東方災愛録   作:乾き塩

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司書が必要かと

 

 春菜が案内し、早苗が補足。霊夢が周りに睨みを効かせる。

 役割分担を行なった部活動案内は、つつがなく終了した。途中、野球部が絡んでくるという出来事はあったものの、霊夢の威圧を受けて大人しく引き下がった。

 最後にテニス部に案内され、顧問の佐清が別人と入れ替わっているのを確認した。霊夢たちの去り際に怪しい笑みを浮かべていた。そうでなくても、霊力の流れや質、霊夢の直感などもあって、佐清が偽物だと確信していた。

 後ろから向けられる笑みにむかついた霊夢は、近くに落ちていたテニスボールを霊力で操って偽佐清の脛に叩きつけた。

 悶絶する声が背後から聞こえる。気になった春菜が振り返ろうとしたが、早苗に話しかけられて確かめる事は出来なかった。

 

 あとは教室に戻るだけ。そう考える春菜の前で、先を歩いていた早苗が突然進路を変えて階段を昇ろうとする。

 

「東風谷さん、教室はこっちだけど」

 

「いえ。どうせなら、私たちの部も紹介しておきたくて。正式な発足こそまだですが、休憩も兼ねて見ていきませんか?」

 

「早苗たちの部活!? うん、見てみたい!!」

 

 理科室や音楽室が集まっている特別教室棟。2階までは教室のある校舎とも繋がっているが、その上は完全に独立してしまっている。

 また一年の教室も一階にある為、ここで昇るのは遠回りにしかならない。

 校舎内だけでなく外にも出たのだから、休憩を提案した早苗の気持ちは分かる。ただ早苗たちの部室が何処にあるのかは分からないが、教室まで戻った方が早いような気がしていた。

 とはいえ、ララが興味を持った以上、春菜も口を挟むつもりはなかった。今日一番の反応を見せるララを見ては、早苗の提案を断れなかった。

 

「そう言ってもらえて何よりです。ではでは、こちらへどうぞー」

 

 早苗に続いて、階段を上る。二階、三階、四階と来て、更に上へ。五階への階段に足をつけ、ふとある疑問が春菜の脳裏をよぎる。

 

 ────ここって、四階までしかなかったような? 

 

 特別教室棟に来る機会が少ないので曖昧だが、ここは四階までしかなかったと記憶している。先ほどまでの部活動案内では、一階から四階までの特別教室を利用する各部活動を紹介している。

 中には休みなのか無人の部屋もあったが、一通りは回っている。その最中、五階には行かなかった。記憶にあるここの外観は四階までしかなく、案内をした時も四階までしか回っていない。

 だからこそここは四階までしかないと思っていたので、これから五階に向かうというのは奇妙な話だった。

 

 ────まさかね…………。

 

「春菜、どうしたの?」

 

「ううん。なんでもないよ。少し、考え事」

 

 考え込んでいる様子の春菜に、ララが声をかける。様子のおかしい春菜を気にしての行動だったが、春菜の返事を聞いて納得していた。

 

『存在しない階層』

 

 脳裏に浮かび上がった不穏な言葉に、春菜が小さく身震いする。ホラーというジャンルを苦手とする春菜にとって、この言葉は足取りを重くするのに十分なものだった。

 しかしすぐに考えを切り替える。早苗たちは自分たちの部室に案内すると言った。それはつまり、部室があるであろう五階にはいつでも来る事ができるというもの。

 七不思議の題材にも使えそうな場所が、放課後とはいえ、日も出ている時間に行き来できるとは思えない。

 早苗の口ぶりからして五階を訪れたのも、一度や二度ではないだろう。

 それなら、話は簡単。単なる自分の記憶違い。

 そう結論づけた春菜は、安堵のため息を吐いて足取りを軽いものとする。

 ホラーを苦手とするからこそ、自己防衛の為の理論武装は完璧だった。

 そんな春菜の背中を、最後尾を歩く霊夢が眺めていた。霊夢は特に何をするでもなく、小さく肩を竦めて階段を上りきる。

 そうして霊夢が五階に足を踏み入れると同時に、四階にあった上り階段が姿を消した。残ったのは三階への下り階段と落下防止の塀のみ。

 五階への階段は、最初からなかったかのように姿を消していた。

 

 ────本当の事を知ったら、泡吹いて倒れるでしょうね。

 

