ダンジョンで悪魔と契約するのは間違っているのだろうか?   作:コタツ丸之助

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悪魔からの手紙

家を出たあと初めて行く服屋に入りサタンに大量の服を買ってもらった。その結果、現在のウィリアムの服装は長袖の白のシャツに下はタイトな黒のパンツとシンプルな服装であった。しかし、生地がいいのか決して安っぽくは見えずむしろ自然体な感じがしてウィリアムもとても気に入っていた。買ってもらった服を来て街を歩くといつもより少し背伸びをしたような気分になった。

 

その後向かったギルドでサタンは、自分のことを『東方に存在する付喪神の一柱です』とウィリアムには理解不能なことを言っていた。ギルドの受付嬢は駆け出しであり、若いウィリアムが自分の身体に合ってない大鎌を持っていることなど、かなり訝しんではいたがサタンが手を握り耳元で何かを呟くと顔を赤くしながら急いで登録を済ませていた。

 

説明が終わり今からダンジョンに潜ろうとした際に、サタンから急に呼び止められ胸ポケットに手紙を入れられた。困ったら読むようにと言われたその手紙の存在は初めてのダンジョンでの高揚感に掻き消されウィリアム自信すっかり忘れていた。

 

「こ、これがモンスター!!」

 

ダンジョンで初めて出会ったモンスターはゴブリンだった。初めて見る異形に足が竦んだ。そしてその事実に仄暗い怒りを感じた。あの雨の日の時と同じように震えることしか出来ないのか。それはあの時の自分の慟哭が嘘になるような気がした。そう思うと少し、自分の血液と腕の刺青が熱くなるのを感じた。そして大声を上げながらゴブリンへと向かい闇雲に大鎌を振り回しようやく倒すことが出来た。

ウィリアムは魔石を回収しながら先程の自分のみっともない姿を恥じていた。

 

(嗚呼…僕はなんて弱いんだ。許せない。弱い自分が。きっと母を殺したであろう冒険者ですら倒せるはずのモンスターにすら震えていた臆病な自分が憎い)

 

頭の中が怒りの感情で満たされていく。自分の中で力が膨れ上がるような感覚を覚える。

 

『力が欲しいかい?』

 

最後にあの時のサタンの声が頭の中で聞こえたような気がした。そしてウィリアムは憤怒の感情に呑まれダンジョンを下へと向かっていった。

 

ゴブリンやコボルトを狩り続け下へと進んでいく。気づくと目の前に今日初めて会うモンスターが現れた。昼に受付で『まぁ初日から会わないと思いますけど』と一応説明を受けた黒い影のようなウォーシャドウと呼ばれるモンスターだった。別名《新米殺し》とも呼ばれるそのモンスターは今までのゴブリンやコボルトに比べて遥かに強かった。

長い腕と三本の鋭利な鉤爪を持ったそのモンスターとの戦いは激戦だった。ウィリアム自身も大きくはないが数箇所傷を負った。戦いが終わるとここまでの使い方が悪かったのか、大鎌の先が折れてしまいただの棒になってしまった。

 

何もいなくなったその場所に魔石が落ちたのを見てようやくウィリアムは我に返った。

 

「あ、今まで倒したモンスターの魔石拾うの忘れてた」

 

モンスターは倒される時に魔石を落とす。強いモンスターの魔石ほど効果に取引きされていて冒険者の収入源の一つとなっている。意識は呑まれていたが記憶はあるので自分がかなりの損をしていることに気づいた。

 

(そう言えば親父も冒険者が上層で殺したけど拾わなかった魔石を拾って帰ってきた日はものすごい幸せそうな顔をしていたな)

 

冒険もせずに金に交換できるものが落ちているなら拾う冒険者の方が多いだろう。ウィリアムはそう考えると自分が落としてきた魔石は諦めた。

 

