ぼっち・ざ・すとれいしーぷ!   作:三文小説家

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ようやく書きたい場所の一端を書けた。

それはそれとして、読者の皆様、どうか感想を下さい。私の視点ではこの作品が読者の方々にどう映っているのかよく分からないのです……と思っていたら非ログインの感想が書けない設定になっておりました。修正しました。
とりあえずお気に入り登録者の数は増加傾向にあるので、需要はあるという解釈で書かせていただいております。


歌詞451度

 一悶着あった後、彩加のイソスタアカウントの件が一段落し、めでたく彩加がイソスタデビューを飾った。この場で基本的な操作を全て終えたのは彩加の機械音痴っぷりを見た喜多や虹夏が「変に間隔空けると操作忘れるんじゃないかコイツ」と思ったためである。

 

「ユーザー名は『CHRONICLE』……年代記? アイコンは彩加の日時計型のペンダントか」

「少し大げさかもしれないが、自分の生きた記録を残しておくのも悪くないと思ったのさ。たとえ私が死んでも、記録だけは残り続ける。自分の存在を示す物をもう一つくらい作っても良いと思ってね」

(もし私がイソスタなんて始めたら『いいね』欲しさに黒歴史しか生み出さない……そんなのが残り続けるとか無理……)

 

 彩加の話を聞く限り、承認欲求や陽キャ的なノリは度外視して考えていると分かる。あくまで自分が生きた証として、年代記を記録する事が目的なのだろう。自分の目で見た風景や人間を、記録として残しておきたい。一度死を選んだ少女の、生きた証拠となる写真集。本人もあまり過度に期待してはいないようだが、純粋に若者文化(?) を楽しみたいという気持ちもあるのかもしれない。

 

「よーし、彩加の問題も片付いた事だし、そろそろアー写撮影再開しよー! 彩加の言葉を借りるなら、結束バンドの年代記(クロニクル)の1ページになるんだから!」

 

 虹夏の号令で撮影は再開したものの、結果は芳しくない。立ったり座ったり斜め45度になったりと、様々なポーズやアングルで撮ってみたが納得のいく一枚は中々撮れないのだ。

 

「というか何で彩加は斜め45度に傾いてるの!」

「ポーズのネタが無くなった」

「これは大喜利でもジェスチャーゲームでもないから! 帽子被ってるからってマイケルの真似はしなくていいから!」

 

 またもや彩加の驚異的な体幹が披露されたが、この場においては「それがどうした」である。とはいえ、『バンドらしい写真』なる物を口に出すのは簡単だが、実行するとなると難しいのも事実である。

 

「確かにちょっと抽象的すぎるかもなあ」

「いっそ組体操でもするか? ブレーメンの音楽隊のように」

「く、組体操……ウグ!」

「また後藤さんが!」

 

 理由は……説明するまでもないだろう。上に乗るにせよ、土台になるにせよ、碌な思い出が無い事だけは分かる。

 

「バンドというよりサーカス団だよねえ……それ」

「頭(さか)さに手を垂れて」

「汚れ木綿の屋蓋(やね)のもと」

「「ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん」」

「虹夏先輩! リョウ先輩と彩加先輩が妙な絆を発揮してます!」

「お前ら大正時代に帰れ。今は令和だぞ」

(壁を見つけた時も思ったけど、彩加先輩ってそんなに怖い人じゃない……?)

 

 彩加とリョウが中原中也の『サーカス』を使ってボケ倒していると、喜多がリョウと彩加の仲の良さに嫉妬(?) し、虹夏が慣れた様子でツッコミを入れていた。今更だが、原作と違って喜多が「伊地知先輩」ではなく「虹夏先輩」と呼んでいるのは彩加と名字が被る為である。

 

「あ、サーカスで思いつきました! ジャンプなんてどうでしょう!」

「ジャンプ?」

「漫画という物か?」

「そっちじゃないです彩加先輩。皆で飛び跳ねたら動きがありますし、素の感じが出ると思うんです!」

「なるほど、確かにそれ良いかも! 喜多ちゃんてんさーい!」

「有識者が言っていた……オープニングでジャンプするアニメは神アニメだと……」

「何の話か知らんがやるだけやってみようじゃないか」

 

 彩加にはアニメの知識は無かったが、概ね全員の意見が一致した。なお、以前ジャンプした経験など記憶の彼方に忘れ去られたひとりは内心で狼狽えていたが、口に出す事は無かった。そして、その横でマイペースに準備運動をする彩加。

 

「リョウの言ってることはよく分からないけど、とりあえず撮るよー」

 

 全員で一列に手を繋ぎ、飛び跳ねて写真を撮る。そして結果は

 

「あ、ぼっちのパンツが」

「とんでもない写真撮れちゃったな~」

「あ……無価値な物を映してすみません。消してください」

「もっと可愛い反応を期待してたんだけど……」

 

 自己肯定感の低いひとりは自身の下着を見られても恥じらいもせずに無価値と断じていた。なお、彩加は一番端に陣取っていたのだが、写真を見て一言。

 

「これ、私もスカートの方が良かったか?」

「いや、別にどっちでもいいけど」

 

