ペアで始まった肝試しだったが、今では7人という大所帯となっていた。ララと唯が持つ提灯に、ヤマメが持つランタン型の懐中電灯も合わせた三つの光源。
森の暗さも気にならず、大所帯とあって肝試しの雰囲気ではなくなっていた。
おかげで春菜も残っていた恐怖心が薄れたようで、いつも通りとはいかなくとも平常心は取り戻していた。
ただ暗闇を恐れているのは変わりないようで、光の届かない道の先を見る時は怯えた目に変わっていた。
「蛮奇って、有栖たちの友達だったんだ!」
「ええ。近くに来たついでに様子を見に来たのだけど、道に迷ってしまってね。恥ずかしいから黙っていたの。ごめんなさいね」
ちょっとした悪戯だったのは、無かった事にされた。
元の道に戻ったリト達は、神社へ向かう事にした。距離を考えれば、引き返す方が短く済む。しかしその分、密度が高くなっている可能性がある。
どうするか、という相談の後にゴールである神社を目指す事になった。
人数を割いている分、距離がある方が密度は低いはず。すぐに動けば、スタート近くの人員が合流する前に抜けられる。人数が揃っているからこその策もあるので、敵中突破を狙う事にした。
「肝試しで囮なんて、非常識よ…………」
「いいじゃない。それで助かる命があるんだから、気にしない気にしない」
「確かに怖いのは苦手ですけど、そこまでじゃありませんよ!?」
ショック死の心配をされていと知り、春奈が珍しく声高に驚く。
実際に春菜の様子を見ていたリトもそれはないと同意し、見ていない唯も表現がオーバーなだけと認識している。
なおヤマメが心配しているのは春菜ではなく、恐怖が限界に達して暴走する春菜に振り回されるリトだった。
肝試しの対策。囮を使っての誘因と森中を偵察するという、二つの策を同時に実行していた。
囮役の一人でもある赤蛮奇は、自身の首たちを森の中に潜ませて周囲を偵察してる。
春菜たちも知らないこの作戦は囮を実行するにも、必要な事だった。
森の中を調べ、お化け役を見つけるとその前を通るように近づいて行く。道の反対側を通って囮をスルーされ、後続の春菜たちに接触するのを避ける目論みがあった。
特殊メイクをして茂みから飛び出すだけの脅しが、妖怪である赤蛮奇に通じるわけもない。もう一人の囮であるララも、動じた様子はない。それどころか相手の特殊メイクをおもしろいの一言で片付け、心をへし折る。
赤蛮奇からすれば、隣を歩くララの方が怖いくらいだった。
「それにしても、おっかないねえ。無自覚に人の心を抉ってるよ。これが純粋さのなせる業か」
「うぅ…………。私も、あの子を驚かす時は注意しないと」
「心配しなくても大丈夫だって。あんたが人を驚かすには、幾つもの偶然が重ならないと無理なんだから」
「え」
暗に人を驚かせる適性がないと告げられ、小傘が硬直する。
そんな小傘を置いて、ヤマメはララ達の後を追う。放っておいて良いのかとリト達が目で問いかけていたが、すぐに復帰した小傘が駆け足でやって来る。
「もう、冗談はやめてよね。私には、切り札だってあるんだから」
「…………確かに、あれは怖いけどさ。っと、こんな話もつまらないねえ。もっと、明るい話題にしようか」
せっかく春菜の恐怖心も和らいできたのに、この話題を続けるのはリスクしかない。
てきとうに話をはぐらかし、話題を変えようとする。
雰囲気を明るくしようと、前を歩く二人を呼び戻す。
ララ達が戻ったところで、一旦足を止める。赤蛮奇が密かに周囲を監視する中、ヤマメがこれからについて説明する。
「なに、ちょっとしたお遊びだよ。初心者とはいえ、ソード・ワールドのプレイヤーが揃ってるんだ。これを使わない手はないと思ってね」
ヤマメが意味深な笑みを浮かべる。リトと唯が思わず身構え、春奈が不安げな表情を浮かべる。楽しそうな雰囲気を察したララは、期待から表情を輝かせた。
「ソード・ワールド番外編、と言ったところかね。要は恐怖を紛らわせる為に、一芝居打とうって話さね」