「まぁいいか。初日から六階層まで来るなんてそうそうないだろうし。腹が減った訳でもないけど帰り道に倒したモンスターの魔石だけ拾って帰ろう」

 

仕方がない。そう思って来た道を戻る。しかし階層の入り口を通ろうとした時に異変に気がついた。五階層へと続く道に進めないのである。

 

(階層を戻れない?そんな話を受付嬢の人していなかったはず)

 

それから三十分程試してみたがどうやってもそちらへと進むことはできなかった。他の冒険者はすんなり通れていて、悪戦苦闘している自分を変質者でも見るような目で見ていた。

 

(本来なら声をかけた方がいいんだろうけど……いきなりサタンのことがバレるのはなぁ)

 

例えば声をかけてギルドに救助を要請した場合誰かしら助けに来てくれる可能性はあるだろう。しかしそうなった場合、自分の主神のフリをしているサタンのことと自分の力についてバレてしまう恐れがあった。

 

(そういえば…手紙!あの悪魔ならこのことについて何かアドバイスを残してくれている可能性もある)

 

あの悪魔からしても冒険者登録当日に目立ってしまうというのは本意ではないだろう。この事態を想定していなかったとは思えなかった。一縷の望みをかけて手紙を開く。手紙は綺麗な文字で丁寧に書かれていて意外と長文だったので壁に腰かけ座って読むことにした。

 

『 どうもサタンです。この手紙を読んでいるということはダンジョンを上がれなくて困っているのかな?

 

私は受付嬢の話を全く聞いていなくてね。どんなモンスターがどこにいるかとかは分からないんだけど出来れば君が深い階層でこの手紙を読んでいることを望んでいるよ。

 

浅い階層にいるとしたら少し悲しいかな。君の怒りはその程度かい?そう言えば剣姫の2つ名を持つ冒険者は1年でレベル2になったそうだよ。彼女は彼女で歪んでいるようだし私は声をかける相手を間違えてしまったんだろうか。

 

もうわかっていると思うけど、君が階層を上がれない原因は私にあります。私の魔法で君のお腹が空くまでは帰れないようにしました。

 

あぁそう怒らないでおくれよ。元々原因は君なんだから私の愛情に対して君が言った気持ち悪いという言葉。あれには非常に傷つきました。そこら辺の神からの攻撃ですら傷をつかない私に傷をつけるなんてなかなかやるじゃないか。今から服やら武器やら買ってあげようと浮かれている私にあんな酷いことを言うなんて。悲しすぎて思わず店の中で一番酷い大鎌を選んでしまった。

 

私は割と根に持つタイプでね。昨日の私のとても優しい愛の溢れる提案のことを思い出して、お腹が減ったら戻れるよう君に魔法をかけたんだ。

 

まぁ君に対しての軽い催眠みたいなものでダンジョンに何か細工をしているわけじゃないから安心してください。

 

あとモンスターの攻撃を受けたりした場合、耐久が上がりやすくなったりとかもあるらしいよ?防具を買わなくて正解だったね。

 

もし、命が危なくなった場合の緊急策としてモンスターの血を飲むことをオススメします。悪魔の眷属には生き血でそれなりに回復したりする奴もいるそうなのでね。

本来なら人間の方が回復には良いんだけれど、もし、そうなった場合証拠は残さないようにね。死体は残らないように【ゲヘナ】で焼却するといいよ。

 

長々と語ったけれど最後に、お腹が減ったら帰ってきて可愛い顔を見せておくれ。間違っても死なないようにね。美味しいご飯を用意して待っています。

 

親愛なる我が子へ愛をこめて

サイスファミリア 主神サイスより

 

追伸:今死んだら弱すぎるので地獄で普通の罪人として処理します。』

 

(ち…小さすぎる。器がどうのこうの言っていたけどお前だろ……クソ悪魔め。のらりくらりと防具を買わなかったのもこれか!あの異常者が!!絶対にいつか殺してやるッ!!)