 そんな霊夢の考えなど知るわけもなく、春菜は最初の心配も杞憂だったと思い直していた。その理由は五階の雰囲気にあった。

 人がいないのを除けば、他の廊下と大きな変化はない。にも関わらず、隅々まで掃除が行き届いている。廊下には埃が溜まっている事もなければ、窓はピカピカに磨かれている。

 廊下を上ったところで、早苗が向かったのは近くの突き当たりだった。ほとんど使われていないその部屋は、学校の教室には珍しい両開きの扉だった。

 入り口の上には『図書室』と書かれた札が設置されている。春菜が知るのとは異なる図書室。こんなのあったんだ。と呟きながら、早苗の後を追って部屋へと入った。

 

「ここが我々が新たに立ち上げる部活動、『TRPG部』です!!」

 

「好きにくつろいでちょうだい。家具は新しいのを運び込んだから、座った瞬間に壊れたりもしないから」

 

 自慢げに部屋を紹介する早苗とくつろぐように促す霊夢。部屋全体の雰囲気は古めかしさを感じるが、置かれている机などの家具は新しいものが揃っていた。

 長机とその周りを囲むように置かれたソファー。空の本棚に大きめのレターケース。ポットや電子レンジが収められた棚に、冷蔵庫といった家電。ガスコンロまで設置されており、その近くには緑茶をはじめとする各種飲み物まで揃っている。

 部屋の一画には八畳の畳が敷かれており、ちゃぶ台や和風の棚などが置かれている。

 部屋の隅にはダブルベッドまで置かれており、その気になればここで生活すらできそうだった。

 案内されるがままにソファーにまで案内され、ララと春菜が隣り合って座る。今までと異なる様相の部室に、ララだけでなく春菜も興味を示した。

 

「驚いたでしょ? 部室とは名ばかりの溜まり場にするつもりだから、色々と持ち込んでるのよ」

 

 二人の対面に霊夢が座る。その表情は、どこか得意げだった。

 

「しかも、冷暖房完備。筆記用具も揃っていますので、部活動だけでなく、お昼寝や勉強会にも使えますよ」

 

 そう言って霊夢の隣に座る早苗…………ではなく、赤髪のショートヘアー。白いシャツに黒いベストとロングスカートを着用した女性が座る。

 明らかに生徒ではない服装。見覚えこそないが、ここの顧問となる教師だろうか? と、霊夢に視線を向ける。

 当の霊夢は訝しげな視線を赤髪の女性に向けており、ソファから飛び退いて身構えていた。

 

「何であんたがここにいるのよ」

 

「図書室なら、司書が必要かと思いまして。パチュリー様からの許可も頂いて、私がここに来る事になったんです♪」

 

 霊夢からの問いかけにショートヘアーの小悪魔、通称ショコラは楽しげに答えた。

 放課後のわずかな時間や休日にここを利用する場合は、彼女がここに来る事になるらしい。

 移動方法は? などという疑問は、最初から抱いていない。霊夢の視界の隅。天井の一部に常人には見えない陣が刻まれているのが見える。

 これを媒介にして、紅魔館とこの部屋を転移によって行き来しているようだった。

 招かれざる客に警戒していた霊夢だったが、相手が身内なのもあってすぐに警戒を解く。

 考えてみれば、これは渡りに船でもあった。彼女にGMを任せれば、部員全員がPLとしてゲームに参加できる。順番にGMを回すのも面白いが、全員参加が可能というのはまた違った面白みがある。

 それをショコラとその主人であるパチュリーも分かっているのだろう。無断でショコラを呼んだ事に思うところはあるが、理由が理由だけに許す気になっていた。

 内輪での話が落ち着いたところで、ショコラが立ち上がり正面を向く。ララと春菜に視線を巡らせると、満面の笑みを浮かべた。

 

「はじめまして。私、パチュリー・ノーレッジ様に仕えるショコラと申します。普段はある図書館で司書をしているのですが、皆さんがここにいる間は、私がお世話をさせていただきます。どうぞ、お気軽にご用をお申し付けください」

 

「よ、よろしくお願いします…………」

 

 突然現れたとしか言いようのない登場とは裏腹に、丁寧な自己紹介に春菜が困惑する。話を聞く限り明らかな部外者だが、堂々と校内に入り込んでいる事から、許可はとっているのだろうと誤った認識をしていた。

 一方、小悪魔が口にした名前に心当たりがあるララは、軽い挨拶を返しながらもそれに食いつく。

 

「ねえねえ、ショコラってコーマカンに住んでるの?」

 

「そうですよ。まあ、私たちの主な生活圏は紅魔館にある大図書館ですから。大図書館に住んでる。と言った方が正しいかもしれませんね」

 

 リトと一緒に夜の街を駆け回ったその日。リトが帰った後もレミリアたちと話していたララは、彼女の住む紅魔館についての話も聞いていた。

 その中には住人に関する話もあり、親友であるパチュリーについても聞いていた。ショコラについては直接聞いたわけではないが、パチュリーの従者が図書館にいるのも聞いている。目の前の女性がその一人なのだと理解し、興味を示すに至った。

