 

 他の船員も荒波に対応し始めた。操舵手の二人によって刻まれるリズムに狂いはない。しかし山田、戻ってこい。さっきは二人纏めて操舵手と呼んだが、山田は二等航海士の方がいいかもしれん……

 

 最後に、喜多。銛打ちは成功した。これ以上の言葉が必要であろうか。とはいえ、歌とギターというマルチタスクで初心者には厳しいテンポに食らいつくのは中々苦しそうである。こればかりは時間が解決するしかない。嵐に立ち向かった者だけが、血を流した指だけが天使(イスラフェル)の音色を手に入れる事が出来るのだから。

 

 

 

 

 

 ―――演奏が終わる。

 

 ありがとうございました。と、各々が頭を下げる。星歌さんは少し考えるそぶりを見せてから、

 

「良いんじゃないって言いたいところだけど」

 

 ああ、改善点を伝えるのか。

 

「ドラム、肩に力入れすぎ。ギター二人、下向き過ぎ。ベースは自分の世界に入りすぎ……でもまあ、お前らがどういうバンドかは分かったけどね」

 

 ……? 結局、何が言いたいのだこの人は。真意が読めない。ただ、結束バンドの面々は意気消沈という言葉が具現化したかのように落ち込んでいる。『不合格』と伝わったに違いない。

 

「アドバイス……ありがとうございます」

 

 虹夏が代表してそう返した。しかし、星歌さんは怪訝な顔をしている。

 

「? お前らがどういうバンドか分かったってば、ここ喜ぶところだから」

「「「「?」」」」

「多分、合格って言いたいんだと思いますよ」

「だからそう言ってんだろ。合格!」

 

 ……なんと分かりづらい。私も普通に不合格なのかと思っていたぞ。

 

「星歌さん、後でプレゼンテーションの勉強しましょうね……」

「彩加、分かりづらいなら分かりづらいと言ってくれ。心に来るから、そういうの」

 

 私が言えた事ではないがね。

 

「彩加ー! 合格だって!」

 

 ステージから降りた虹夏が抱き着いてきた。私に頭をグリグリと押し付けて、如何に嬉しいかがよく分かる。とりあえず、頭を撫でておいた。

 

「ああ、良かったぞ。以前のような致命的なズレは無くなっていた」

「これで彩加と一緒に演奏できる?」

「できる。これからは、私も貴公らの戦列に加わろう」

「やった!」

「それと」

「なに?」

「ありがとう」

 

 虹夏は私に居場所を作ろうとしてくれた。悪魔に魂を売り渡したファウストに救いをもたらしたグレートヒェン。メフィストフェレスに奪われた魂は、果たして現世に戻れるだろうか。

 

 私は虹夏に礼を言う。その余韻に浸っていると、なんか後藤が吐いていた。その様相、ダムの如し。どうした。

 

「仕方ない仕方ない。あんな発表のされ方したら胃もびっくりするよー」

 

 虹夏がそう言いながら後藤を介抱する。まあ、その気持ちは分からんでもない。受け入れづらい出来事があると吐くよな。

 

 その後、床を掃除し、皆で記念撮影をした。なんか星歌さんが後藤に話しかけていたが……自信をつけさせようとしているのだろうが、怯えられているぞ。私もあまり他人の事は言えないが。

 

 その後、虹夏からライブのチケットを配られた。ノルマのために、手元のチケットを売らねばならない。その数、四枚。二十枚のノルマを五人で割ったらそうなるわけだが……

 

「四枚か……」

 

 私は新たな暗礁に乗り上げていた。

 




 彩加、星歌さんのことはナレーションでずっと『義姉』と呼んでいましたが、虹夏と被るので名前呼びに変更。多分、自宅では普通に『星歌さん』呼びだと思います。

 なんか彩加が急に熱血キャラになりましたが、一応激励という事で。彼女の立場的に口挟みづらいけど、彼女なりに応援はした。

 Face the fear, build the future.

 ロボトミーコーポレーションというゲームに登場する言葉です。PAさんはともかく、彩加が何故知ってるのかは謎。まあ、ネットで聞いたのでしょう。

 そして最後、原作知ってる人からするとちょい雑に感じるかもしれませんが……基本彩加視点なので、ぼっちちゃんの内心はカットされる傾向が……あと、この世界線だと友達がいないのはぼっちちゃんだけではありません。ファンの子に配るという手もありますが、さて、どうなるか。
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