 

読んでいる途中から強烈な怒りに襲われた。身体中の血液の巡りが早くなっているように感じる。また、先程までもそうだったが怒りの感情が大きくなるにつれてあの悪魔がいれた刺青が明らかに熱を帯びている。

 

このふざけた内容の手紙をサタンがいつも通り微笑みながら書いていると思うと余計に怒りが湧いた。また、最初の戦闘で強くなる決意を固めたはずの自分が6階層でウォーシャドウと一戦交えただけで落ち着いていたことにも再び腹が立った。

 

(結局どこかで甘えていたのかもしれない。ゆっくりと自分のペースでなんてもう俺にそんな道は残されていないというのに)

 

サタンと契約が成された時点で普通に生きる道はなかっただろう。しかし、サタンに言われた通りあの時の自分が生きる為にできることがそれだけだったこともまた事実だ。

 

(小さい頃に読んだ英雄譚と少し違うだけだ。誰かの為に戦う英雄にはなれなかったのかもしれない。───なら僕は自分の為に格好良い冒険をしよう)

 

ウィリアムはそう決意を固めると入口から離れる。なるべく人気の無い方へと進んでいくといつの間にか周りをゴブリン数体とウォーシャドウ三体に囲まれた。

 

「ゲヘナ!」

 

ウィリアムは囲まれたと気づくとウォーシャドウの一体に今まで使ってこなかった魔法を発動した。身体の中から〖精神力〗が大分減ったのを感じる。するとかざした手から赤黒い炎が放たれた。

ウォーシャドウに向かって進んだその炎はその身体に触れると急激に広がりウォーシャドウを包みそのまま黒い霧へと変えた。

そもそも今まで魔法を使わなかった理由は受付嬢から説明された【精神疲弊】を恐れてのことである。精神疲弊すること自体は勿論困るのだがウィリアムの場合、【悪魔血脈】の効果がある。恩恵を刻まれた時に感じた自分を内側からも外側からも焼くような痛みを再び味わうのが怖かったのだ。

 

「ゲヘナッ!!」

 

ウィリアム精神力が減っている感覚を無視して二体目のウォーシャドウにも再び魔法を放ち霧へと変えた。

 

「ゲヘナァァッ!!!」

 

三体目に向かって魔法を放ったあと全身が自分の魔法とと同じ炎に包まれた。不思議と肌が焼き爛れるようなことは無かったが脳味噌をかき混ぜらるような痛みと全身を焼かれるような痛みが同時に襲ってきた。

 

「ガァァァァァァァァッッ!!!」

 

一回経験したからだろうか何とか耐えることが出来た。それと同時に自分が再び魔法を使える状態になってるいことがわかった。

 

(…三回が限界か)

 

次にウィリアムは自分の後ろから近づいてきていたゴブリンを殴り飛ばすと首を鷲掴みそのまま握りつぶす。返り血を口に含むと残飯を漁って生活していた時に食べた物と似た味に思わず顔を顰める。

 

「ハハッ」

 

あまりの不味さに思わず笑いが漏れた。しかしそれと同時に変わらず伝わってくる自分の腕の熱からウィリアムは気づいてしまった。この不快感では自分の中に渦巻く怒りを消すには足りないということに。

 

少しの間動きを止めていたせいだろう。1匹のゴブリンの牙が自分の腕へと突き刺さっていた。ウィリアムはそのゴブリンを殴りつけると一匹目と同じようにして血を飲んで殺した。すると少しばかり体が楽になったように感じる。

 

(嗚呼…足りない。こんな力じゃ全くこの怒りは収まらない。この不味さも所詮、経験した事のある程度のものでしかない。これじゃ駄目なんだ。足りない。力が。覚悟が。冒険が)

 

「お前らじゃあ足りないんだよ!!!」

 

そう叫ぶと片手に折れた刃を持ちもう片手に柄の部分を持ったウィリアムは残りのゴブリンを無視して下の階層へと向かって走っていった。

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