そこからヤマメによって、芝居の舞台設定が語られる。
リト達のパーティは依頼を受け、ある村を訪れていた。
依頼は近くの森に夜な夜な現れる、謎の生物の調査。遭遇した村人に危害を加える事はなかったものの、この辺りでは見ない生物なので村の人々も怯えている。
ひとまず目撃された生物について調べ、必要であれば退治して欲しいという内容だった。
少し恥ずかしいけど、それくらいならとリトが納得する。ララは最初から乗り気で、春菜も少しでも怖くなくなるかもという理由から頷く。そして三人が賛同した事で、唯も頷かざるを得なくなっていた。
神社までは残り200メートル足らず。ロールプレイで恐怖を乗り切ろうとする、ヤマメ主導の作戦が始まった。
カサカサ
「ひぃっ!? リ、リトくん! 今、変な音が!!」
「だ、大丈夫だって! 風で枝が揺れただから!!」
ロールプレイにあたって、一つ問題が起こっていた。雰囲気作りの為に、ランタン型の懐中電灯は没収。
二つあった提灯も片方が没収され、リトが持つ一つのみとなっていた。一つになってしまった提灯の明かりは暗い森の中では心許なく、春菜の不安を煽る形となっていた。
それでも恐怖で我を忘れないで済んでいるのは、その生真面目さから作戦を成功させようとしているからか。ロールプレイに意識を割いている分、精神的なダメージが少ないのか。もしくはリトを名前呼びできる機会を逃したくないという、恋する乙女の強かさによるものか。
いずれにせよ、リト達が見つけた時のような不安定さはなかった。
リトの背中にくっついた春菜は、もはや前を見ているかすら怪しい。距離が近いと思いながらも怯える春菜を見ていた唯は、春菜を引き離すのを諦めた。
「私が周りを見ておくから、ハルナさんをお願い。ララさん、後ろの警戒をお願いしていいかしら?」
「任せて! 悪いモンスターは、全部撃ち抜いちゃうから♪」
「いや、調査だから。すぐには撃つなよ」
銃を構える仕草をするララに、リトが首を横に振る。ララは乗り気で、唯もロールプレイに協力的。
後ろから四人を見つめるヤマメ達も、これには満足そうに頷いていた。ぎこちなさはあるが、ロールプレイに支障が出るほどではない。乗り気なララがいる影響もあるのだろうが、二回目のロールプレイでこの出来は将来有望だった。
とはいえ、驚かせる役と実際に戦うわけではない。相手が茂みから飛び出してくるとリトが背中に庇い、春菜もまたリトに密着して身を隠すというのを繰り返している。
しばらくして神社の明かりが見えて来た。そこまで長くないはずの道のりだったが、数時間は歩き通しだったかのような疲労感があった。
「…………分かってるとは思うけど、最後まで気を抜かないでちょうだい。最初の依頼だって、油断したリサさんが大変な目にあったんだし」
「あれは、仕方ないんじゃないか…………?」
依頼で遺跡を棲家にしていた蛮族を討伐したと思ったら、突然起動した
リト達の最初のセッションを大まかにまとめると、このような内容になる。その依頼の事を指しているのだろうと察し、リトが言葉を返した。
石段の目の前に立ち、その先にある神社を見上げる。転落の危険がある階段の途中で驚かせてくる事はないだろうと考え、実質のゴールに春菜が安堵のため息を吐いた。
「春菜、大丈夫? 疲れてるなら、私が運ぶよ」
「ありがとう、ララさん。でも、大丈夫。落ち着いたら、元気も出てきたから」
石段は大した長さではなく、気疲れしている今でも上るのに大して苦労はしない。一息入れて春菜が落ち着いたところで、石段を上る。
ふとララが振り返ると、石段の下から手を振って見送るヤマメ達の姿があった。
ララもまたにこやかに手を振り返し、石段を上る。神社に辿り着くと、校長や旅館の人々が四人を出迎えた。
ゴールを祝い、拍手が贈られる。特別な賞品などはないが、初めての肝試しはララとしては十分に楽しいものだった。