 

「ショコラの詳しい話は、また今度にしましょ。それより。早苗ー! お茶、一人分追加でねー」

 

「はーい♪」

 

「あ、私も手伝います!!」

 

 簡易的なキッチンとなっている場所から、早苗の元気な返事が返ってくる。立ち上がったショコラもキッチンに向かい、湯呑みなどの準備を始める。

 しばらくしてお湯が沸く。人数分の緑茶を用意したショコラが運び、早苗は冷蔵庫から人数分のお茶請けを取り出した。

 

「お待たせしました。秋冬春夏のいちご大福で〜す♪」

 

 早苗が運んできたのは小さめの大福だった。一口大のそれが一皿に五つずつ乗っている。

 自分の目の前に皿が置かれると、ララは目を輝かせて皿の上を見つめていた。初めて見る大福は好印象のようで、そのまま食べてもいいと聞くと一つ摘んで口の中に入れる。

 口にあったようで、笑みを浮かべるララが大福を味わっている。その様子を横目に、春奈も自分の分の大福を摘んで口に運んだ。

 

「美味しい…………!!」

 

 目から怪光線が出たり、服が弾け飛んだりはしないが、その味に春菜は衝撃を受けていた。

 あまり食べる機会がないものの、春菜が今まで食べてきた大福の中で、このいちご大福が一番美味しいと断言できるほどだった。

 二つ目の大福に手が伸び、隣にある湯呑みに方向を変える。ハイペースで食べ進めるのは、はしたない。同時に、すぐに食べ切ってしまっては勿体無いと感じていた。

 

「早苗! これも、あの商店街で売ってるの!?」

 

「はい! 第二彩南商店街、『秋冬春夏』で取り扱っているいちご大福です! このお店、和洋問わず、四季折々の果物や野菜を使ったスイーツが揃っていまして。特に秋に出るものは、これは食べずに死ねるか! ってくらい、絶品なんですよ!!」

 

 説明口調で早苗が店を紹介する。春菜への紹介も兼ねているようで、わざわざ商店街の名前も出していた。

 当然、覚えのない名前に春菜が首を傾げる。都合上、口頭では説明できないので、また案内すると詳細を伏せる。

 不思議そうにしていた春菜だったが、そういうものかと納得した。わざわざ『第二』と付いているのだから、よく知る商店街とはそれなりに離れているのだろう。

 それこそ郊外にある小さな商店街だとしたら、知らなくても納得ができた。

 商店街について考えながら、無意識のうちに二つ目の大福を口に運ぶ。その様子を見ていた霊夢が、口元を緩めた。

 

「これが口に合うなら、他のも気にいるはずよ。良かったら、また遊びに来なさい。来客用に、食べるものは多めに用意してるから」

 

「いいですねえ。TRPG仲間が増えるのは大歓迎です。ミ=ゴをゴ=ミ呼ばわりするくらいまで、TRPG沼に引き摺り込みますよ!」

 

「解釈違い甚だしいわ」

 

 ミ=ゴをゴ=ミ呼ばわりする春菜を見たくない霊夢が、早苗の頭をはたく。

 抗議する早苗の頭を、霊夢が片手で抑える。唐突に始まった押し合いを尻目に、ショコラが話を引き継ぐ。

 

「盛り上がってるところ悪いんですが、必要なものを運び込んでないので、TRPGもできないんですよね。興味があれば、今度の日曜日、午後からこの部屋へ来てください。ルールブックとかを運び込んで、そのまま遊ぶ予定ですので」

 

「確か、結城にも手伝わせるって言ってたわ。居酒屋で奢った分、働かせるそうよ」

 

 居酒屋という単語に春菜がギョッとするが、ララと出会った日に行ったと聞いていたのを思い出す。

 それよりもリトが来ると聞いて、その日のスケジュールを脳内で確認する。

 

 ────その日は午前中で終わって、午後からは予定がなかったから、大丈夫かな? 

 

 幸いな事に、その日のテニス部の練習は午前中に終わる予定だった。一度帰宅して昼食を食べた後、この部屋に来る事はできる。

 リトが来ると分かっていて、春菜自身の予定も空いている。

 ララという強力なライバルが現れた以上、この機を逃す理由はなかった。

 だからといって、ララと仲良くなれないというわけでもない。その後は和やかな雰囲気のままお茶会は続いた。おかげでどうしても意識はしてしまうものの、友達と呼べるくらいには距離が縮んでいた。

 

 

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