 本来なら統一感があった方が良いのかもしれないが、それは強要してまで演出する必要は無いと虹夏は思っている。バンドメンバーの結束は重要だが、それを無理矢理演出するのはただの弾圧と変わらず、却ってバンド内に不和を生みかねない。

 

 とはいえ、多少方向性はズレているにせよ彩加が他者を気遣うというのは虹夏としては嬉しいものがあった。

 

「で、どうする?」

「撮り直すに決まってるでしょ! メンバーのパンツ見えてるアー写なんて有り得ないからね!? 公序良俗に反してるよ!」

「ボードレールの詩集のようにか」

「ボードレールってそんな過去があったの?」

「『悪の華』出版直後に風俗壊乱で起訴されたよ。一方で、芸術家達は『新しい戦慄の創造』と讃えたが」

「何だそのロックな詩人は。今度貸して」

「はい撮るよ!」

 

 虹夏が彩加とリョウの文学談義をぶった切って撮影を再開する。この二人に会話をさせるといつも脱線してしまうのだ。そして、再びジャンプして撮影した写真は

 

「……うん。良いと思う! バンド感に青春っぽさがプラスされたね!」

「写真のデータ貰っていいですか?」

「あっ私も……」

 

 虹夏がロインで写真のデータを全員に送信する。彩加のスマホにも送られ、今一度写真を見る。彩加は端の方で帽子を片手で押さえながら跳んでいた。NGは出ていないため、無駄な格好付けと思われてはいないようだ。

 

「人気バンドへの夢にまた一歩近づいた! 結束バンド、これから本格始動だよ!」

「バイオリン用の機材も買わねば」

「夏までに曲作って(未定)ライブ(未定)! デモCD配布(未定)! 今冬ファーストミニアルバムリリース(未定)! 下北沢発祥のエモエモなエモロックバンドになる予定!」

「確定情報が何一つないですね!」

「えもえも……えもろっく……?」

「彩加、そこで首傾げないで」

「にほんごではなそ……?」

「おばあちゃん、これは日本語だよ?」

「私は高校二年次の16歳だ」

 

 とはいえ、曲は彩加のインスト曲を除いて、ひとりとリョウに一任されているために現状何も言えないのは事実である。

 

(さ、作詞の事すっかり忘れてた!)

 

 なお、ひとりは作詞の事で悩んではいたがアー写撮影会のごたごたですっかり忘れていたようである。そしてリョウはいつの間にか立ち去っていた。

 

「もー、ホント自由だなー。リョウは。とりあえず今日はありがとうね! かいさーん!」

「さて帰るか」

「あっ、まっ、待って……」

「ん?」

 

 虹夏の言葉に倣って帰ろうとした彩加をカーディガンの裾を引っ張って止めるひとり。振り切れない力ではないが彩加はその場に止まった。

 

「どした? ぼっちちゃん」

「あっ、あっ、あの……彩加先輩を借りてもよろしいでしょうか!?」

「別にいいよ?」

「私本人の意向は無視か?」

「彩加もちょっとは親睦を深めなよ。どうせこの後暇なんだし」

 

 というわけで、彩加はひとりと残る事になった。だが、ひとりの方は緊張が収まらない。少し評価が変わったとはいえ、ひとりは基本的に彩加を怖い人物だと思っている。どこぞの異能力者達のように『汚れっちまった悲しみに』や『交際よ、汝陰鬱なる汚辱の許容よ』、『僕の青春は悲惨な嵐に終始した』というような無数の文字で構成されたオーラが常に漂っているような幻覚を見ていた。

 

「で、私に何の用だ?」

「あっ、あの……作った歌詞を見て欲しくて……」

「私に? 山田に見せた方がいいんじゃないのか? 曲を作るのはアイツだぞ」

「あっ、彩加先輩なら……気を使わないと思ったので。後でリョウさんにも見せますけど、歌詞を見て気を使って慰められたりしたら……」

「……度胸がいいのは認める」

 

 本人を目の前にして好き勝手いってくれるものだ。と彩加は思った。ならリョウと三人揃った所に見せればいいと提案したが、ひとりは一気に二人に見せるのは精神が持たないと言う。彩加は何が違うのか分からないが、コミュ障とはそういう生き物だと言われてしまった。

 

「お前……『伊地知彩加()が理解できない』とでも言いたげな顔をしているが、私からすればお前の方が不可解だ」

「あっ、えっ」

「お前のその臆病な目は、自分も他人も信じていない。にもかかわらず、無謀な行為に挑んでは玉砕する……その矛盾した自尊は何処から来る?」

「あっ、えっ、えああああぁぁぁああああ!」

 

 ひとりは焦った。根本を言えば「人気者になってちやほやされたい」の一言なのだが、それを理路整然と説明できるだけの力は無かった。

 

「せっ、世界平和です!」

 

 故にこのような荒唐無稽な嘘に走ってしまう。だが彩加は「……そうか」と信じているともいないとも判然としない返事をして、返事と共に差し出されたノートを見る。そして、その歌詞が書かれたページを見た。

 