片付けがある校長たちは残り、リト達は先に戻る事となった。神社の裏が旅館近くの公道に繋がっていると聞き、裏の道を通って公道に出た。
電灯も並んでいるので、歩きづらさはない。道の向こうに、宿泊している旅館が見える。
更にその遠くに目を向ければ、街明かりが点々と灯っていた。
「おどろけー!!」
「キャ────────!!!!」
完全なる奇襲だった。
肝試しも終わり、明るいところに出たのでもう安全。そう思った矢先に、茂みから飛び出した小傘が開いた唐傘を持って驚かしにかかる。
元々怖いのが苦手な春菜だけでなく、気を抜いていたリトと唯も声こそ出さないものの後ずさる。
あまりのタイミングに、ララでさえ僅かではあるが体を震わせた。
さっきのロールプレイが効いているのか、春菜は逃げ出しはしなかった。リトの背中に顔を埋め、震えている。
「た、多々良さん!! そんなところで、何をしてるの!?」
「肝試しが終わった後なら、油断してるし。驚いてくれるかなーって。どう? びっくりした?」
動揺を隠すように唯が声を荒げるが、当の小傘は悪びれた様子を見せない。悪意なく無邪気に笑むその表情は、最近よく見るようになったものと似ていた。
今日一番の怯え様を見せる春菜を気遣い、ララが調子を尋ねる。目を瞑り涙を流しているが、取り乱した様子はなかった。
ただ話を聞く余裕はないらしく、直接呼びかけでもしない限りはこれといった反応を返さなかった。
友人を泣かせたという事実は、ララが怒るには十分な理由だった。春菜を落ち着かせるのを優先しているからか側を離れないものの、睨むような半眼は強い怒りが宿っていた。
「あはは、ごめんごめん。わちきって、人を驚かさないと空腹で倒れちゃうからさ。ついつい摘み食いしちゃうんだよね」
「…………驚かせたら、お腹いっぱいになるの?」
「まあね。普通の食事でもいいんだけど、効率が全然違うから。と、引き留めておいてなんだけど、とりあえず歩かない? お風呂に入る時間、無くなっちゃうよ」
肝試し前に入浴は済ませているが、このまま旅館に戻って寝るわけにはいかない。汗もかいてしまったし、春菜に至っては涙も流している。
就寝前の入浴は必須だった。
小傘に急かされ、再び旅館へと歩を進める。リトの背中には、春菜がピッタリとくっついる。
春菜を気遣ったララが再び側に付き、心配になった唯も近付いて様子を見ていた。
距離感は確実に近くなっている。後はこれが日常の中でも見られればいいが、そこは4人次第として保留としておいた。
「それで、他の二人はどうしたのかしら? まさかこの後に及んで、この先で隠れてるなんてないでしょうね」
「二人は先に帰ったよ。私は、来年からお世話になるかもだから。挨拶に来たの」
「来年?」
「うん。来年、彩南高校を受験するつもりだから。もし受かったら、後輩って事になるんだ」
────手段を選ばないから、合格は確定なんだけどね。
心の名でそっと付け加える。
いざとなれば紫をはじめとした面々によるカンニングがあるので、合格を約束されているようなものだった。とはいえ頼りすぎると後が怖いので、勉強もしている。
とりあえず、素の学力で合格圏内に漕ぎ着ける事はできていた。
来年から後輩になるかもしれない。後輩という響きが新鮮でララが興味を惹かれる一方、不安の残るリトは顔を引き攣らせていた。
「その、来年受験する中で、他に時兎の知り合いっているんですか?」
「うん。私以外に二人。時間を止めたり、地震を止めたりするけど。付き合う分には問題ないから。怖がらなくていいよ」
「一人は、十六夜さんよね。けど、もう一人って…………?」
主人こそ違うが、妖夢の従者仲間として紹介された十六夜咲夜。時間を操る程度の人間という、ある意味では最も非常識な存在。
彼女ならあり得ると思う一方、もう一人の存在に心当たりがない。
なんにせよ、地震を止めるというだけで非常識な存在に違いない。まだ見ぬ後輩を非常識カテゴリーに分類し、来年の春に少しばかり不安を抱いた。