 そこには『心折れそうな君に送るエール』『世界中の頑張る君にファイト!』『夢は必ず叶うよ』などの言葉が書かれた応援歌のような歌詞が書いてあった。それを読んで彩加は一言。

 

「存外『世界平和』とやらは真剣に考えていたんだな」

「っ!」

 

 ひとりは言葉を発さなかったが、彩加は彼女の様子を見ただけで分かった。作詞者はこの歌詞に納得していない。

 

「あっ、バンドらしく……陽キャの喜多さんに合うような歌詞を作りました」

「……残念ながらそういう方面での評価は私には出来ない。バンドも陽キャも知らないからな」

「あっはい……」

「故に、私が言えるのは私自身の感情だけだ。私は、この歌詞があまり好きではない。無論、響く人間には響くだろうがな。『夢は必ず叶う』『絶対に信じ続ける』……挫折の味を知らぬ、無責任な第三者の戯言だ」

「……っ!」

 

 ひとりは驚いていた。基本的にクールな彩加が感情を顕にし、自分が思っている事を正確に言語化したことに。

 

「自分語りで恐縮だが、私は実家では落ちこぼれの烙印を押されていてね。結局、方向性が合わないままに追い出された。私の所有物を忌むべき禁制品とでも言うように捨てられた。本だけはなんとか死守したがね」

「………」

 

 ひとりは彩加の口から語られる過去に言葉を発せなかった。そこまで壮絶な過去を抱えているとは思っていなかったのである。

 

「家の奴らは私を燃やすのが楽しかったのだろう。物が火に食われ、黒ずんで、別の何かに変わってゆくのは格別の快感だったろう。自分達を正義とし、その口で有毒のケロシンを撒き散らし、眼の奥には華氏451度の世界が映し出されていた。紙が引火し、自然発火する温度の世界だ」

 

 そして彩加はもう一度ひとりの歌詞を見た。そして溜息を吐いて返した。

 

「私がこの歌詞に反感を持ったのは、私の敵と同じ毒と高温を感じたからだ。要するにただの八つ当たりだ。悪いな」

「い、いえ……」

「私はお前の力作を感情に任せて否定した。これで分かっただろう。私に歌詞の評価などできない。他人の利益を度外視して、この歌詞を燃やそうとしたのだから。結局、血は争えんな」

 

 彩加は気付かぬうちに涙を流していた。あまりに高温で、毒すらも含む涙であった。ノートを持っていたら、落ちた涙で引火するかと思われた。

 

(ああ、全く……前に見た夢は、物が燃えてゆく夢はまさしく未来の暗示だ。結局、私は排除される少数派だ。物書き達よ。邪悪な思想に満ちた者達よ。タイプライターに錠を掛けてしまえ! 私の感情など皿を洗った後の汚れ水である事などとうに知っていたというのにな。鼻つまみの俗物評論家連中は正しかったわけだ。平和か! 平和のために私は燃やされるというわけだ!)

 

 彩加は自嘲するような嗤い声を上げていた。人はいつも風変わりな存在を嫌う。鉛の人形のように黙りこくった人間達は、彩加のような銃の思考を持つ人間など排除する以外に方法など持たない。

 

「でっ、でも……!」

 

 そこで、ひとりが声を上げた。彩加の視界で、鉛の人形が動く肉塊となった。

 

「わっ、私は、彩加先輩の考え方、嫌いじゃないです! 炎のように熱くて、毒も刃物も含んでいるけれど、でも、とても綺麗だと……思いました」

 

 少なくとも、昇火士(ファイアーマン)が吐きだすケロシンの炎よりも、彩加が弓と弦の摩擦で生み出した花火の方が綺麗だとひとりは語った。彩加はまだ怖いけれど、その中に美しさも秘めていると感じた。ひとりはそう語った。ノートを持つ指の先で、触れている紙の一端が燃えているかのような錯覚を覚えながら。

 

 歌詞についての根本的な問題は解決していないが、今だけは引火して、燃やして、紙の束を赤く盛らせ、放火した歌詞を、昇華させ……飽きるまで熱と光を妬けるほど愛して……体内に燻る魂に捧げる。そう思いながら。

 




彩加のイソスタデビューとアー写撮影会と歌詞の談義の三本でした。繰り返し言いますが、彩加はぼっちちゃんの事が嫌いなわけではありません。ただ、コミュ障相手でも言いたいことは言うタイプというだけです。

備忘録

CHRONICLE:彩加のイソスタでのアカウント名。生きた年代記を焼却される前に残したかったのだろう。

文字のオーラ:某ストレイドッグスの異能力者の能力発動シーンが元ネタ。彩加のオーラは前半二つが中原中也の詩『汚れっちまった悲しみに』と『羊の歌』、最後の一つはボードレールの詩『敵』の一部が含まれていた。

彩加の思い:実家で弾圧された経験から、思想の焼却や平和のためと称した全体主義を嫌う。攻撃的な思考回路を有する反面、自分の炎が他者を燃やしてしまう事を恐れている部分もある。この心理描写はレイ・ブラッドベリの『華氏451度』を基にしている。
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